殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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016話 念・3

 ゴンに謹慎を言い渡し、ポンズが倒れてから1週間が経った。

「問題ないでしょう」

 そう、ウイングが言う。目の前には未だにベッドから起き上がれないポンズの姿が。

 倒れたその日、高熱を出して起きないポンズを見て俺はすぐにウイングに電話をして大丈夫なのかを聞いた。返答として、生命に関わる程オーラを放出すると、身体能力が弱って重度の風邪を引きやすくなるらしい。珍しい症状ではないが、長引くようなら医者に診せるように勧められた。

 思えば原作でクラピカもヨークシン編の後に倒れた描写があった。1年未満の念使いがあそこまでオーラを酷使したのだから、クラピカも生命に関わる量のオーラを使ったのだろう。寿命を削る制約と誓約を織り込んだとして、やはり反動なしとはいかない証左だ。

 2日で高熱がひいて目を覚ましたポンズだったが、今度は意識の混濁が発生。再びウイングに電話をして状況を聞くと、本能的に把握している念能力を意識的に理解するための意識の混濁だろうという返答がきた。無理はさせず、見守っていればいいと。

 そして今日、大分落ち着いてきたポンズの様子を見にわざわざウイングにご足労を願ったという訳だ。

「……頭がぼーっとするんです。不思議な知識が、湧き上がって。オーラが自分から動くみたいな、けど私の思い通りにもなるみたいな」

「それは決して悪い事ではありません。落ち着いて体に馴染むまで養生して下さい」

 そう言うウイングは優しく笑いかけると立ち上がり、場を辞する前に俺に目配せをしてきた。頷いて、ウイングについて行く。

 その前に。

「ユア、後は頼んだ。何かあったらすぐ連絡してくれ」

「分かったわ」

 ユアを看病役としてこの場に残す。12歳とはいえ、ポンズと同性なユアはやはり看病役に向く。いくら何でも俺がポンズの何から何まで面倒を見るという訳にもいかず、ユアの存在が心底ありがたい。

 後はまあ、ウイングと内緒話をするのにここに居て貰う方便である。

 200階クラスのポンズは地上からかなり離れた場所に部屋が用意されていて、1階まで直通のエレベーターがあるとはいえ少し時間がかかる。

「ウイングさん、酒はいけるクチかい? 世話になりっぱなしだし、奢るよ」

「そうですね、今日はズシも休養日にしています。私もたまにはリラックスしますか」

 くすりと大人の笑いをこぼすウイングだった。

 ウイングが取る宿に向かう途中にある適当なバーに入り、酒と適当なつまみを注文。

 喉を湿らせた後、ウイングは少し険しい顔で伝えてくる。

「バハトさん。ポンズさんはなるべく早く水見式を試してください」

「――特質系か」

 俺の言葉にこくりとウイングが頷く。

「確証はありません。誕生覚醒者を見るのも私は初めてですから。ですが、オーラが自分から動くというのは、特質系にまれにあること。普通ではない能力を発現させるためにオーラが勝手に発動するのです。

 無意識化の発となれば、危険がないとは言えない」

「今は大丈夫なのか?」

「ポンズさん自身が弱っているので今は問題ないでしょうが、回復した時に最も注意が必要になります。最悪、即座にポンズさんの意識を絶ち、ユアさんの能力で念を縛って下さい。

 彼女が自分の能力を支配下におくまで、それは続けるべきでしょう」

「最悪のケースだよな、あくまで」

「そう。あくまで最悪の場合です」

 そこまで悲観しなくていい、心のどこかに置いておく程度でいい。ウイングはそう穏やかに言う。

 しかし――特質系か。どんな能力になるのか、楽しみでもあるし怖くもある。

「俺といいポンズといい、変わった念能力者が多いな本当。ゴンやキルアも才能が素晴らしいし、ユアだって劣っていない」

「バハトさんも特質系ですか」

 おっと口が滑った。だがまあ、ここまで世話になったウイングに系統くらいは教えてもいいだろう。彼が敵でないのは分かっている。

「いや、俺は重複系統。強化と変化に両方適性がある」

「? 念の系統は1系統のみですよ」

「あー。見せた方が早いか」

 俺は水を注文し、軽くオーラを注ぎ込む。すると水の量が増えた、これは強化系。

 続いてその水をウイングに舐めさせる。塩辛い味の変化が起きているだろうから、これは変化系。

「な? 強化系と変化系の両方が出ている。たぶん、適性が強化系と変化系の真ん中にあるんだろ」

「……バハトさん、複数の系統の特徴が出るのは特質系ですよ」

「……え?」

「ですから、5系統以外の変化は全て特質系になります」

 え、いやだってそれはないって。

「いや、ないない。特質系なら強化系とは一番相性が悪いはずだろ? 俺は強化系と変化系の両方の習得率が変わらない。それに放出系と具現化系もだ。これが強化系と変化系の間の系統じゃなければ一体何なんだ?」

