殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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101話 王の為

 

 バハトは具現化したピトーと共に、西棟2階にある迎賓の間に戻る。

 果たしてそこにはナックルとキルアが集っていた。意識のないコムギと、ゴンとレント。合わせて5人が戻ってくる彼らを待っていた。

「……バハト」

「キルア、元気そうで何よりだ」

 ここに至り、ようやくバハトと顔を合わせたキルアがその表情に安堵を浮かべる。NGLでバハトが生き別れた仲間たち全員と、これでようやく再会できた形になった。

 他愛のない会話をしたくなるキルアだが、それはグっとこらえた。キメラアント討伐作戦はまだ終わったとは言えない。王はネテロ会長がなんとかしてくれると信じるしかないが、プフとユピーは取り逃がしてしまった。トトの事をキルアは知る由もないし、それに何より今現在のこの場にはピトーがいる。

 ゴンにとっても、そしてゴンを大切な友達だと思うキルアとっても、山場はまだ超えていないのだ。

「ケ。2人きりで何を企んでやがったんだか」

 唾を地面に吐き捨てながら、ナックルが嫌味を込めて言い捨てた。

 とはいえ、彼の主張ももっともだ。標的であるピトーを取り上げられて面白いと思う訳もない。ピトーに何を仕込まれているか分からないし、そもそもピトーに逆転を許す可能性もあった。もしもナックルがゴンとバハトの会話に参加していたら、彼はバハトがピトーと2人きりになることを許容しなかっただろう。

 当然といえば当然だが、各々各自(おのおのかくじ)で考え方や目的がズレている。討伐軍としてさえ、特にゴンの目的はそのほかみんなの目的とかけ離れているといっていい。

 ならば。確認しなくてはならないことがあると、キルアはバハトに問いかける。

「バハト、お前は俺たちの味方か?」

「いや、もちろん違う」

 その場にバハトの返答を意外と思う者は誰もいない。

 やはりか、という苦渋の顔。当然、という納得の顔。それぞれが予期できたバハトの言葉をしっかりと受け止めていた。

 しかしその中で、バハトだけが穏やかな苦笑を浮かべてキルアに向かって言葉を紡ぐ。

「だが、俺はお前達と仲間ではあるつもりだ」

「それはオレも疑ってねーよ」

 少しだけ照れたようにキルアは言い返すが、すぐに鋭い視線でバハトを見つめ直す。

「今回、お前はクルタの味方だっていう話だろ?」

「そういうことになるな」

 キルアの的を射た言葉に、軽く頷くバハト。

「俺はNGLでクルタに命を救われた、大きな借りが出来たんだ。

 コイツにその借りを返さなくては筋が通らない」

「バハトの協力を得られたのはラッキーだったよ」

 あひゃひゃとケタケタ笑いながらレントが口を開く。

 仲間が自分よりも得体の知れないヤツを優先したという事実にキルアが不機嫌になりかけるも、彼は自制心でその感情に折り合いをつけた。そもそもとしてキルアを始めとした4人が足を引っ張らなければ、バハトやカイトの撤退が成功した可能性もある。己の実力の無さをバハトたちが補ってくれたのに、その結果に文句を言うのはカッコ悪すぎるというもの。

「確認するぜ。バハトがクルタと協力するのはいい。だが、その目的はなんだ?」

 切り替えたキルアは、更なる疑問を叩きつける。ここまでキメラアントを相手に立ち回っているからして、討伐軍と目的が大きく違っているとは考えにくい。

 されとて同一ではなく、それははっきりと感じ取れている。だからこそ、その差異がどこにあるのかを明確にしておくのは当然の事だった。

 キルアに問われたバハトはレントに目配せをする。それを感じ取ったレントは、あひゃと笑いながら頷くことで答えた。

「……俺たちの目的もキメラアントの王、及び護衛軍の無力化ということに違いはない」

「だろうな」

 相槌をうって先を促すキルアに、バハトははっきりと宣言する。

「だが、その過程が明確に異なる。お前達討伐軍は捕縛や殺害を手段としているのに対し、こちらの手段は支配や強奪を採用している」

 つまり、だ。

「俺とクルタは、護衛軍を操作して配下に置くことを目的としている。

 優先すべきは排除ということは変わらないが、可能な限り護衛軍という人材を奪い取る。例を一つはっきり言えば、ネフェルピトーを操作するつもりでいる。もちろん永続的に、だ」

