Re;黒子のバスケ~帝光編~   作:蛇遣い座

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第51Q この超反応……

 

 

 

第2Qの編成は、inボク・灰崎君、out黄瀬君・緑間君。

 

「何だ?ずいぶんと地味な選手が出てきたな?」

 

「お前、知らないのか?帝光中の秘密兵器を」

 

「あれが?全然強そうに見えないけど」

 

コートに足を踏み入れると、会場内の観客からチラホラと視線が向けられる。注目されたくなかったのだが、まあ及第点だろう。

 

今年の全中には、決勝戦の数分間しか出場していない。よって、ボクの知名度は「知る人ぞ知る」程度に抑えられている。『Jabberwock』の面々には、アメリカの3on3の大会でワンプレイ見せたことがあったか。ただ、伝え聞く彼らの性格から、対策を積んでいるとは思えない。火神君から教えることもないだろう。ゆえに奇襲は通じるはずだ。

 

「灰崎君、スタートから一気に仕掛けますよ」

 

「おうよ。思い知らせてやんぜ」

 

様子見の序盤戦は終わった。この第2Qは、お互いの矛を叩きつけ合う正面衝突となるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

会場全体が震撼する。中継先である日米の画面越しでも、同様かもしれない。

 

「ボールが曲がった!?」

 

「うおっ!何だこりゃ、いつの間にかパスが通ってる!」

 

久々に表舞台で披露する奇想天外な影のスタイル。バスケの本場アメリカにおいてさえ、歴史上類を見ない希少性。独自の進化を遂げたボクのプレイに、誰もが驚愕を隠せない。

 

赤司君があらぬ方向に投げたボール。それが急激に方向を変え、一気にコート最深部へ。

 

「なっ……どうなってやがる」

 

「黒ちーん、ナイスパス」

 

瞬時に紫原君が回り込み、空中に浮いたボールを右手でキャッチ。いかなシルバーでも、虚を突かれ反応が遅れてしまう。フリーで跳躍し、そのままアリウープでリングに叩きつけた。満員の観客から歓声が上がる。

 

理想を言えばここで突き放したい。流れを一変させるのがボクのシックスマンとしての役割なのだから。しかし、残念ながらそう上手くは行かなそうだ。世界最強プレイヤー、火神大我がその卓越した能力を発揮する。

 

ナッシュからパスが届き、即座に火神君が勝負を仕掛ける。マッチアップは『キセキの世代』最速の青峰大輝。一瞬の視線の交錯、そこから目線を右にずらす。

 

「チッ……!」

 

直後、見事なドライブで抜き去り、インサイドへ切り込んだ。そのままボールを片手で持ち、右足で踏み込み跳躍。無人のリングへ向かった。しかし、帝光中学のゴール下には堅固な城塞が築かれている。圧倒的な身体能力を誇る紫原君のヘルプが間に合う。高さで張り合えるのは彼だけだ。同じく跳躍し、空中戦を挑む。

 

「させない……ん、パス?」

 

宙に舞う火神君は、高く上に伸ばした手をわずかに引き戻す。紫原君の脳裏に迷いがよぎる。そこから再びダンクの態勢に移行したのを見て、ブロックのために反射的に手を伸ばすが……

 

「ダブルクラッチ!?間に合わないっ」

 

今度は腕を大きく横に伸ばし、火神君がボールを放り投げる。度重なるフェイクに惑わされ、フリーで放たれたそれは正確にリングを通過する。

 

 

 

巧い。力や速さといった身体能力だけではない。かつての歴史では、むしろ弱点であった技術が格段に進化している。鮮やかな手並みだ。やはり手強い。

 

「またボールが急に!?」

 

帝光の攻撃。赤司君から走る青峰君へのパス、を方向転換。タイミングを合わせて途中出場の灰崎君に回す。フリーの状態でボールを手にして、そのままドリブルで敵陣へのペネトレイト。回り込んだのは氷室さん。それを確認して灰崎君はミドルレンジで急停止する。ストップからのジャンプシュート。

 

「させるかっ……いや、この動きは!?」

 

「もらったぜ。この技は、もうオレのもんだ」

 

 

――『陽炎の(ミラージュ)シュート』

 

