魔法少女規格 -Magic Girls Standard-   作:ゆめうつろ

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chapter 2-02

 水没した石造りの街の上に木々が生い茂る、放棄されてからかなりの時間が経っているようだ。

 最初に見つけた文明の痕跡は水没した遺跡という形だった。

 

「さすがに住人は居なさそうだな」

「海面上昇か地盤沈下ですかね」

 

 オレ達の世界にも海面の上昇で滅んだ街はいくつかあったと聞く、とはいえ島全体が水没して消えたというのはそうそう聞かない。

 

「どういう街だったかわかりそうか?」

「恐らく交易路の途中の島かなんかだったんでしょうね、ここで休むみたいな」

「なるほど、ただこの有様だと……おそらくめぼしいものもなさそうだな」

「そうですね、沈む島なら恐らく多くの物は持ち出されているでしょう」

 

 少なくともこれも収穫だ、街の規模はそこそこに大きい、全盛期にはどの程度まで繁栄したのだろうか?

 

「さぁ、次に行きましょう」

「そうだな」

 

 ハレルに続き、再び西方向へ飛ぶ。

 スレイプニールの巡航形態で二時間、となると案外次は早く見つかるかもしれない。

 

「地平線・水平線があるという事は少なくともこの世界は「球状」の惑星型、それでいて天井があるのは……なんでしょうかね」

 

 上を見上げれば太陽の様なものはある、しかしおそらくそれは「天井」に映った照明のようだ。

 

「どちらにしても作られた環境である、というのは間違いないだろうな。所謂階層世界とかか?」

「なるほど、もしくは天井ではなく外壁かもしれしれませんね。どちらにしてもこの向こうにもまた別の世界があるのでしょうか?気になりますね、ぶち抜いてみたくなります」

「それはやめとこう、なんかよくない気がする」

 

 自分達の世界とはまるで形の違う世界を知る、それがこうも楽しいものだとは思わなかった。

 なるほど、ハレルが楽しみにしていたのも今ならよくわかる。

 

「それはそうと見えない天井はありますけど、見えない壁が無くてよかったですね。今の所は」

「確かに言われて見ればそうだ、天井を支える柱の様なものも見ないな」

 

 一体この世界の構造はどうなっているのだろう?地球の常識で考えれば星を覆う外壁を作るとして、地球自身の重力・引力を考慮すると柱で支える必要がある様な気がする。

 専門的な知識がない為、さすがによくわからない。

 

 少なくとも現状、下方向に重力があるのは間違いはない。

 

「神話的に見ても天と地を支えるなにかしらってありますからね、とにかく見えない何かとかにぶつからない様にはしているんですけど、念を入れておいてくださいね」

「今更か」

「ええ、今気付いたので」

 

 とはいえスレイプニールにはソナーやレーダーもついている、そうそう見えない何かに激突という事はないだろう。

 魔力もハレル以外には感じないし、空間の歪みの様も認識できない。

 

 

 警戒、という程ではないが周囲への意識は絶やしていない。

 見通しのよさというのは、それだけ射程距離が長くなり、回避しにくいという事にも繋がるのだから。

 

 

 

 水没遺跡から特に何事もなく、道中にクジラの群を見かけたぐらいだった。

 そして三時間、航行距離だけが伸びていく中、水平線に新たに影が見えてきた。

 それは陸だった。

 

 ハレルと顔を見合わせる、ようやく陸地が見つかったことに喜びが隠せていなかった。

 出発から五時間、オレ達は最初の陸地へと辿り着いた。

 

 生憎、そこは港でもなんでもなく砂浜に森、少し先は山があって見通せない。

 だが少なくとも先程の水没都市から文明はあった事が確認できている。

 となると一つ問題がある。

 

「どうする?スレイプニールはここに置いていくか?」

「いえステルスモードで行きましょう、山の向こうがまた海かもしれませんし」

「わかった」

 

 この世界にまだ文明があったとして「今」の文明レベルがわからない、となるとこの飛行機械を飛ばしていれば原住民を驚かしてしまうかもしれない。

 所謂現地への配慮という奴だ。

 

 光学迷彩で視認性を下げた上でスピードを上げ、鳥の群を追い越して、陸の上を飛ぶ。

 森を越えると草原に途中舗装されてない道の様なものを見つける、草に埋もれてない事から比較的新しいようだ。

 

「ハレル、どっちにいく?」

「北にしましょう」

 

 ハレルが指した方向に向かって移動すると途中に木の小屋やレンガの建造物など、ついには馬車もあって、そこには生きている「人間」が居た。

 

 かつてオレ達の世界もこんな風に自然の中で暮らしていた時代があり、失われたソレが目の前で動いている。

 

「すごいな」

「そうですね、とにかくこれでハッキリしました。この世界には人が居て、文明があります、そして」

 

 これだけで恐らく調査の目的の一つは果たせただろう、だがまだまだ気になる事は多い。

 この世界の人々がどういう認識でこの世界で生きているのか、それを知る必要がある。

 

「一体どんな歴史を歩み、どんな暮らしをしているか、だな」

「そうです、出来るだけ介入し過ぎない程度に、目立たぬようにしながらそれを探らせて貰いましょう」

 

 オレ達はあくまで旅人だ、それもこの世界の住人ですらない。

 正直に言って向こうから積極的に仕掛けてくる場合は迎え撃つなりするが、侵略者になりたいとは思わない。

 

 それはハレルも同じだろうが……ふと思い浮かぶのがユニオンやアライアンスの他の魔法少女や権力者達ならどう思うのだろう。

 どういうスタンスで異文明と関わっていくのか、少しばかり気になる。

 

 一部の者はやはり、支配と略取を目論むのだろうか?もし既に関わっているならどうしているのだろう。

 ナユタは将来的に自分達の危機対策の練習として技術的支援をしているとは言っていたが、気になる所だ。

 

 オレとしては、アライアンスには異世界の文明に対しても誠実な対応をしていて欲しいと願うほかない。

 

「あれは……街ですね、見えました」

「ハレルは随分と目がいいな」

「それほどでも」

 

 その街は川と城砦に囲まれるようにあった、石レンガと木の建造物に、城、広場、街の中を流れる小川……おそらく用水路か?まるで御伽噺の中の景色のようだ。

 

 そして街灯の様に見えるのは結晶だ、オレ達が使っているのとは別の魔力か?エレメントに近い力を感じる。

 おそらく魔法技術のある文明だ。

 

「すごいな、ハレル」

「ええ、でもまずはスレイプニルを近くの森に隠しておきましょうか、それと街への入り方も考える必要がありますね」

 

 先ほどとはまた違った真剣な眼差しでハレルは街の一点を見つめていた。

 それは街の中でも城ほどではないが一際大きな建造物、どういったものかはわからないし、オレには何も感じ取れないが、ハレルには何か感じるのだろうか。

 

「どうかしたか?」

「いえ、多分大丈夫でしょう。悪意、ではないでしょうし、向こうも何かを警戒しているだけなのでしょうから」

 

 よくはわからないが、どうか荒事にはならない様にとオレは願った。


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