 手を振って否定する俺だったが、ウイングは難しい顔をして俺の言葉を肯定してくれない。

 むしろ聞いた事のない話をしてきた。

「バハトさん。有力な説ではないですし、信じている人もあまりいませんから通説ではないです。あくまでこんな考え方もあるのだと思ってください」

「?」

「系統が7つあると唱える人がいるのです。強化系、変化系、放出系、操作系、具現化系。そして、干渉系と特殊系」

「干渉系と、特殊系?」

 初耳過ぎるんだけど。呆気に取られる俺に、ウイングは説明を続ける。

「特殊系は、一般的に言う特質系と同じで、他の系統では説明がつかない発の効果を指します。ただしこれは全ての系統に起こり得るとされ、故に六相図から外れます。

 問題は干渉系、これはオーラに干渉する能力を指します。バハトさんは除念をご存知ですか?」

 こくりと頷く。

「除念師は操作系、具現化系、特質系であることがほとんどらしいです。あまりに珍しい能力ですから、私も伝え聞いた程度ですが。

 そして干渉系を提唱する人はこれを最も強い根拠として推しています。除念は他人のオーラに干渉するからこそ、干渉系というものが存在するのだと。そしてそれは六相図で特質系の位置に存在する。除念師に強化系や放出系、変化系がいないのは他人のオーラに干渉するには習得率が悪いという論理ですね。

 干渉系はまた、己のオーラに干渉する者もいます。こういった人は水見式で、他の系統の特徴を複数出す傾向が強いそうです」

 ふと思う。クラピカの絶対時間(エンペラータイム)も己のオーラの質を変えているといっていいものだった。

 ――だが、ならば俺の能力とはなんだ? 自分のオーラに干渉する? しかし変な反動は起こっていないぞ?

「もちろん、反証はあります。干渉系があるとして、それは自分の意志で発を設定できないというのがほとんどです。これは特質系と特徴を一致させる。また、オーラに干渉するというのは自他のオーラに影響され過ぎる為に効果が全く安定せず、結局は習得率なんてもので計れない。根拠がない妄言だと一蹴される所以です。

 ですがあえてその干渉系があるとして、もしかしたらバハトさんは己の習得率を操作しているのではないでしょうか?」

「…………」

「例えば私は強化系です。強化系の習得率は100%、両隣の習得率は80%でそこから更に離れて60%。干渉系を仮定すれば40%です。合わせて420%です。

 もしもバハトさんがこれを自由に振り分けられるとしましょう。強化系と変化系が100%ずつ、そこから離れれば20%下がって80%ずつ。ここで360%の容量を使うならば、残りの操作系と干渉系で30%ずつ。

 これなら人間の念の習得率とも矛盾がありません。上限の420%を超える訳ではないのですから、リスクもほとんどないでしょう」

「なる、ほど」

 思わず納得しかけるが、急にウイングはあははと笑う。

「なんて、本気にしたんですか? 干渉系なんか多分ありませんよ。そんな系統がなくても特質系で全部説明がつくんですから」

 そう言うウイングの顔はほんのり赤く、くすくすと笑いながらグラスを傾けていた。

 確実に酔っぱらっているが、今の話は妙に腑に落ちた。例えばクロロの盗賊の極意(スキルハンター)やメルエムのオーラの吸収など、発の強奪も相手のオーラに干渉するという意味で干渉系だ。それは特質系の多くに代表される特徴でもある。

 オーラではないが、他人の運命や記憶に干渉するという意味でもネオンの天使の自動書記(ラブリーゴーストライター)やパグノダの記憶弾(メモリーボム)も干渉系といえるのではないか? 操作系が相手を操作するのも、己のオーラで相手に干渉しているとも取れる。

 ――いや、考え過ぎか。俺も酔いが回っているのだろう。それだとシズクのデメちゃんが、重ねて取り込んでしまったものは二度と取り出せないというのは全く干渉系と一致しないではないか。

