殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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暗黒大陸編を軽くパラ読みして、クラピカの特質系の水見式を読んで目が点になりました。
……、バハトの系統どうしよう。
30分~1時間ほど考えて、無理やり整合性を整える案を急遽作成。
天空闘技場編で見苦しいあがきを見せると思いますが、独自解釈ということでご容赦ください。


012話 ゾルディック・1

 パドキア共和国、ククルーマウンテンの側にある空港に到着した俺たちは1人の少女を探す。予定では先に着いているはずだが、なんせ飛行機ではなくて飛行船での移動である。気流などの原因によっては半日くらいずれることもザラな話で、日本人がいかに生真面目すぎる人種であるかを痛感させられたシステムでもあった。半日が誤差とか、元日本人として思いたくない。現実で数百キロを移動するなら普通に誤差範囲なのだが。

 ともかく、到着した飛行船を調べればもう既に到着しているのは間違いないようだ。後は目当ての人間を探せばいい。

「お、発見」

「マジか!」

「どこどこ?」

 レオリオが軽く反応し、ゴンが好奇心を剥き出しにしてキョロキョロと辺りを見渡す。ポンズも平静を装いながらもかなり興味深そうだ。

 だがまあ、クラピカの深刻さには到底及ばない。ゴンやレオリオは言わずもがな、レオリオから説明を受けたポンズもそこはスルーしている。俺とクラピカ、そしてユア。もはやクルタ族はこの3人しか存在しないのだから。

 俺の視線を察したのか、ボーっとしていた少女が唐突にこちらを向く。そしてその顔に満面に笑みを浮かべて突撃してきた。

「お兄ちゃん、ハンター試験合格おめでとう!」

「ありがとう、ユア。まあ兄ちゃんなら楽勝だ」

 ユアはクラピカのように民族衣装を着てはいない。っていうか、クルタ族の民族衣装を拵えようとすると特注になるし、意味なく目立つのでわざわざそんな服を成長期の少女に用意しない。服に苦労はしないくらいには稼いでいるが、『敵』にクルタ族生存の可能性が伝わる方が嫌だった。両親はともかく、クルタ族自体にそこまでの執着は俺にはない。そしてそれは幼いユアにもない。

 そんなユアの恰好といえば、ごくごく普通。動き回る活動的な性格の為、下着が見えるかもしれないスカートではなくキュロットを履き、ブラウスに上を重ねて着た少しオシャレをしたどこにでもいる少女がユアである。

 金髪も珍しくない世界、万が一緋の目になった時のリスクを考えてカラーコンタクトをさせている事と、常時纏を維持させている事以外に異常はない。その2つがまあ正常とは程遠いのだが。

 とにもかくにも抱き着いてきたユアを受け止め、約1ヶ月ぶりの再会を喜ぶ。

「とと、失礼しました。私はバハトの妹でユアと言います。よろしくです」

 そして落ち着いてから、俺と共にいた4人に丁寧な挨拶をするユア。俺の妹とは思えないほど礼儀があるが、それは少しだけ人見知りなところとサーヴァントに関わった影響だと思う。何せ俺が召喚するサーヴァントで礼儀がなってない奴なんてほぼいない。礼儀がないサーヴァントはマスターである俺に害する危険がある為に怖くて呼べないのだ。

 とにかく、そのような訳で礼儀正しい相手とよく接してきたユアはその礼儀正しさを受け継いで成長してきた。兄としては誇らしい限りである。

「俺はゴン、同い年だよ。よろしく!」

「ポンズよ。お兄さんにはお世話になったし、よろしくね」

「レオリオだ。こう見えて10代だからオジサンとは呼ぶなよ?」

「――クラピカだ」

 クラピカの言葉がイヤに硬かったが、それを察したユアがにっこりと笑いながら全員にお辞儀をする。

「よろしくお願いします! ゴンさんは同い年だし、仲良くできたらいいな」

「ゴンって呼び捨てていいよ。俺もユアって呼んでいいかな?」

「もちろん! ポンズさん、レオリオさん、クラピカさん、よろしくお願いします」

 朗らかに挨拶をするユアに、悪い印象を抱いた者はいないようだ。特に年下なのに年上の相手をさん付けで呼ぶことがレオリオの機嫌を良くしたようで、彼はもう保護者の雰囲気を出している。

