本当に助かっています、この場を借りて感謝を。
イモリ対ゲレタ
まさかのヒソカ負け上がりという事態に、不慮の緊張を与えられて行われたのがこの試合であった。2人共にヒソカが負け上がるとは予想もしていなかったらしく、聞いたところによると相当お粗末なミスを連発した上に、ヒソカと戦う恐怖から逃れるように殴り合ったとか。
やがて崩れ落ちたのはイモリで、ゲレタも肩で息をしていた。両方の顔はボコボコに腫れ上がっており、とても見れたものではなかったらしい。倒れ伏したイモリはそれでも降参はせず、ここでようやく冷静さが戻ったゲレタが降参しなければ殺すと脅して、イモリが敗北を宣言。
決め手となった言葉は「ヒソカと戦うくらいならば来年もまた受験する」であったという。なんというか、これを言う方も言う方だがこれで屈する方も屈する方だ。……誰もが文句を言わなかった辺り、呆れられたのか納得されたのか。
ポックル対キルア
特に補足なし。開始早々、キルアが戦線離脱。試験を楽しみたいという余裕に満ちた顔をしていたキルアだが、俺は一足早く憐れみの視線を彼に送っておいたとだけ。
戻ってきたキルアに睨まれるが、俺は憐れみの視線を止めることはできなかった。他にも試験を舐めくさったキルアに鋭い視線がごく少量注がれていたとも追記しておこう。
そしてここでポンズが戻って来た。レオリオに心配される彼女だが、気丈に笑ってレオリオの試験を応援していると返していた。ここに俺は口を挟めないので空気になってやり過ごす。
ヒソカ対イモリ
もう可哀想なほどボロボロになっているイモリが始めの合図を食う勢いで降参。逃亡のお手本のようだったと、この試合を見ていた者は後に語ったという。これが原因で彼の発が逃亡専用にならないことを切に祈ろう。いやまあ、逃亡専用の発も悪くはないけど。っていうか多分便利だけど。
そして今更気が付いたが、このままいけばレオリオはこの状態のイモリと戦う訳で、一概に試験回数が少ないのが不利になる訳ではない。戦闘機会が少ないという事は一回に力を注げるし、負け上がると崖っぷちだからチャンスがあると楽観視できない。むしろ負け上がってきた方が後がなくて余裕を無くすだろう。
ここまで考えてこのトーナメントを仕組んだとすれば……ネテロ会長は流石である。流石ハンター協会会長、とてつもなく性格が悪い。
ちなみにヒソカもこの状態のイモリをいたぶるよりも合格を選んだらしく、余裕綽々で降参を受け入れていた。
キルア対ギタラクル
ここでギタラクルが変装用の針を抜き、素顔を晒す。これに激しく動揺するキルアに、改めて憐れみの視線を送っておく。
そしてツッコミどころ満載なゾルディック家の会話に、ようやくキルアがゾルディックだと知ったポンズの顔色が一気に青くなった。トリックタワーで一緒でなかったから仕方ないとはいえ、ゼビル島でごく普通に接していた少年がゾルディックの天才であるという現実を突きつけられれば仕方がない。
わざわざ原作を変えて『敵』に余計な情報を与える事もないので、俺は傍観。一応、ゴンを殺しに行くといったイルミが外に出ようとした時には扉の前に立ちはだかっておく。ポンズはガタガタ震えながら逃げ腰で、なんとか俺の後ろに立っていられた。いや、気持ちは分かるけどね?
