魔法少女規格 -Magic Girls Standard-   作:ゆめうつろ

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今日は二度目の更新です


chapter 3-02

 オレに過去なんてものはなかった、だが過去はオレとハレルという魔法少女を巡り合わせた。

 ただ傭兵のオレが言うのもなんだが死体を材料にした人造人間というのはさすがに倫理感が無さ過ぎる。

 

 ネクロマンサーでももうちょっと死者に対して優しいんじゃないか?

 

「それで要するにハレル、貴女はお役目が過酷すぎてサボりたいが為に外回りになった訳ね」

「端的に言えばそうなります、いや無人機とかホムンクルス導入しても本当に人手足りなくて……立ってるのなら客ですら使えってぐらいで……」

「だったらナユタから抜けてしまえばいいのよ、あなたもユニオンに来なさい」

「いえ……一度抜けようとしたらアマネさんに殺されかけたので……」

 

 話にしか知らないナユタのイメージがどんどんと危険な組織へと染まっていくが、少なくともハレルがオレを連れ戻しに来た訳でなくて本当によかった。

 アライアンスでももっと人間に対しては優しいぞ。

 

「それで……先ほども言ったとおり、私達は地球の環境再生・汚染浄化の為に使えそうなものを探してまして、アカリさんの方では何か心当たりありませんか?」

「端的に言ってないわね、ユニオンでも魔術や科学技術で地道に浄化作業はやってるけれど。それこそこちらもある問題を抱えているの、だからその対策を探して異世界を巡ってるのよ」

「その問題って何ですか」

「亡者よ、ユニオンの支配域近くに地獄の門か何かが開いたらしくて亡者の類がどんどん溢れてきているのよ」

 

 思ったより向こうも切迫した問題を抱えていた、地獄の門が開いたってなんだよ。

 オレ達の周りはどうしてこうも死者にやさしくないんだ。

 

「亡者ぐらいどうってことないじゃないですか、燃料にでもしてしまえばいいじゃないですか」

「あのハレルさん、ユニオンはそこまで倫理感の無い組織ではないわ!きちんと浄化砲撃で消し飛ばすけれど、それは亡者達を眠らせてやるためよ!?」

 

 今まで静かになってたエリルが思わず口を挟むほどの倫理感のないアイデアにオレも頷く。

 とにかく亡者というのはよくない、対立して戦争で死体を製造するアライアンスとしてもいつ自分の領域で亡者が発生するかわからない。

 そうすると対策の為にまた税率が上がってしまう。

 

「つまりはオレ達はどちらも浄化用の道具を探している訳だな?それは協力できるんじゃないか?幸い、今のオレはアライアンスの指示じゃなくハレルに雇われて動いている」

「そうですね、ナユタとしてもアライアンスとユニオンの対立は特に不干渉ですし、そもそも浄化装置が一つしかないとも限らないので協力したいと思いますよ?」

 

 オレとしてもあくまでアライアンスで仕事をしているだけでユニオンが憎くて戦っている訳じゃない、一部にはそれこそ「自由」を守るために戦っている者達がいるが、別に共に肩を並べる事自体に異議はない。

 

「どうしますかアカリさん」

「……そうね、いいんじゃないかしら。少なくともこの二人は役に立ちそうなのは間違いない、それによっぽどでもない限りは他組織の魔法少女と協力してはいけないというルールはユニオンにはないわ」

「それじゃあ……」

「ええ、よろしくお願いするわ。ナイン、ハレル……だけどこれは一時的なものよ、ユニオンとアライアンスの兵士として戦場で会った時には普通に殺しにいくから、そこは勘違いしない事ね」

 

 きちんと分別のある相手で助かった、この地獄めいた荒廃世界を二人だけで探索するのは間違いなく骨が折れるところだった。

 

「……どうして私の周りの人は皆おかしいの……まともなのはアタシしかいないの……」

 

 うつろな目で呟いているエリルの気持ちはわかる、元身内だとどうしても手加減したくなるが普通の人間だ、確か生き別れの姉妹の魔法少女が戦場で再会した結果ひどいことになったという話もあったぐらいに。

 

「大丈夫だ、エリル。オレもまともだから」

「アンタが一番信用できないのよ」

「ウソだろ」

 

 倫理感が薄すぎる二人はともかくオレ自体は真っ当なアライアンスの魔法少女だぞ。

 信用には人一倍敏感な積もりだが……。

 

「だってアンタ三歳児じゃない……」

 

 概ね真っ当な理由だった、確かにさっきの話を聞いていればオレが三歳児だというのはわかる。

 とはいえこんなに戦えて頭のいい三歳児など普通はいない筈だ。

 

「大丈夫よエリル、実年齢三歳でも最低でもナユタ製の人造人間には最初から十歳児程度の精神と最低限度の情報転写が行われるし、そこのはアライアンスで仕事ができている程度の実績はあるわ」

「そうなるとアカリさんの年齢が気になりますけど……!」

「私は17歳、ちゃんと17年生きているわよ?ちなみにそこのハレルは普通の人間の生まれだから14歳、つまり一番年下なのはナインという事になるわ」

 

 普通の生まれからアレになるのか……ナユタってもしかして人造人間の方が真っ当な人間が多いのではないか?

 それに常識がクソの役にも立たないぐらいに色々知ってしまったな……。

 

「あ、ちなみにですが人造人間の作り方としては昔はフランケンシュタインの怪物みたいに使えるパーツの切り貼りキメラだったんですが、今は分解して素材……神話で言う人間を作る為の粘土に変換してから整形して創りますので、時々一人から二人作れたりするんですよね」

「なんでそれ説明した?というかその作り方だとほぼそのままの姿のオレは何だ?」

「おそらく足りないパーツをその「肉粘土」で補充したんだと思います」

「そんなプラモデルやフィギュアじゃないんだぞ」

 

 勘弁してくれ、本当にこいつらの常識は一体どうなっているんだ。

 

「それと治療用に今も持ってきてますよ、肉粘土。見ますか?」

「いらない、もっといえばもしオレがなんらかの理由で死んだらちゃんと火葬してくれ」

「ナイン……わかったわ、アンタが死んだらちゃんとアタシが処分しておくから……代わりにアタシが死んだ時はアンタがアタシをなんとかしてね」

 

 すごく嫌な理由でユニオンの魔法少女と通じ合える事になるとは思わなかった、オレは自分の過去は知りたいといったが自分の製造工程まで知りたいとは言ってもないし思っても居なかったのに、最悪だ。

 

「けど私はエリルが死に掛けたなら私は肉粘土を使って治療するからそのつもりで居なさい」

「勘弁してくださいアカリさん」

 

 かつて敵対した相手に心の底から同情したのは初めてだった。


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