元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ルーニー
「は?こいつら悪党のくせに賞金首じゃねぇの?」
気絶させた闇派閥の連中を縛った後、こいつらの首には大体どれぐらい賞金がかかっているのか聞いてみたら賞金はかかっていないと返答が来た。あまりの事実に思わず聞き返すがライラは少し苦々しい表情を浮かべていた。
「制度としては確かにあったけど、乱用や悪用どころか闇派閥ですら利用していたことが発覚して消滅した制度だな」
話を聞いていると、どうも闇派閥の仲間がわざと捕まえて中に入り込ませた上に情報を抜き取った上で留置所に襲撃をかけて仲間のついでに他の闇派閥を解放された事件が多発したせいで賞金首としての制度に批判が殺到し、結局わずかな期間で制度を終了したとのことだ。
代わりに今行われているのは身柄を渡す代わりに報奨金が出るシステムなのだが、生きていることが前提な上に行っているのが1つのファミリアが勝手に行っているだけだから大した金額も出ないだろうと言われてため息とともに希望が打ち砕かれたような錯覚を覚えた。この世界じゃ悪党をぶん殴っても大した金は出ない上にそれの主導が政府じゃねぇのか。
まぁ、それでも多少の金額は出るようだからまだ助かる。多分情報を持ってきたということでの、それも悪人が悪用しない程度にしか出ない報奨金だろうが、無一文でしかない俺にとってはそれすらも救いだ。しかし、それよりも俺の中でこいつらに対する最悪だった心象がより真下に下がっていっているのがわかる。
「こいつら悪党としてのプライドはねぇのか」
苛立ちを隠さずにいまだに意識を取り戻す気配がない闇派閥の1人の頭を小突くように蹴る。自分の首にかかってる賞金額を、世界に轟くだろう悪名を誇ることなく、むしろ自分を殺されたことにして賞金額を無くそうとした?呆れた。本当に心底呆れた。
「悪党にプライドなんかあるかっての」
「自分の賞金額で仲間に自慢しあってケンカとかしねぇのかこいつら」
「どういう仲間だそれ」
もうおぼろげにしか覚えてないが、ルフィんところの武闘派連中は自分の首にかかっている賞金額でどっちが上かを決めようとしていた記憶がある。エースも自分の船を持っていた最初の頃に賞金額で誰が上かを決めていたこともあったと笑いながら話していたこともあったし、海賊なんて賞金額が強さの基準みたいなところもあった。
だからここでもそういうもんだと思っていたんだが、どうもこの世界の悪党はせこいというか肝がないというか、一定の海賊から感じていた呆れに近い爽快さを感じないな。
「この連中が何してるとか知らねぇけど、どうせ隠れてるときはいかに自分の欲を満たすかしか考えてねぇよ」
「まぁ悪党なんざそういうもんだろうしな」
それはどこの世界の悪党にも共通することだろう。己の欲望に従って行動しているのだから悪党と言われているんだし、そもそも求めているものも……。あぁ。そうか。そういうことか。
「こいつらにロマンがねぇのか」
こいつらにはロマンを求める欲望を感じなかった。王族からも感じたことがある、そして天竜人の全てともいえる肥大化させた自分の欲を満たそうとしているだけの矮小な欲望だ。自分の命を賭けて大きなものを求めるロマン屋じゃねぇんだ。
「悪党にロマンなんかあるのかよ」
「こっちじゃロマンを追い求めるやつが海賊になることが多い。ロマンを求めるとどうしても法から逸脱しなけりゃいかんし、法から逸脱して海に出た連中のことを海賊と呼んでいたからな」
海賊王ゴールド・ロジャーが遺し、処刑される寸前にその存在を公にして人々の心を焚きつけた秘宝、ひとつなぎの大秘宝。様々な欲望が渦巻いた大航海時代だったが、おおよその海賊がこの秘宝を求めて海賊として裁かれることを恐れずに海へ飛び出していったんだ。
「海賊王ゴールド・ロジャーが遺した財宝、ひとつなぎの大秘宝。それが何なのか、世界を制したと言っても過言じゃない世界唯一の存在であるロジャー海賊団以外誰もわからない、王の財宝。それを求めて海に出た連中は後を絶たず、それを阻止するために海に出た連中を政府は海賊として咎めていた」
様々な海賊がいた。女子供関係なく殺戮の限りを尽くした大悪党。積極的に海軍を襲ってきた大悪党。島を占領して恐怖政治を布いていた大悪党。そして、敵とは思えないほどにかさっぱりとした大
「こっちじゃ、海賊はロマンを求めた馬鹿な連中の総称にもなってたんだよ」