自分の命とゴンの命を天秤にかけられて、屈したキルアが降参。その後、親し気にポンポンとキルアの頭を叩くイルミ。その時に頭の針にオーラを流し込んだのを俺は見逃さない。多分きっと、ヒソカとネテロ会長も見逃してない。
レオリオ対イモリ
開始の合図の直後、イモリに突進するキルア。それを予想していた俺は流石に見逃せないと割って入るが、俺の乱入に気が付いたキルアが咄嗟に方向転換。彼が向かう先には、ボコボコになりそれでも合格して完全に気を抜いていたゲレタの姿が。
あ。
――こうして、1名の死者と不合格者を加えた287期ハンター試験は幕を閉じたのだった。
キルアを巡ってギタラクルことイルミと言い争いをするゴン。
キルアに謝れと言うゴンだが、俺としては完全なるとばっちりでゾルディックに殺されたゲレタに謝るべきだと思う。俺も含めて。
まあ、この2人の話し合い――というか主張の押し付け合いがまとまる訳もなく、平行線に終わる。勝手にするというゴンに、勝手にしろというイルミ。どうでもいいところで意気投合するな、お前ら。
それを呆れて見ていた俺を含めた一同だが、ひとまず騒動が終わったことでハンターの講習会が再開。とはいえ、伝えられるのはほぼほぼ基本のみである。ハンター十ヶ条の説明のみといって過言ではなく、それ以上の情報は与えられるのではなくハントしろという訳だろう。情報ハンターが儲かるシステムで実に助かる。
解散となり、まず真っ先にイルミの所に向かうゴン。キルアの所在を問うゴンに、自宅に帰ったはずと言い切るイルミ。やっぱり帰宅するように針で操作しやがったな、分かってたけど。
「パドキア共和国のククルーマウンテン。ゾルディックの家はそこにある」
「――なに、お前?」
横から口を挟む俺にイルミが人形のような目を向ける。
正直怖いが、イルミには個人的に用があるのだ。
「バハト。情報ハンターだ」
「ふーん」
「で、だ。イルミ=ゾルディック」
「……なに?」
最終試験で俺の練を浴びたイルミの声が1オクターブ下がる。たったそれだけでぞわりとした寒気が走り、緊張感が否応なく高まる。
「仕事を依頼するかも知れないから、ホームコードをくれないか?」
「やだね。情報ハンターなら自分で探せよ」
「じゃあ自分で見つけたら仕事を受けてくれるのか?」
「――内容によるに決まってるだろ」
チ。言質が取れなかったか。ゾルディックと戦場以外で話せる貴重なチャンスだったのに。
『敵』を見つけた際にゾルディックは極めて有効な手札になる。できれば窓口は確保しておきたかった。
「水臭いなぁ♠ 殺したい奴が居るならボクに相談してくれればいいのに♣」
「お前みたいな信頼できない奴に相談はしねーよ」
割り込んできたヒソカを軽くあしらう。ここを逃すとなると、ヨークシンでマフィアに雇われた時のシルバやゼノがいいか。それとももう直接依頼は諦めて普通窓口を確保するか。
悩む俺におそるおそる声をかけてくるクラピカ。
「バハト。お前、殺したい奴がいるのか?」
「ん。まあ、な。落ち着いたら話すよ」
肯定する俺に、仲間たちが信じられないような目で俺の事を見てきた。
「え、そんなに意外? 殺したい奴が居るって」
「ゾルディックに依頼することを視野に入れるのは十分意外よ」
「あっ、そう」
「と、とにかくバハトはキルアの居場所を知っているんだね!?」
ゴンはとりあえず俺の話はさておいて、キルアの事を優先するらしい。
俺も別に急いで話すことでもないので、ゴンの話にのって頷いておく。
「っていうか、情報ハンターじゃなくても知ってる人は知ってるぞ。めくれば出てくるし」
「めくれば出るのかよ!? 暗殺一家の住処が!?」
「「でるよ」」
俺とイルミの声がはもった。ゴンだけがめくるの意味が分からなくて首を傾げているが。
「じゃあ賞金首ハンターがプロもアマも来放題じゃねーか! なんで生きてられんだよ、ゾルディック!!」
「あのね、ゾルディックはA級首のトップだよ? 住んでる場所が知られたくらいで狩れる相手じゃないだろーが」
「むしろなんで居場所が分かった程度で俺たちを殺せると思ったのかを聞きたい」
喚くレオリオにも淡泊ながら律儀に返事をするイルミ。真面目だな。
そんな真面目なイルミに聞きたいことがある。