 逆に同族に会ったことで無駄に緊張してしまったクラピカが不愛想で、結構珍しい構図になったなと心の中だけで思っておく。

「で、だ。実はもう1人、俺の知り合いがここにいる」

「なにぃ!? 初耳だぞ?」

 いきなりのカミングアウトにレオリオが真っ先に声をあげた。誰にも伝えていなかったせいか、ユア以外の全員がちょっと驚いている。

 ユアだけは唐突に知人としてサーヴァントを連れてくるせいか、またかという慣れた感覚を表に出していたが。

「で、どこにいるのよ?」

「あそこ」

 人が立ち寄らない、ポツンと観葉植物が置かれた角を指さす俺。

 全員が目を見張るが、そこに誰か居るようには見えないだろう。実は俺の認識の範囲にもない。だが、俺はサーヴァントとのラインで確かにそこに居るということを理解している。

 拳を掌に包んで前に出すという特殊な礼をしながら俺はそこに向かってお辞儀をする。その行動で気が付いたのか、ユアも誰もいない角へ向かって同じ礼をした。

「良き哉、良き哉。ユアの察しの良さも磨かれたようだ」

 そこから声が聞こえて仲間たちがぎょっとする。誰もいなかったはずのそこから声が聞こえ、それに意識を割いた瞬間に唐突に出現したようなそのサーヴァント。

 李書文、クラスはアサシンながらもその武芸の冴えは三騎士をも凌駕する。

「師父、ご足労をおかけします」

「師父、お目にかかれて光栄です」

「うむうむ。良い功夫(クンフー)を積んでいるようでなによりだ」

 鷹揚に頷くその男性は少し白髪が混ざった程度で、見る者にまだまだ若い印象を与える。

 だがそんなことは些末。ハンター試験を突破した者には分かる、この男に打ち込むイメージができないと。

 アサシンのサーヴァントである李書文を師父と呼んだように、彼は俺とユアの武術の師である。彼以上に武の先達者を呼べなかったし、彼には不足があろうこともないから教えを乞うたのだ。名目上は俺がマスターだが、人間関係上は彼が師匠である。

 どんなにオーラで強化したとしても、相手に拳を当てる技量がなければ無駄である。心源流は念を教えるだけではなくそういった武術も教えているのであるが、俺は世間一般に浸透している武術ではなく、李書文を師に選んだ。達人という意味でも、世界にほとんど流通してないが故に初見の技であるという意味でも、彼の武術は素晴らしいといえた。

「バハト、彼は?」

「李書文先生だ。中国拳法の達人で、俺とユアは師父に鍛えられた」

 クラピカの問いに答える俺。

 リショブン? チューゴクケンポー? シフ? 疑問をあげる仲間たちに意味をざっくりと教える。

 李書文という馴染みのない名前は彼の故郷では一般的なこと。彼はその地方の武に精通し、稀代の天才であること。師父とは師匠と同義であること。

「そしてバハトが仲間を鍛えて欲しいと言うからこそ、儂がここまで出向いたという訳だ」

「お手間をおかけします、師父」

 体面上は李書文が上である。飛行船の中で召喚し、霊体化させていた彼に俺は深々と頭を下げた。

 そんな俺の態度を見てポンズが驚きの声をあげる。

「ちょっと、バハトさん。もしかしてこの方って、貴方よりも強いの?」

「比較にならん。本気で立ち合えば、文字通り一瞬一撃で俺が殺される」

「さっきまで姿が見えなかったのは?」

「まあ、仙術のようなものよ。場に馴染めば気が付かぬ、これが圏境也」

 李書文がそういった瞬間、またもその姿が消える。驚きに目をこらす一同だが、そこに李書文の姿は映らない。

 否、実は映っている。だがそれは違和感がない光景として脳が人と認めないのだ。

 これには利点と欠点がそれぞれ存在し、相手に違和感を抱かせない技である上に絶でも隠でもないから凝でも見抜く事は叶わない。反面、円にはしっかりと捕捉されるのである。まあ円は凝よりも高等技術であるし、日常的に円を使う者はいないといっていいのであまり大きな欠点にはならない。とはいえ、コルトピの能力に代表されるように自分の能力に円の効果を付随させることは有り得なくはないので、絶対の隠密性を持つという訳でもない。

