元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ルーニー
「ベルくんベルくん!あそこにおいしそうな屋台があるよ!ちょっと行ってみないかい!」
ガヤガヤと賑わいを見せている大通りの中、神様は目を輝かせて屋台が多く連なっている場所を指さしている。
「神様、一応僕たちはシルさんを探しているんですよ」
「いいじゃないか。この中じゃシル何某たった1人を見つけることも難しい。ならこの祭りを楽しみながら探しても罰は当たらないし当てさせはしないよ」
うきうきとした様子を隠そうともせず、神様は僕の手を取って屋台まで走っていった。その屋台は串焼きの屋台で兄さんからお祭りだからと言ってもらったお小遣いがなくても余裕で買える程度の金額だった。目を輝かせて商品を見ている神様に思わず笑みがこぼれ、僕と神様の分のお金を取り出して店主に渡す。毎度あり、と元気な声を上げて炭で焼いていた串焼きを2本とって僕と神様に差し出してくれた。
「ありがとうベルくん!」
その串を受け取って明るい笑みを浮かべて串にかぶりつく。おいしかったのかん~!と目をつむって味を楽しんでいる神様に笑みを浮かべながら僕も串焼きを一口食べる。炭で焼いたおかげか香ばしい香りが口の中に広がって、同時に肉汁が舌に流れ出てきて肉のうまみが感じられた。祭の雰囲気もあって高揚した気分で食べる串焼きというのもおいしいものだ。
串焼きを食べ終えて近くにあったゴミ箱に串を捨て、次はどこに行こうかとウキウキしている神様に並んで大通りを歩く。シルさんを探すために辺りを見渡してみるけど、大勢の人たちが行き来している大通りでシルさんを探すのはやっぱり難しい。神様も辺りをキョロキョロと見回しているけど、それは物珍しいものがないかを探しているのだろう。神様はシルさんに会ったことがないのだから探すことができないのは仕方ない。
そうやってしばらく大通りを歩いている僕と神様。祭の最中で浮かれた気分を楽しんでいると、その事件は起こった。
「きゃああああああああああああ!!」
突然悲鳴が上がった。何事かと悲鳴の上がった方向を見ると、そこには両腕に鎖のついた手枷を付けたシルバーバックが目を虚ろにさせてフラフラとしていた。
「な、なんこんなところにモンスターが!?」
神様から悲鳴が上がる。神様の言う通り、確かに今は怪物祭でモンスターに関する祭が開催されているということは知っている。だけど、周りの悲鳴や動揺、そして逃げ出している人たちを見れば、これが異常なことだということは祭のことを知らない僕でもわかることだった。
グルリ、と宙を見ているかのような、胡乱気な目をしていたモンスターが僕たちの方を向いた。僕を、そして神様を見るとピタリと動きが止まる。何事だと思い、注意深くモンスターを見ていると、まるで息を吹き返すように咆哮を上げた。
「■■■■■■■■ッ!」
見つけた、と言わんばかりの咆哮にこの場にいた人たちは蜘蛛の子を散らすかのように逃げ回っていった。そして、まるで求めるかのようにモンスターは腕を上げてこっちに走ってきた。
「こっちに来る……!?神様!こちらへ!」
「べ、ベルくん!?」
神様の手を取って大通りを突っ切って裏路地に入るように走る。悲鳴があちらこちらから聞こえるが、その悲鳴が遠ざかることはなかった。後ろを見てみるとシルバーバックは鎖を引きずりながら僕たちを追いかけてきているのが見えた。
僕たちを追いかけている!?驚愕しながら神様の手を強く握り、裏路地を走り続けた。神様を引きずらないように調整して走っているせいかモンスターとの距離が離れる様子はない。むしろ、神様の息が荒くなってきて速度が落ちてきている今は距離が縮んできているとすら思えてくる。
「らちが明かないか……!ごめんなさい、神様!」
「へ?ふへあ!?」
