元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ルーニー
ゴーゴーゴーゴー!(投稿
戻れ!逃げろ!(姿をくらます
カチャカチャと食器とフォークが擦れあう音が部屋の中で響いていた。机の上には大きく盛り付けられたパスタの山と、それを分けて取り合うベルとヘスティア神。2人が食べるには量がかなり多いが、俺も食べる分とすればちょうどいい量だ。
「いやぁ、なんとかなってよかったね、フィースくん!」
大きく口を開けてパスタを口の中に入れながらヘスティア神は笑みを浮かべている。今回の話がうまくいったことに満足が行ったようだ。まぁ、帰り道では不安げな表情をしながら無茶はしないようにするんだよ、と何度も言いつけていた様子とは大きく違うが、そこは信頼してもらったということだろう。
「兄さん、今日はどこに行ってたの?」
ヘスティア神の様子でどこに行ってきたのか気になったのか、パスタを取りながら聞いてくるベル。その表情の中には嫉妬などと言った暗い感情がある様子はなく、ただ単に気になったから聞いただけというような感じだった。
「ヘファイストス神のところに、ヘスティア神と一緒にな。お前のナイフと同じようなものを作ってもらうようにお願いしてきたんだ」
「兄さんも?じゃあ、武器を作ってきてもらったんだ」
兄弟そろってヘファイストス神の武器を持っている、ということにニコニコとしているベル。ベルも自分だけいい装備をもらったことに俺に対して負い目があったようでここ最近ダンジョンでナイフを使うことに少し躊躇していた様子があったが、それも俺にも武器がもらえたということを聞いてわずかに安堵の表情を見せた。
「俺は鍛錬用の手甲と具足だ。まぁ、ヘファイストス神製作だから戦闘にも耐えうるいいものではあるか」
「鍛錬用?まぁ、兄さんにも武器ができてよかったね」
鍛錬用ということに疑問があったのか少し不思議そうな表情をしたが、すぐに笑みを浮かべる。
ベルにはこの手甲と具足が合計200kgあることは言っていない。言うつもりがないというわけではないが、言ったところで何かが変わるわけでもないから言っていないだけなのだが。
実際200kgの重しがどれほどの枷となるのかはわからないが、少なくとも重しを付けていればベルとある程度本気で組手を行ってもいい勝負ができるだろうとは判断している。そう思えば今回はかなりいいものを手に入れたと思う。
「ベル、今日はどこまで行ったんだ?」
パスタも食べ終えて全員が食休みのお茶を飲んでいる。その中でベルに今日の成果を確認する。実際に見ているわけではないからどうだったのかはわからないが、少なくともある程度の指針は考えることができる。
「7階層まで行ってきたよ。キラーアントと戦ってきたんだけど、やっぱりこのナイフがすごいのかあっさりと斬れたよ」
キラーアント。上層でも死にかければ仲間を増やして数で圧す新人殺しの異名を持つモンスター、だったか。同じ新人殺しのウォーシャドウとは別の意味で厄介だと言われているようだが、同じ新人殺しでもキラーアントの方が厄介だろう。
確かに上層にしては硬く、手加減を間違えて即死させられなかったせいで多くのキラーアントと戦う羽目になったことは1度だけあったが、それでも面倒くさいだけでそう強くはなかった。『六式』が使えるのであればベルでも無手であっても問題なく対処できる程度だからもう少し冒険してもよかっただろうとは思う。
「まぁ、次に行くときは素手でも相手できるように鍛錬するぞ」
「うん!」
笑みを浮かべて頷くベル。本当なら素手でも問題ないだろうけど、ベルは剣の腕を磨くためにナイフで戦闘を行うようにしている。俺も才能がないと言い訳をしていないでベルと一緒に剣の鍛錬をすべきなのだろうか、とは思わなくはないが、今はまだ無手を鍛える必要があるだろう。
それに、アドバイザーのエイナさんの意見も聞いているだけあって俺とは違って慎重に進んでいる。まぁエイナさんの話を聞くとソロで潜るにはまだ早すぎるぐらいらしいが、『六式』を扱える俺とベルにとっては上層では鍛錬にならないだろう。今は剣術の鍛錬のために上層にいるが、ある程度形になったら数日を使って中層まで行って鍛錬した方がいいかもしれない。
今後の予定を組み立てつつ、ベルと一緒に夕飯の皿洗いをする。夕飯を作るのに使ったフライパン等も一緒に洗い、ベルがそれをタオルで拭いて定位置に戻す。ベルの手伝いもあって少しの時間だけで済みそうだな、と思っているとベルが少し言いづらそうに声を出した。
「……兄さん、ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」
珍しい、とは思った。意見を言わないわけではないが、自分から何かしてほしい、何かしたいというようなことはあまり言わないのだが、恐々としていることもあって本当に珍しいとは思った。ベルならばそう大きな話にはならないとは思うのだが、この表情ではそれも難しいのかもしれない。
「なんだ?」
「ちょっと、明日休みませてほしんだけど、いいかな?」
「休みが欲しい?」
恐る恐るといった様子から出されたのは、ただ単に休みが欲しい、というだけ。たったそれだけを言うのに何でそこまで恐々としていたのだろう、と思わなくはなかったが、最近祭に行ってて鍛錬を休みにしたこともあったからか言い出しにくかったのだろうと当たりを付ける。
「うん。実は、エイナさんに一緒に買い物に行かないかって誘われてるんだ」
話を聞いていると、どうも今使っている防具が心許なさそうだから新調するために明日防具を一緒に見に行かないか、とエイナさんに提案されたらしい。ベルが今つけている防具は急所を守る程度のものだけであり、俺との組手でも使っているせいか確かにボロボロになっているのは知っていた。
「買い物、ね」
正直、ここで防具を渡すのはどうだろう、と思わなくはなかった。確かにまだ『鉄塊』を習得していないベルだが、未熟とはいえ『紙絵』を習得しているのだからどの過ぎた防具はかえって邪魔になる。いっそのこと防具を付けずにダンジョンに入ることも考慮しないといけないか、と思っていたが、新人冒険者で防具もつけずにいるのはエイナさんに大目玉を食らうことになる。実際に何も身に着けずにダンジョンに潜っていたら説教を食らったこともあるぐらいだから、最低限防具ぐらいは装備させないと今後に支障が出るか。
「まぁ、別にそれぐらいは問題ないが、お金はあるのか?少しだけだが俺の財布からいくらか持って行ってもいいが」
「大丈夫。僕の財布からなんとかやりくりするよ」
不安に思わなくはないが、ベルも自分のことぐらいは把握している。動きにくい鎧を買うことはないだろう。まぁ、エイナさんの度重なる説得があった場合どうなるかはわからないからそこが不安ではあるが、まぁ、ここで心配していても何もならない。
「……まぁ、別にいいか。迷惑にならないようにしろよ」
「うん」
数秒はどうするべきか考えたが、ここで断るようにしてもベルに十分な装備を与えていないということでエイナさんとの仲も悪くなるだろう。頭は固いが、それも美化できるぐらいにはいい人なのだからそんな人と喧嘩別れ、なんて面白くもなんともない。それに、自分が動きづらくなるようなものを買ってしまってもそれはベルの判断で買ったベルの責任だ。うまく動けるようにするのが筋ってものだろう。まぁ、そうなってしまったら俺も動けるようにしないといけないだろうな。
ニコニコとしているベルを横目で見て明日に不安を感じないわけでもなかったが、なるようにしかならないと軽く息を吐いた。
なんか連投されてたみたいなので消しました。報告ありがとうございます。