元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:ルーニー

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もしもの世界4

 

「借金、どうすっかな……」

 

 情報交換という形でこの世界のことについてある程度確認を終えた俺はあれ以上いても迷惑になるだけだろうとアストレア・ファミリアを出て、しかし出たところで何をすればいいのか見当もつかずに途方に暮れていた。状況が状況なだけに借金に関しては待っててくれるとは言ってくれたものの、人が好さそうではあるが神に借りを作っている状態が精神衛生上まったくもってよろしくない。さっさとお金を稼げる仕事を探したいのだが、俺ではせいぜいが日雇いの土木工事の手伝いをする程度にしかないだろう。

 

「冒険者になればいいんじゃねぇの?お前恩恵持ってないのに結構強いみたいだし、そこらのファミリア入るだけで団長になれるぜ?」

 

 隣からからかいを多分に含んだ声が聞こえてきた。桃色の髪を短く切った子ども、ライラが若干呆れも含まれているだろう視線を送ってくる。ライラは地理が全く分かってないであろう俺の付き添いという形でついてきているのだが、まぁそれだけじゃないだろう。とはいえそうする理由は理解できるし、正直監視程度なら何の問題もない。地理も教えてくれるとなるならむしろありがたいぐらいだ。

 しかし、お金を稼ぐのに最適なのが、冒険者か。話には聞いていたのだが、ここにはダンジョンと呼ばれている文字通りの魔窟があるらしい。そこで出てくる怪物(モンスター)からは良い値段で取引されている魔石を落とすとのことらしい。下に行けば行くほど価値も上がり、実力の高さが富の豊富さとイコールに結び付くほどとか。

 しかしダンジョンに潜るためにはその冒険者にならなければならないとは聞いている。その冒険者になるためには神の下につかなければならないことも、当然。

 

「誰が神の下につくか。んなことするぐらいなら舌噛み切って死んでやらぁ」

 

「本当に神様のこと嫌いなんだな、お前」

 

 湧き上がってくる苛立ちを隠さずに唾棄するかのように息を吐く。それを見てライラは呆れや困惑が混じったため息を吐いた。

 当たり前だ。神に類するような連中なんざほとんどが殺したいほどのクズなんだ。同族以外はしゃべる下等生物としか思っていないクソッタレ集団なんだ。あれのどこに好こうと思えるような要素がある。

 

「恩人に恩返しするためだけとはいえ、何年も背中に正義を掲げてたんだ。今のところそれを上書きする気はないし、それが神なんぞの所有物だと示すためだなんざ死んでもお断りだ」

 

 俺は特段正義に執着を感じていない。なんなら兄弟やガープさん、仲のいいやつが助かるのなら躊躇なく捨てられる程度にしかない。けど、それ以外なら捨てる気はない。嫌っていた連中ももちろんいたが、それ以上に世話になった人が多い。あの戦争でどれだけ死んだのかを考えると嫌な気分になるぐらいには、海軍に愛着はあるのだ。

 

「つっても、冒険者になればダンジョンに潜れるんだぞ?ダンジョンは冒険者にならねぇと入れねぇし」

 

「……無視して入りゃいいだろ」

 

「んなもんダメだろって言いたいところだが、お前あたしらより強いみたいだしな。特殊すぎて肯定してもいいんじゃねぇかって思っちまうんだよな」

 

 これだから天才というのは、とこれ見よがしにため息を吐いて肩を竦めるライラ。ガープさんから直々に鍛えられたとはいえ、21で海軍本部少将になることができたのだから才能があるのは認めるところだが、何の苦労もなくここまで慣れたと思われるのは癪ではある。

 

「正直この世界の強さがわからんが、アストレア・ファミリアは実力はあるのか?」

 

「レベル3が複数いるファミリアだぞ。って言ってもわかんねぇのか。少なくとも中堅ぐらいの実力はあると自負してんだがなぁ」

 

 複雑そうな表情を浮かべながらこっちを恨みがましく睨みつけてくるが、そう言われても正直困る。偉大なる航路の前半でたむろしている程度の実力にしか見えないのだし、アリーゼもそこの船長レベルにしか感じていない。

 

「しかし、まだ15にもなってないような子どもがよくそこまで力をつけたものだな」

 

 それはそれとしてライラのような子どもがそれほどの実力を有しているということも驚きではある。かなり若いほうのルフィでも17で海に出たぐらいだし、その時でも楽園の海で活動している海賊の船長よりも実力が劣っていた部分が大きかったぐらいだ。いくら相手がスモーカーだったからとはいえ、逃げることすらままならなかったことを考えたらそれぐらいの実力だったのだから、そう考えたらこれほどの若さでそこまでの実力を有していると思うと十分にすごいことだ。

 

「リューはもうすぐ15になるがな。確かに幼いと言ってもいいぐらいから戦ってきていたが、そのおかげか第二級と呼ばれるほどの実力はあるぞ」

 

「そう、なのか。見た目じゃわからんな。しかし、そうなると君もそれほどに強さがあるのは胸を張れることではあるか」

 