申し訳ないとは思ったけど、このまま神様を引き連れて走っていてもらちが明かない。だから、僕は神様を抱きかかえて本気で走る。神様を抱えた分速度は遅くなったけど、でも神様と一緒に走っているよりかは速く走れる。
「やっぱり、追いかけてくる……!僕なのか、神様なのかはわからないけど、間違いなくこっちに来る……!」
後ろからモンスターは追いかけてくるが、徐々には引き離している。複雑な裏通りを走り周り、モンスターが見えなくなったころにはちょっとした広間にたどり着くことができた。ここなら、誰にも迷惑をかけることなくあのモンスターを倒すことができる。
「神様、隠れていてください。あのモンスターは、僕が倒します」
神様を広間の中でも目立たない場所に下ろす。走り続けていた疲労がまだ残っているのか、神様の顔は真っ赤になっていた。今日はダンジョンに行かずに祭に参加したからナイフは手元にない。ダンジョンに潜る前のように、フィース兄さんとの組手の時のように無手であのモンスターの相手をするしかない。『六式』を、使うしかない。
「ま、待ってくれベルくん!」
僕がこの広間にたどり着いた道を警戒しながら構えていると、神様が声をかけてきた。
「ベルくんがあのモンスターと戦うしかないっていうのはわかる。だから、これだけでも受け取ってくれないかい?」
神様の手にあったのは、黒いナイフだった。黒い持ち手に、黒い鞘に収められているそのナイフは、武具のことに関してはあまり詳しくない僕でも分かった。これは、特別なナイフだ。
「……これは……」
「本当なら、もっとちゃんとした場所で渡したかったんだけどね。君へのプレゼントだ」
神様からナイフを受け取り、わずかに震える手で鞘からナイフを抜く。ナイフと称したけど、ナイフというには長く、けど剣というには短いナイフ。けど、僕が扱うには問題ない、むしろ使いやすさすら感じる長さだ。
「銘はヘスティアナイフ。このきっと、君の役に立つ僕からのプレゼントだ」
「……ありがとう、ございます」
「このナイフは君の成長と一緒に強くなっていくナイフだ。ステイタスの向上と一緒にその鋭さや硬さも増していくんだ。だから、ここでステイタスの更新をしよう」
「はい!」
いつモンスターが来てもおかしくない状況ではあるけど、でも万全の状態で迎え撃ったほうが安全だ。神様の言葉を聞いてすぐに服を脱いで神様に背中を向ける。神様もナイフで指を切って僕のステイタスの更新を急いで行う。1秒1秒がとても長く感じた。急いで更新してくれているのはわかるけど、モンスターが迫ってきていると思うと、この時間が長く感じるのはやっぱり緊張しているからだろうか。
「……よし!ベルくん!ステイタスの更新終わったよ!」
「ありがとうございます!」
更新が終わり、脱いだ服を着る。ステイタスの更新による体の調子を確かめていると、モンスターの咆哮が聞こえた。遠くからの咆哮ではなく、すぐ近くまで来ていることが分かる大きさの声だった。
「神様、隠れていてください」
「うん。ベルくんも武運を」
神様が広場から離れていくのを確認し、僕と神様がこの広場に入った通路を見る。やはりというかなんというか、モンスターは僕たちの跡を追ってきていたのかその道から現れた。走っていたにもかかわらず息を切らせていないその様子は、さすがモンスターだと思うほかない。
あのモンスターが僕を狙っているのか、それとも神様を狙っているのかはわからない。僕を狙っているのならこのまま戦えばいい。だけど、もし神様を狙っているのなら、僕は神様を守る。何も難しいことをするんじゃない。神様を守って、モンスターを倒すだけだ。
「来るなら来い!僕が相手だ!」