「で、流れ的にお宅に訪問することになりそうだが、庭先を借りていい? ラインは越えないから」
「あ、そこまで知ってるんだ。よくはないけど仕方ないよね。ゴン、諦めそうもないし」
ただし。そう前置きしてから、イルミは俺を見る。
「ラインを越えたらお前は容赦できないよ?」
(念使いには容赦なし、か。当然だな)
「覚えとく」
会話が終わり、イルミが立ち去る。それを黙って見送る俺と仲間たち。
「ボクはもう少しイルミとお話があるから♦」
ヒソカは仲間ではないので、イルミを追いかけてどこかへ行ってしまうのを止めはしない。できれば二度とお目にかかりたくないと思っているのは俺だけではあるまい。
叶わないだろうけど。
こうして殺し屋と殺人狂がいなくなり、場がどことなく弛緩した。ハンゾーやポックルと会話をしてホームコードを交換し、何かあった時の連絡先を確保する。
「隠者の書、だな。聞いた事ないけど、情報を捕まえたら売ってやるよ」
「頼むぜ~! 情報ハンターと知り合えるとはついてるなぁ、オレ!」
カラカラと笑いながらその場を去るハンゾー。
「ポックル、しばらく一緒に行動しないか?」
「嬉しい誘いだが、プロハンターになるまで時間をかけすぎた。一刻も早く幻獣ハンターとして活動したいからすまないな」
別れ際にポックルを誘うが、にべなく断られた。ここでしつこくしては『敵』に悟られかねないし、そもそも彼を連れていく勝算が全くない。
NGLに早く入らないとポックルの命は救えないだろう。『敵』との戦いの行方によってはNGLに行けるかも怪しいが。
とにかく、試験終了後のアレコレを終えて、パドキア共和国へのチケットを5枚取る。
「ねえ、やっぱり私も行かなきゃいけないの?」
「キルアの仲間なら当たり前だ。っていうかポンズは度胸無いから、そこも鍛えるつもり」
「……鍛えられる前に死にそうよ」
顔を青くして及び腰のポンズだが、今更彼女を自由にする訳にもいかないのでここは強制だ。
しかし侵入者でも、カナリアのラインを越えなければゾルディックは基本無視の方向だ。ならばこそ、ゼブロの小屋はいい特訓場所になる。
正直、ポンズは非力が過ぎる。念の肉体強化は肉体強度×系統の習得率×顕在オーラが基本にあるので、どんな系統だろうと体を鍛えて損はない。ちなみにこれが肉体的に完成されない子供の念能力者が弱いとされる理由である。
そして子供の念能力者といえば忘れてはいけないのがもう1人。
「すまん。電話を一本いいか?」
「? いいけど、誰にかけるの?」
「妹。1人でホームに留守番させてるけど、これからは俺も世界を飛び回るだろうし、一緒に連れていく」
「!」
「バハト、おめー妹がいたのかよっ!?」
「いくついくつっ!?」
「ゴンやキルアと同い年だよ」
「妹さんと、ゾルディックで、待ち合わせ……」
クラピカの瞳が見開かれ、ポンズがちょっと黄昏ているが、とりあえず無視。
とっととホームに電話をかけ、数コールでユアが電話に出た。
『お兄ちゃんっ!?』
「おう、ユア。変わりないか?」
『うん、こっちは何も問題ないよ。お兄ちゃんはハンター試験終わったの?』
「ああ、ちゃんと合格した」
『! おめでとう、お兄ちゃん!!』
「ありがと。で、ちょっと兄ちゃんもハンターとして飛び回ることが増えるし、この機会にお前も世界を見て回った方がいいと思ってな。
まずはパドキア共和国まで来るか? 来るならチケットを手配するぞ。それに兄ちゃんの友達も紹介してやる」
『行く行く! それで、私も来年ハンター試験受けて大丈夫そう?』
「そうだな。今年1年、しっかり修行するなら許可を出してやる」
『わーい。お兄ちゃん、大好き!』
電話を切る。
くるりと振り返り、仲間たちを見た。
「じゃあ行くか、パドキア共和国」
「行くか、じゃない! ゴンやキルアと同じ年の女の子にハンター試験を受ける許可を出すな!!」
そうは言うがポンズ。
言っておくが、ユアはお前より絶対に強いからな。
パドキア共和国に向けて飛行船が飛ぶ。ユアに手配したチケットも到着日は同じとなっており、空港で待ち合わせる運びとなった。