 そもそもの話、俺がこれぐらいの年齢の時はこれぐらいの実力があっただろうか。15ぐらいの時は、ガープさんの下で修業していた頃か。一応一等兵程度の階級ではあったが、楽園であっても幹部級を相手にして辛勝していた程度だったな。

 ふとこちらを害そうとする気配を感じ、そちらの方に意識を向けると、そこにはライラは憎しみすら感じそうなほどに強い視線でこちらを睨みつけてきていた。何か変なことを言ったか記憶になかった俺は困惑を隠せずにいたが、それを見たライラは何かに気づいたかのように目を軽く開き、同時に舌打ちをした。

 

「……あたしは17だぞ」

 

「は?17?」

 

 ライラの年齢に驚きを隠せず復唱してしまう。17?どんなに高く見積もっても13か14にしか見えないぞ。歳と見た目が一致しないことはままあったが、それでもこれだけ幼い顔つきで17はさすがに嘘にしか思えない。

 俺の心情を察したのか、さっきまでの強い感情は霧散していたがジトッとした目付きで俺を見てくる。

 

「もしかして、小人族はそっちにはいなかったのか?まぁ確かに小人族は大人でも子どもと見間違われてもおかしくはないんだが、そう言われてるのは久しぶりだな」

 

「……なるほど。そういう種族なのか。すまなかった。こっちにはデカい連中しかいなかったからそういう考えはなかった」

 

 いや、一応小さいのはいたことにはいたんだが、そいつはちゃんと子供だった。コビーも海軍に入った最初の頃は背が低かったけどすぐに背が伸びていたしな。

 

「お前なかなか身長は高いと思うが、それよりも高かったのか?」

 

「俺と同じぐらいが多かったが、強いやつは3m以上とか当たり前にいたな」

 

「めーとる?」

 

「単位も違うのか。あー。だいたい俺の1.5倍以上のデカさだな」

 

「1.5!?」

 

 信じられないと言わんばかりに俺の身長を確かめるように頭から足へ、足から頭へと視線を動かす。自分よりも頭が胸に届くかどうかぐらいにあるほどの身長がある俺の1.5倍の高さがあるということを信じられないのか頬を引きつらせていた。

 

「……お前そんなでかいのに、その1.5倍?」

 

「普通にいたぞ。実力者で数えるのなら俺は低い方だしな」

 

 改めて考えてみるが、海軍も海賊も関係なく3m~4mある人が多かった。ガープさんも歳を考えたら、歳を考えなくても背は高かったがそれでもずば抜けて高かったというわけでもなかった。でかければ一定以上に強いという単純な考え方が通るような場所だったが故の成長性なのか、それとも遺伝子的なものが原因なのか。興味もなかったから調べることもなかったが、今思えば確かに奇妙ではあったな。

 

「……お前んとこ魔境か何かなのか?」

 

「あながち否定できないな。魚人族もでかいのが多いし、そもそも巨人族がバカでかかった。それで動きが速いもんだからやってらんねぇよ」

 

「魚人族?巨人族?」

 

「こっちにはいないのか?小人族、だったか?とか動物の特徴持ってるやつとかいる世界なのに意外と幅狭いんだな」

 

 あるいは世界が違うから世界に適応するために存在している種族に違いが出てくるのか。特に疑問に思うこともなかったことだが、俺が科学的な考えを強くするようだったら考察できたのだろうか。まぁ、確かに疑問には思うが執着するほど気にするようなものでもない。今も別のことが気になって身長のことなんかどうでもよかった。

 

「しかし、でかさといえば気になってたんだが、街のでかさのわりに活気が感じられねぇな。自然災害で大勢の人でも亡くなったのか?」

 

 今歩いている場所も人通りが大して多いわけではないが、それでもそこそこの広さはある。普通の街ならそれなりの喧騒が聞こえてきそうなものなのだが、遠くから聞こえてくる声も近くから聞こえてくる声も大きな街特有の喧騒には到底思えなかった。

 

「いや、アリーゼが言ってたんじゃねぇのかよ。闇派閥の連中のせいだよ」

 

「闇派閥……。あぁ。確か、悪逆非道を尽くしてる悪党ども、だったか?」

 

 闇派閥。こちらで言うところの海賊に当たる存在か。詳細は聞いていないが、一般人を傷つけることは当たり前であり、窃盗、強盗、殺人、拷問等、各々自分の好き勝手なことばかりをしているような連中の総称だそれだとか。

 

「どこの世界でも自由にやってる奴はいるんだな」

 

「その自由でどんだけ迷惑こうむってると思ってんだ!」

 

「そんなもん考えるような連中じゃねぇだろ。悪党はみんな己の欲に従う自由な連中だぞ」

 

 規則に従うのが善なのだとすれば、その逆の悪は規則を無視している連中のことを指しているのだろう。そしてそれは間違っていないと思っている。規則を無視して己の欲に忠実になって自由にしているということはそれを抑える規則を破っているんだから、規則を守っている人からすればそれは間違いなく悪だろう。

 

「けど、たいていは好き勝手している自由にはそれ相応のリスクがあるというのを理解していないような連中ばかりだけどな」

 