シャンッと、鞘から解き放たれたナイフは、どこか喜びを上げているかのように光を反射した。モンスターも僕だけしかいないことに怒りを感じているのか、咆哮を上げて両腕を振り回している。そして、僕を敵と見たのか、無秩序に振り回していた腕を止め、その腕についている鎖を得物のように振り回してきた。ジャラリ、と手に縛られている鎖が蛇のように動いた。モンスターの咆哮とともに両腕が振られ、ジャラララッと音を立てて鎖は僕に襲い掛かってきた。
「『紙絵』」
けど、鎖程度なら僕でも避けられる。鎖という穴の開いた蛇とでもいえるそれを『紙絵』で避けるには空気の流れが少し不規則に感じるけど、でも大きい空気の流れはフィース兄さんの鋭いパンチに比べれば肌で感じやすい。ジャララ、ジャララ、と大きく鎖が動いて僕に襲い掛かってくるが、それを『紙絵』で避けながらモンスターに一歩、一歩と近づく。ガチャン、ガチャン、と地面にぶつかっていく鎖の音は当たればそれなり以上にダメージを受けてしまうのだろうと容易に予想できる威力だった。当たってしまったら、かすりでもしてしまって動きを止めてしまったら、脳裏に最悪の場合が次々と思い浮かんでくるけど、でもフィース兄さんとの組手を思えば、そんな恐怖もかき消されていく。兄さんの本気のパンチは身動きすらできずに受ける。兄さんの本気のキックは地面も砕く。兄さんの本気の殺気は、意識すら奪う。兄さんと比べてみたら、この状況のなんと優しいことだろうか。
鎖を避け続け、徐々に近づいていく。気が付いたらモンスターの腕が僕に届くほどの距離まで来ていた。
「■■■■■■ッ!」
鎖を避けられたことによほど腹が立ったのか、鎖ではなく両腕を振るってきた。モンスターの筋力を考えれば大きな脅威足り得るパンチだが、そのパンチはとても大振りで兄さんのパンチよりも遅く、『紙絵』を使わなかくても避けられると判断した僕はパンチの当たらない場所に大きく一歩を踏み込んでその胴体を斬りつけるために腕に力を入れた。
「っ!」
ジャラララッと鎖の鳴る音が聞こえたことに嫌な予感を覚え、踏み込んだ一歩をそのままジャンプするための一歩へと変えてモンスターの背後をとるように大きく跳ねて腕を躱す。体がモンスターの体を飛び越えるのと同時に、腕についていた鎖が僕の踏み込んでいた場所に蛇のように叩きつけられていたのを見て冷や汗をかいた。あのまま斬りつけていたらあの鎖の餌食になっていた。もしあのまま鎖に当たっていれば驚きで大きく体勢を崩してうまく斬りつけることができなかったかもしれない。
「くっ……!」
モンスターの後ろに着地したはいいが、緊急回避のために跳ねた着地だったせいでお互いに背中合わせになるように着地をしてしまった。そのまま後ろを向くのではなく、着地する際の勢いを利用してモンスターから離れるように転がっていく。フィース兄さんとの組手であのまま振り返っていればパンチかキックが飛んできていた。幸いモンスターは安全圏まで移動してモンスターの方を向くと同時に僕の方に視線を向けていたから振り向いても兄さんの時のように反撃をくらうことはなかっただろう。
「……厄介な……」
しかし、あの鎖は厄介だ。意図して操っているのか、それとも偶然なのかはわからない。でも、振り回せばそれだけで脅威になる鎖と当たれば重傷を負うだろうパンチは、いい塩梅に噛み合っている。もしかすれば通常のシルバーバックと比べればこっちのシルバーバックの方が強いかもしれない。
「……けど、だからなんだっていうんだ」
上層の中でも強い部類のモンスター。そして、それよりも強い。だから、なんだ。一度も勝ったことはないがモンスターよりもはるかに強いフィース兄さんと何度も組手を行ってきているんだ。痛い目なんて何度も見てきた。それと比べたらこの程度のモンスターの相手をするなんて、なんてことない。
僕の後ろには神様がいる。だから、時間がかかってしまっては神様にも被害が及ぶかもしれない。神様を守りながらモンスターを倒す。神様に被害がおよばないためにも『六式』を使わない、という選択肢はなかったけど、でもこの程度のモンスターを満足に倒すことができなかったら僕は英雄になんてなれない。あの背中に追いつくことなんて、できやしないんだ。
