殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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オリジナル小説を書いていたら半年くらい時間が経ってしましました。
大変申し訳ありません。
幸い、小説大賞に応募はできたので。これからはこちらを完結する為に頑張ります。
色々な不運もありましたが、それは活動報告にあげていますので興味がある方はそちらをご覧ください。

では、最新話をどうかお楽しみいただければ幸いです。


103話 騎士王アルトリアVS蟻王メルエム

 

 首都ペイジンにある宮殿に向かうアルトリア。

 青のドレスを流して、銀の甲冑を煌めかせる最優のサーヴァントは。バハトが構えたアジトから真っ直ぐにペイジンへと向かう。間にある湖もその上を走り速度をあげる。

 湖の精霊の加護を得ているアルトリアの選択として、当たり前のように湖上を走る事で時間を短縮し、目的地である宮殿に向かう。ほぼ跡地とも言える惨状であるそこで彼女はメルエムを迎え撃つ為、現地の情報を得る時間は一秒でも惜しい。地面の荒れ方、ガレキの位置、風の流れ。戦いの趨勢を決める情報は星の数ほどにある。

「マスター、聞こえますか? そちらに問題はありませんか?」

 その上で更に彼女は騎士の王。騎士として、そしてサーヴァントとしてマスターの安全を考慮するのは当然の事の話であった。

 特に今回はキメラアントの護衛軍であるネフェルピトーをバハトの元に置いたままである。作戦では彼女を操作する予定ではあったが、それが完全に為された事をアルトリアは確認していない。更に言うならば、念能力も所詮は人が作り出した能力である。絶対でも完全でもなく、バハトを最愛の者としたところで、騎士の王である彼女から見れば最愛の者を忠義の為に殺すという可能性さえも思考の隅に残っていた。

 令呪を使えない現状、もしそうならばアルトリアは即座に踵を返してバハトの元に戻らなくてはならない。

『アルトリアか。問題は、あ~』

「あるのですか?」

 ない。そう即答しないバハトに、アルトリアは険しい表情で足を止める。

 深夜を過ぎた星月夜の湖の上、白銀の少女は鋭利な雰囲気を携えたままで来た方向をふりかえる。

『あ、いや。アルトリアが戻る問題はない』

「ではどのような問題が?」

 マスターの安全に関わる可能性がある事を放置することはできない。

 生真面目な彼女は納得のいく答えを得るまではこの場で待機し、バハトからはこれ以上一歩も離れないという頑固な意思を見せる。

 バハトしてもアルトリアがメルエムに勝てる可能性は僅かでも高い方がいい。一瞬でも早く戦場に辿り着いて欲しい。が、()()問題を開示するのも気が引ける。

 持ち上がったそれぞれを両天秤にかけた結果、バハトはアルトリアの足を進めるべきだという選択をする。どうせアルトリアは納得するまで動くまい。ならば、恥をかくのが早いか遅いかの違いだと、半ば投げやりに諦めた。

 黙ってアルトリアと感覚を共有する。

『ごろにゃ~ん♥』

 アルトリアが味わう感覚は。背中にふくよかな双丘を押し付けつつ、尻尾を腰に巻き付かれつつ、首筋に頬ずりをするネコのキメラアントが与えてくる触覚だった。

『ご・しゅ・じ・ん、さまぁ~ん♥』

 デレッデレな様相でバハトに甘えるネフェルピトー。それは大好きなご主人様に全力で甘えるネコそのままであるが、これをヒトの遺伝子が混じったメスのキメラアントにやられると淫靡で背徳的な雰囲気が半端ではない。

 しかも、これを(ポンズ)息子(レント)の眼前でやられているのだ。愛する家族の冷めた視線は物理的な威力を伴うと感じる程である。(ユア)の目が覚めていないことは、バハトにとって明確な救いであっただろう。