エースのことを知っていたからか、それとも白ひげに対する行為を知っていたからかはわからないが、あの近づいてくるだけで吐き気を感じていた黒ひげだったが、やつにすら吐き気の中に清々しい何かを感じたのだ。それをこいつらからは感じなかった。
そんなほとんどの海賊から感じていたものを、こいつらからは全く感じることはなかった。それこそ、感じていたのは天竜人のような腐り濁ったような悪臭漂う精神だった。なら、何も遠慮するようなことはなかったか。
「なんでそっちの政府は海賊王の財宝を探すことを禁止したんだ?世界を制した男の財宝なんざ、むしろ政府の方がほしいと思うんじゃねぇの?」
「さぁな。何度かそれを聞こうとしたことがあったけど、誰からも探るなと止められた。恩人であるガープさんからすらもな」
息子であるエースを託すほどに、あのゴールド・ロジャーと親密な関係だったガープさんなら何か知っていないだろうかと、口を滑らせてくれるだろうかと一抹の期待を込めて聞いたことがあったが、まさかガープさんがあんな真剣な表情を浮かべて聞くなというとは思ってもいなかった。
「よほど政府の都合に悪いものなんだろうな。世界最大の大悪党が遺した大秘宝ってのは」
そうでなければ、あのガープさんがあそこまで真剣な表情になることはなかっただろうな。本当に知らなければバカなふりをしてとぼけていたのだろうけど、あの時の俺は見聞色の覇気を扱えるようになっていた。それを知っていたからこその反応だったんだろうな。
「まぁ、もはや知ることも叶わなくなった海賊王の財宝より、今はこれからの飯とそれを買うための小銭のことのほうを考えにゃいかんのだがな」
「あ~。それは、まぁ、そうだな。退院してから水以外なんも口にしてないみたいだしな」
病院でもちゃんと食事は出ていたのだが、まぁ病院食だけあって内臓に負担のかからない食べ物ばかりな上に栄養価、というかカロリーが俺には全く足りていなかった。ガッツリしたもの、それこそ肉を食べたかったけど世話になっている病院の食べ物に文句を言うわけにもいかず、それとなく要望を出してみても内臓に大きなダメージを受けている上に生死の境をさまよっていたのだからそんなものを食べさせるわけにはいかないと言われてしまってはあれ以上何も言うことができず。状況もわかっていなかったがために無理やり食わせろというわけにもいかず今に至るのだが、せめて退院するときに肉を頼んでおけばよかったと後悔が湧いてくる。
「朝に退院してもうすぐ夕方になるぐらい経ってるけど、大丈夫なのか?」
「絶食に関してはまだ大丈夫だ。海の上で食料が尽きかけた時の絶食も訓練してきてる」
あの時は本当に死ぬかと思った。ガープさんから課せられた六式の習得のための訓練で、3か月の間弱肉強食の猛獣しかいない島に取り残されたことがあった。
ただでさえ消費する体力が大きい六式なのにそんな場所で3か月も1人でいさせるとか、今思えばなんつう訓練だったんだと思うが、そのおかげで完全ではないが生命帰還を習得できたのは望外の喜びだった。栄養の蓄積と消化をある程度操れるようになってからは、最低限水は摂る必要があるが4日5日食事しなくても問題なく動ける程度にはなったが、それを超えた瞬間動くこともままならなくなるどころか死んでもおかしくない状態になる。まぁ無理していたんだからそれも当然の結果だ。あの時は死ななかったのが幸運だった。
「まだ大丈夫だが、このまま3日経ったら間違いなく即死するな」
「んなピンピンしてるのに即死とかねぇだろ」
「骨と皮だけになって死ぬな」
「面白くない冗談だな。……冗談だよな?」
「タダで10人分の飯出してくれる場所ねぇかな」
「んな都合のいい場所あるわけ……10っつったかお前!?」
正直今の状態だと、感覚的には10人前でも全く足りんだろうなとは思う。本領の十数分の一程度とはいえ、ただでさえ燃費の悪い”六式”を使った上に全く食事してないんだから、多分満足しようと思ったら20人前は食わないと餓死するんじゃなかろうか。
「話聞いてるとこいつらの首安いみたいだし、丁寧に扱うのもバカらしくなってくるな。このまま引きずって受け取り口に持っていくか」
欠伸どころか微睡みすら覚えそうなほどに弱い連中だし、どうせ持ってる情報も大したことはなさそうだ。一般よりも体は頑丈なようだし、適当に引きずって行っても死にはしないだろう。そう思って縄をわずかに覇気で強化して千切れないようにして引きずろうとしたとき、唐突に男の高笑いが辺りに響いた。
「ガネーシャ様だ!」
「ガネーシャ・ファミリアが来てくれた!」
「これでここは大丈夫だ……!」
