元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ルーニー
「ずいぶんなことになったものね」
ガネーシャ・ファミリアが普段使用している鍛錬場で、アリーゼは愛用している武器を片手に肩を回して調子を見ているであろうフィースを見ていた。あたしたちアストレア・ファミリアも愛用している武器を持っているし、シャクティたちガネーシャ・ファミリアもそれぞれ武器を持っていたけど、ガネーシャ・ファミリアの誰もが心配そうな表情でフィースを見ているのが見て取れていた。
「ウラノス様への説得の1つの材料として強さを見る、だっけ?まぁ、確かに何の見返りもなくあいつの力になってほしいなんてさすがにウラノス様も簡単に頷くとは思えないしな」
「それにギルドに行って今すぐにウラノス様に会わせてほしい、なんて言ったところでガネーシャ様やアストレア様だとしても拒否されるのが目に見えているものね。面会時間まで実力を見るのもいいんじゃない?」
ここにいる者と渡り合えるぐらいの強さがあれば説得できる材料になるだろうとシャクティたちとの模擬戦の提案がガネーシャ様からあったからだ。故あってレベルや経歴は明かせないが、その実力と正義は確かであるとガネーシャ様が断言していたものの、それはそれでシャクティたちは怒りに満ちた目で不審な者を見るかのようにフィースを見ていた。
なにせフィース自身があたしたちアストレア・ファミリアとガネーシャ・ファミリア全員でかかってきても余裕で返り討ちにできるから遠慮なく全員でかかってこいと堂々と言い出したものだから、レベルも言えないような奴からの挑発だとガネーシャ・ファミリアの全員は憤りを見せたのだ。
さすがにレベル1やレベル2では相手にもならないのと、そもそも全員が倒れるようなことになるのはまずいとということから、レベル3以上の実力者が2人ずつ出ることとなった。ガネーシャ・ファミリアからはアーディ、ハシャーナの2人、アストレア・ファミリアからはアリーゼ、あたしの2人だけで模擬戦を行うことになったのだ。団長としての仕事があるはずなのにアリーゼは実力を見たいということで参加することになったのだが、予断は許さないというほど切羽詰まっているわけではないということから許可が出ていた。
一応この中で唯一フィースの戦闘を見たあたしのほうから最低でもレベル4相当の実力はあるとは言っているものの、果たしてどれだけ
「それはそうとしてちゃんとした実力が気になるのも確かなのよね。覇気、とかいうものだけで気を失う寸前までいっちゃったから相当な実力だとは思うけど、それでもちゃんとした実力を見たわけじゃ無いもの」
不満そうにアリーゼはいうが、あたしとしてもフィースの実力をちゃんと見ていたわけじゃ無い。いや、見ていたわけじゃ無いというわけでもないんだけど、見ていてもなにをしたのかわからなかったというのが正しいか。見えてもいないのに見たというのも変な話だろう。
「本当に大丈夫なのか?」
ガネーシャ様からの話だとは言え、相手にするのは全くの無名でしかも装備も何も持たずにこちらをなめているようにしか見えない様子のフィースに対して、憤りを隠そうとして無表情に近い顔になっているシャクティが最後の確認と言わんばかりにそう聞いた。しかし、当のフィースは左手の指をパキパキと鳴らすと体の調子を確認するのを終わったのかその視線を受けてもなお何も感じていないのか普段通りの表情を浮かべてこちらに顔を向けた。
「ここじゃあ
そうフィースが言うが、その姿は明らかにこちらをなめているようにしか見えない。右手は力を入れていないのかプラプラとさせていて、左手をだらしなく上げては人差し指を挑発するように動かしている。その様子に、この場にいた全員、少なくともリュー以外のフィースが自分たち以上の実力を持っていると知っているアストレア・ファミリア全員を除いた全員が憤慨するように各々の武器を握り締める音が聞こえてくる。
「何も知らないやつが俺たちをなめるなぁ!」
こらえることができなかったのかハシャーナは全速力でフィースに近づき、その拳を顔に向かって全力で殴りかかる。それをフィースは避ける様子もなくじっと見つめ、ガンッ、と激しくぶつかり合う音を響かせてハシャーナの拳が顔に入った。
「お、おい。まともに入ったぞ」
「いくらなんでもあれを食らって生きてるのか……?」
