殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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大変に間が空いてしまい、申し訳ありません。
ボチボチ再起動して、完結に向けて頑張っていきたいと思っています。

空白期間にも更新を待って下さった方も含めて。
お付き合い下さる読者の皆様に感謝を。

では、最新話をお楽しみください。


100話 毒は密やかに

 

 ユアの能力をレントが使い、ピトーを縛ることに成功したレントとバハト。

 ネフェルピトーから契約書を受け取ったレントは、ゴンに気が付かれないようにキルアの能力を発動。人に危害を加えられる程度の電気を極少量だけ掌から生み出し、契約書を焼く。

「先に宣言しておく。ネフェルピトー、お前は俺の許可なく宮殿に侵入した人間へ危害を加えることを禁ずる」

 バハトの命令に、コクリと頷くことで応えるピトー。絶対規律(ロウ・アンド・レイ)で縛れられた以上、ピトーがバハトの命令に抗う術はない。

「さて、と」

 ピトーへの首輪はこれで一段落である。トトは無力化してあるが、プフとユピーは未だ健在である。

 体面的に、これらへ対処するというのは不自然ではない。

「ゴン」

「どうするの、バハト?」

「俺とクルタはいったん潜む。護衛軍が隙を見せたら仕留めるかも知れないが、まああまり期待はするな」

「残りはシャウアプフと、モントゥトゥユピーだね」

「ああ。手出しが出来なくても、ネフェルピトーがそこの少女を治療し終わったタイミングで一度ここへ戻る。

 ゴンも油断はないようにな」

 首肯したゴンは黒い眼差しでバハトの事をみやる。

 それを確認したバハトは満足そうに笑い、そしてレントがバハトの肩に手を置く。

 レントは更にトトの腕を掴んでおり、これで能力の発動条件は整った。

 

 神の不在証明(パーフェクトプラン)

 

 レントが息を止めることによって能力が発動。レントとバハト、そしてトトは他者から認識されない存在と化す。

 それを確認した後に、今度はバハトが能力を発動。ノヴの能力である四次元マンション(ハイドアンドシーク)を発動し、宮殿から己の陣地である念空間へと移動した。

 

 ◇

 

「ふぅ」

 呼吸を入れて神の不在証明(パーフェクトプラン)を解除するレント。

 そんな自分の息子を見て、バハトは笑みを浮かべる。

「上手くいったな」

「ここまでは、ね」

 ユアの命を救い、危険な現場から離した上でトトを確保した。更にピトーに最高の縛りをかけることに成功した訳で、想定の中で最上の成果だと言っていい。

 もちろんその代償は皆無とはいかない。相応のオーラを消耗したのはもちろん、神経も削り続けた上での成果である。

 一段落がついた今、安全地帯であるこの場で肩の力を抜くのは当然といえるだろう。

「……ふぅ」

「……あひゃ」

 バハトは予め用意しておいたペットボトルを手に取り、左手のみで開けにくそうに蓋を回して中身を呷る。

 レントは疲れた顔で首を回し、凝った肩の筋肉をほぐしていく。

 ほんの僅かな戦士の休息。

「さて、と」

 張り詰めた緊張の糸をほんの少しだけ緩めて、余裕を取り戻した2人は話を進める。

 視線を送るのは心臓が破裂した護衛軍である、トト。

「俺が貰うぞ」

「分かっているよ。対価は忘れずによろしくな、あひゃ」

 にたりと笑うレントを見もせずに、バハトは意識のないトトの側に立つ。

 そして。

悪食暴食の咎(ビッグ・イーター)

 ぐしゃりと、鮮血が撒き散らされた。

 バハトの顔の下半分が巨大化し、開かれた大きな口でトトを喰らったのだ。

 非現実的な顔の形をしたまま、バハトはもごもごと口を動かしてトトを咀嚼する。

 