 この宣言には3人共に驚きを隠せない。キルアもゴンもナックルも、目を見開いていた。

「バカな…。こんなバケモノ共を操作する、しかも永続的になんて不可能だろうが!」

「そう思うのはお前の勝手さ」

 バカにしたような笑みを浮かべたレントがナックルの言葉を叩き落とし、そして続けて口を開く。

「厳しい展開になるのは承知の上さ。それでも不確定ながら未来予知ができるボクならば可能性はあった。

 そして今現在、この危ない賭けに勝ちつつある」

 討伐軍にあらかじめ提示されていたクルタの能力は時間操作。更には未来予知さえも可能だと確かに彼は言っていた。

 もしも護衛軍が徹底的な隙を晒す未来を知れたなら、クルタはそれを突けるということになる。

 結果として、それを疑うことはできないだろう。ピトーはコムギの治療時間を受け取る代償に、バハトとレントに対して絶対服従権を差し出している。キルアやゴンは知れないが、自分自身を操作すれば他者が操作するより強い拘束が可能だということをナックルは知っている。

 能力には左右されるだろうが、自分で自分を差し出すという前提があるのならば護衛軍とはいえども操作しきることは不可能とはいえなかった。

「文句はないだろ? ネフェルピトー?」

「コムギを王の元に返して貰えるのならば」

 条件付きながらも、是の返答をするピトー。

 いちおう、今現在のピトーを操作しているのはバハトである。故にこれはバハトの考えた返答ではある。

 が、しかし。バハトはこの返答に自信を持っていた。護衛軍は多かれ少なかれ、自身が王の駒だと思っている部分がある。つまり、王の為になるならば捨て駒になることも良しとする精神が存在するのだ。

 もちろん護衛軍それぞれに()()()というニュアンスは異なっている。

 

 プフを例に出せば、王は世界を統べる器であるという考え方がある。だから世界を支配する王という理想像に邁進することに躊躇いはなく、彼の思考回路上では()()()に世界は支配されるべきなのである。

 一方でピトーは王が何を為すのもあまり興味がないタイプだった。王から苦痛を排し、快楽を近づける。楽しければそれが正しい、というお気楽な彼女らしい考え方だったといえるだろう。

 だがしかし、王のコムギへ対する愛を感じ取ることで思考が変化。王にはコムギが必要で、人を慈しむことができる事こそを王の成長と理解した。世界を支配することにピンとは来ないが、()()()にコムギは絶対に必要なのだ。

 なればこそ、コムギを王に返すことが彼女の至上命題。結果、ピトー自身が敵に使われることになろうとも気にしない。なぜならば、彼女の王は偉大だからだ。ピトーが敵対したからといって、それが王の障害になるとは考えられない。ピトーが王に殺されて仕舞いだろう。その結果が見えた上で、ピトーはなんら不満はなかった。

 何故ならば、それこそが彼女の考える()()()なのだから。

 

 コムギを王に返す為ならば、今までの忠誠心も自分自身の全てさえも捨てていいとピトーは本気で思っている。

 その狂気に、ナックルはゴクリと唾を呑み込んだ。たった一つの目的を貫き通すだけに他の全てを捨てていいという覚悟は、念能力者にとっては恐ろしいものだった。

 一方で、ピトーがそこまで入れ込むコムギという少女の価値もハネ上がる。少なくとも、ピトーにとって護衛軍の己よりもコムギというただの少女の方が王にとって重要と判断した事は間違いない。

 コムギという少女は切り札(ジョーカー)になる。この場にいる全員がその事実を呑み込み始めていた。

「もう、いいだろ?」

 そこでようやくというべきか、ゴンが声をあげた。今まではキルアとバハトの再会に免じて時間を浪費していたが、そろそろ我慢ができなくなったらしい。

「ああ。俺としては文句はない」

「時間を取ってすまねーな、ゴン」

 バハトとキルアが合意したことで、ゴンの漆黒の瞳がピトーを射止める。

「オレと一緒にペイジンに行くぞ、ピトー」

「……分かった」

 ピトーに拒否権はもちろんない。そも、現在のピトーはバハトが作った(デコイ)だ。この展開を望んでいたバハトからして、否定する訳もない。

「ナックルはオレとピトーが会うまであのコを頼む」

 そして更にコムギを人質にすることをゴンが提案し、その容赦のなさにナックルとピトーが戦慄した。

 余裕がないからこそ、より良くより鋭い一手を閃くことに加減されることがない。この僅かな間に、明らかに器が大きくなっているゴンに畏怖を覚えても仕方がないだろう。

 そうして手早く話をまとめたゴンは、ピトーをうながして宮殿を去っていく。彼らが目指すのはペイジンにある彼らのアジト、カイトが居るそこへ向かう。

 それを見送る為に外に出て、宮殿の外壁の上へと集まる一同。その中でレントが呆れを含んだ思考を回していた。

(気が付いてもいいとは思うけどねぇ)