ハシャーナはガネーシャ・ファミリアの中でも上位に入る実力者だ。その拳で中層のモンスターを容易く屠ることができる上に、動かない的に向かって全力で入れた攻撃だ。同じレベルであっても、それがレベルが1つ上であっても間違いなくダメージを受けるほどの威力のある攻撃であることには間違いない。それを受けたフィースを心配する声が上がったが、その声は
「う、ぐぁ……!」
「ハシャーナ!?」
攻撃した手を痛みに耐えるようにもう片方の手で抑えるハシャーナ。対してフィースは身動き一つ、
「覇気が足りん。軍艦でも殴って鍛え直せ」
まるで扉を乱暴に閉めるかのように乱雑に腕を振るった。技術も何もない、ただそれだけの動きだったにもかかわらずハシャーナはまるで猪に轢き飛ばされたかのように何Mもの距離を転がり飛ばされ、壁に激突した。当たり所が悪かったのかハシャーナは痛みで悶えてすぐに立ち上がる様子がない。
「こ、の……!」
今度はアーディが動いた。刃も潰していない武器を使っての模擬戦に難色を示していたアーディだったが、フィースの余裕綽々な態度とハシャーナの様子を見て愛用している武器をフィースに向けていた。本気で胴の部分を真横に振りぬこうとしたが、フィースはハシャーナの時と同じように
「鉄みたいに硬い……!?」
アーディの剣は鉄を殴ったかのような音が響いてフィースの腹部から弾かれた。服の中に鎧を着こんでいたのかと一瞬驚きを隠せずに隙を見せたアーディだったが、さすがは闇派閥を相手に最前線で戦い続けていた猛者だ。すぐに体勢を整えてフィースから離れようとしたが、その一瞬の隙をフィースは見逃すことなく、あたしたちが感知できないほどの速度でアーディの腹に手を置いた。
「力任せの部分が多い」
「きゃぁ!?」
そのままフィースはハシャーナと同じようにアーディを壁に叩きつけ、アーディは衝撃を殺せずに壁に激突して地面に倒れこんだ。幸い当たり所は悪くはなかったようだけど、今すぐに戦線に復帰することはできないようだった。
強い。あまりにも強すぎる。ハシャーナが攻撃を仕掛けてからわずか1分の間でガネーシャ・ファミリアの主力である2人が戦線から離脱するようなことになった。
ハシャーナだってレベル3ではあるものの、それでも棒立ちしている状態で移動しながら全体重を乗せた攻撃を顔に直撃で受けたのであれば例えレベルが2つ離れていたとしても2、3歩ぐらいは動いてもおかしくはないはずだ。
アーディもハシャーナと同じくレベルは3であるし、その剣だって前線で活躍できるほどの一品だ。同格はもちろん、格上を相手にしてもちょっとやそっとじゃ負けないぐらいには実力もあるし、何より相手の気持ちを思いやれる判断力も優れている。それで勝利を拾ったことは1度や2度では終わらないほどのものだ。
にもかかわらず、ハシャーナの全力の攻撃も、刃も潰していない剣で斬りつけた攻撃も、全く効いた様子がない。それこそ
勝てない。肌が焼けてきたのかと錯覚するほどの威圧を感じながら、あたしの頭の中でどうやって勝つのかを考えていたけど、どう攻撃してもフィースに勝てる未来が見えない。模擬戦だということで手加減をされているということが、構えらしき構えすらしていない上にやったことと言えばあのハシャーナとアーディを壁まで投げ転がしただけだ。もし普通に攻撃をされていたのだとしたら気絶で済むのかすらわからない。
まるで鉄の壁を攻撃していたかのように微動だにしていないフィースに、あたしたちが攻めあぐねている最中フィースは軽くため息を吐いた。
「”獣厳・飛沫”」
ブンッ、とフィースが乱雑に右腕を上げると同時に風を切る音が聞こえたと思ったら大きな音を立てて壁に大きな窪みができた。その様子にこの場にいた全員が壁にできた窪みを見て目を見開いて声を失っていた。
壁に窪みを作る程度なら冒険者なら誰でもできる。けど、それはちゃんとした武器とスキル、そして何よりレベルがなければできたとしても小さな窪みしかできない。
だが、あいつが作り出した窪みは、素手であるのなら少なくともレベル3以上でなければ作れないほどの大きさと深さだ。それもこの場にいる誰もがフィースが何をしたのかわからない状態でだ。例え魔法だとしても脅威になるのは誰の目にも明らかなものだった。
「今のは拳撃を無理やり飛ばす技だ。それでも本来の1割程度の力、それも飛ばさない技を無理やり飛ばしての話で、だ。これをまともに受けたらどうなるかは、言わなくてもわかるよな?」
突然、まるで雷に打たれたのかと錯覚するような痺れと背中に氷水を垂らされたかのような寒気がした。この寒気には覚えがある。アストレア様に初めて会わせたあの時に発した、覇気というものだ。私たちが気絶もしていないということはあの時よりもはるかに軽いものには間違いないが、それでも死の恐怖を覚えるには十分な物だった。