 

陽炎を掴んだかのように、氷室さんの手が空を切る。絶対の精度を誇る奥義を、灰崎君も使いこなす。これが彼の固有技能『強奪』――

 

黄瀬君の『模倣(コピー)』とは違う。相手の技を我がモノとする点は同じでも、彼の『強奪』は極めて凶悪な効果を有している。我流にアレンジした技を目にすることで、微妙に異なるタイミングやテンポが脳裏に焼き付いてしまうのだ。要するに、少なくともこの試合は――

 

 

――氷室さんはこの技を使えない。

 

 

「おし、やったぜ」

 

「上々です、灰崎君。この面子が相手ですからね。潰せるところから潰しておきましょう」

 

「相変わらず怖いヤツだぜ」

 

灰崎君とハイタッチをかわす。打ち合わせ通り。同じ技を使う黄瀬君には、今のプレイを見ないように伝えていたので、封印されたのは氷室さんだけ。対『陽炎の(ミラージュ)シュート』シフトは負担が重い。常にカバーに神経を使う必要があるので、いつまでも敷ける布陣ではないのだ。

 

「これで火神君に集中できますね」

 

何しろ、『キセキの世代』をも大幅に上回る個人戦力である。1on1で止めることは至難。こちらが得点を決めるも、即座に単独速攻で決め返された。やはり、ここからは互いの破壊力が勝負を分ける。

 

「コッチだ!」

 

コート奥に向けて放たれたパスを逆方向にタップ。意表を突いた連携に、相手の反応が遅れる。その隙を逃さず、フリーで受けた灰崎君がミドルシュートを決めた。

 

「展開が目まぐるしすぎる!」

 

「また火神が突っ込んだぞ!」

 

小刻みに緩急をつけつつも、トップスピードに乗って火神君が駆ける。待ち受ける青峰君の目の前で、勢いよく右足で踏み切った。それも前方ではなく上方へ。ボールを掴んだ左手を高く掲げ、長い長い滞空時間のジャンプ。全力で青峰君がブロックに跳ぶも、まるで届かない。これが火神君の奥義、高高度からの投げ込み式ダンク――

 

「……やはり、跳躍力は群を抜いてますね」

 

 

――『流星のダンク(メテオジャム)』

 

 

雷霆のごとく、天から降り注ぐ豪快な一撃。

 

 

 

 

 

 

 

現在のメンバー編成は攻撃特化型。神出鬼没による奇襲でスティールを狙えるとはいえ、ボクのマッチアップに穴が空く分、守備力は確実に落ちる。しかし、火神君の圧倒的な得点力に対抗するには、こちらも得点力を上げるしかない。この先のポイントは、どちらが先に相手の矛を阻むのか。

 

開始数分が経過し、得点は互角。ここまでは二人の独擅場。『幻の六人目』としての、特性を最大限に活かした変幻自在のパス回し。火神君の個人技による爆発力。それらが噛み合った結果、ただの一本も落とさない連続得点に繋がっていた。

 

「……このままだと不味いですね」

 

静かに戦況の不利を認める。帝光中の攻撃の要は、ボクの変幻自在なパス回し。ただ、肝心のパスルートが大幅に制限されてしまっているのだ。まず、かつての相棒である火神君。ボクのパスに慣れていること、そして単純に守備力の高さから、青峰君に回しづらい。もうひとつ、『悪魔の眼(ベリアルアイ)』を有するナッシュ・ゴールドJrの存在。広大な視野範囲により、奇襲が通じにくい。掻い潜る術はあるが、切り札はまだ隠しておきたい。

 

「シルバー!右だ!」

 

軌道変更したパスがコート最深部へ突き刺さる。その先には寸前にターンした紫原君が待ち構えていた。だが、ナッシュの声に反応した巨躯の怪物、シルバーが右手を伸ばす。

 

「チッ……外しちまったか」

 

「あっぶな~」

 

右手はわずかに届かず。何とかキャッチして、紫原君は急いでゴール下のシュートを放つ。思わずボクも安堵の溜息を吐いた。

 

