殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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お久しぶりです。
3.5章として選挙編を開始させていただきます。
まったりと進めて行きたいと思いますが、どうかお付き合いいただければ幸いです。


3.5章 そして物語は続く
106話 こぼれる程に抱きしめて


 

「もう……諦めるしか、ないのね」

 ほんの僅かに、ちらちらと不快な明滅をする蛍光灯に照らされた飛行船の一室。

 俯いたまま、沈痛な声を出すユアが壁際のイスに腰掛けている。

 そんな彼女を痛ましそうに見るのは、兄であるバハト。可愛がっているユアが心から沈んでいるのをただ見るしかできない自分に歯がゆさを感じるしかない。

 しかし、だからといって。

 現実が変わる訳ではない。夢のように奇跡のように、ユアの希望が叶うわけは決してない。

「ああ、そうだ」

 だからこそ、余りにも厳しい言葉だとしても。兄として、バハトはユアに現実を伝えなくてはならないのだ。

 ユアとてプロハンター、泣き喚けば現実が変わる訳がないことは理解している。子供ではないのだから、理解せざるを得ない。

 心の痛みを表すように、ユアは己の拳をぎゅぅぅぅと力いっぱいに握りしめる。悲しみを紛らわすように、怒りで誤魔化すように。

「だけど、だけど最後に――」

 現実は変わらない。だけど嘆くのまでは否定されるべきではない。それを知っているバハトは、顔をあげて自分の事を見つめながら慟哭をあげるユアを受け止めるべく次の言葉を待つ。

「――最後に食べたかった、エミヤさんのハンバーグッッッ!!」

「それは、俺もだよ」

 静かに同調する言葉を口にするバハトの瞳には、かつての味を思い出してか、口から少しだけ涎を垂らしたユアの姿が映っていたのだった。

「お前ら、真面目にやれ。っていうか、真面目に生きろ」

 そんな2人のバカ兄妹の頭をすぱこーんと叩くキルア。それと同時にがちゃりとドアノブが開いて2人の男女が入ってくる。

「オウ。替えの蛍光灯もらってきたぞ」

「待たせたわね、ちょっと手間取っちゃたわ」

 ナックルとポンズが戻ってくると同時、殴られたユアがキルアに掴みかかり、ぎゃんぎゃんと吠え立てる。

「なによ! エミヤさんのハンバーグが絶品だったのは天空闘技場で食べたキルアも知っているでしょ!?」

「エミヤのメシがこの上なく旨かったのは全力で認めるが、今はゴンの心配をしろって言ってるんだよ!!」

「飛行船の中じゃあ何もできないじゃない! 到着するまで落ち込んで何が悪いのよ!? 到着してから落ち込めっていうの!?」

「落ち込む前にゴンの事を口にしろって言ってるんだよ、オレはよ!!」

 ケンカを始めた子供2人を見ながら、ポンズは呆れながら夫であるバハトに声をかける。

「なによ、これ?」

「痴話喧嘩」

 それらを丸っと無視してナックルはテキパキと蛍光灯を替えて、気に触る事の無い光を満足げに見る。

「これで良し、っと。

 オウ、おめーら。そろそろゴンの事について話をするぞ。黙れオラ」

 ナックルの号令で不精不精ながらも矛を収めるユアとキルア。流石に今までの悪ふざけと、本気でするゴンの話の優先度との違いはついていたらしい。

 落ち着きつつあるのを確認したバハトは備え付けの冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出し、安物の紙カップを人数分だして中身を注ぐ。

 そうして話す状況は整った。

「始めるぜ」

 司会進行はナックルに収まるらしい。バハトが仲間に戻って初めての話し合いが始まった。

 

 ◇

 

 ベッドの上で丸くなって眠っているネフェルピトーを尻目に口を開くナックル。ちなみにピトーはバハトの命令で基本的に絶で過ごしている。日常的に凶暴すぎるオーラを垂れ流されてはたまったものではない。

「ゴンは、瀕死だ。紙一重で命を繋いでいると言っていい」

「そこにいるピトー。そのニセモノだったヤツに自分の全てを懸けた念の誓約をした、というのがオレたちの見立てだ」

 継いだキルアが真っ直ぐな瞳でバハトを見ながら言葉を紡ぐ。

「なにか、言うことはないか? バハト」

 それを聞いて、バハトも真っ直ぐな視線でキルアを見返す。

「レントの味方だった時に言った通りだ。オレは護衛軍の吸収を目指す、と。

 ピトーが壊される代わりに俺が操作している、俺の方が一枚上手だった。その結果が全てだ」

「…………」

「自分の全てを捨て去るような念の誓約をかける、そんな事をさせたのは師匠である俺にも責任がある。

 そして何より。友達として仲間として、ゴンを助ける事に異論はない」

「もしも意識を取り戻したゴンがピトーの命を求めたらどうする?」

「そりゃ、拒否するさ」

 あっけらかんと言い切るバハト。

「ピトーは俺が王から奪い取った、命懸けでな。あっさりと手放す気はない」

「――そうか」

 瞳を閉じて、ひとまず自分の感情を整理するキルア。この後はゴンとバハトの話である。キルアが少なくとも今すぐに口を挟む必要が無い。

「話を戻すぜ」

 バハトとキルアの話が一段落したのを確認したナックルは、用意されたお茶をグビリと飲んでゴンの現状を言葉にする。

「ノヴさんの能力で病院に運ばれたゴンは、すぐにICUに入った。救急の蘇生延命措置を即座に施せたおかげで、ひとまずの命は繋げたワケだ。

 だが、予断は全く許さねぇ。

 ……言いたかないが、今この瞬間に何かあっても不思議じゃねぇ」

 その言葉には流石に重苦しい沈黙が流れる。

「んにゃんにゃ、ごしゅじん…さま~」

 ただし寝言をほざくネコのキメラアントは除く。

「生命維持装置を外せないから、ノヴさんとモラウさんの影響力を使って病院の内部を作り替えて専門機関をゴンに付随させる形で組み立てているらしいわ。

 あそこまで容赦のない権力の行使は、私の発想にあまりないわね。流石は星持ちのベテランハンター、見事な手腕だわ」

 やや呆れながらポンズが言う。

 ハンター協会最寄りの病院に根を張りつつ、その病院も好き勝手に改造できる。副会長であるパリストンの目の鼻の先で()()が出来ることは、分かる者には分かる実力の証明であると言えるだろう。