 彼はバハトと未来のマチに情報を与えられて、カイトがもう治らないと知っている。

 が、それを討伐軍が気が付かないのは間抜けが過ぎるとも考えてた。

 何故ならば、NGLでの戦いでカイトの首が胴から切り離されていたという情報は、人間側に寝返ったキメラアントによって判明しているからだ。つまり、その時点でカイトは死んでいるのは間違いない。

 そしてもしもピトーが死者蘇生を可能とするならば、護衛軍の中でピトーの地位は一番上でなければならない。何故ならば、万が一にも何かの間違いで王が死んだ時、それを生き返らせることが可能というのは護衛軍にとって例えようもなく大きい保険であるからだ。その保険を有するピトーを、他の護衛軍は王の次に大事にしなければならないのは当然のことである。

 しかし現実にはピトーは他の護衛軍と同列である。それどころか、王もピトーもトトもコムギの死に対してどこまでも怯えていた。つまり、ピトーは死者蘇生の能力を有していないと判断するには十分である。

 もしもこの時点で討伐軍の誰かがそれに気が付けば、ゴンの悲劇は回避し得たかも知れないのに。レントはそう考えてしまう。

(ボクはそれを指摘してあげるほど優しくないけどね)

 そしてレントは心の中で舌を出しながらゴンたちを見送るのであった。

 

「さて、と」

 ゴンとピトーの見送りが終わった時、バハトが口を開いた。

「一段落、でいいか?」

「まあ、な」

 バハト側として護衛軍の半分を手中に収めたことで一段落。

 討伐軍側としては、護衛軍と王を引き離したことで一段落。

 どちらにとっても一段落には違いあるまい。

 だが、その心中は真逆であったといえるだろう。

 バハト達にとって。念が使えないことが分かっていたピトーはともかくとして、トトを丸ごと吸収できたのは望外の成果を得られた成功といっていい。

 対して討伐軍はといえば。時間を稼げたとはいえ、プフとユピーは取り逃がして王の元に向かわせてしまっている。ピトーを無力化したのもネテロが呼び寄せたゼノの龍星群(ドラゴンダイヴ)が原因にあるといえるし、トトに至っては彼らが倒すことが叶わなかったといえる。ネテロ会長のオーダーは叶えたとはいえ、表現するならば不甲斐ない成功と言ってもいいだろう。

 ナックルの渋い返事は、その事実を端的に表していたといっていい。

 そして一段落という言葉を使った以上、この件はまだ終わっていないのだ。

「王が死ぬにせよ、生きるにせよ。プフとユピーは残るねぇ」

 厭味ったらしく言うのはレント。討伐軍の大半が嫌悪に顔を歪めるが、反論の余地はないだろう。あの強大な護衛軍の2体は確かに健在なのだから。

 仕事は終えたと帰還するか、それとも残る護衛軍となお戦うか。2つに1つ。

「乗りかかった船だ。納得いくまでオレはやらせてもらう!」

 そんな中、力強く宣言するのはナックルだった。蟻と人との間に埋められない溝があることを、彼は十分に承知している。

 しかしそれでも諦めたくはないと彼は思う。あがけば活路が開かれることは皆無ではないのだから。

 他の面々も同じような表情をしていた。冷静に考えれば、生き残った護衛軍の行動や思考を探ることは無駄になることはない。この後すぐか、遠い未来か。それは分からないが、いつか敵対するのはほとんど確実なのだ。

「好きにしとけー」

 やる気が無さそうに口を動かすレント。

「俺とクルタは再び潜まさせてもらう。護衛軍を支配する機会が巡ってくるかもしれないし、そのチャンスを逃すつもりもないからな」

 真面目な口調で言い切るバハト。

 彼らは連れ立って討伐軍から離れていく。

「……死ぬなよ、バハト」

「お前も無理はするな、キルア」

 対立するグループの中で、ただ2人だけ仲間であるキルアとバハトが声を掛け合い、その場の会話が終わる。

 そしてそっと消えていくバハトとレントが向かう先が、西棟2階の迎賓の間であることに気が付いた者は討伐軍の中には存在しなかった。

 本物のピトーを確実に手中に落とす為に仕上げをする。

 その歩みが止まる事は、ない。

 

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