「…………」

『…………』

「…………状況は把握しました。その上で一言いいですか?」

『お、おう。なんだ、アルトリア?』

「地獄に落ちろ、マスター」

『ちょ、この状況でお前がそれを言うかっ!?』

 どこか嬉しそうなバハトとの念話をブチ切りつつ、アルトリアは宮殿へと向かって再度走り出すのだった。

 

 ◇

 

 キメラアントの王、メルエムほどの気配を見逃すようなアルトリアではない。

 つまり宮殿に着いて敵の気配を感じ取れなかった時点で、先着はアルトリアに相違なかった。

(さて)

 入り組んだ地形でも戦えなくはないが、アルトリアが魔力放出を全開して戦うならばある程度の広さがあった方が都合がいい。

 ざっくりと宮殿の様子をうかがえば、建物部分はもはや廃墟である。ここを戦場とするには彼女としてはあまりよろしくない。

 かといって宮殿の敷地から離れれば相手が様子見をする可能性も零ではない。魔力消費を考えた時間制限もあり、更にどうしてもここでメルエムの首を獲りたい事情がアルトリア側にある以上は大きく離れるのは得策でもない。

 となれば、場所の選択権はあってないようなもの。アルトリアは宮殿の前庭である、肉樹園と名付けられた巨木が立ち並ぶ場所を戦いの場所として選択する。

 肉樹園に辿り着いたアルトリアは周囲を見渡し、そしてはばかる事無く顔をしかめた。

(趣味が悪い)

 巨大な樹木に、人間を内包した繭がわさわさと生っている。人間を題材にした光景など邪悪な者共がすることという知識はあるが、実際に目の当たりにするとこれは思った以上に不快。守るべき人々がその尊厳ごと命を弄ばれているなど、英雄として見過ごせない案件である。

 更に言うのならばこれはキメラアントからしてみればただの畜産であり、極めて無垢な行為であるということもアルトリアは頭のどこかで理解できている。

 改めて明示する必要のない程の不倶戴天の敵。それが人類とキメラアントの間柄であると、この光景を見るだけで理解できてしまう。

 それを再確認できただけでも良し。アルトリアは首都ペイジンの街に繋がる大きな道の真ん中で、風王結界(インビジブル・エア)を纏った黄金の剣を地面に突き立て目を閉じ、集中を縒り合わせる。

(私が、すべきこと)

 アルトリアがここにいるのは、バハトの為ではある。人類の為でもある。

(私が敗れても『王が生き残る可能性がある』ことを知っているバハトは攻撃の手を緩めない。明確な王の死を確認するまで、彼はメルエムを執拗に攻撃する筈)

 だがしかし、それでは救えぬ命がある。彼女はその為にここに立っているのだ。

(コムギ)

 王に寵愛された盲目の少女。レントが育ったもう一つの歴史では、メルエムの妃となった者。

 バハトが知る歴史であれ、レントが辿った歴史であれ。彼女は他者によって無残にも命を奪われる。見方によっては間違いなく非業の死であろう。

(だが。だが、だ)

 ただ軍儀が世界で一番強いだけの少女が、蟻の王に見初められただけでその命を儚く散らせる。アルトリアが知るその運命も、ここでメルエムを討ち取れば覆せるかもしれない。

 ああ、確かに悲劇だろう。東ゴルトー共和国という過酷な国に産まれた目の見えない少女が、初めて自分に優しくしてくれた王に心を惹かれているのは分かっている。その王を殺すというのは確かに残酷だ。

 しかし人類としてメルエムを殺すという判断しかできない以上、道連れを一人でも減らすという考えは決して間違いとも言えない。

 ひとつの恋に全てを殉じさせるというのは確かに美談だ。だが、一般的に言って人は一つの恋にそうそう命を懸ける事はない。失恋しても愛する人を亡くしても、人生は続いていく。更に言うならば、東ゴルトー共和国という国が既に実質的に瓦解している以上、コムギはしかるべき相手に保護して貰えれば悪くない人生が待っているはずである。世界大会も開かれている軍儀の世界王者ならば、その程度のささやかな暮らしはできるはずだ。