 念能力者でもない者には関係のない話であるのだが。

「……すごい」

 ただただ感嘆の声をあげるゴン。声も出ないレオリオとポンズ。

 クラピカだけがかろうじて俺に問いかけた。

「バハト、お前はこれほどの御仁とどうやって……?」

「情報ハンターで縁に恵まれてな」

 嘘である。情報ハンターという方便、便利過ぎ。

 呆気に取られる一同の前に再び姿を現し、呵々と笑う李書文。

「まあ畏まるでない。儂とて技を伝授するのに否応はないが、なにせ知名度が足りん。そこをバハトに補って貰っているという訳よ。

 持ちつ持たれつ、というものよな」

 俺が強要した嘘をつかせてすまん、アサシン。本人曰く、虚実に貴賎無しだそうだが。この人の価値観が今一つ分からないのがちょっと怖い。

 まあ、俺に害為すタイプでなく、ユアにもその技を喜んで伝授してくれているのでそれ以上は俺も求めないからいいけど。暗殺のみならば凝でも円でも感知されにくいハサンの方が便利だし。ハサンの持つ気配遮断は攻撃の瞬間のみしか察知できないから、隠密活動に最大のアドバンテージを持つのである。

「ともかくバハトが申すに、しばらく修行をする時間があるようでな。儂の出番という訳よ。

 心配するな、真面目に励めば対価はいらぬ」

「でもそんな時間ないよ? 俺はキルアに会って、一緒に世界を旅するだけなんだから」

 無垢にゴンが言うが、それで済めばゾルディックはとっくの昔に賞金首ハンターに狩られている。

 とはいえ、それを説明してもゴンは納得しないだろう。俺は首をすくめて明確な返答を避ける。

「ま、行けば分かるさ。まずはゾルディックの敷地に向かうか。観光バスでそれなりに近づけるし」

「観光バスぅ!? なんで暗殺一家の住み家に観光バスが出るんだよ!?」

 レオリオよ、文句言う前に少しはめくれ。

 このくらいはマジで一般人でも入手できる情報だからな。ゴンはともかく、他の人間はゾルディックに向かうという現実に危機感を持つべきだと思う。

 

 

 試しの門。

 それはゾルディックの私有地と外界との境に建てられた、力を入れれば入れる程により大きな扉が開くという天を衝く巨大な門である。

 文字通り、これは侵入者の力量を試す門。おそらく、門が開いたという事実は執事には届けられるだろう。1の門や2の門程度の開閉は脅威無しと見送られるだろうが、3の門を超えれば多少の警戒はするだろう。

「……嘘」

「マジ、か」

 全力の練をした上で強化系に適性を持つ俺は、念込みの全力で5の門まで開けられたが。

 ぶっちゃけ、相手に警戒されることを考えれば力を最小限に抑えて1の門だけ開けるのが正解だと思う。別に今回はゾルディックに喧嘩を売りに来た訳ではないから、俺がどの程度の実力があるのか試させてもらった訳だが。

 侵入者は己の実力を計り、ゾルディックは敵の実力を計る。なるほど、試しの門とはよく言ったものだ。ここまで大きく門を開けられた事実に、ゼブロなどは絶句していたが。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 とはいえ、全力を振り絞れば息が切れるのは道理。5の門まで開けた俺は結構な疲労感を覚えていた。ここまで消耗するなら、本当に鼻歌まじりで1か2の門に留めておくべきだと思う。

 ――試しの門とは本当によくいったものだ。ここで死力を尽くすバカにゾルディック一族は相手をしないのだろう。やってから気が付くとは、俺も大概バカであると謗りを受けても仕方ないかもだが。ここで楽に7の門まで開けられる化け物こそゾルディックが本気を出すに値する敵なのだろう。俺が知る限り、サーヴァントを除いてはそんな奴はウヴォーギンしか思いつかないけど。

「うむ。力があって損はない。良き功夫であるぞ、バハト」

 そしてそんな俺を褒めてくれる李書文。一応注釈しておくが、彼はここまで筋力を出した事を褒めてくれているのであって、無駄に全力を出した俺を褒めてくれている訳ではない。

「じゃあ皆さんはこのまま本邸へ?」

「いや、俺1人が試しの門を開けられたとしても納得しないだろう? 特にゴンが」

「もちろんだよ! 友達が会いに来ただけなのに試されるなんて真っ平だ!! 試されるなら向こうが文句なしって言うくらいにならなくちゃ」

「という訳です。俺もゾルディックに喧嘩を売る気はないので、ラインを越えるつもりはないので悪しからず。イルミに許可は取っているので、しばらく門を開ける鍛錬をさせてくれませんか?」