 悪食暴食の咎(ビッグ・イーター)はレントが未来線の世界で集めた念能力の一つだった。

 キメラアントによって世界中が荒らされた為、食料を始めとする物資が慢性的に、そして深刻なまでに不足していったその世界で。()()()()()でも食せるようにと、世界のどこかで誰かが願ったが故に生まれた念能力。

 言うまでもなく、これはメルエムの念と組み合わせることによって凶悪な効果を発揮する。何せ、喰った対象のオーラを全て吸収できるのだから。

 とはいえ、この能力はやたらめったら使えるというものではない。元来が餓えに対する能力であったせいか、喰ったモノを完全に消化してカロリーを消費するまで悪食暴食の咎(ビッグ・イーター)は再発動できないし、食欲もわかないので普通の食事すら摂ることが困難になる。現行の時間線では食の楽しみを奪うだけの能力に近い。

 しかしそれでも、護衛軍を捕らえれば話は別である。例えこれから何日も食事の楽しみを味わえなくとも、その程度の対価など比較にならないメリットがあるのは説明の必要がないだろう。

 気色悪そうに、マズそうに。喰われた相手が恨みそうな感情で食するバハトだが、それも間もなく終わる。

 ()()を終えたバハトは、深呼吸を一つして。

「――練」

 人間としてあり得ないレベルのオーラを放出した。

 ビリビリビリと、創られた念空間が揺らぐような威圧を出すバハトを。レントは冷や汗を掻きながらも、冷めた視線で見やる。

 圧倒的ではある。強化系のバハトに、トトのオーラが合わさったのだ。圧倒的であるのは当然だ。

 ただし――相手が護衛軍や王でなかったら、と続いてしまうが。

 肉体はあくまで人間(バハト)なのである。昆虫の頑強さと人間の柔軟性を併せ持つキメラアントには資質で劣る。更にトトが武器に使っていた腕の硬質な刃も存在しない。例えば今のバハトがトトと肉弾戦を行っても、バハトが勝つのは難しい。

 敵の能力を取り込んだところで敵を超えられるとは限らない。この結果を見れば、メルエムの能力はやはり彼専用のものだと理解できる。肉体の秀逸性とセンスのダントツ性を併せ持つメルエムだからこそ、どんな能力でも取り込んでしまえば使えこなせるのだ。

 だが、それでも。

「武器の一つは手に入れた」

 ぽつりとバハトが呟く。この力があれば何でも解決するような便利なものではもちろんない。

 その上で、持っていれば優位に働く便利な力であることは違いない。

 それに何より、これでトトが脱落したことが大きい。バハトとレントにとって最大の不確定要素であり、文句なしに護衛軍の一角。それが排除されたのだ。

 状況を楽観視する必要はないが、悲観的要素は大いに削れた。ならば喜ぶのもやぶさかではないだろう。

「あひゃ。予定に変更は?」

「ない。ピトーがコムギを治療しきるまで、静観するぞ」

 言いつつ、バハトは懐から小瓶を取り出す。

 中に入っているのはバハトの爪である。発動する能力は、己の肉体の一部を使うことによって分身を生み出す、NGLでバハトを救った能力。

斉天大聖(サルノギキョク) 分身の業(オノレワケミダマ)

 パラパラと床にバラまいたそれらが、膨らんでバハトの形を成す。彼らは静かに気配を消すと、マンションの出口から戦場となっている宮殿へと散っていく。

 ほんの数時間程度しか行動できないだろうが、今現在の斥候役としては十分だ。

 そして斥候役といえば、バハトが絶対の信頼を置く存在がいる。

「素に銀と鉄――」

 百貌のハサン。魔術に精通せねば感じ取ることもできない存在を、何十と召喚する為にバハトは詠唱を始めるのだった。

 

 ◇

 