 いずれ初恋を失った痛みを癒し、人が得られる当たり前の幸せを甘受する。そんな人生を手にする資格がコムギにない訳がない。

(その道筋は、バハトならば立てられるはず)

 バッテラという大富豪を操作してスポンサーとしたバハト。メルエムを討ち取った場合、コムギの先を託すことがアルトリアが彼に願った報酬であった。

 騎士王アルトリア。彼女はたった一人の少女の幸せを願い、人類の敵である蟻の王メルエムに立ち向かっている。

「――来た」

 音より早く、見るより早く。アルトリアは王の帰還を察知した。彼女の優れた直感が、宮殿に近づく圧倒的な存在感に気が付いたのだ。

 そして闇討ちするのもアルトリアの趣味ではない。瞑想から一転、闘志を全開にして周囲に振りまく騎士王。

 撒き散らすそれを察知できない蟻の王では当然ない。ユピーの能力で翼を生やした王は、弱体化したプフとユピーを連れてアルトリアが待つ宮殿前庭にある肉樹園の上空へと辿り着く。

 空中から騎士の王を見下ろす蟻の王。地上から蟻の王を見上げる騎士の王。

 視線が交錯し、お互いに思う。礼を失していい相手ではないと。

「余は、」

 一瞬だけ言い淀んだ蟻の王だが、しかしはっきりと自らの名を口にする。

「余は蟻の王、メルエム」

「名乗り上げに敬意を。蟻王(ぎおう)メルエム。

 返礼として我が名を名乗ろう。

 騎士王アルトリア・ペンドラゴン。それが私の掲げる誇りである」

 騎士の、更に言うならばその王を名乗る者の言葉である。これを聞いてなお上から見下ろす礼儀はメルエムにはない。

 彼はゆっくりと地上に降り、アルトリアと同じ大地に足をつける。

 互いに互いを見る、奇妙な沈黙。

「プフ、ユピー」

「はっ」

「はっ」

 小さく弱体化した護衛軍たちは、それでも命を散らすことで王の有利になるのなら心からの本望であると敵である騎士王の様子を窺っていた。

 異心同体となった王にそれを察せぬはずもなく、しかしそれを許容できる王でもない。

「命ずる。宮殿に下がれ」

「!」

「し、しかし王! それはっ!!」

「二度は言わぬ」

 有無を言わせぬ王の言葉に押し黙る2人。

(いや)

 しかしプフは素早く思考を回し、王の言葉を是と取った。

(例えどんな相手でも、王が不覚を取ることは有り得ない。それを確信できるほど、王は強大で強靭に相違ない。

 ならば我々がすべきことはこの後を見据えた行動。コムギの痕跡、軍儀の痕跡。それらを全て隠しきる。

 そう思えばこれは天が与えた好機! コムギを思い出さなければ、王は生物の王として間違いなく君臨する!!)