 俺以外の誰も試しの門を開けられなかった為か、文句を言う者は存在しない。ユアは練をすれば開けられただろうが、纏はともかく練をするのは俺が許可を出さなかった。なぜかといえば、肉体強度をあげるのにこの場はとても有効だからだ。なにせ、初老を超えたゼブロが未だに1の門を開けられることを維持するくらいに鍛錬が積めるのだ。まだ若い、もしくは幼いといえるみんなには良い修行の場になるだろう。

 そしてその合間を縫って李書文による武術の稽古をつけて貰う。念を教えるのが時期尚早である以上、今は肉体強度を上げなければならない。そのついでに相手に拳を届かせる手段である武が磨かれるのならばなおさら悪くない。

「…………」

 青い顔をしてるポンズ、特にお前だぞ。トン単位程度で絶望的な顔をするんじゃない。念を覚えたらこのくらい普通だからな、マジで。

 ――と、チリと首筋に殺気が届く。やはり5の門はやり過ぎたか。熟練の執事の監視が入ったようだ。

「ゼブロさん、押しかけた身で申し訳ないがみんなを鍛えて貰えないだろうか。

 俺は情報ハンターのバハト。ここのラインまでの情報は持っている」

「え、ええ。それはもちろん構いません。言ってはなんですが、試しの門程度ではもちろん、ラインを越えるまでは注目を浴びないでしょう。

 しかしバハトさん、君は問題があると思うけどね……」

「分かっている。その話を、今からしてくる」

 ミケが去った後、森林の奥から注がれる粘っこい視線を感じながら答える。グリードアイランドに参加した者の言葉を借りるなら、獣には出せない人特有の視線という奴だろうか。

 しかも俺に感じさせることを隠さない辺り、警告と敵意の両方を感じさせる。これを無視したら絶対に面倒事になる。そう感じ取れたからこそ、俺はその視線を送る主へと向かわなくてはならない。

「! バハト」

「心配するな。儂がついていこう。皆は功夫を積んでおけ」

 クラピカが心配そうに声をあげるが、俺のサーヴァントがその心配を切って捨てる。

 まあ、李書文が勝てないレベルの相手では俺がどうあがいても詰みである。ここは彼に存分に甘えるとしよう。

「必ず、戻る」

 そう言い残して俺は闇深い木々の中へと身を躍らせた。そして俺に追随する李書文。頼もしい事、この上ない。

 確かな安心を感じつつ、俺は視線の元へ向かって駆ける。が、何故か視線の主は退却を開始。俺から離れるように動き続ける。

「?」

 話があるのではないか。そう思いつつ追いかけるが、距離はなかなかつまらない。

『マスター』

 と、アサシンから念話が入る。

『どうした?』

『先に幾人かの手練れ。このままいけば包囲網に入るぞ』

 なるほど。1人では分が悪いとみて数で勝負か。武人ではなく、仕事人としてみれば正しい判断である。

 絶で身を隠すとはいえ、圏境を身に付けた李書文が感知できない道理はない。追われる者も、絶妙に差を縮めて追い付かせようとするのは流石である。俺1人ならば、容易に罠にかかっただろう。ゾルディックの使用人が秀逸過ぎる。

『直前で止まる、タイミングを教えてくれ』

『心得た』

 そしてアサシンの停止指示と追跡者に追いつけるタイミングはほぼ同時だった。

 ここまでかよ、ゾルディック。戦慄を覚えざるを得ない。

「――まずはよく見抜いたと褒めておこうか」

 読まれた包囲に意味はない。それを理解しているのだろう、続々と絶を解いてオーラを剥き出しにする執事たち。総勢、5名。

 特に声を出した執事であるゴトーがヤバい。殺気がヤバい。俺ならばスペックでは負けない自信があるが、それを超える覚悟を感じる。念能力者にとって覚悟は警戒に値すべきものである。単純な一戦において、覚悟は容易く実力者を踏み越える。ネフェルピトーに対して全てを投げうったゴンが良い例だ。ゴンほどの才能の持ち主はそういないが、そうでなくてもレベルが違う程度の相手ならば殺しうるのが覚悟。まして俺とゴトーの間にはゴンとネフェルピトーほどの差はない。というか、ネフェルピトーを例に出しては比較対象が悪い。そもそも俺とゴトーならば普通に戦闘が成立するだろう。

