敵陣のど真ん中。
日向ヒノデは立っていた。敵は遠巻きにヒノデを囲んでいる
「油断をするな! 敵は木の葉の鬼神だ!」
「鬼神というのは気に入らないな。紅い竜巻とかカッコいいのは無いのか」
口を開きながら飛んできたクナイを手で叩き落す。
地面に落ちたクナイはそのまま沈んでいく。
ヒノデが立つ場所から敵までの間はすべて泥のようにぬかるみ沈みやすくなっている。
「いい加減近づいて来いよ、いつまでたっても倒されてやらんぞ」
「ふん、鬼神に体術を挑むなど有り得んな! このままなぶり殺してやろう」
「ま、当然だが、甘えよ」
「ふん、負け惜しみを! やれ!」
その指示と共に各方向から水遁土遁雷遁火遁、様々な術が迫り来る。
「回天!」
その奔流を回天であらゆる方向に弾き相殺し消し去る。
さらに足元の泥も弾かれ辺りに飛び散る。泥ではない地面が顔をのぞかせる。地面には敵が投げてきた忍具が敷き詰められていると言っていいほど転がっている。
「もういいな、悪いが仲間を待たせている。終わらせるぞ」
白眼はチャクラの流れを見、経絡系を、点穴を見切るほど高性能な眼だ。
ソレを生かして柔拳により相手のチャクラの流れを止める戦法を基本とする。
だが、違う。白眼ははるか遠くまでほぼ360度見ることが出来るのだ。
ただ勝つだけならば敵に認識されない距離から長距離の術でじわじわ削ればいい。
だが日向一族はそうはせず柔拳を修める。何故か。
簡単だ。柔拳こそが白眼を使い、最も強くなるための道だからだ。
白眼を使いチャクラの流れから敵の行動を先読みする。
己のチャクラの流れを見ることで抜群のチャクラコントロールを持つ。
体中のチャクラ穴からチャクラを放出し武器と出来るほどのチャクラコントロールだ。
だが違う。その程度では遠くから削った方が確実だし安全だ。
敵の前に姿を現すというのはそれほど危険な行為だ。
「ちいっ! 次ぃ!」
「無駄だ!」
柔拳は直接的に攻撃しなければならない。
故に遠距離から近づかれないように複数人で攻撃し続けるのは非常に有効だ。
ヒノデ自身、遠距離に使える技はそう多くは無い、だからこそ有効であるのだ。
本来ならば。
誤算はヒノデは柔拳だけの使い手ではないということだ。
少なくともヒノデは柔拳だけで敵を倒したことなどそう多くない。
ヒノデは日向の当主だ。当然木の葉で最高といえる柔拳の使い手だ。
だが自身の事を柔拳使いとは名乗らない。
彼が好んで使うのは"剛拳"柔拳とは対極に位置する存在だ。
だがこの剛拳こそが白眼を使い最も強くなる方法だ。そうヒノデは確信している。
事実、剛拳を使うと火影である猿飛ヒルゼンにも勝てる。
柔拳と剛拳この二つを持ってヒノデは木の葉最強足りえるのである。
どちらかが欠ければ最強足るのは厳しいだろう。
木の葉には写輪眼を持つうちは一族がいる。
忍術、幻術、体術を見切ることに関して白眼を越える眼だ。
写輪眼では不可能なことをせねば最強など名乗れない。
それは柔拳であるのだが、それだけでは足りない。
故にヒノデは剛拳を身につけた。対極に位置する物に最強を見出したのだ。
「教えてやろう。日向は木の葉にて最強ということをな」
写輪眼を越え、火影すら置き去りにする、白眼の使い道。
それは
「八門遁甲・開門・休門・生門・傷門・杜門・景門・驚門・死門……開! 行くぞ八門遁甲の陣だ」
命を捨てることである。
限界を超える力に体が悲鳴を上げる。
体から血が流れ皮がボロボロと落ちていく。
体中の血管が浮き出、筋肉が膨れ上がる。
髪の毛に血が着き、白眼すら血の赤で染まる。
服は膨れ上がった筋肉により破かれ、残った部分も赤に染まる。
全身を見ても赤く無い部分を捜すほうが困難だろう。
あらゆる体毛を逆立て紅く染め上げる。
紅い体と角のように天に伸びる髪。