「終わったな」

 ゴンが口を開き、ピトーが動揺する。

 バハトとレントが立ち去ってから、50分程度経過した頃。ピトーがコムギを治療したのを察したゴンの鋭さに、ピトーは恐怖すら覚えた。

 あまりに人間離れしたゴンの鋭さに、だ。

 故に、というべきか。反射的に近い感覚で、ゴンに抗おうとするピトー。

「まっ――」

「終わったな」

「終わったねぇ」

 だが、そのピトーの言葉を遮る2つの声。

 ピトーの背中からかけられた声に彼女が振り向けば、そこには揃って片目を眼帯で塞いだクルタ族が2人、いつの間にか佇んでいた。

「……」

(親子みたいだ)

 その光景を見てゴンが漠然と思う。確かに顔パーツやら何やらが似通っているとは感じたが、兄弟ではなく親子と感じたのが何故なのか。それはゴン自身にも分かっていない。

 そして口に出していない以上、それは単なるゴンの感想で終わる話でもある。そして今はゴンの感想以上に重要な場面でもある。

 よってゴンがその感想を口に出さずに呑み込んだことは至極自然な流れであった。

「…………」

 ゴンに抗おうとしたピトーだが、瞬時に選択したのは沈黙。

 臨界ギリギリにいるゴンも危険だが、この2人はトトを仕留めた実力者なのは疑う余地がない。コムギが危険に晒される以上暴れるつもりは毛頭なかったピトーだが、バハトとレントが出現したことによってその選択肢が完全に封殺された。場合によってはピトーを殺すついでにコムギも殺されかねない。

「さて。治療が終わったってことは、こちらからの攻撃は解禁されたってことだ」

「その上で命令権はこちらにあるってな。あひゃ」

 そしてその問題もある。コムギの治療をして無防備だったピトーの安全を保障する代わりに、バハトが指定する相手を治療するまで相手に絶対服従をする契約を交わしたのも事実。

「つまり、俺がピトーに治療の指定をしない限り、お前は永遠に絶対服従ってワケだ」

「!!」

 しまった、とばかりに動揺するピトー。それを見て虫をいたぶるような笑みを見せるレント。

「契約を結ぶ際は計画的に、ってな」

「まあ、そんなことをするつもりはないから安心しろ」

 永遠の隷属が軽い冗談にしかならないような話など、ピトーにとっては悪夢でしかない。

 ここにきて自分がどんな目に遭わされるかも分からない実感がでてきたが、しかしそれはコムギの心配に勝るほどではなく。

「……言う事は聞くし、抵抗する術もない。だがせめて、コムギの安全だけは――」

「おい。それ以上グダグダ言うなら、即座にその子を殺すぞ?」

 我慢の限界が超えているゴンが口にした、ドスの効いた響き。それに口を閉ざすことしかできないピトー。

 無表情にそれを見たバハトはしかし、ゴンに向かって口を開く。

「焦る気持ちは分かるさ、ゴン。カイトの治療がひかえているものな」

「――バハトも分かっているなら口を挟むな、仲間を救おうとして何が悪い」

「だが、俺もピトーには用事がある」

 今のゴンに更なる我慢を強いるような発言をバハトがした事により、場の緊張が一気に跳ね上がった。

 それを感じつつ冷静に、バハトはゴンへと意見を提示する。

「お前は先ほどピトーの治療を10分早めたな? その半分の5分でいい、ピトーを借りたい」

 ピキリとゴンの額に青筋が浮かぶ。何度でも言うが、ゴンの忍耐はもう超えている。待てという言葉をこれ以上聞く気はさらさない。

 だがその一方で、仲間の言葉に耳を傾けないほどに薄情な人間でもない。今現在はその人間味も余裕と共に失いつつあるが、しかしそれでもバハトの瞳を見れば彼としても引く気がないのは見て取れた。