 そんな相手に剥き出しの殺意を向けられる。しかも他に4人の援護者が居てだ。サーヴァントがいなければ、俺に勝ち目はあるまい。良くて全員と相打ちだろう。

 言い換えれば、サーヴァントがいるからこそ俺の優位は崩れない。涼し気な顔を保てるというものだ。

「褒め言葉、ありがたく。

 で、用向きは?」

「こっちのセリフだ、ダァホ。

 わざわざゾルディックまで赴いて、ナニゴトだテメェ」

 ゴトーの口調はともかく、主張が正論過ぎる。ラインは越えてなくとも、俺ほどの念能力者や李書文が来れば警戒するなという方が無体。

 とにかく俺は両手をあげて敵意をない事を示す。

「気を悪くしないでくれ。しっかりとイルミに許可を取っている。ラインを越えない限り見逃すと」

「――イルミ様の指示だ。ゴンという来訪者と同時に念能力者が来たらラインの内側に誘えと。

 気が付いていないのか? ここはもうライン越えだ」

 ……。

 …………。

 イ、イルミィィィーーー!! オイ、オマエェェェ!!!

 おいマジか。え、マジか。いやマジか。

「へぇ、思ったよりヌルいラインだな。ゾルディックも情報程に大した事がないと思える」

「――言うじゃねぇか、クソ野郎」

 ちょっと待ってください。本当に待ってください。真剣に待ってください。

 正直、今はポーカーフェイスを保つのに精一杯です。

 いや、この場を切り抜けるならサーヴァントがいる以上は楽勝だけど。ゾルディックとの縁が切れるのは勘弁して貰いたい。

 時間をください、切実に。

「ま、執事如きに期待する方が間違っているか。俺が仕事を依頼するかも知れないのはゾルディックだしな」

「その執事如きに今から殺されるお前が依頼を出せると思っているのか?」

「殺す? お前らが、俺を? 妄想を垂れ流すのは自分の日記だけにしておけよ?」

 ――あ。ダメだこれ。だってもうゴトー達にラインを越えた俺を見逃すっていう選択肢がないもん。

 謝っても殺されるし、無抵抗でも殺される。もう挑発に挑発を繰り返して煽り、死中に活を見出すしかねーわ。

「いいだろう、今日の日記に書いておこう。侵入者を1人、殺しましたってな」

「日記を書くんだ、マメだねぇ。殺した人間なんて明日には忘れそうな顔をしてさ」

「今日しか日記は書かねェよ」

「じゃあ申し訳ない、俺を仕留められないって事はお前が人生で書く日記の全てはさぞ惨めだろう」

「――――」

 殺気と殺意が周囲に満ち満ちていく。

 俺なら警戒以上の対応をしなくていけないが、残念ながらサーヴァントには通用しない。ゴトーたちには容易く背中を見せて、アサシンに後を任せる。

「俺に追いつけたら遊んでやるよ。

 ああ、期待はしてないが、もしお前がゾルディックにかけあえる立場なら仕事の依頼があるかもって伝えておいてくれ。この程度じゃない実力を見せてくれって」

「――殺す」

 ゴトーの声で5人が一斉に襲い掛かる。相対するはただ独り。だがその独りこそ、歴史に名を刻みし英雄である李書文その人。

 念能力者でなくとも、勝利は間違いない。それこそ相手を殺すことなく、意識を失わせるだけも可能だろう。だがしかし一戦一殺を謳う彼にそれは無体であるし、正直1人くらい殺しておいてもいいとは思うからゴトー以外なら殺していいと念話で伝えておく。

 そのまま俺はゾルディックの敷地から去り、一目散に町へ逃げる。この状況でゾルディックの敷地内にいる胆力は俺にはない。

 ゴトーたちを蹴散らした後のアサシンは圏境にてユアの警護につかせ、俺はホテルを取る勇気もないので絶にて町の裏路地に潜み、ひたすら息を殺す。これでも刺客がきたら令呪を使わなくてはなるまい。

 そうして夜を明かし、何事もなかった後の朝。

 

 情報を集めた俺は、自分が賞金首になったことを知ったのだった。

 

 

 


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