元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ルーニー
集団で俺に集中して襲い掛かってきたモンスターを倒し、おそらくそれを成したであろう人物を追うことに失敗した俺は、とりあえず街の中を回ることにした。俺だけを狙っていたのか、それともまだモンスターがいるのかはわからないが、ベルのことも気になる。俺だけを狙うようにしていたのが俺を狙っていたのか、それとも別の狙いがあったのか。
「俺だけを集中して狙うことに、何か意味があった。だからああしてモンスターを操って俺だけを狙うようにした」
可能性としてはヘスティア・ファミリアであるから、という可能性だが、あのヘスティア神にそういった敵を作るようなことができるとは到底思えない。方々にモンスターを解き放って混乱させるための行動という可能性もなくはないが、周りの住人を無視して俺に10体ものモンスターが集中して襲い掛かってきたことに矛盾が出てくる。となれば、あと可能性があるのは俺の使う『六式』を狙っていた可能性。
考えすぎなのかもしれない。もしかしたら犯人にしかわからない理由で解き放たれたのかもしれない。そうなれば今考えることにさほど意味は生まれない。だが、もしこれに意味があるのなら、対策を立てるために考える必要がある。
俺は大量のモンスターに襲われた。周りに襲い掛からなかったということは操られていた可能性が非常に高い。同時に、モンスターを操っているということは調教師の可能性が大きい。だが、調教師に知り合いはいないし、かかわったことは一度もない。俺を狙う理由がわからない。
「……『六式』が狙いの可能性の方が、まだ現実味があるな」
見られていた可能性が高いのはダンジョンでベルが使っていたのを見ていたのか、それとも街中で誰も来ないであろうと思っていた場所で鍛錬していたのを見られていたのか。どちらにしろ、俺の確認不足のでこうなってしまった可能性は高い。
なら、この襲撃は『六式』を見るためのものの可能性が高くなってきた。あの程度のモンスターで俺は使う必要はなかったから目論みは外れた、と考えればいいか。
「……マズイ。ということは、ベルが狙われている可能性があるということか!」
この騒動の犯人が『六式』を狙っている可能性があるということは、俺を狙うのと同じようにベルを狙う可能性がある。あの程度のモンスターならベルも後れを取ることはないはずだが、ベルのそばにはヘスティア神がいる。全く戦闘経験のない一般人と同じなのだから、ベルの足手まといになっている可能性は大きい。となれば、ヘスティア神に被害が及ばないようにするために早く戦闘を終わらせるために『六式』を使う可能性が高い。
「……チィッ!今回はしてやられた、ということか……!」
ギリィ、と思わず歯噛みする。俺とヘスティア神が一緒にいれば問題はなかっただろうけど、ヘスティア神がベルといたのは向こうとしては僥倖だっただろう。『六式』を盗むために勝手にのぞき見している程度なら何も言う気はないが、『六式』を見るためだけにこの騒動を起こしたのなら話は別だ。
「……このためだけに、やったというのか……!」
俺を監視していたやつがどこにいるのかはもうわからない。俺から逃げられたということは、少なくともそこいらの冒険者よりも実力があるということだろう。一般人に被害が及んでいないだけよかったと思うしかないが、ここで逃がしたのはまずかったのだと改めて思う。逃した魚は大きすぎたのだ。
「■■■■■■■■■!」
遠方からモンスターの咆哮が聞こえてくる。同時に大勢の悲鳴が上がり、その悲鳴が方々へ散っていくのが聞こえてくる。その方を見てみると、大型のモンスターが俺の方に突進するかのように走ってきていた。ギルドにあった資料で名前は見たことがある。確か、中層にいるモンスターのトロールだったか。
「■■■■■ッ!」
ブンッと丸太のように太いその腕を俺へと振るう。中層のモンスターということもあってそれなりの速度があり、そこいらの冒険者に当たればただでは済まされないほどの力があるのだろう。
けど、その程度なら新世界の海賊のザコでも振るわれていた程度だ。
「フンッ!」
振るわれたトロールの腕に合わせて、その腕に拳を振るう。バキャリ、と甲高い音が響いた。トロールの腕が俺の拳に負けて弾かれるように背中へとその腕が回っていく。俺の拳の力に負けたのか、可動域ではない場所にまで腕が回り、ベチリ、と腕がトロールの背中を叩く間抜けた音が響いた。
