殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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010話 最終試験終了

「最終試験のトーナメントはこれ。

 そして合格条件は――たったの1勝で合格である」

 原作と同じ、ネテロ会長が組んだ負け上がりトーナメント。それが最終試験と説明される。

 運命を決めるトーナメントには、大きく分けて3つの島があった。

 Aの島は原作ルート。ゴン対ハンゾー、その敗者とポックルが対戦。その戦いを経てキルアが控えていた。

 Bの島は俺が表示されていた。俺ことバハト対ポンズ、負け上がりでギタラクルと対戦。それが過ぎればAの島の敗者と戦う組み合わせ。

 Cの島はヒソカ対クラピカとイモリ対ゲレタとが並び、その敗者同士の激突。更に敗者がレオリオと当たり、負け上がればA・Bの準決勝に負けた者と戦う決勝戦。

 レオリオが最も評価が低く、続いてゾルディック兄弟の評価が悪い。そして一番評価が悪そうなヒソカは意外にも同列に並ぶ者が多くて、試合回数を見れば4戦であり俺と評価が同じだ。ポンズはタイマン向きの相手でないといえば慰めになるかも知れないが、そもそも俺やヒソカレベルの念能力者を相手にして、非念能力者の近接戦闘が得意か否かというのは論点がズレていると言わざるを得ない。むしろ毒を使うポンズの方が一発逆転がありうる。

 さて。トーナメントが公平でない理由、その評価方法。などなどをネテロ会長が説明し、反発を軽くかわす主催者。これにはもうこれは何を言っても無駄だなと全員が理解する。っていうかレオリオが妙に納得顔なのが不思議だ。思考がネテロ会長に似ているのではなかろうな、ある意味で危険だぞそれ。

 とにかく最終試験が開始される。初戦はゴン対ハンゾー、だが。これは今更言う必要はないだろう。ぶっちゃけ、数時間に及ぶ尋問を見るのが暇だったくらいだ。

 尋問なんて、見慣れている。この程度は拷問ですらないが、顔を青くしている連中は気が付いているのだろうか。顔色を変えていないのはネテロ会長にゾルディック兄弟にヒソカと俺くらい。

『マスターは最初に()()を見た時、吐きましたからな』

『うるさい黙れ、呪腕のハサン(アサシン)。もう慣れたんだから昔のことは蒸し返すな』

 とにもかくにもゴンが空気をぶん投げて、右腕を骨折しつつもハンゾーの投了で試合終了。続いての試合は俺対ポンズ。

「では、構えて――」

「……」

「……」

 ポンズは俺が近接戦闘に優れていることを知っている。その上で、俺はポンズが罠や毒を多用して物理攻撃に優れないことを知っている。彼女が勝つには毒しかない、最終試験まで来てお互いに容赦はない。

「――始め」

 瞬間、俺はポンズの目の前まで移動。目を見開くポンズは咄嗟に用意していた言葉を出す為に口を開く。

「まいっ――」

 それを俺はポンズの口に手を押し付ける事で封じた。ギリギリだが『まいった』とは言わせていない。

 そのまま反対の手で細めのロープを取り出し、口に噛ませて上半身を関節が動かないように縛り上げていく。仕上げに足払いをして地面に転がせば身動きの取れない芋虫の完成だ。

「むー、むー!」

「お、おい! なにやってんだバハト! ポンズはもう降参しかけてただろ!」

 外野からレオリオの声が飛ぶが、俺は素知らぬ顔でレオリオを無視して審判の黒服に声をかける。

「敗北条件はまいったというか、相手を殺すことだけ。試合は続行だろ?」

「…………」

「うむ。敗北の言葉を言いきらなかった以上、ポンズ選手の試合続行権利は保持されておる」

 明らかに勝負の趨勢は決まったにも関わらず、敗北を認めていたにも関わらず。ポンズは試合を続けなければならない。思わず沈黙してしまった審判の代わりに、しれっとした顔で言うネテロのお墨がついた。