「承知しました」

「! プフ!!」

「いいから!」

 プフから見てもアルトリアと名乗った少女はただ者ではない。それは分かる。

 分かるからこそ、今現在の自分たちが何の役にも立たない事も分かってしまう。ならば潔く王の言葉に従うのが吉。

 素早く判断したプフはユピーの手を引いてこの場を去る。プフに何か考えがあることを察したユピーも、後ろ髪を引かれるようにその場を後にする。

 肉樹園に残されたのは2人の王。奇しくも、その両方が人の遺伝子を引きながらも、人ではないモノを宿した規格外。

「佳い闘志、佳い殺意だ」

 アルトリアの体捌きとその重心を見取り、彼女が不可視のナニカを持っていることを看破するメルエム。その射程が分からない以上、やや広めに間合いを取る。

 対してアルトリアは攻めの姿勢。不可視の風王結界(インビジブル・エア)によって幻惑された相手が躊躇した隙の分だけ強く押す。それが常套手段であり、最も堅実な戦法。

「――言うべきではないが」

 お互いに戦いは避けられないと分かっているし、避けられるのならばこの局面に至っていない。それは分かっている。

 だがしかし、まだ騎士の王はすべき問答を交わしていない。王としての礼儀を通す為、騎士としての恥をかく。

「降伏するなら、今ならば受け入れよう。貴殿の命を保証しきる事は出来ぬが、配下への便宜は最大に払おう」

「愚問」

 アルトリアの形式に沿った言葉は騎士として、戦士として最大の侮辱である。しかしそれを言うべき立場にあった彼女を慮り、メルエムは極めて無情に否定する。

 ここでは情を表に出さないことがアルトリアへの礼儀だった。そして王としての逆勧告をすることが彼の情けだった。

「こちらからも言おう。

 服従せよ、貴様ならば余が重く用いてやる」

「否」

 今度はアルトリアが一文字で捨てる。王として騎士としても、そしてサーヴァントとしても英霊としても。ここでメルエムに屈する可能性は絶無である。

 言うべき礼儀はお互いに果たした。

 ならば、後は死合うのみ。

「「はっ!」」

 鋭い声と共に、足元の地面を爆発させるような踏み込みで。2人の王は、敵を撃滅せんと間合いを詰める。

 メルエムも大柄な体躯ではないとはいえ、アルトリアは更に小柄。武器さえなければ先に攻撃が届くのはメルエムとなるだろう。

 だがしかし、当然ながらアルトリアは無手ではない。セイバーの名の通り、不可視の鞘に包まれた聖剣を持つのがアルトリアだ。

(長さは70センチ以上。しかし140センチはない)

 メルエムは高速で思考を回す。

 その根拠は、先ほどまでアルトリアが立っていた地面にあった。そこには地面に剣を突き刺したような痕が残っており、メルエムはそれはしっかりと把握していた。

 アルトリアが地面に武器を突き刺して、すぐに取り回せるような長さならば。どんなに短くとも70センチはなくてはならない。

 そして彼女がいかに人間離れした能力を持っていようが、体格だけは誤魔化せない。ざっと見たところ、身長は155センチに僅かに届かないか。その大きさで邪魔することなく振るえる武器の大きさは140センチが限界。メルエムはそう判断する。

 先に腕を動かしたのはアルトリア。射程内に入ったメルエムを斬り伏せるべく、何かを握ったような手を横に振るう。武器が見えないという事実を忘れれば、まるで道化のような滑稽さだが、そう感じ取れる間が抜け過ぎた存在はそう多くないだろう。

「ちぃ!」

 武器の長さが分からない。考えていたよりもずっと厄介なその性質は、メルエムの回避に上空を選ばせた。

 翼を使って宙を舞うメルエムに、今度はアルトリアが心の中で悪態を吐く。

(なんという身軽さ……!)

 本来、生き物にとっては落下するしか選択肢がないはずの中空。そこをまるで自分の庭であるかのように気軽な三次元軌道で動き回るメルエムに、今まで出会った事のないやりづらさを感じざるを得ない。

 上に回避したメルエムだが、その推進力はいささかも衰えず。ちょうど膝を突き出せばそこにアルトリアの顔があるという絶好の位置で蹴りを見舞う。

 キメラアントの王の攻撃をまともに喰らってはアルトリアとて危ない。メルエムが宙を支配するなら、アルトリアは地に伏するのが正解と見た。小さな体を地面に馴染ませるよう、頭を下げてメルエムの膝蹴りを回避。そして横に振るった剣を、今度は縦に回して中空にいるメルエムに向かって斬撃。

 当たれば致命傷になる可能性を否定できないメルエムは、横にずれる事によってその攻撃を躱す。

(90センチ以上、110センチ以下。持ち手はおおよそ25センチ。ヤツの武器が仮に剣だと仮定すると、刃渡りは65センチ以上、85センチ以下)

 僅か一回の攻防で、メルエムは冷静に冷徹にアルトリアの武器の長さを推し測っていく。アルトリアが武器を振るおうとした距離を計りきり、理路整然とした理屈で届かせる距離と届かない距離を考えたアルトリアの思考を読み取っていく。