「■■■■■■■ッ!」
関節が砕かれたことに激痛が走ったのか、ブラブラと動かなくなった肩を押さえるトロール。痛みのせいで意識していないのか、肉で見えなかった首を露わにした。
「死ね」
その隙を見逃すことなく、いら立ちを払しょくするように本気で首を蹴る。バキャリ、と小気味いい音がトロールの首から鳴った。
「■■■■……ッ!」
足から伝う骨を砕く感覚とともに、ブチブチと肉が千切れる音が鳴った。そして、俺の蹴りに耐えられなくなったトロールの首は千切れ飛び、ベチャリと粘着質な音を立てて建物の壁に激突した。ズチャリ、と音を立てて地面に落ちた首が灰になり、胴体も首から血を噴出させながら灰になっていく様を見る。
「……フン」
灰になったトロールを見て鼻を鳴らす。その中央にあった魔石をいら立ちを解消するために蹴り砕くが、この程度ではいら立ちを解消することはできなかった。けれども久々に本気で蹴ることができたおかげかさっきよりかはマシになった。
辺りを見回し、見聞色の覇気を使う。モンスターが逃げ出したことによる騒ぎはまだ収まっている様子はないが、それでも収束の方向に向かっているような空気は感じられる。走り回っている冒険者らしき姿も見えているからどこかのファミリアが収束のために駆け回っているのだろう。これ以上自分から関わろうとしても何かに貢献することはないだろう。モンスターを見かけたら倒すだけにしよう。
「あ、兄さん!」
見聞色の覇気を収め、ベルを探そうと足を動かそうとすると背後から声がかかった。その方向を見るとベルがヘスティア神を連れてこちらに向かってきているのが見えた。
「ベル!無事だったか!」
「フィースくんも無事だったみたいだね」
「ヘスティア神も、何事もなかったようでよかったです」
パッと見土汚れのようなものは見えるが大したケガは見当たらないベルに異常が見られないヘスティア神。走り回っていたから付いたにしては汚れが目立って見えるベルの服に、おそらく俺と同じようにモンスターに襲われたのだろうと判断する。
「ベル、モンスターに襲われたか?」
「え?うん。なんだか僕たちを狙ってくるように追いかけてきてたから人気のない場所で倒したんだけど……」
「……そうか……」
やっぱり、ベルの方にもモンスターを送っていたのか。俺だけなら単独の調教師がやったと単純になるけど、2手に分かれてモンスターを操っていたとなると、2人以上犯人がいる可能性も出てくるか。
「……兄さん?」
思案している俺にやや不安げな表情を浮かべるベル。やはりというか、ベルの方にもモンスターが襲われているということは、俺の推理が間違っていない可能性が高くなったということだ。
「……ベル。おそらく、この騒動は仕組まれたものの可能性が高い」
「っ!?そ、それってどういうことなの!?」
「声を落とせ。確証は何一つないが、そうとしか考えられないことがありすぎる」
俺にモンスターを襲わせ、ベルの方にもモンスターを襲わせた。それでいて周りの人たちにモンスターを襲わせないようにできるということは、間違いなく誰かの手が加わっている。それが俺と離れていたベルにも襲わせたのだから組織立った行動の可能性が高い。
「ベルの方は、モンスターはどれぐらいいた?」
「え?えっと、1体だけだったけど……」
「俺のところには10体ぐらい来ていた」
「えっ!?」
「だ、大丈夫だったのかい!?ケガとかしてないかい!?」
「見てのとおり、問題ありません。不幸中の幸いと言えるかはともかく、上層のモンスターだけだったので簡単に処理できました」
中層のモンスターもいたにもかかわらず、上層のモンスターだけを襲わせていたのは、ただ単に集められるだけ近くにモンスターがいなかったからなのか、それとも何か考えがあってのことなのかはわからない。だが、ダンジョンで多くのモンスターが生成されたわけでもないのに、地上でモンスターが徒党を組んで襲うことなんて自然に起こりうることだとは思いにくい。
「そのモンスターの様子がおかしかった。解き放たれたモンスターが無秩序に暴れまわっているのならまだ管理不足だから、という理由でも理解できる。けど、少なくとも俺の相手をしたモンスターは周りの誰も襲わずに明らかに俺だけを狙っていた」
「っ!」
「ベルの方も、ベルかヘスティア神かどちらかを狙っていたのかはわからない。けど、少なくともどちらかが狙われていたのは間違いないことだ」