 俺はできるだけ粗野で下品で邪悪な顔を作りつつ、次の言葉を言う。

「つまり――ポンズが負けを認めるまで何をしようとも、ハンター協会公認だな?」

「認めはせん、行いの全ては本人の咎。まあハンター試験の際にどのような境遇に陥ろうと自己責任になるという証書にサインは貰っているがの」

「十分」

 何をされるのか理解したか、ポンズは顔を青くして身をよじらせる。だが、それが何になるのか。助けを求めるように周囲を見渡すが、味方はいない。

 同情もする、哀れにも思う。もしくは関係がないと無表情か。これからの行いを想像して俺に嫌悪の視線を向ける者もいた。だがそれだけ、誰もポンズを助けない。

 ポンズはクラピカを見る。信じられないと呆けた表情でこの場を眺めていた。

 ポンズはレオリオを見る。ギリギリギリと歯を噛みしめて、こちらを睨みつけている。

 ポンズはキルアを見る。欠伸をかみ殺して涙があふれた目で、下らない三文芝居を眺める顔をしていた。

 ポンズは俺を見る。ようやく本性をさらけ出せた、そういったニュアンスを込めた邪悪な表情をそこに見るだろう。

「むー! むー!! むっー!!」

 ポンズの上半身はロープで縛られ、下半身を守るのは衣服のみ。そして、相手は男。

 この後に何が起きるかは子供にも分かる――否。子供には分るまい。

「ふっっっざけんなぁぁぁぁぁ!!」

「まいった!」

 ブチ切れたレオリオが誰に制止されるでもなく飛び出し、俺に拳を見舞った。

 それが届く直前。俺は敗北宣言をしてその掌で拳を受け、その場から飛びのく。

 状況の推移に審判は一瞬反応できず、一瞬の間を開けて勝敗宣言を行う。

「勝負あり、勝者ポンズ!」

 だが、その哀れな少女を勝者だと誰が思うだろうか。ポンズは涙を流しながら震え、その縄をレオリオに解かれている。レオリオも俺を殴るよりかはポンズを優先するべきと判断したのか、俺には目もくれない。

 そんなポンズに俺はできるだけ冷たい目をしながら話しかける。

「理解したか、ポンズ。ハンターという、法を超えて活動する者たちが為すことを。

 場合によっては今みたいに、法を盾にとって誰にはばかることなく外道を行う」

「黙れテメェ、どの口がほざいてやがる!! ぶっ殺すぞ!!」

 レオリオが怒声を上げるが、無視。

「体力がない、筋力がない、武術に優れない。そんな言い訳は一切通用しない。お前が合格したハンターとはそういった存在だ。

 十ヶ条にもあるだろう。最低限の武の心得が必要である、と。お前は明らかに弱すぎる」

 ようやく戒めを解かれたポンズは自分の体を抱きしめてガタガタと震えていた。レオリオはそんなポンズにスーツの上着をかけ、俺を強い目で睨みつけていた。

 平然と無視してポンズに言葉を続ける。

「試験が終わったら俺と共に来い、ポンズ。プロに通じるように鍛え直してやるよ」

「うっせぇぇぇぇ! 誰がお前にポンズを任せるかよっ!!」

「レオリオ!」

 そこでようやくクラピカが動き出し、レオリオを抑えにかかる。

 かたかたと震えるポンズといえば、この中で唯一女性である試験官のメンチが手を握り、会場の外へ連れ出した。おそらくは適当なホテルの一室でもあてがうのだろう。

 さて。試合は終わったが、一応確認しておく。

「レオリオの攻撃前に俺は敗北宣言をした。勝利者はポンズで、レオリオにも罰則はないよな?」

「褒められたことではないがのぅ。オヌシが不服を言うなら合格が決まったポンズはともかく、試験に横槍を入れたレオリオには罰則を科してもいいぞい」

「ねーよ、不服なんて」

「っざけんな、罰則上等だコラァァァ!! 今すぐ俺とバハトで決勝戦をさせろ!! 負けた方がハンター試験敗退だ!!」

「と、レオリオが言うが、オヌシは? 決勝戦まで全て棄権するならば認めるが?」

「ギタラクルに勝てるかも知れないからヤダ」

「だ、そうじゃ。却下」

 どうどうどうと落ち着かせるのはクラピカに任せて、俺はもう1人の仲間であるキルアの元に行く。

「ナニ、今の三文以下芝居」

「布石さ。ポンズは色々な意味で甘すぎる。下手に目を離した方が危険な気がしてならない」

 実際、このまま自由にさせると、いつの間にかNGLに行って雑魚蟻に射殺されていましたという事態になりかねない。

 ポンズよりも近接能力に優れているポックルでさえ、あの目にあったのだ。インセクトハンターになったとしたら、十分にあり得る未来である。

 その為に戦いたくない相手をポンズにあげ、悪役を気取ってさえあの行動にでた。荒療法だが、ほっとけばNGLに行ってしまうことを可能性がある以上、キルアから見た三文以下芝居でもしないよりかマシだろう。