 まあ、干渉系はあまりに突飛が過ぎるとして、俺が特質系ならば確かに自分の習得率を変化させているとは考えられる。

 考えられるが、だからどうしたという話でもあるのだが。強化・変化系として訓練してきた俺はもう自分の念をほぼ確立している。発もそれに合わせて創り出し、今更習得率を変えられるとしてもそんな気はさらさらない。そもそもとして俺が、強化・変化の重複系統でないという証拠もないのだ。ちょうど系統の中間地点にいる人間が、特質系と同じ水見式の結果になるとしてもなんら不思議ではあるまい。

 っていうかぶっちゃけ、特質系は5系統に属さない訳が分からん発を全部ぶっこんでいる感がある。そこで上げ足取りのように干渉系だなんて叫んでも、まあ大半の者は無視するだろう。気にする必要はない、変な発は特質系で括ってしまってもなんら困る事はないのだから。

 結果は何も変わらない。まあ、酒の肴にはなった話という程度である。

「ところでさっき話題にチラと出たけど、なんで除念師は数が少ないんだろうな。便利だと思うけど」

「ああ、それは念を覚えるメカニズムに原因があるんですよ。発は本人の思想にも強く影響されますからね。そもそも念を知らなければ除念という発想に至らない。そして念を覚えるまでにはほとんど除念以外で思想が固まってしまう。

 除念なんて発想が出るのは念を覚える前から念能力者に長く関わっている人や、誕生覚醒者くらいでしょう。それだって系統が悪ければ除念はできない。除念師のほとんどは特質系に近い系統ですからね」

 下らない夜は更けていく。

 そしてこの翌日。俺とウイングは揃って二日酔いになり、それぞれユアとズシに呆れられるのだった。

 

 そこからさらに1週間。

 ポンズは完全に回復し、自分で創り出した空き瓶を眺めている。その場にいるのは俺とユアであり、キルアはゴンにつきあってひたすら点を行っている。キルアはゴンと同じ条件で念を覚えていくことにしたらしく、ポンズの話もゴンと一緒に聞くとのことだった。

 ともかくポンズだ。彼女はその空き瓶の中に念獣を作り出す。デフォルメされた蜂のようであり、どこか可愛らしく不純なものは感じない。

 小瓶の精霊(ホムンクルス・ハニー)。ポンズは己の念能力をそう名付けた。

 全ての能力を他人に教えてはいけない、切り札は隠し持つもの。俺はポンズにそう教えたが、彼女は仲間にある程度の情報を開示することにしたらしい。いくつか彼女の発の内容について聞くことができた。

 具現化した小瓶の中に物質を入れると、蜂の念獣であるハニーがその物質を分解・解析する。そしてその情報はポンズとハニーに蓄積され、瓶の中だけではなく彼女の掌からでも具現化して作成できるようになるらしい。主な使用方法は毒や薬の具現化を想定しており、そもそもそれらを武器として使う彼女とは相性がいいといえた。更には近接戦闘も不得手ではなくなった以上、毒を相手に直接塗り込むこともできる。ポンズはこの能力を特に区別し、薬毒の妙(アルケミーマスター)と名前をつけた。

 また、瓶の中に普通の蜂を入れれば、その蜂はかなり高度な操作もできるようになったという。今までもポンズは蜂を使っていたが、その精度が格段に上がるらしい。まあ具現化系とは相性が悪い操作系・放出系の能力であるからして、何らかの強い制約はあるだろうが。そこはポンズが語らなかったから俺もユアも聞きはしなかった。

 さて。ここまでポンズに己の能力を語らせて、俺が情報を開示しないというのも不義理だろう。

煌々とした氷塊(ブライトブロック)

 俺はオーラを氷の様に変化させる。それは棒状の形を成し、俺の手に握られていた。ちなみに具現化まではしていないので、非念能力者には見えない。

 とはいえオーラで作り出されたそれは物理威力も伴う。また、俺のオーラで作られた為に強化する事も容易である。武器の扱いもサーヴァントに学んだ俺は、ひゅんひゅんとその棒を容易く操る。

「オーラを変化させて作り出した氷の硬度を強化し、武器にするのが俺の能力だ。もちろん氷の形は自由自在、放出系は苦手だから弓や銃は無理だが近接戦闘の武器は大概作れる」

 それから念を覚える前に見せた能力、清廉なる雫(クリアドロップ)の説明もする。この2つはユアにも伝えていたし、折を見てゴンやキルアにも伝えるつもりだ。

 ユアの能力は存在命令(シン・フォ・ロウ)が明かされたが、それ以外にも発があると言われるだけに留まる。

 留まるが、ポンズが小瓶の精霊(ホムンクルス・ハニー)の説明をしていた時に、ユアのオーラの質が変わってやがった。まず間違いなく緋の目を発動し、特質系になってなんらかの能力を使っていた。カラコンしてるからバレないとでも思ったか。