「行くぞ!」
「■■■■■■■■■!」
ジャララララ、と鎖が上下左右から襲い掛かってくる。自由自在、というほどの脅威ではないがむやみやたらと振り回されている鎖はそれだけでも十分に厄介だ。
鎖の厄介なところは、やわらかい鞭のように自由に動くことだろう。ナイフで受けたとしても、受けた先が蛇のように襲い掛かってくる。例え技術がなくてもモンスターの強力で振るわれるのだからその威力も十分にある。だからあの鎖は避けるしかない。
鎖を避けながら徐々に距離を詰めてナイフで攻撃する。『嵐脚』は未熟がゆえに避けられた際の家屋の損傷を考えたら撃つことは難しい。だから懐に潜り込んで攻撃をするしかない。しかし、あのモンスターも鎖の使い方に慣れてきたのか懐に潜り込めたとしても腕と鎖を使って時間差攻撃をしてくる。懐に潜っても腕と鎖の攻撃を捌かなければならない。しかし捌いていると致命傷を負わせられるほどの攻撃をすることができない。
なら、決めるなら、射程外から素早く懐に潜って一撃で倒す。これが一番安全で確実だ。そうするには、フィース兄さんから教わった、『剃』の中でも難しい部類の応用技を使うしかない。
ブゥン、とこっちに振り回された鎖をなんとか捌いて距離をとる。鎖も当たらない場所に移動したせいか、モンスターは鎖をめちゃくちゃに振り回すようなことはせずこちらへと近づいてくる。
これでいい。鎖がめちゃくちゃに振り回されていないから心臓部への道のりは単純化している。これなら、いける。
脇を締めてナイフがぶれないように脇の近くで固定する。振り回されている鎖のタイミングを見計らい、そして、大地を踏みしめる。
「『剃杭』っ!」
ダンッと『剃』特有の地面を踏む音が響き、ゾブリ、とモンスターの心臓部にナイフが突き刺さる感触が手を伝う。モンスターのものらしき臭いと血の臭いが鼻を充満させたと同時に体全体に大きな衝撃が走る。ゴフッと体全体の衝撃が肺に刺さってむせるように空気が吐き出される。
ズンッと何かが倒れる音と共に軽い衝撃が体を走る。モンスターが倒れたんだ。同時に、モンスターの唸り声がすぐ上から聞こえた。痛みを我慢するかのような、けど徐々に弱っていくその声は小さくなっていき、そしてモンスターは力尽きて魔石と灰になった。
「……ははは。やっぱり、応用技は難しいや」
灰の山の中で倒れている僕は、自嘲するような笑みが浮かんでくる。何をしたのかは至極簡単なこと。『剃』の速度でモンスターにぶつかりに行ったのだ。厳密には『剃』の速度でナイフを突き刺しに行ったのだが、『剃』の速度で突っ込んでいってしまったらどうしてもナイフだけを突き刺すなんて器用なことは僕には無理だ。
「やっぱり、僕には応用技はまだ無理みたいだな」
『剃杭』はフィース兄さんから教わった『六式』の『剃』の応用技で、『剃』での移動中に攻撃を加える技だ。『剃』は瞬間的に移動する技だから移動中に攻撃を加えることはまず不可能だ。だけど、フィース兄さんは易々と木を倒せるぐらいの威力のパンチを複数の敵に対して『剃』での移動中でも攻撃を与えられる。僕がやったのは、ナイフを振ったんじゃなくて『剃』の速度でナイフを突き刺しに行っただけだ。『剃杭』と呼ぶのも烏滸がましい攻撃だろう。
「……この程度のモンスターで『六式』を2つも使うなんて、って兄さんは呆れるんだろうか」
ナイフを強く握りしめる。兄さんならこの程度のモンスターなら『六式』を使わなくても10秒で倒せるだろう。まだ戦ったことのないモンスターだけど、フィース兄さんが易々と倒せる程度のモンスターで『六式』を2つも使うのは、やっぱり僕の修行不足だろう。
「ベルくん!」