(新たな情報を得るにはこちらからも攻めなければならぬか)

 地面を這うような体勢を取るアルトリアを相手にするならば、メルエムは空の利を捨てなければならない。いかに三次元的な行動が可能であるとはいえ、それには当然大地は含まれない。大地を味方につけるアルトリアに攻撃するならば、ある程度のリスクをメルエムは取らなければならないのだ。

「ふんっ!」

 僅か2メートルの上空から、地面に向かって直滑空するメルエム。重力を味方につけ、地に陣取るアルトリアを叩き潰さんとばかりに右腕を振るう。

「舐めるなっ!」

 いかにメルエムが速くとも、その直線的な動きにカウンターを合わせられないようなアルトリアではない。真っ直ぐに来るならば真っ直ぐに返してやると手に持った武器で突きを放つ。

 だがしかし、横に薙ぐならともかく。突きであるならば不可視の脅威は半減だ。目に見えなくとも、直線上にいなければ攻撃は当たらない道理である。

 捻じるようにアルトリアの攻撃軌道上から身を無理矢理に逸らし、そのせいで多少は削がれた勢いのままに踏みつけるような打撃を加えるメルエム。

 アルトリアも攻撃が回避されれば勢いが衰えることは分かり切っていたので、自分の攻撃が空を切った時点で攻撃がくるであろうその場から離れていた。

 結果、メルエムの殴りつけはアルトリアには当たらず、ボゴォと凄まじい音をあげながら地面に吸い込まれる。

 体勢が不利なアルトリアだったが、メルエムに至っては動きが完全に止まっている。

「もらった!」

 メルエムの腹を目掛けて剣を振るうアルトリア。それを見るメルエムは、僅かに身を下げるので精いっぱいである。

(離れた距離は80センチ。斬り込まれて5センチならば、余の致命傷になることはない)

 しかしその思考はどこまでも恐ろしいまでに冷静。届かなければ80センチ以下、届けばそれ以上。自分のダメージを対価に出し、見えぬアルトリアの武器を把握するのに徹するメルエム。

 そしてアルトリアにとって不運な事に、メルエムが試しで受けた間合いである80センチがエクスカリバーの刃渡りそのままだった。ほんの僅かな切り傷を残すだけで彼女が攻撃を終えた時、エクスカリバーの長さは完全にメルエムに把握されてしまっていた。

(刃渡りは80センチで確定。持ち手は動かさければ25センチ。射程を伸ばそうと持ち手を動かせば、その分の誤差を余の計算の中に入れればよい。

 そして振るい方からしてヤツの武器は恐らく剣)

 ほんの十秒程度である。戦いが始まってから、ほんの十秒程度。たったそれだけの時間で、メルエムはアルトリアの持つ不可視のベールの本質を暴き終えた。

 見えぬとはいえ、長さを把握してしまえばメルエムにとっては怖くない。空を飛ぶのはメルエムにとって苦ではないが、より精密な動きができるのはやはり地に足を着けた時。メルエムは翼を畳み、地面にその両の脚で立つ。