コートを俯瞰可能なナッシュが声出しで対応し始めた。やはり、限られたルートでパス一辺倒は厳しい。止められるのは時間の問題か。何か突破口を探さなければ。例えば、スクリーンを使ってマッチアップを変えてみるとか。

 

「ちょっといいですか……青峰君?」

 

近くまで寄って声を掛けるが、反応がない。薄く笑みを浮かべたまま、自陣にゆっくり戻っていく。集中力の高まったときの彼だ。方針を変更。目先の変化はやめた。帝光中学のエースに一度預けよう。

 

 

 

 

 

傍目からでも青峰君の集中の度合いが深まっているのが分かる。腰を落とし、正面でボールをつく火神君に目線を合わせた。一挙手一投足を逃さぬよう、神経を尖らせる。

 

「行くぜ」

 

ドリブルを開始した。小刻みなテンポで左右に大きくボールを振り回す。ストバス特有のトリッキーな動き。喰らいつく青峰君。高速で跳ね回るボールの軌道を追いながら、対応するように素早くステップを踏む。息詰まる攻防。勝利したのは――

 

「火神が抜いたっ!」

 

「巧い!青峰の裏をついたぞ」

 

最後のワンフェイクが勝敗を左右した。迫真かつ精巧な一手が、青峰君の体勢を崩した。火神君の連続得点がさらに伸びる。

 

まだ彼らの間の差は大きい。そう結論付けようとして、ハッと気付く。いや、と横に首を振った。

 

第2Qが始まってから、火神君の攻め方が変わってきている。技巧や駆け引きに比重を置いているように見える。これはもしや、総合力ではなく少なくとも各々の得意分野においては――

 

 

――ボクの思っていた程、『キセキの世代』との間に差はないのではないか?

 

 

黄瀬君や灰崎君が、強敵であるはずの氷室さんを超えたように。確かに半年前、ボクは火神君の戦力を『キセキの世代』二人分と評した。その見立ては間違っていないと思う。しかし、そこからの成長率はこちらが優っているのでは?

 

 

 

何とか得点を取り返し、相手の攻撃ターン。連続得点を続ける火神君にパスが回る。両手でボールを保持し、上下左右に位置を変えることで様子を見る。青峰君もそれに合わせて、わずかに体勢を変えて対応する。合間に小さく挿入されるフェイク。釣られない。青峰君の集中力がさらに高まるのを肌で感じる。息詰まる会場の雰囲気。

 

「行った!ドライブで突っ込んだ!」

 

「抜い……てない!?ついていってる!」

 

緩急をつけ、チェンジオブペースから左へのドライブ。瞬時の方向転換で青峰君をかわす。

 

「さらにストップからのクロスオーバー!完全に抜いた!」

 

いや、青峰君の反応が早い。

 

上体をひねり、体勢を反転。火神君の背後から手を伸ばし、ボールを弾き飛ばす。人間離れした敏捷性(アジリティ)が可能にしたバックチップ。珍しく火神君が驚愕の声を漏らす。

 

「この超反応……『野性』かっ!?」

 

肌を刺す鋭い殺気。『野性』を解放した青峰君が反撃の狼煙を上げる。

 

 

 

膨大な試合経験を基にした予測精度の向上。さらに無意識化で情報処理することにより、相手の状況を瞬時に判断する能力。それらが『野性』の超反応を生む。

 

ハイスピードの攻防が繰り広げられるバスケットボールにおいて、これは格別の恩恵を授けてくれる。加えて青峰君の敏捷性(アジリティ)。こと平面の対決において、考えうる限り至上の組み合わせ。

 

「一本、落ち着いて決めよう」

 

赤司君がボールを保持しつつ、周りに声を掛ける。ようやく得られた好機。火神君から奪った攻撃権で得点できれば、流れを引き寄せられる。慎重を期したいところだが、ボクを使った連携も対応され始めている。皆も優位な状況を作ろうと動き回っているが……。

 

ここは彼に賭けてみよう。赤司君に合図を送る。

 

「青峰に回った。だけど……」

 

強烈なプレッシャー。前後左右に振り回すトリッキーなドリブルも、火神君の牙城を崩すには至らない。一流選手でも容易に翻弄できる揺さぶりも、彼には通じない。青峰君の顔に焦りが浮かぶ。やはり駆け引きまで含めた総合力の差は大きい。