 ……ギリギリまで自分の発を隠していたし、なんか俺らの中でユアが一番狡猾な気がしてならない。兄としては心中複雑である。

 とにかくポンズはしばらく自分の能力と向き合う事にしたらしく、修行はいったん中断。となると俺としてはユアしか生徒がいなくなるが、あいつはほぼ俺の手を離れている。応用技については教えてやったし、それをものにする為に自分で鍛錬を積むらしく、困ったことや分からないことがあったら俺に聞くくらいにするらしい。やっぱり秘密主義だな、あいつ。

 そういう訳で俺は自分を鍛える時間を多く確保できることになった。念の修行はともかく、武術を鍛えるにはやはりサーヴァントに指導を願うのが一番いい。

「素に銀と鉄――」

 ――抑止の輪より来たれ、天秤の担い手よ!

 

「エミヤさん!」

「久しいな、ユア。元気そうでなによりだ」

 呼び出したのはアーチャーのエミヤ。ご存知の通り、弓兵としての技量はもちろんながらもそれが霞む程に芸達者なサーヴァントである。

 自分を凡才と呼ぶ彼は天才肌で教えるのに不向きな他のサーヴァントと違い、基礎基本から丁寧な指導をしてくれる。彼のおかげで俺は武器を多く扱えるようになったといっても過言ではない。そして一応言っておくが、丁寧な指導と優しい指導は違うものだと強く主張しておきたい。英霊の指導で甘いものなど1つもないのである。

 それにまあ、彼を呼び出したのには他にも下心があって。

「エミヤさん、私またハンバーグを食べたい!」

「分かった。では、デミグラスソースから作るとしよう」

 これである。他にも和風料理も作れるので、元日本人である俺はソウルフードを食べたくなる時にちょいちょい呼び出している。俺にとって、エミヤ最大の価値であるといっても過言ではない。

 とはいえ、エミヤ外見は身長の高くて筋肉もしっかりついた男である。ユアの頭を優しく撫でながらニヒルに笑うその姿からはちょっと料理上手などのイメージはわかないだろう。

「ねえ、バハトさん。エミヤさんがあなたの知り合いなのは分かったけど、料理は上手いの?」

「絶品」

 だからポンズの疑問は当然のこと。とはいえ、一度エミヤの料理を口に運べばやみつきになること間違いなし。

 何を隠そう、俺やユアは彼に料理を習ったのだ。隠すことでもないとも言う。

 鍛錬を積み、そして美味な食事も作って貰える。これほどお得なサーヴァントが他にいるだろうか、いやいない。(反語)

 食事だけなら上手なサーヴァントは他にもいるが、指導まで上手なのはエミヤのみである。

「あ、そうそう。他にも子供の教え子が2人いて、うち1人が入院してるんだ。差し入れで軽くつまめるお菓子も作ってくれないか?」

「承知した、バハト。ユアに作るデザートに合わせて腕を振るおう」

 これでゴンやキルアも喜ぶだろう。エミヤの料理を食べられるというのは相当な御褒美になるのだから。

 その後、お菓子を差し入れた際にはその美味しさにキルアは俺も食事誘えと怒り、以降はエミヤが食事を作る時は毎回こちらに来る事になった。

 そしてゴンはエミヤの料理を食べられない事を本気で嘆いていた。なんか、これが一番の罰になった気がしてならない。ちょっと可哀想だったので、ゴンが退院したらまた食事を作ってくれるようにエミヤに頼んでおいた。俺がマスターだから実質の命令であるし、エミヤはこれを快諾。ゴンは凄く喜び、退院の日を心待ちにする事になる。

 やがてゴンは全快し、退院する事になる。原作の通り、全治四ヶ月のケガを一ヶ月で治しやがった。絶すら禁じていたから、これがゴン本来の回復力なのだろう。

 そしてその日はエミヤが豪勢な料理をふるまう。次の日からの念の修行に大きな弾みをつける事になるだろうと期待できる。

 また。念の、というより戦いの勉強として修業はもちろんだが、見学も大切である。見て学び取る事は多く、200階で見れる念能力者の戦いは参考になることもたまにはある。まあ、200階でウロウロしている連中はレベルが低いことが多いのでそこまで期待はできないが、もちろん例外もあるのだ。

 ヒソカ対カストロ。

 因縁の対決の日が迫っていた。

 

 

 




最近はがっつり更新してきましたが、そろそろしんどくなってきました。
更新速度は落ちるかと思いますが、お付き合い願えれば幸いです。
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