「どうした。俺は1人だ。1人の息子のためだけに
威圧が増していく。この身を襲う寒気はもはや氷水を垂らされた、なんてものじゃない。先のとがった氷柱を背骨に刺しこんでいるんじゃないかと思うほどのものが全身を襲い、体が震えて体を動かすこともできない。ガチガチと歯がかみ合わない音が聞こえてくる。それを出しているのが自分なのかそうじゃないのかすらもわからなくなるほどのものだった。観客にもこの影響を受けているのか全員が顔を青くしていたし、中にはこの威圧に耐えられなかったのか気を失うやつもいた。そうじゃなくても膝をつくやつが多かった。あのシャクティですら体を震わせているほどだ。そうなっても仕方はないだろう。
「お前らの背負っていたものは、たった1人の敵にへし折れる程度の旗でしかなかったみたいだな」
その言葉はとてもじゃないけど聞き捨てならない言葉だった。でも、とてもじゃないけどそれを否定できるような状態にはなかった。攻撃を受けたわけじゃ無いのにフィースからの覇気に耐えられずに膝をつき、全身の震えを抑えることもできず、反論しようにも歯がかみ合わず言葉もうまく出せない。そんな状態で反論できるのは、戦っているあたしたちは愚か観戦しているだけの連中もできないでいた。
「それはちょっと聞き捨てならないわね」
カチャリと、静かな空間の中でアリーゼが動いた。足は震えていて今にも膝をつきそうな様子なのに、それでもアリーゼは武器を握り締めてフィースへと立ち向かっていた。
「ア、リーゼ……」
アーディの口からアリーゼを呼ぶ声が漏れ出してきたが、その声は聞き取ることすら難しいほどに明らかに震えていた。一歩一歩ゆっくりとフィースに近づくアリーゼの体が震えている。カチャカチャと剣が震えている音がこちらにも聞こえてきそうなほどの恐怖が襲ってきているにもかかわらず、アリーゼは歩みを止めなかった。
「私たちの背負っている
もはや虚勢にしか聞こえない声も、構えている剣も、踏ん張っている足も、アリーゼは今にも崩れ落ちてしまうのではないかとすら思えるほどに震えている。それほどの恐怖を覚える相手にアリーゼは、それでも意志を絞り出すように全身に力を込めて剣の切っ先をフィースへと向けた。
「私たちは、正義の女神アストレアの
誓いを立てるかのように、剣を胸まで持ち上げて切っ先を天へと向ける。そしてその切っ先をフィースへと向けて、吠えるように言葉を吐き出した。
「私たちが、この背に刻んだ正義が、そう簡単に折れるものだと思わないことね!」
アリーゼの言葉が、心が折れそうになっていたあたしたちの目を覚まさせた。いや、強い
「全力で来い。世界を救ったと名高い英雄の弟子として、お前らの壁として立ちふさがってやる」
こちらの方に出している手の人差し指を挑発するように動かす。これがそこらの冒険者がやるようならば馬鹿にされていると怒りが出てくるものだが、どうしてかフィースのそれには怒りは出てこなかった。フィースがあまりにも強く怒る気にもなれないほどの実力差があるからか、それともこれが文字通りの鍛錬であることがわかっているからだろうか。
「言われなくても!」
震えを振り払うかのように剣を振り、アリーゼは単身フィースへと走っていく。それをフィースは笑みを浮かべて構えていた。
なめた態度のフィースですが、闇派閥との戦いでライラの実力を見て大体の実力を把握しているのと、少将で自分は弱いという態度をしていると海軍自体をなめられることになりかねないためにそうしていないのと、何よりガープに鍛え上げられた自信と自負で格下と思われるような態度をしないようにしているためです。
ガネーシャ・ファミリアとアストレア・ファミリア弱すぎない?と思われるかもですが、バギーですら超至近距離での町一つ吹き飛ばせる威力のある爆発(マギー玉)にすら生き残るのに、建物一棟が崩れる程度の爆発で死ぬことを考えたら妥当な気もします。
バギーが特殊?否定できないなぁ(遠い目)というかTボーン中将が市民のナイフで簡単に死んでるし、ホント基準がわからん。
なおフィースの想定していた基準は空島編終了後の麦わら海賊団の実力である。
(腕に着いた黄金の塊を殴った衝撃でぶっ壊すルフィを見る)
(前章で斬鉄したほか斬撃を飛ばしたゾロを見る)
(あまり活躍の場面はなかったものの普通にハイスペックなサンジを見る)
う~ん。基準が不当。空島編でも十分にバグってるわ。
アラバスタ編ぐらいが妥当……(クンフージュゴンを見る)(サンドラ大トカゲを見る)妥当か?わからん←