「?」

 自分から上空の利を捨てたメルエムにアルトリアは不思議な思いを抱きつつも、彼女としても敵が宙にいてはやりにくい。

 好都合には違いなく、彼女も地を這うような姿勢から足で地面を掴むような安定した体勢に戻す。

 そして攻撃を仕掛けるのはアルトリア。

「はぁぁぁぁぁ!!」

 唐竹割り、逆胴、袈裟懸け。怒涛の三連撃を、完全に見切ってかわすメルエム。

「ふむ」

「!」

 自分の見立てが間違っていなかった事を確認するメルエム。己の武器の長さを把握されたことを認めざるを得ないアルトリア。

 攻撃が恐れるに足らぬと見れば、反撃をするのが当然であり。メルエムは上段蹴りから開始してアルトリアを仕留めようと動き出す。

 その蹴りをしゃがむことで掻い潜り、薙がれた腕を横に跳ぶことで躱し、真っ直ぐに突き出された腕を身を捻じる事で回避する。

「ほう」

「鋭い…!」

 冷や汗を一つ流しつつ、しかしそれでも見事な回避でダメージなくメルエムの攻撃を捌ききるアルトリア。

 それを見て嘆息の息を吐くのはメルエム。

(読み、ではないな。それにしては直前までの予備動作がない。

 いわば勘、いや感か。感じるまま赴くままに動く行動が最適解になる天性のセンス。

 なるほど、まるで本人さえも天に愛されているような幸運を持っているように思えるだろう)

 そしてまた一つ、アルトリアの武器を看破するメルエム。直感という最適解を感じ取れるスキルを彼なりの解釈で噛み砕き、飲み込む。事実はどうあれ、()()()()()()をアルトリアが持っていると考えて行動すれば、また一つメルエムに有利に働くことは間違いない。

(長期戦は不利を通り越して死地!)

 そしてそれを察せないアルトリアではもちろんない。自分が暴かれていくという薄気味悪い実感を得たアルトリアは躊躇しない。

 エクスカリバーの剣先を後ろに向け、その封印を解く言葉を口にした。

風王鉄槌(ストライク・エア)!」

 束ねた風を背後に放出し、一度限りの加速力を得たアルトリアは。メルエムが想像し得なかった速度で彼へと肉薄する。

 そしてついに姿を顕わにしたその黄金の剣を振りかぶり、狙うのは生物共通の急所である首。

 虚を突かれたメルエムは、腕を盾にして首を守る事しかできない。奪い取った千載一遇の好機、アルトリアは腕ごと首を断たんと全力でエクスカリバーを振るう。

「疾っ!!」

 アルトリアの全力を込めた一撃。

 それはメルエムの腕に吸い込まれ、霞を通すように手応えなく通り過ぎる。それは首も同様であり、メルエムにはなんの痛痒も与えなかった。

 蠅の王(ベルゼブブ)。それは護衛軍のシャウアプフが所有していた念能力で彼を喰った事により、王に渡った物理無効の効果を持つ。

 不可視の状態では、アルトリアの武器に物理以外の効果があるかどうかが分からなかった。だがしかし、一度喰らえば話は別。そのおおよそが物理的威力によるものだとは理解できた。

 しかしそれでも、物理以外の効果がないとは限らない。その懸念が消えなかったからこそ、メルエムは出来るだけアルトリアの攻撃を受けることを良しとしなかった。

 そして回避の仕様がない致命の一撃を受けるにあたり、黙っていれば死ぬというのに蠅の王(ベルゼブブ)を使わない道理はない。

 結果として王は無傷であったものの、死を覚悟しなかったとはとても言えなかっただろう。物理効果以外が斬撃に付加されていればメルエムは死んでいたと思える太刀筋であったことは否定のしようがない事実である。

「見事だった」

 故に。メルエムは称賛の言葉を送りつつ、眼前で技後硬直により隙だらけであったアルトリアの胸に向かって貫き手を放つ。

 蟻の王の万全な一撃に、騎士王の銀の甲冑は耐えることが出来ずにひしゃげて大穴を空け、僅かに身を捩らせたその右胸を貫いて背中まで貫通させる。

 明らかな致命傷。

 それを受け、アルトリアは笑う。

「捉えた」

 清廉なその笑みを受け、ぞわりとメルエムの肌が粟立つ。

(いつか、直前? 余は、この悪寒を味わったことがある?)