なんだこれはと思って辺りを見渡しているとさっきまで不安げにしていた住民から明るい声が聞こえてきた。ライラとどっこいどっこいの強さを感じった方を見てみると、武装した集団の先頭に象の顔を象ったイかす仮面をつけた浅黒い男がこちらに向かって来ていた。
「俺が!ガネーシャだ!」
自らの存在を誇示するかのように大きな声を張り上げて筋肉質な上半身を見せつけるポージングをする仮面の男。その後ろで呆れたような表情を浮かべながら薄い髪色の少女が指示を出して俺の後ろにある連中を持って行っていた。
「…………」
「お前、神様が来たってわかってその表情してるだろ」
そりゃそうだ。アストレアはまだマシなようだったからよかったが、他の神なんざ
「名前も知らぬ者よ!よくぞ闇派閥から民たちを救ってくれた!感謝する!」
「近づくな。そのイかしてる仮面は結構好きだが、神という時点でぶん殴りたくなる」
「ガネーシャショック!この子本音で言ってる!でも仮面を褒められたのはうれしい!」
仮面の男は大きな声を上げてショックを受けた様子を見せているが、俺の言葉を聞いたこの男についてきていた連中は俺を警戒するように武器に手を伸ばしたり中には構えてきた者もいた。
「あ~。こいつ、ちょっと訳ありでして。神様のこと尋常じゃなく嫌ってるんですよ。闇派閥ではないのはアストレア・ファミリアの名に誓って間違いないのでそこは安心してください」
別に手を出す気はなかったのだが、さすがにこの空気はまずいと感じたライラは俺の背中を叩く。それを聞いて訝しげな表情を浮かべていたが、ライラのことを知っていたのかすぐに武器を収めた。アストレアのネームバリューは中々な物なんだなと感心していると仮面の男は観察する様子でこっちを見てきた。
「アストレアの名を出されたら信じるしかないが、いったい何が……。いや、言わなくてもいい。思い出したくもないことだろう」
自分の中で納得できたのか仮面の男は制止するように手をこちらに向ける。別に何も言ってないんだが、勝手に自己完結したようだし、こっちに悪い影響はなさそうだから放っておいてもいいか。
「では改めて、闇派閥から民衆を救ってくれて感謝する!その闇派閥は我々が責任を持って身柄を取り、闇派閥の手がかりをできる限り探ってみせよう!申し訳ないが、この闇派閥のことを調べた後で報奨金を渡そうと思う!アストレア・ファミリアはわかるが、君はどこに所属している?これだけの人数を倒したのだから名は通ってそうなのだが、あいにく記憶になくてな」
思い出そうとしているのか、指を額に当てて唸っているが思い出すも何もここには存在しなかった人間なんだ。知るはずもない。とはいえ、まさか報奨金がすぐにもらえるものじゃないとは思わなかった。どうやって誤魔化したものかと考えていると、ライラが俺の考えていることを察したのか仮面の男に声をかけた。
「あ~。そのことについてなんですが、1度アストレア様と共に話を聞いてもらった方がいいかもしれないですね」
「なに?」
「おい」
ライラが何を言おうとしているのか察した俺は強い口調で咎めるが、ライラはそれを笑って一蹴した。
「大丈夫だ。この神様は信頼できる。お前からしたら信頼できないかもしれないけど、この背中に背負ったものに誓って損はさせねぇよ」
背負ったものに誓って。その言葉は俺にとっては重いものだ。
「それに、味方は多い方がいいだろ?さすがにアストレア様だけでかばうことはできねぇしよ」
「……わかった。信用しよう」
冷静になって見れば、仮面の男を恐れているのであれば住民の反応はもっと恐怖に駆られているはずだ。少なくともここにいる住人はあの姿を見て安心を得ている。なら毛嫌いはすれど否定までする必要はないのかもしれない。
「なるほど。その子はアストレアだけに心を開いているのだな?ということは、最近外から来た冒険者だな?だがそのような者がきたという話は聞いた覚えがないのだが……」
「そこも含めて話をしたほうがいいと思うんです」
「うむ。普通ならば話を聞きたいところなのだが、アストレアの子が言うのなら安心だな。では、後程アストレアのところに向かうからそこでまた会おうではないか!」
俺が!ガネーシャだ!と最後に叫んだガネーシャは高笑いをしながら去っていった。アストレアのところから出てったっていうのに、こんなすぐに戻ることになるとは思わなかったと軽くため息をつくと、ライラが変なものを見る目でこっちを見てきた。
「なぁ、ちょっと気になったんだけど、あの仮面イかしてると思ってるのか?」
「ん?あぁ、なかなかかっこいいじゃねぇか。売ってるなら買いたいぐらいに欲しいぐらいだ」
「お前マジか」