 キルアは心底興味無さそうに口を開いた。

「意味わかんねぇ。バハトがあの――姉ちゃんにそこまで肩入れする意味がさ」

「ポンズだ。名前出なかっただろ、今」

「ポンズね、覚えた。で、なんで?」

「……今のお前に言ってもわかんねぇよ」

 俺の言葉にギロッとこちらを睨みつけてくるキルア。

 それを涼しく受け流す。

 だって、俺がポンズにここまで肩入れする理由なんて。そんなの、俺にだってよくわかっていないのだから。

 それでも、だけれども、嫌われてもいいから懸けたいと。そういった想いは、きっと今のキルアには伝わらない。その確信だけは残っていた。

「ヒソカ対クラピカ、始め!」

 続いて行われた試合、その合間を縫ってレオリオは俺の近くまで来る。

 力強い視線で、敵のように俺を睨んだまま。

「俺は謝らねぇ」

「…………」

「だけど、お前はポンズに謝れ。あれは仲間にしていい態度じゃねぇ。たとえ裏にどんな想いがあったしてもだ!」

「――どう謝ればいいんだろうな」

「ハァ!?」

 俺の、心底困ったという口調の返事に対して、レオリオが毒気を抜かれた意外そうな声を出す。

「いや、まあ。酷い事をしたとは思ってる。ポンズの為なんて、言い訳だ。

 でもさ、なんていうか、俺って本気で人に許して貰おうって思ったことがないんだよ。

 やること為すこと善行だった訳じゃない。むしろ悪行だって自覚したことさえ散々やってきたさ。情報ハンターとはいえ、人も殺した。

 だけど、それは成果で以って黙らせてきた。文句を言えない見返りを用意したり、さっき言った通り殺したり。

 ……だから、さ。ただ許して貰う事を、したことがない」

「……、分かった。まずは土下座だ」

 言うレオリオ。ちなみに聞いているのは俺とキルアのみである。

「土下座して、蹴られても踏まれても文句は言うな。それで、ただひたすら謝り続けろ。ポンズが許すまでな。

 そして二度とこんな真似はしないって約束しろ。ポンズがそれを呑んでくれればOKだ」

「…………」

「許されると思っちゃいけねぇと俺は思う。

 だから、許されるまで謝り続けろ。二度としないと誓え。俺から言えるのはそれくらいだ」

「そっか。ありがとう、レオリオ」

 ああ、そうか。家族(ユア)に謝るのと同じでいい。

 そう心に決めた俺は、試験会場を後にした。

「勝負あり、勝者クラピカ!」

 そんな言葉を背に受けて。

 

「すいませんでしたっ!」

 ポンズが安静にしている部屋に入った瞬間、俺はスライディング土下座を敢行した。

 扉が開くと同時に土下座しながら飛び込んでくる男を見て、唖然という感情が空気越しに伝わってくる。

「とりあえず、頭をあげなさい」

「ポンズからの言葉じゃないとあげられません」

 同席していたメンチが言うが、俺は拒否する。

 はぁとため息が聞こえた後、空気が動く。おそらく、メンチがポンズに目配せをしているのだろう。その直後、声が聞こえる。

「バハト、頭を上げて」

「許してくれないと頭をあげられません!」

「……」

「……」

「蹴っても踏んでもいいです、とにかく申し訳ないっ!」

「……アンタ、それ相手を脅迫してるからね?」

「あ、バレた?」

 そういって軽い調子で声を出し、顔を上げる。

 視界にはベッドから体を起こした困惑した顔のポンズと、隣の椅子に座っている呆れた顔のメンチが映った。

 直後、再び床が視界に映る。俺が再び深く頭を下げたのだ。

「冗談はともかく、仲間にしていい態度ではなかった。レオリオにも怒られて、深く反省している。この通りだ」

「……もう一度お願いします。頭をあげて、バハトさん」

 呼び方がバハトからバハトさんに戻った。ずいぶんと敵意が薄くなった証拠だろう。

 ――これを仲間に打算的にやるから自分で自分がどこか信用できないのだが、その分をレオリオや他の仲間が自分を信頼してくれるからチャラになると思っておこう。

 おそらく、俺は仲間の中で最も悪い人間だ。それでもそれが必要悪ではあるとどこかで思っている。

 ポンズに言われた通り、俺は頭を再びあげる。その俺の目に映るポンズの顔は、どこか頼りなくて揺れていた。

「…………」

「…………」

「……私はハンターをなめていた」

「…………」

 この沈黙はメンチのもの。

「悪人に捕まり、慰み物になる。その恐怖を実感していなかった。これは明らかに私の不手際、誰かが助けてくれるでないプロハンターになるなら、避けては通れない道よね」

 それは同じく女性で、魅力的なメンチであるからこそ否定できない。好色な視線など幾度となく浴びてきた。下劣な感情も数多に受けてきた。それを撥ね退けるからこそのプロハンター、屈することがなかったからこそのシングル。その自負があるメンチは、シングルと女性との間に揺れていて文句がいえない。明日は我が身、メンチが先ほどのポンズのような目に遭う可能性は、否定しようもなく存在する。

 メンチの思惑を知ってか知らずか、ポンズは俺に対してガバリと頭を下げた。

「お願いします、バハトさん。私を鍛えてください!