今回の戦いを反省しながら灰の山の中からゆっくりと起き上がっていると神様が心配そうな表情を浮かべて走ってきた。
「神様、大丈夫でしたか?」
「僕は大丈夫。ベルくんこそ、ケガはないかい?」
「僕は大丈夫です」
ペタペタと神様は様子を見るように僕の体を触っている。改めて体の様子を見てみるが、傷らしい傷はない。せいぜいあっても紛い物の『剃杭』でモンスターにぶつかったときにできるだろう痣程度だろう。
「よかった。でもベルくんあんな勢いよくぶつかったんだから、体に支障があってもおかしくないって」
「いや、兄さんの拳に比べたら全然痛くないんですよね」
「……まぁ、確かにあれに比べたらねぇ……」
僕の言葉に神様も納得したような表情を浮かべている。たぶん恩恵を刻んだ日に行った組手のことを思い出しているんだろう。フィース兄さんのパンチは手加減しているとはいえ、僕の体を容易に文字通り殴り飛ばすことができるほどの強さがある。あれに比べたらモンスターに『剃』の速度でぶつかったことぐらいなんてことない。
「……で、でも、一応体を大事にしようじゃないか。今日はもう帰った方がいいんじゃないかい?」
「そう、ですね。あ、でもシルさんの財布を持ったままだからリューさんに返さないと」
「そうだね。時間もいい感じに過ぎているだろうから、フィースくんとの合流も併せてあの店に行こうか」
ナイフを鞘にしまって腰につける。いいナイフだとわかったからいい鉄を使っているんだろうとは思っていたけど、思った以上に軽いそれは今まで使っていたナイフと比べても違和感はない。
モンスターの灰の中から魔石を取り出し、それを懐に入れて神様と表通りに向かって歩く。神様は心配そうに見てくるけど、フィース兄さんとの組手を思えばなんてことない。この戦闘のことを兄さんに言えば修行がさらにキツくなるのだろうか。そんなことを思いながら神様と一緒に裏路地を歩いた。
「あの程度のモンスターじゃ、あの子には試練なりえなかったのね……」
ズズンッと心臓部を突かれて灰になったモンスターとそれを倒すことを成した少年を見て、フレイヤは軽く息を吐いた。元々あの少年を追い詰めるために放ったモンスターだったが、まさか上層とはいえある程度の強さがなければ大ケガは間違いないモンスターを相手に、主神から賜った新しい武器を以ってしてあっさりと倒してしまうとは思ってもいなかった。少年の主神を狙うようにモンスターを誘惑し、それを倒してもらうようにしたのはこちらだが、誰もいない場所まで移動して見たことのない体術で以って無傷でいなし、さらにはナイフを使えばあっさりと倒してしまうとは、正直誤算だった。不可思議な動きをしていた上に目にも見えない移動をしていたが、あれは魔法か何かなのだろうか。ミノタウロスには勝てないが、上層程度のモンスターには後れを取らないぐらいの強さはあるとは思ってもいなかった。
「あぁ、でもやっぱりあの子の魂の輝きはきれいだわぁ……」
しかし、フレイヤは苦戦をして光る魂を期待していたのだが、これはこれでフレイヤの満足の行く輝きだった。誰かを守る。その意志を持って放たれる魂の輝きは、フレイヤにしか見えないが苦戦もなしに戦われていたが十分に魅せられるほどの輝きがあった。あの輝きが自分のために輝いていれば、と思えば体が疼くほどに、その光を手に入れたいという願望が強くなっていった。
「ただいま戻りました、フレイヤ様」
フレイヤが少年の輝きに愉悦し終え、落ち着いた時を見計らってフレイヤの後ろから男の声がかかる。フードを被ってよく見えないが、筋骨隆々とした肉体がフードの上からでも確認できるほどの肉体を持つその男は、帰還したこと以外は発言を許されるまで黙って膝をついていた。
「……お疲れ様、オッタル。どうだった?件の兄は」
「私の目から見ても問題はないかと思われます。少なくともレベル2の冒険者ほどの実力はあるかと」
