今日もまた、新たに文字が刻まれる。
戦が始まる前、まだ凹凸の無かった場所は全て埋まっている。
辺りにはこれと同じモノがいくつか並べられている。
この中に己より若い者はどれほどいるだろう。そう考えるだけで胸が痛くなる。
家族は、恋人は、友人は、一体どれほどの数が苦しんでいるのだろう。
ここに名の無い者も多いはずだ。
例えばそれは、暗部。
例えばそれは、連れて行かれたもの。
例えばそれは、体も残らなかったもの。
名を残してはならない影。特殊な血を持つ一族。大規模な術をくらった者。
語られる英雄だけではない。語られぬ英雄もいる。
其処まで含めればどれほどの数になる。
戦いを優位に進めている木の葉でこれならば、他国は、劣勢を強いられている国はどれほどになる。
ヒノデも多くを殺した。恋人の仇と、涙を流しながら襲ってくる女もいた。。
未来ある若者達も居た。奪った分だけ終わりが近づく。奪った分だけ木の葉が有利になる。
どれほど強くても、万能であっても、全てを救うことは不可能だ。
ならば、最も大切なものを守ろう。それは、同志であり仲間であり家族でもある。
平和を知らぬ子らがいる。ならば少しでも早く、平和を作ろう。
戦い傷付いた者がいる。ならば暮らしやすい世を作ろう。
戦い疲れた者がいる。ならば貴方の分も戦おう。
子を喪った親がいる。親を喪った子がいる。ならば養おう。育てよう。
悲しみも分け合えば耐えられる。苦しみも分担すれば耐えられる。
痛みも嘆きも後悔も。全ての苦難を共に乗り越えよう。
戦いの中でも新たな生命は産まれる。平和な世で暮らさせよう。
戦いの中でも恋は結ばれる。幸福な未来を手に掴もう。
戦いの中でも友情は育まれる。綺麗な酒を飲み交わそう。
叶えたい夢がある。成したい望みがある。ならば実現しよう。諦めず。
喜びも共に祝えば倍になる。楽しみも共有すればさらに楽しく。
安らぎも笑いも希望も。あらゆる快楽を分かち合おう。
己のために逝った三人。気付かせてくれた。弱さを、慢心を。
己を慕ってくれた、まだ幼さの残る、分家の青年。
子供が生まれたと、嬉しそうに語っていた、壮年の彼。
戦争で子を失って、それでも懸命に生きていた、初老の彼女。
彼らの名が刻まれた石碑の前で無言で佇む。何をするでもなく、ただじぃっと。
一日中そのまま石碑を見つめ続ける。だが不意に、背を向けその場を去る。
来た時の暗く、何かを責めるような表情は無く、決意や覚悟といったものが宿った表情だった。
ヒノデは動かない。傷が癒えるまではたとえ大名の命令だろうと動かない。
逆に脅してさえ見せる。貴様が死ねば戦は終わる、と。
当然そんなことするはずも無い、ヒノデを知るものならば失笑しただろう。
大名が死ねば火の国は負ける。そうなれば戦は終わるが木の葉がどうなるか。
そんな事にまで考えが及ばぬヒノデではない。
だが大名はヒノデを知らない。強く、優秀な駒であること以外は知らない。
その人格も、どれほど木の葉を愛しているかも、ずっと石碑の前に居たことも。
脅しに屈したのかどうかは定かではないが、ヒノデは休暇を得た。
代償に傷が癒えた後激戦区ばかりに送られることになるが、望むところであった。
様々なものを見た。
一日中墓の前で手を合わせて泣いている人。酒場で飲んだ暮れる人。
彼らは戦争で何を失い、何を得たのだろう。得る何かがあったのだろうか。
友も恋人も妻も夫も愛する人も子も、二度と戻らない。
ヒノデが得たのは断末魔の叫びと、汚れた手。彼らが得たのは悲しみと涙。得たものに価値はあるのか。
彼らが望んだものは? 分からない。分からないが、こんなものではないはずだ。
だから終わらせる。早く、少しでも早く。この悲劇をもう起こさせない。あの涙を見たくは無い。
無邪気に駆ける子供達。幼子を連れて歩く親子。楽しそうに笑う恋人、夫婦、友人。
彼らは戦争に何かを望んでいるのだろうか。この日常が続けばいいとは思っていないのだろうか。
長引けば長引くほど彼らから笑顔が失われ、涙になる。
ヒノデが失うものは、時間と心。彼らが失うものは、笑顔と親しい者。失うものの価値は如何ほどか。
少しでも多くの笑顔を守るために戦うのだ。
例え、敵に恨まれようと憎まれようと、構いはしない。家族の泣き顔を見たくは無い。
里の様子を見て歩く。途中、多くの人に話しかけられる。
かつて共に戦った忍びが、義足をつけていた。引退したらしい。
子供が戦場の様子を聞いてきた。知らない方が良いこともあるとはぐらかした。
二人並んで歩く恋人、夫婦。酒屋で騒ぐ男達。仲良く語らう家族達。
彼らの笑顔に力を貰った。
光があれば影があるように、笑顔の裏には涙がある。
墓に毎日向かうのは子供から老人まで全て。友の墓に行くという忍びも居た。一緒に参った。
周りが遊ぶ中で、一人物憂げな少年。二人でしばらく話し、胸を貸した。
酒屋の隅で、騒ぐ男達を見ながら寂しそうに笑う人達。一緒に飲み交わし、一緒に泣いた。
彼らの思いを受け止めた。
多くを見、多くを思う。
ヒノデは日向の家族に、想いを語った。
反対はされた。だがヒノデは曲がらない。既に覚悟は出来ている、大名との約束さえしている。
最後には認められた、必ず生きて、五体満足で帰る事、終戦後、忍びをやめ共に過ごす事を条件に。
ヒノデは再び戦場へ向かう。だが、かつての驕り、慢心していたヒノデではない。
命ぜられるまま何の感動もなく戦っていたヒノデではない。
目標を見定め、覚悟を決めて、戦う意味を見出した。
する事が変わるわけでもない。だが、ヒノデは確かに変わった。
殺す。若さも老いも関係なく殺す。その未来も可能性も何もかも摘み取る。
木の葉のために? 違う、己のために。己が決め己が手を下すのだから。
命令だからではない、任務だからではない。己が、殺すのだ。紛れも無く己の意思で。
この罪は分かたない。己だけのものだ。己の悲しみも喜びも分け合おう。
だが、この罪だけは誰にも譲れない。
父に、母に、親族に友人に恋人に。恨まれても憎まれても受け止める。
受け止めて、それでも殺す。それを越えていく。自らの罪と向き合い、背負う覚悟を決めた。
残された者と話して、その悲しみを知った。その嘆きを、怒りを、絶望を見た。
復讐と言う想い、これ以上の犠牲はいらないという想い。
大切な者を奪った戦争への憎悪、敵への憎悪、守ってくれなかった木の葉への愛憎。
彼らを残して逝った彼らが、死んだ彼らが無駄ではなかったと、証明するために。
勝たなければならない。平和を掴まねばならない。なにより、幸せに暮らさねばならない。
そんな彼らの、どうしようもない想いを受け止めた。共感した。木の葉の家族と同じ想いを背負う。
覚悟と想いを携えて、日向ヒノデは戦場へ行く。
ポエム回。どうしてこうなった。
決意を固めるお話。ありふれてるかな。