 一瞬だけ思考が逸れるメルエム。それはネテロ会長が死に際に浮かべた笑みを見た時の感想だが、あいにくと彼にその時の記憶は失われている。

 しかしあまりにも一致したその条件が、メルエムの脳内に全力の警鐘を鳴らしていた。

 とっさにその場から離れようとするメルエムだったが、なにぶん体勢が悪い。アルトリアを確実に殺す為に全力を込めた直後であるからして、どうしたってすぐに退避する状態には入れない。

 右胸を貫かれたアルトリアは確かに致命傷ではある。しかし彼女はサーヴァントであり、その霊核を砕かれるか首か脳をやられない限りは即座に消え去るような存在ではない。人間ならば即死して動けなくなるようなダメージを負っても、喰らうことを覚悟していたのならば意志の力で死ぬまでの僅かな時間を全力で動くことが出来る。

 

 ここで一つ明示しよう。なぜバハトは対メルエムにアルトリアを選んだのか。

 剣の腕ならばランスロットの方が上である。肉体の強靭さならばヘラクレスの方が上等だ。

 だがしかしそれでも。宝具威力が最も高い英霊ならば、やはりアルトリアに軍配があがる。

 バハトは忘れていない。メルエムはネテロ会長の零の掌を軽症で耐えつつも、貧者の薔薇(ミニチュアローズ)によって即死に近い重傷を負った事を。

 メルエムを本気で殺すつもりならば、物理的な単攻撃よりも熱を含んだ巨大なエネルギーで圧し潰す事が最適解だという事をバハトは間違いなく理解していた。

 

約束された(エクス)――」

 右胸を貫かれたアルトリアは、しかしそれでも両手で黄金の剣を振りかぶり、眼前にいるたった一人の為に対軍宝具を放とうと魔力を込める。

 それは決して魔力に優れた訳でもないマスターであるバハトに賄いきれる量ではなく、アルトリアは自身を構成する魔力さえも攻撃力に転嫁して宝具を溜める。致命傷を受けたのは数ある結果のうちの一つであり、彼女はメルエムを仕留める最善の方法として自身の消滅を許容した最強宝具の使用を心してこの戦いに臨んでいた。

 それを見るメルエムは、その姿を美しいと思いつつも。生物としての当たり前の本能から眼前に迫った死から遠ざかろうとあがきを見せる。

 座して待つは死。しかしながら、貫いた腕が邪魔で回避行動を取ることができない。腕を抜くにせよ、要らぬ腕を切り捨てるにせよ。その行動が終わった時にはアルトリアの攻撃が成立し、メルエムは死ぬしかない。

 どうにもできない。だがしかし、何もしないのはありえない。そんなメルエムができたのは、暴れるように身を捩らせて一歩分だけ身を右にずらす事だけだった。

 メルエムのその動きをしっかりと確認し、アルトリアは小さく微笑みながら自身全ての魔力を使った魔力を開放して宝具を発動する。

「――勝利の剣(カリバー)ァァァ!!」

 光の剣閃は夜空を斬る。

 メルエムでさえ耐えきる事ができない高熱量の白が燦然と輝く。

 その極光は誰も傷つける事無く、アルトリアの宝具は頭上に放たれていた。

 ――メルエムは無傷のまま呆然としていた。呆然と、跡形もなく消え去ったアルトリアが居た場所を見つめていた。

「は」

 やがて我を取り戻した蟻の王は、騎士王がその一撃を虚空の天に放った理由を悟る。

 最後のあがきで右に一歩だけ場所をずらしたメルエム。偶然にも、その立ち位置の背後には首都ぺイジンの街並みがあった。つまり、東ゴルトー建国記念大会で集められた約500万の人民がエクスカリバーの射程に入ってしまったということ。

 流石にその全員が巻き込まれる事はなかっただろうが、何万十何万という国民が巻き添えで死んでいたのは確定的。アルトリアは、それを回避する為にメルエムを殺す事を諦めてまで約束された勝利の剣(エクスカリバー)を頭上に逸らしたのだった。

「は、ははは、ははははははははははぁ!!」

 安堵か、恐怖か。それとも下らぬ人間共の命を盾に生き延びてしまった屈辱か。

 そのどれかも分からぬまま、メルエムは死闘の末に拾った命を嘲りながら独り笑い続けるのだった。

 

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