「……そう。錆びた魂だったから使えなさそうなら消そうと思ったけど、まだ価値はあるみたいね」
あの子の隣にいるにはふさわしくない。そう思えてしまうほどに兄の方の魂は錆びているという表現が正しかった。あの魂の錆び方はこの街でもよく見かける、何かを諦めている色。何に対して諦めを持っているのかはわからない。しかし、あの色をした存在が輝かしい未来すらある者の隣にあることが、フレイヤは気に入らなかった。しかし話を聞いていると、どうもあの兄がこの街に来る前から少年を鍛えているようで、その信頼関係も堅いようであることは確認済みだった。
しかし、それもただ鍛えているだけならばオッタルを介して行えばいいだけ。今回兄に対してけしかけたのは実力を測るためだ。最低限の実力もないまま鍛えているのであれば、今回の戦闘で死んでしまっても何ら問題はなかった。
「……まぁ、最低限の実力はあるようだし、しばらくは見逃してあげようかしら」
実際、どれだけ強いのかはわからない。この街に来てからまだ1ヶ月ほどぐらいしか経っていないからレベルも1のまま。ミノタウロスを倒したという噂もあるが、それも噂程度。下手をすれば少年よりも弱くなっていくであろう兄をあまりいい目では見ていなかった。しかし、今回である程度の実力があるのはわかった。今後もある程度の強さを以って少年を鍛えてくれると言うなら、それでもいいだろう。
「ふふふ。あの子がどれほど輝くのか楽しみだわ」
いつか少年を自分の下に置くことを夢見て恍惚な笑みを浮かべるフレイヤ。見るものすべてを魅了するその姿を見てオッタルは、件の兄を思っていた。あの体捌きは素人のそれではない。何度も鍛錬した先にある、一種の体術だということはわかった。あれほどの実力を持っているとなれば、ここに来るまでに長い時間をかけて鍛錬をしてきたのだろう。
「……いつか、剣を交える時が来るかもしれないな」
おそらく遠くない未来、フレイヤが気に入ったあの少年のことで剣を交える時が来る。それが自分であるのか、それとも自分とは違う団員であるのかはその時になってみないとわからないが、少なくともフレイヤファミリアの誰かとはことを構えることになると、そう確信していた。
オッタルとしても、冒険者として、武人として、あの兄と剣を交えることに興味がないというわけではない。レベルが低く勝てる見込みがないとされていたとしても、長い時間をかけて積み重ねてきた技術はぜひとも見てみたい。
いつか相手をする日が来ることをわずかに願い、オッタルは満足したフレイヤを抱えてその場から消えた。この場で起こった真実に関してこの2人以外でわかっている人は、誰もいなかった。
主人公の戦いについては次回に回します。ベルくんの戦闘に行くまでが長かった……。
原作でも突撃しながらの刺突をしてシルバーバックを倒してましたが、ここでは余裕を持って倒すことができました。そして多分初めてになるであろうオリジナル技がまさかのベルくんが使うという。だって、このままだと主人公がオリジナル技を使う日なんてもっと先になりそうでタグ詐欺みたいになっちゃうし……。
ちなみに『剃杭』は簡単に言えば攻撃できる場所を自分の意志で定められる杓死と思っていただければわかりやすいと思います。
プロットでは燃える男ベル・クラネルみたいな感じで普段の兄さん兄さんって後ろについていた姿はどうしたんだと言わんばかりに男を見せていたので却下になりました。正直、家族を失ったからもう家族は失いたくない、という覚悟がここではないのでベルくんが奮い立つための動機をどうしようか悩みました。色々と考えた結果、手が届かない英雄像に手を伸ばす、家族を守る英雄像という憧れを目指すために奮い立ってもらいました。正直、じいさんには死んでもらって失う怖さというのを経験したうえで行動した方が動機付けがとても楽だなぁと思いました。今からでもじじい死んでもらおうかな←