俺の言葉に、ベルは信じられないと言わんばかりの表情を浮かべる。今まで狙われるなんてことになったことはない、悪意にさらされることになったことのないベルには、少し酷だったのかもしれない。
「まだ俺の主観とベルの話しか情報がないから決まったわけじゃない。けど、他の誰かを襲うことなく俺とベル、ヘスティア神に襲い掛かっている今の状況を考えると、少なくとも騒動を起こした犯人はヘスティア・ファミリアを狙いとしているとしか考えられない」
「で、でも、僕はそんなことになるようなことはしてないよ!少なくとも、誰かに恨まれるようなことは……ない……ないよ!」
「その間が非常に不安感を煽るのですが、まぁヘスティア神が原因でこうなったとは思っていません」
「じゃあ、なにが原因でヘスティア・ファミリアが狙われることに……?」
ヘスティア神が不安がるように俺を見、ベルはジッと考えていた。そして思い至ったのか俺と同じ結論を言葉にした。
「……もしかして、『六式』?」
「その可能性が高いと俺は踏んでいる」
「え?え?ど、どういうことだい?」
ヘスティア神は状況が呑み込めていないのかあたふたと俺とベルを交互に見ている。
「ヘスティア神。俺とベルが使っている体技『六式』を見て、こんなことができる人は他にいない、とおっしゃってましたよね?」
「え?う、うん。確かにそういったよ」
「なら、他の人から見れば、この体技はどう見えるのか。魔法のようだと思うのか、それともスキルによるものだと思うのか、魔道具の類だと思われているのか、それとも、別の何かだと思うのか」
「……もしかして……」
「犯人は『六式』を見極めようとしている、あるいは盗もうとしている。それが一番可能性として高いかと思われます」
もちろん、この推論にも穴はある。魔法やスキルだと判断されているのなら盗むことなんて考えないのではないか、魔道具だとしてもどうやって盗もうと考えているのか、否定できる材料はいくつでもある。しかし、この状況的証拠を考えればこの可能性が一番高いとしか思えない。
けど、今ここで犯人のことを考えていても何かが解決するわけでもない。俺とベルだけで犯人を見つけようとしても見つからない可能性の方が高い。ギルドでエイナさんにこういうことがあったという報告をして何か案を出してもらうぐらいはした方がいいのかもしれない。
「と、とりあえず、こうやって合流できたんだし、避難しようよ」
「……そう、だな。本拠……は、シルの財布持ったままだとマズイな。豊穣の女主人のところに行くか」
見聞色の覇気で確認してみるが、モンスターが周りにいる様子はない。俺を襲ってきたモンスターの様子を考えれば、俺かベル、ヘスティア神を見つけるまで行動を起こさない可能性もある。今は身を隠す方がいいかもしれない。
俺とベル、ヘスティア神はモンスターに警戒しながら豊穣の女主人まで移動した。見聞色の覇気を使ってでも警戒していたおかげかモンスターに遭うことはなく、豊穣の女主人に着くまで何事もなく移動することはできた。けど、道中でも俺とベルとヘスティア神を襲わせた犯人のことを考えないことはなかった。
これで怪物祭編が終わった!第一部、完!
いやぁ、長かった。どうして怪物祭を終わらせるのにこんなに時間かけてるんだろう。遅筆とストーリー構成が甘いせいですねごめんなさい。
しかし、イメージ通り、とまでは言えないですが書きたいことは書けたので個人的には満足です。主人公のヒロインすら出ていないこの状況で何言ってんだ、と言われそうですが、すっと出てきたヒロインが一瞬でポッとなるのはさすがにどうよ?と思うので時間をかけて好感度を上げていきたいと思っています。上がるのかな?
そしてこの続きなのですが、実はリリルカ編のストーリーで納得できそうな話の流れができず、全く筆が進んでいない状況です。何回か更新できそうにない、と言ったこともありますが、今回は本当に更新ができそうにないです。なので本当に申し訳ないのですが、ある程度ストックができるまで更新の方を止めたいと思っています。その間に閑話などを思いついていけば書いていきたいなぁとは思いますが、基本的に本筋をメインに書いていきたいのでいつ出るかわかりません。更新を待っていただいている方には本当に申し訳ないのですが、半年ぐらい待っていただけたらなぁと思っています。いや本当に申し訳ない。
あとごめんなさい。リリルカ編が全然ストーリー思い浮かんでこないのでリリルカ編についてはベルくん主観で行くかと思ってます。そうなればフィースの絡みはバッサリカットします。(断言