「だが、それでも現状維持が精一杯だ。良くなる兆候は一切ねぇ」

 医学的なアプローチでは現状世界最高峰の環境を整えつつ、しかしそれでは命の保証さえ出来ないというのが認めなくてはならない厳しい現実だった。

 念というのはそれだけ非科学的な観点が多く含まれるという証明がされている、と言っていいだろう。故に全員の視線は自然とポンズの方へ流れた。ゴンは己に異常すぎる制約と誓約をかけたのは疑いようがない。それを外すのが除念師であり、そしてポンズは他ならぬ仲間の除念師である。

 しかしポンズは辛そうに首を横に振るのみ。

「私のハニーは、ビンの中でしか活動できない。ゴンを包み込む程に大きなビンは具現化できないわ」

「これから修行して出来るようになる可能性はあるの?」

「そりゃゼロじゃないけど、いったい何年かかるか。それに例えそれができたとして、私のハニーの除念の仕方は『捕食』なの。ゴンの身体ごとオーラを食べる事はできるかも知れないけど、それじゃあ意味がないにも程があるでしょ?」

「まあな」

 ユアの疑問に返事をし、その内容を聞いたナックルが頷く。

 ゴンの身体を元に戻したいのに、ゴンの身体を食べねば除念できないという。これには同意するしかないだろう。

「かといって、協会で唯一公認されている除念師はあっさりと無理と言った、か」

 キルアが眉に皺を寄せながら難しそうに口にする。

 ここから手を打つとするなら、雪男よりも探すのが難しいとされる除念師をアテもなく探し続けるか。しかもその除念師がポンズよりも優れている事をただただ祈りながら。それが普通であると言えた。

「キルア」

 しかし普通でない手段に思いを馳せているだろうキルアに、それをとある理由で察する事ができたバハトが声をかける。

 バハトの声かけを聞いて、キルアは視線を向けるだけでバハトに応える。そして飛び出る爆弾発言。

「レントは、過去に来るのにゾルディックの力を借りた」

「!!」

「この意味、分かるな?」

 キルアがナニカに思考を巡らせただろうタイミングで、ゾルディックの力を借りたと言う。

 これに察せないほどキルアは鈍くない。キルアは自分が家族に愛されている自覚はあった。だからこそ、自分が死んだと聞かされた未来の世界で遺された家族が自分を生き返らせる為にナニカを使う事は想像できる。

「――キメラアントの件では、俺はお前たちの味方になれなかった。

 これはその罪滅ぼしの意味もある。キルア、今回の件で俺を好きに使え」

 ナニカを知るはずもない、しかしナニカを知っている盤外の人物を好きに使える。これは家族を出し抜いてナニカを連れ去るのにとてつもなく有用なカードとなる。なんなら『取引』をしてキルアがナニカの情報を外に出してないと誓ってもいい。これは情報ハンターであるバハトは独自に抜いた情報と言って全く過不足ない。キルアが負い目に感じる事が何もないのだ。

「じゃあ、何もすんな」

 それを理解した上で、キルアはあっさりとそう言った。

「分かった」

 そしてすんなりと頷くバハト。

 仮に、バハトが絶妙なタイミングでナニカに手を出したら、それはバハトがナニカの価値を知っているという証拠に他ならない。キルアから情報が漏れた訳でなくても、ナニカの情報を持っているというだけでゾルディックにとっては万死に値するのだ。どんな理由であろうとも、知りすぎた者は始末される。情報を扱う者たちが一番危機感を持つべき部分である。

 その柔い部分を至極当然のように提示する情報ハンターであるバハトと、自らの危険を省みずに献身してくれたバハトの気持ちだけをしっかりと受け取るキルア。

 照れ隠しのようにふんすと鼻息を荒くしながらキルアは言葉を続けた。

「これは、俺の問題だからな」

「そうだな。()()の問題にクチバシを突っ込んだ俺が無粋だった」

 くっくっと笑いながらキルアの表情を見やるバハト。

 そんな2人の()を他の全員が見ながら、しかし傍目には話が全く進んでいない。

「んで、どーすんの?」

 仕切り直すように聞くユアに、改めて口を開くバハト。

「そうだな、ベテラン星持ちハンターが複数居てもどうしようもない現状だとは確認できていると思う」

 その言葉にそれぞれが頷きを返す。

「じゃあ、それ以上の権力が必要になるだろう?」

 そう言いつつ、バハトは手元のケータイを操作して、今現在プロハンター界でもっとも話題が沸騰している話を提示する。

 第12代ハンター協会会長ネテロ辞任に伴う第13代ハンター協会会長総選挙。

「俺が次代の会長になる。そうすれば、ゴンを助ける手立てもきっと見つかるさ」

 そう強い笑みを浮かべるバハトに、仲間たちはそれぞれ思い思いの感情を込めた視線をバハトに向けるのだった。

 




私の日常的な話は活動報告に書かせていただいております。
そちらもお付き合い頂けたら幸いです。
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