ちなみにユアは箱入りという訳ではなく、霊体化させたサーヴァントを護衛につけながらだが、1人で行動できるように教育させていた。あんまり考えたくないが、俺が死んだ時の保険である。保護者がいなくなったその時、何もできない少女のままでは悲惨な末路しかない。一般常識くらいは教えておくのが兄の役目だろう。
さて。ユアの話はひとまず置いておくとして、俺がゾルディックに依頼をしてまで殺したいという『敵』の説明である。到着するまで時間はたっぷりあり、飛行船の中で説明することになった。
「って言ってもなぁ。俺の情報網に引っかかって、俺を狙う『敵』がいるってだけなんだが」
「そんな単なる敵はどこにでもいくらでもいるだろう。アマとはいえ、情報ハンターをしていたならなおさらな」
ちょっと逃げに走った俺の言葉はクラピカによって真っ先に潰される。
数少ない同胞の事になると、クラピカは全く容赦してくれない。そしてゴンにレオリオ、ポンズまでも絶対に引かないという目で俺を見据えてくる。
他はともかく、ポンズ。その度胸を常日頃だけじゃなくて修羅場でも発揮してくれ。
とはいえ、まいった。流石に原作知識から転生から特殊能力から、何から何まで全てを話す訳にはいかない。
「――全部は話せない。ただし、嘘はつかない。今までは誤魔化す為に嘘をついていたと、先に謝っておく」
こっくりと4人は頷いた。
さて。どこから話を始めるか。
「ちょっとタチの悪い奴がいてな、人間で遊んでるんだ」
「……人間で、遊んでる?」
俺の言葉を繰り返し、意味を探ろうとするクラピカ。だがこれだけで理解しろというのも酷だろう。説明を追加する。
「俺と、その『敵』にそれぞれ殺害依頼を出したのさ。お互いに殺し合え、とな」
「そんなの両方とも無視すりゃいーじゃねぇか」
「そうもいかない。無視すれば殺すと脅しも入っている」
「そう簡単に死ぬ人じゃないでしょ、バハトさんは」
レオリオが至極当然にそう言い、ポンズが呆れて口を開く。
そう評価してくれるのは嬉しいが――嬉しいか?
まあ、おいておこう。気にしたら負けだ。
「殺しを依頼してきたソイツは規格外が過ぎてな。その気になれば、この瞬間にも俺を殺せる。俺が生きているのはソイツの気まぐれと言っても過言じゃない」
「「「「!!」」」」
冗談じゃないトーンの上、真顔で言う俺にじわじわと真実味が沸いてきたのだろう。4人の間に緊迫した空気が流れた。
「――マジか?」
「マジだ」
「……なぜ、バハトはそれを信じた?」
クラピカは更につっこんで聞いてくる。まあ、当然といえば当然だ。
「情報ハンターやっていれば、情報の真偽の重要性は言うまでもない。ソイツに唐突にそう言われて、バハトが信じる訳がないだろう。
信じるに足る根拠を見せられた筈だ。それはいったい何だ?」
「…………」
「バハト」
繰り返すクラピカに、俺はため息を吐く。
「ユアには言うなよ? アイツには俺が『敵』を殺す事は伝えているが、その前段階の話は伝えていない」
「――聞かせてくれ」
全く引く様子のないクラピカに、俺は覚悟を決めて言葉を紡ぐ。
「俺は、1度死んだんだよ」
全員の目が見開かれた。
「――嘘」
「残念ながらホント。で、完全に生き返る条件がそれ。同じように生き返った『敵』を殺すこと」
「バカな、そんな話、聞いたことが、ない……」
フィクションでは結構ありふれていたけどな、異世界転生。現実に起これば黄泉帰りだけでも呆然となるのは当然だ。
「了解した俺は、死の直前の分岐点まで戻ったよ。そしてユアを抱えて、逃げた」
嘘はつかないと言ったな。あれは嘘だ。
だが、今言った逃げたという意味を理解したのだろう。唐突にクラピカの瞳から涙が流れた。
「バハト、お前――。アレを味わったのか?」
…………。
どうしよう。適当についた嘘の罪悪感がハンパない。
けどまあ、今更後には引けない。黙って深刻そうな顔で頷いておく。
「クラピカ、お前は俺を責める権利がある。俺は結局――ユア以外の全員を見捨てた」
「…………」
いくらクラピカでも頭が追い付かないのだろう。黙って俯いてしまった。
おおよその話を聞いただろうレオリオも口を開けない。ゴンも幻影旅団にクルタ族が滅ぼされた事は聞いたはずで、かける言葉がない。知らないのはポンズのみだ。
「ねえ、何があったのよ?」