 そこはかとなく感じていた悪意が爆発的に膨れ上がっているのを感じ、視線をその方向に向ける。同時に突き刺すような悲鳴が連鎖するように広まっていき、その中からその原因を叫ぶようにして知らせている声が耳に届いた。

 

「闇派閥だ!」

 

 それを聞いたライラは切り替わるように目つきを鋭くしてしまっていた武器、形状からおそらくチャクラムの類だろうか、を両手に持って騒ぎのある方へ走っていった。

 

「んの、最近見ないと思っていたら……!」

 

 走るのと同時に忌々し気に口にした言葉からここ最近はおとなしくしていたのだろう。俺基準だからあまり参考になりそうにはないが、ライラ並みの実力者が1人いるがそれ以外は有象無象だ。世話になった身でもあるし、捕縛か討伐かはわからないが手伝っておこうかと思い筋肉の強張りをほぐすように肩を回していると、ふとあることが頭をよぎった。

 

「……待てよ?」

 

 いま暴れているのは有名ではないがこの街で悪逆非道の限りを尽くしている悪党だ。この街としてはあいつらの首は喉から手が出るほど欲しいはずだ。それこそ、お金を出して欲するぐらいには情報を集めていてもおかしくはない。

 

 つまり、あいつらの首には賞金があるんじゃないのか?

 

「おい、なにボーっと突っ立ってんだ!早く逃げ……」

 

 闇派閥が暴れている方向から逃げてきたらしいおっさんの声を全部聞くことなく、片足を軽く上げて地面に叩きつける。ダンッ、と”剃”を使った時に出る特徴的な音が響いた。頭らしき長刀を持った男のすぐ近くまで移動し、愉快気に歪んていた顔を放さないように強く握り、意識を失い障害が残るかもしれないが死なない程度には力を弱めてその頭を地面に叩きつける。

 ズドン、とまるで重い物が地面に落ちたかのような鈍い音が響いた。顔を掴んだ男の後頭部が地面に叩きつけられ、息が詰まる音が口から漏れ出たのが聞こえたが同時に首の骨が折れた感覚があった。地面に叩きつける際の力に首の力が負けたのだろう。手を放して念のため確認すると、男は意識を失っているだけでなく呼吸すらも止まっているのが見てわかるほどには表情が固まっていた。

 

「……よわっ」

 

 弱いとはわかっていたのだが、まさかここまで耐久力がないとは思っていなかった。この程度なら楽園の海賊でも気絶はしてもこいつみたいに死ぬようなことはないはずなのに、この世界の人間は耐久力はないのか?

 

「え?」

 

 ワンテンポ遅れてようやく俺がすぐ近くにいるのに気づいたのか、間の抜けた声が聞こえてきた。俺に気づいた全員が動きを止め、それこそライラすらも目を丸くして俺を見ていた。少しの間情報を整理するかのように空白の時間ができたが、ある程度整理できたのか、ライラが相手をしていた男がさっきまで愉悦を隠そうとしていなかった表情が一変して信じられないと言ったような表情を浮かべて剣先を俺に向けてきた。

 

「な、なんだテメェは!?」

 

「お前らの首にかかってる賞金目当ての賞金稼ぎ」

 

「は?」

 

 それ以上何かを聞くにはなれず、尋問は引き取り先に任せることにしてとっとと意識を奪うことにする。”撥”と呼ばれる飛ぶ指撃ならぬ、名前もない飛ぶ拳撃で周辺の闇派閥を一掃する。本来なら岩程度も粉砕できるぐらいには威力があるのだが、念には念を入れて家の壁を壊せる程度の強さで飛ばすが、予想通りというか予想外というべきか、これを受けた全員が短い悲鳴と共に弾かれたようにぶっ飛んで気を失っていった。

 

「弱すぎるな。リハビリにもなりゃしねぇ」

 

 正直ほとんどが体勢が崩れる程度で終わると思っていたのだが、まさかこの程度で意識を奪えるとは。予想以上の弱さで手こずることもなかったことを喜ぶべきだろうが、思った以上の弱さに拍子抜けしていた。

 

「ライラ。縄持ってきて縄。こいつらまとめて縛るから。1人加減間違えて死んだけど、他は生きてるはずだから」

 

「お、おう」

 

 気を失っている闇派閥を死んだ男に重ねるように投げながらライラに長い縄を持ってくるように頼む。見分色の覇気で周辺を確認しているが、増援らしき気配も感じない上に気絶していることも確認できているが、もしかしたらすぐに目覚めるかもしれないから見張ることにした。

 その間ライラがほほを引きつらせて俺を見ていたのだが、それを本人から言われるまで気づくことなく縛りやすいように闇派閥の連中の位置をずらしていたのだった。

 




 正直冒険者描写としては弱すぎない?と思われそうですが、少将レベルってこんなもんじゃないのかなぁとは思ってます。コビーも大佐クラスなのに、軍艦を破壊できる、ある程度の覇気が込められていたであろう攻撃を粉砕していたのですからこれぐらいの実力がなければ少将を名乗れないだろうと思ってます。
 ホント力のインフレおかしいなあの世界って。
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