 逡巡の時は刹那。

「1分だ、1分だけ我慢する」

「――分かった。感謝するよ、ゴン」

 ピトーの頭の上で話がまとまる。自身の処遇に一切の口出しが出来なかったピトーだが、それでも己の希望は口に出そうとする。

「言う事には従う。だがせめて、コムギを安全な場所まで――」

「黙れ」

 あまりに自分勝手な要求にゴンがキレるその前に、バハトの命令が口に出された。

 それが聞こえた瞬間にピトーの声は止まり、彼女は驚きの感情を露わにする。

「契約しただろ? お前は絶対服従だって」

「っ!」

「あひゃ。絶対服従を甘く見たのか?」

「そのようだ。

 ピトー、お前はオレが許可するまで、一言も声を出すことは禁ずる。

 そして俺が行うことに一切の抵抗はするな」

 驚きと、そして場の流れを全く動かす術がないことにピトーの表情が歪む。

 せめて無事であってくれと、未だに意識が戻らないコムギを見るピトーにバハトは無情な声をかける。

「ピトー、俺の千切れた右腕を持って奥に来い。

 クルタ、お前はここに居ろ。

 ゴン、クルタは人質だ。1分で戻ってこなかったら、クルタはお前の好きにしろ」

「いいの? オレ、多分我慢できないよ?」

「すぐ終わるから問題ない」

「ボクもそう簡単にやられるつもりはないしね」

 あひゃひゃと、人をバカにしたような笑いをするレントを無視してゴンはその場で待機する。

 そして事実上ゴンの監視役となっているレントがその場に残り、バハトはピトーを伴って奥の部屋へと向かう。

(さて、と)

「ピトー、こっちに来い。向こうの部屋から間違っても見えないこの位置にだ。

 ここに来て、微動だにするな」

「…………」

 発声すら禁じられたピトーは黙々とバハトに従うことしかできない。

 不安そうに歩き、そしてバハトに指示された定位置についたピトー。

 その瞬間、ピトーの右目がバハトの左手によって抉られた。

「っっ!! ~~っっっ!!」

 キメラアント護衛軍とはいえ、痛覚は当然に存在する。それも戦いの中で高揚して痛みを感じにくい状況ならばともかく、静かな状況からいきなり瞳を抉られるような事があれば痛みに叫んでも不思議ではない。

 だがしかし、今現在のピトーはバハトに声を出す事すら許されていない。痛みを逃がす為に声を出すことはおろか、呻くことも身を捩らせることも出来はしない。

 そしてそれを為したバハトはといえば、何の感情も表に出していなかった。ただただ淡々と己のやるべきことをやっているだけ。そう言わんばかりに事務的に、ピトーの瞳を抉り出す。

斉天大聖(サルノギキョク) 分身の業(オノレワケミダマ)

 そして摘出したピトーの右目を持って、念能力を発動する。元となった肉体と同じ(デコイ)を創り出すその念能力は、重要器官である瞳であるならば、本人に類似した分身を具現化する事が可能。

 果たしてその場には右目を失って息を荒げる本物のピトーと、五体満足で佇む偽物のピトーが存在することとなる。

「お前はここで潜んでいろ。俺が戻ってくるまで、ゴンを含めた討伐軍に見つかることを許さん。

 俺が戻ってきたら治療に入る。その時になったら姿を現せ」

 右目を失ったピトーに淡々と声をかけるバハト。痛みに震えるピトーは、しかしそれでも健気に頷いて返事をした。

 そんな彼女に目を向けることなく、バハトは五体満足なピトーに向かって声をかける。

「行くぞ。お前にはカイトの所に行って、為すべきことを為して貰う」

「は。承知しました」

 バハトの操り人形であるソレは、全てを理解している。己がゴンに壊される役目を背負ったことも含めて、全てを。

 故に偽物のソレは、本物のピトーのポケットに入ったケイタイを奪い取り、悠然と自身のポケットに仕舞ってから表情を変える。

 今までのピトーと同じような、不安で不安で仕方がないといったその表情に。

 バハトはその変化を満足そうに見て、口を開いた。

「行くぞ、仕上げだ」

 そう言ったバハトは、偽物のピトーを連れてゴンの元に戻るのだった。

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