「ゴンとレオリオにはクラピカが話したようだな。済まないが、繰り返したい内容じゃない。俺とクラピカ、そしてユアはクルタ族の生き残りだ。それで察してくれ」
「?」
「……ポンズには場所を変えて俺から話そう。今は話を続けてくれ」
レオリオが気を使ってくれるが、これ以上の説明はない。
「話はこれで終わりだ。俺が生き返った事が何よりの証拠であり、村を捨てて逃げた後に繰り返された惨劇がそれを裏付けている。
そして『敵』を殺さなければ俺は死ぬことを疑う余地はない。いや、疑う余裕がないという方が正しいか」
「では、では――バハトを蘇らせたソイツとは」
「神、悪魔、超越者。そういった人智が及ばないナニカさ。俺はもう理解する事を諦めて神って呼び捨ててる。様を付ける気も起こらん」
言い捨てた言葉に重苦しい沈黙が下りた。
別に空気を悪くしたかった訳じゃないんだけどな。
だが、ギリギリ隠す情報は隠した。原作知識と特殊能力、そして異世界転生。これさえ隠せば問題ない。
「――バハト、これだけは答えてくれ」
俯いたままでクラピカが口を開く。
見えてはいないだろう彼に、俺は頷いて答えた。空気の流れで察したのか、クラピカは口を開く。
「嘘はついていないんだな? そして、これでもまだ、言えていない話があるんだな?」
「ああ、その通りだ。嘘はついていない。そして、真実の全てを俺は話していない」
変化系はきまぐれで嘘つきらしいですよ? 強化系の一途な良心がズキズキと痛みを訴えていますが。
とはいえ全ての真実を語る事がその人の為になるとは思わないので必要な嘘だとは思う。前もって嘘を用意してなかったからちょっと変なところに飛び火しちゃって、無駄なダメージを与えちゃった気がしなくもないけど。これから神妙に語る言葉に重みが増すからいいか。
「言うまでもなく他言無用だぞ。ほとんどの者は信じないと思うが、俺の『敵』だけは話が別だ。神によって生き返った奴がいるなんてピンポイントな情報があったら確実に殺される、ゾルディックに依頼すれば一発だ」
「……だからゾルディックと関係を持ちたかったのね、あなた」
「文字通り、命の価値だからな。金に糸目はつけないだろうよ。俺も、『敵』も」
そう言って、誤魔化すように――っていうか真実誤魔化して窓から外を見る。
恨みも憎しみも怒りもない相手である『敵』と殺し合う。思えば不思議な関係であると苦笑しつつ、俺はゆっくりと流れる雲を眺めるのだった。
沈痛な沈黙を残す仲間4人を背中に置いて。
※
「情報が抜かれている?」
『多分だけどね』
暗闇の中でシャルナークからの電話を受けて、『敵』は驚きの声をあげた。
「本当?」
『例年ならハンター試験の合格者数も出るはずなんだ。だけど今回の試験はそこが抜けて顔写真しか載っていない。
疑問に思って調べてみたら、今年の合格者の顔写真は9枚なんだけど、プロハンターの総数は10人増えてる。
嘘の情報を載せられないからの策って感じだけど、こう隠されたらお手上げだね』
「――有り得る?」
『可能性としては情報ハンターやハッカーハンターなら納得できなくはないかな。
前もってアマや専門家として活動しておいて、プロの情報ハンターに根回しをしておく。星持ちクラスの実績を叩き出せれば、新人の情報に載せないくらいはできるでしょ』
神から貰った特殊能力によっては十分可能性のある話だ。
やられた、と歯噛みするしかない。これではこちらはエリリの分だけ損をした。
『まあ、ソイツが情報系のハンターだって分かっただけ良しとするんだね。情報にない奴が君の仕事に関わってるかどうかは知らないけど。
じゃあ俺は言われた仕事はこなしたし、振り込みよろしくね~』
ピ、と通話がオフになる。
業腹だが仕方あるまい。ここでシャルナークに当たってもなんの意味もない。しぶしぶ大金をシャルナークの口座に移す手続きを行う。
考える。
次の手をうたねばならない。一歩の遅れがそのまま広がっていき、あっという間に絶望的な差に広がる。情報戦とはそういうものだ。
『敵』はリスクを覚悟する。ここで動けば確実に原作と乖離する訳で、気が付かない訳がない。
だが、先手は譲れない。押して押して押しまくる。
正体が割れるのが先か、正体を暴くのが先か。動き出せばもう後には引けない。
覚悟は決まった。
さあ、殺し合おう。