 もう、負けないように。私が、プロハンターであることに胸を張れるようにっ!」

「――請け負った」

 ポンズの決意を聞いて、俺は静かにそう答える。

 これでポンズがNGLで無為に死ぬことがない、その安堵より何より。俺はポンズにその人生の重さを託されたことに、その事実に打ちのめされていた。

 ユアを育てる時に覚悟していたが――これほどか、これほどなのか。背負わなくてはならない命と、背負うと決めた人生の差異は。相手の人生の幸福を担う先達者の覚悟は――これほどなのか。

 ユアに対してはまだ甘かった、妹にはまだ身内の情があったのだろう。だが、身内でない誰か(ポンズ)を背負った途端、それは言い知れようもない重圧となって俺を襲う。

 ウイングがゴンやキルアに強い緊張を覚えていた理由を理解する。いや、理解できていない。自分の手に収まると思う相手を教え導くことさえこの重圧。手に余ると思う天才鬼才を指導することにどれほどの重圧がかかるのか。おそらく、才能の凡人ではない俺には決して理解できない重圧だろう。それはウイングがウイングだからこそ感じざるを得ない重圧なのだ。

「とにかく、ポンズの面倒はバハトが見るってことでいいのね?」

 メンチの言葉に我に返った。そうだ、予定通りとはいえ、これで俺がポンズの念の師匠になる。クラピカが半年で師匠から自立したことを思えば完全ではないが、これでおおよそポンズの行動を誘導できる。

 だからこそ、その言葉に力強く頷いた。

「ああ。ポンズは俺が鍛える」

「そ。会長にはそう伝えておくわ。

 ――ああ、最終試験だけど、ゲレタが勝ったみたい。イモリは相当粘ったみたいだけど、今屈したわ」

 それだけ聞いて、俺は最終試験会場に戻る。

 僅かな時間で試験は進行していたようで、ポックルの関節を極めて悪意ある眼をしたハンゾーがそこにいた。

「悪いがアンタには容赦しねーぜ」

「! まいった!!」

 ポックルの敗退宣言を受けて、次の試合に移る。

 危なかった、ギリギリだ。戻ってきた俺を見て、審判が躊躇なく宣言した。

「次! バハト対ギタラクル!!」

「お、おい。バハトはまだ――」

「問題ない、戻っている」

 俺のために抗議してくれるレオリオを押しのけて、俺は広場の中央に進み出る。向かいには準備していたのか、ギタラクルがカタカタと無機質な音を立てながら立っていた。

「始め!!」

 ――練。

 一切はばかる事のないオーラを、纏で留めることなく曝け出す。正真正銘、発を除いた俺の全力だ。念能力者でない者はその敵意に体を震わせ、サトツやブハラといったプロハンターも表情を変える。針で操作されているキルアに至っては、ガタガタと大きく体を震わせているほどだ。ネテロ会長だけは流石というか、ピクリとも表情が変わらない。同時に円を発動した俺にはそこまでの詳細な情報が手に入る。

「くっくっくっ♠」

 これに興奮する変態は無視。無反応なのは目の前の針男。ゾルディックの嫡男がこの程度に気圧されるとは思えないが、さて。

「まいった」

 しかしギタラクルの宣言は予想通り。イルミならば俺に勝てる勝算はつけられるだろう。

 だが、俺とキルアを戦わせる愚は犯せまい。ならば彼自身が負けあがるのが最適解であり、その降参には納得のいくものだった。

「しょ、勝負あり! 勝者、バハト!!」

 審判の宣言もどこか虚しい。彼も念能力者だろうが、俺に気圧される始末。場を支配するという役目には遠く及ばないものだった。

 ともあれ、これで俺はハンター試験に合格した。その事実は喜ぶべきことだろう。

「おめでとう」

「お前もな」

 クラピカとの会話。実際、俺は彼が試験合格する瞬間にその場に居合わせなかったので、まあこの程度の言い合いは許容範囲だろう。

 そして次の試験が始まった。

 

 

 最終試験結果。

 不合格者、キルア=ゾルディック。

 

 

 


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