とある国の伝承にこの姿に似た怪物が登場する、鬼である。
赤や青といった通常ありえぬ体の色、頭から真直ぐ天向かいに聳え立つ、鋭い角。人より大きな体を持つそれは、人を襲い骨すら残さず喰らい尽くすという。
彼がただ移動するだけで泥を掻き分け地面が砕ける。
彼が前に進むために砕けた地面。
後ろに蹴飛ばされた泥と忍具が二種の弾幕となり忍を襲う。
突然の変貌に驚いていた忍が反応できるはずも無く弾幕にぶつかり忍具に貫かれと泥の飛礫と共に飛び散った。
瞬身の術に匹敵、あるいは超えるような速さで敵の前に移動する。
そのまま身体を回転させ回し蹴る。木の葉流体術の基本技とも言える、木の葉旋風だ。
だがその基本技にすら、反応出来ず首が消し飛んだ。さらに後からの風により残った身体も刻まれる。
そのまま今度は下段を蹴る。
その蹴りによって竜巻が発生する。
竜巻は、土と泥と忍具を巻き上げそれらを回しながらヒノデを中心に広がる。
竜巻は周囲の人間を呑みこみ、切り刻む。
ほんの僅かな時間で後方と前方に居た忍びたちは全滅した。
恐れをなし恐慌状態となった者達が我先にと逃げ出そうとするが既に八卦の範囲内だ。
柔拳法の奥儀。体中からチャクラを放出する、本来ならば防御に使う回天。
八卦の構えを取る。
八門の陣を敷いている今ならばその範囲は広大の一言に尽きる。
白眼で見える範囲ならば覆えそうなほどだ。
「回天」
暴風と呼べるチャクラの放出とその回転。
竜巻を利用してその範囲を広げ、加速させる。
白眼だからこそできる、繊細なチャクラコントロールで放出しすぎないように調整する。
丁度敵を包み込む程の半径の球だ。だが油断は出来ない、一瞬でも気を抜けば球が広がり辺りが吹き飛ぶ。
荒れ狂うチャクラの豪風雨。後に四代目が生み出す螺旋丸の中とはこのような感じだろう。
巻き込まれた忍も土も地面も忍具すらもがチャクラに刻まれ瞬く間に視認できなくなる。
だが血だけは残り赤いドームが完成する。
回転が収まり半円状に地面がくり貫かれたようなクレーターが姿を現す。
クレーターの周りは紅く染まりきっているのに対し内側は綺麗な土の色が見える。
その中心には紅い鬼神が立っていた。
紅い白眼で周囲の敵が全滅したことを確認すると何をトチ狂ったのか自身の身体を突き始めた。
その箇所は計八箇所。
八門遁甲の門すべてである。
すべての生命力、チャクラを放出するまで終わらない八門遁甲を白眼と鍛え上げた柔拳で塞いでいく。
無理矢理門を閉じ、チャクラの流れを止める事で八門遁甲の陣を使い、尚生きる。
これが白眼で最強を目指した男の辿り着いた、写輪眼では不可能であり、火影すら超越する。
答えである。天賦の才と呼べる柔拳、剛拳。そのどちらをも持ち、さらに日向である者だけが届きうる高み。
彼はこの技を子に、孫に伝える気は無い。危険すぎるから。
柔拳で剛拳を、門を閉じれなければ死す。針の穴を通すようなチャクラコントロールが無くても死ぬ。
少なくとも自身と同等の天才のみが使える奥儀。それほど才に溢れるならば、必要ならば、必ずたどり着くであろう。
故に伝えない。不伝の奥儀。伝えるのはいくつかの手がかり。
白眼をそれほど生かせるとは言えない、柔拳。日向は最強である、との言葉。そして、防御の奥儀回天。
すこしすると盛り上がった筋肉は普段通りに戻り、身体から噴出していた血は止まり、髪も重力に従い落ちてくる。
クレーターから脱出し少々息を切らせながら言う。
「はぁ、ふぅ……日向は木の葉にて最強。高い授業用だったけど覚えるといい」
クレーターの周りの赤い液体を踏み散らしながらそう言い放つ。
先ほどまでの怪物と同じ人物とは思えぬほど穏やかな顔で、身体を赤に染め歩き出す。
木の葉の仲間が待つだろう場所へ。
柔よく剛を制す 剛よく柔を断つ
ならば両方あれば最強は必然?