カフェインの話
喉元に突きつけられた時間という針が、音もなく皮膚を突き破り喉仏に差し込まれていく。
かちかち。
真夜中のしじまに秒針の揺れる音だけがクレッシェンドに聞こえてくる。
狂いそうだ。
泣き出したい。そんな自分が情けない。そんな感情に踊らされてる場合ではない。動かねば。動け。動け! 動け!! 動け!!! 動けよ!!!!
がしゃん。からん。
机に叩きつけた拳のせいで、投げおかれていた空き缶が床に転がり落ちる。
そんな芝居がかった演技をする現実逃避に終わりのない嫌悪感が湧き上がり続ける。
胸を2つに割って、心の臓を取り出し。握りつぶしてしまいたい。そんなファンタジーを妄想して、また進んだ時計に追い詰められたかのような錯覚を覚えるのだ。
結局のところ、自己を傷つけながら過ごした時間は唯の茶番で悪戯に余裕を浪費したに過ぎない。
堂々巡りだ。
「あーあ」
一通り苦しみの渦を味わえば、諦めにも似た開き直った自分が顔を出す。
「やあ、もういんじゃない? こうして何もせず己を傷つけるくらいならさ、今日のところは、まあやめとこうよ」
甘くどす黒い悪魔の声音が、脳内で響き渡るんだ。ガンガンガンガン頭蓋骨に反射して、その言葉を受け入れるまでの間思考のキャパシティを奪い続ける。
そこから先は日によって違う。そのまんまふて寝してしまったり、我らが文明の利器スマートフォンを弄り尽くしたり、頭痛がするまで遊んでみたり、はたまた何もせずに唯、座っていたり。
その全てに共通することが、立ち向かったことは1度だってないのだ。
床に落ちたスチール缶に目をやる。赤い闘牛のマークに、ブルーとシルバーのコントラストがシャープなクールさを演出しているパッケージ。カフェイン摂取用炭酸飲料レッドブル。
その亡骸が狂ったように散乱していた。
嗚呼。昨晩も、その前の晩も、またその前の晩もこやつを飲んでいるのだ。成程、この様な死体の山が出来上がるのも致し方なしか。
ガタッ。
多少乱雑に、音が出るように立ち上がる。これは自分への切り替えの意志表示だ。
一日中締め切っていたドアを開き、家の外へと出る。徒歩3分の自販機に今日も心の友を買いに行くのだ。勿論、悪友なのは承知しているわけだが。
210円。素早く入れ、素早くボタンを押す。冷えきった夜闇を照らす自販機は、頼ってきた旅人に少し素っ気なく品を渡す。ごとん。
これに頼るのは喉元の針を遠ざけられるような気がするからなのかもね。