 

「さっきみたいにはやらせねーよ」

 

「青峰君、こちらへ」

 

合図を出し、火神君の視線から外れながら駆け寄る。意図に気付いた青峰君が好戦的な笑みを浮かべた。後方へとステップ、同時にあらぬ方向へとボールを緩く投げる。

 

「どこに投げて……いや、黒子か!?」

 

さすが、勘付くのが早い。ハッと表情を変える火神君。ただ、今回は通常のパス回しではない。目的は青峰君へのワンツーでの返球だ。互いに徒手空拳。ハンデ無しのスピード勝負。

 

よーい、どん!

 

「アアアアアアアッ!」

 

「チッ、そういうことかよ」

 

コート深部に向けたボールに向け、両者が全力で疾走する。抜群の瞬発力を有する二人は数歩で最高速に到達。だが、元から連携としてスタートのタイミングを合わせた青峰君が半歩早い。指先でボールに触れ、そのままドリブルで突っ込む。

 

「させっか!」

 

いや、ドリブルで余分な動作が生じる分、火神君が寸前で間に合うか。しかし、この展開こそがボクの狙い。青峰君の才能が最も発揮されるのが、最高速で走り合うこの状況なのだ。

 

 

――青峰君の身体が急停止する。

 

 

「ぐうっ……しまった」

 

慌てて急制動を掛けて減速。さすが、喰らいついてくる。しかし、ここからが青峰君の本領発揮。

 

 

――直後、いきなり最高速

 

 

青峰君の才能『敏捷性(アジリティ)』、それを最大限に活用した最高速→0→最高速のチェンジオブペースは、相手を完全に置き去りにした。まっすぐにゴールまで疾走、さらに直接ダンクを狙おうと踏み切る左足に力を込める。

 

「おいおい、何抜かれてんだよ」

 

カバーに現れる巨躯の怪物ジェイソン・シルバー。ダンクに移行する青峰君に対して、ブロックのため跳び上がる。だが、『野性』の予測による超反応は寸前でジャンプの方向を変える。すなわち上方ではなく、真横へ。

 

同時にボールを掴んだ右腕で大きく振りかぶる。バスケの常識では考えられない動作。まるでドッジボール。障害の無い空中でボールを勢いよくぶん投げる。

 

「うおおおっ!何でアレが入る!?」

 

「横っ飛びして、空中で決めたぁ!」

 

ガツンとリングにぶつかりながら、リングを通過する。曲芸のごとき、天衣無縫のシュートフォーム。彼にとっては型など不要。

 

 

――『型のない(フォームレス)シュート』

 

 

シュート精度は絶対。これが帝光中学のエース、青峰大輝の全力。

 

 

 

 

 

 

 

リスタート後、ナッシュがボールを運び、氷室さん、火神君へとボールを繋ごうとして――

 

「凄え反応っ!青峰がスティールした!」

 

『野性』の超反応で飛び出し、パスカット。氷室さんをかわし、強烈なダンクが炸裂する。青峰君の連続得点に会場が沸き上がる。流れはこちらに引き寄せた。

 

 

 

 

 

しかし、彼はこのまま黙っている男ではない。何せ相手は世界最強。

 

「やるじゃねーか。オレもギアを上げるぜ」

 

ゆったりとボールを弾ませながら、一言つぶやく。火神君の雰囲気が変貌していく。獰猛な猛獣のごとき、危険なオーラ。肌を刺す鋭利な威圧感。ついに解放した『野性』――

 

「あの青峰があっさり抜かれたぁっ!?」

 

青峰君が慌てて振り向いた。抜かれてから気付く。相手の守備動作や意識を先読みすることで、可能となる超反応。青峰君をも上回る圧倒的な『野性』。コンマレベルの攻防である。体感速度はまるで別物だろう。

 

 

――天から放たれる雷霆『流星のダンク(メテオジャム)』

 

 

長い長い滞空時間。翼を広げた猛禽類、いや獰猛な翼竜を直感させる『野性』の猛威。天空から降り立ったその姿は、まさに世界最強に相応しい風格を備えていた。

 

 

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