私ってこんな勤勉じゃなかったはずなんだけど。
ちょっと短いですがキリがいいので投稿します。
狙撃手の女であるアサンの念能力には最大限に気をつけて、一気に距離を詰める。
だが……何か様子がおかしい。アサンはほとんど機械的に次弾を込め、標準を狙って撃つのみを繰り返していた。俺に近づかれてもなんら感情を表す事無く、淡々と。そもそも念を使う様子すらない。
(まさか)
嫌な予想が頭をよぎるが、銃撃を繰り返す相手を放置する訳にもいかず。地上から一足飛びに屋根の上まで登り、勢いに任せて狙撃銃を蹴り飛ばす。
「構えて、装填して、撃つ。構えて、装填して、撃つ」
「くそ、やっぱりか!」
操作されてやがる。念を使ってこないからおかしいと思った。狙撃手の女は銃を蹴り飛ばされてもブツブツと虚ろな目で呟くのみ。
一般人ではないだろう、それにしては銃の扱いに慣れていた。どこかの軍人か、傭兵か。そういえば
こうなると念を覚えて間もないポンズに、いきなり念能力者を任せてしまったことになる。あちらは銃弾に周をさせていたから、間違いない。
とにかく急ぐしかない、俺は狙撃手の女をできるだけ素早く縛り上げるのだった。
◇
ポンズは裏路地の奥を見る。
そこには長い黒コートを羽織った女が立っていた。コートの下はへそ出しのタンクトップを着て、下にはジーパンを履いている。ポケットに両手を突っ込んだその女は全体的にチグハグな服装だ。茶色の髪を雑にまとめて、そして鋭い視線でポンズの奥を睨んでいる。
「クソ、仕留めそこなった」
「――」
ポツリとイラついた口調で呟く黒コートの女に向かって、無言で構えを取るポンズ。そんな彼女にようやく視線を移した。
「やることはやった。そっちが何もしないなら大人しく帰るよ」
「いきなり人を襲っておいて、それ?」
至極当然の事を言うポンズに、鼻で笑う黒コートの女。
「ハ。知ってんだよ、ポンズ。お前は非力で組み合いが苦手な事くらい。プロハンターになったという情報は入っているが、念に目覚めた程度で粋がっているのか?
悪い事は言わないから消え――」
最後まで言わせない。李書文に習った歩法にて、虚をつき距離を縮める。
10Mはあった距離が瞬間で半分消え、目を見開いた黒コートの女がポケットから手を抜く。その両手には拳銃が握られていて、既に引き金に指がかかっていた。
路地裏は狭い。たとえユアの補助があったとしても、銃弾に反応したとして回避できる余地がなければ意味がない。
ポンズは地面を蹴り、飛び上がって薄汚れたビルに取り付けられた室外機の上に立ち、更に跳躍。窓の縁を掴み、黒コートの女の頭上を取る。
「チ。話が違う」
悪態を吐きながらも黒コートの女は銃口の位置を修正し、銃弾を発射する。
ユアの補助があったポンズには見えた、弾道がポンズと結ばれていないのを。しかし銃弾自体が意志を持つかのように曲がるのを。
効果はまあ、言うまでもないだろう。正確にポンズに銃弾が迫り、しかし彼女は全く焦る事無く念能力を発現させる。
銃弾をビンの中に入れるように手を動かし、そして中にいる
(具現化する程の熟練度!? しかも、銃弾を止める程強力だと!?)
黒コートの女が驚愕する。それほど、銃というのは単純に脅威なのだ。強化系でもそれなり以上に鍛えなければ銃弾を喰らって無傷とはいかない。そこから系統が離れた具現化系ならば言わずもがなである。
だからこそ具現化したもので受け止めるのは分かるが、そもそも銃弾の軌道を見切るのが困難なのである。ユアのブーストに気が付いていない黒コートの女の驚愕は間違っていないと言えるだろう。そしていちいち驚いていては念能力者同士の戦いはやっていられないという事を失念していた。
ポンズは近くにあったビルの横をはしるパイプをもぎ取り、黒コートの女にぶん投げる。
黒コートの女は咄嗟にそれを避けてしまうが、悪手。狙い通りに相手が動いたポンズは既に次の行動を終えていた。ビルの壁を蹴り、地上に向かって加速。着地したその場所は、黒コートの女の真横。パイプに気を取られた敵の一瞬の隙は逃さない。
(とった!)
鋭い肘撃ち。だがしかし、それは空を切る。
驚きに目を見開いたポンズ。彼女には黒コートの女がいきなり掻き消えたようにしか見えなかった。周囲を探れば、ほんの少し離れたところで発見。どうやってかは分からないが回避されたらしい。何らかの念の可能性もある。
苦々しく表情を歪める黒コートの女とは対照的に、ポンズの顔と心は透き通っていた。
何が一番大きなきっかけだったかといえば、それはポンズの精孔が開いたことに他ならない。あれによってポンズは初めて自分を信じる事が出来た。
幼い頃から、それこそ物心ついた時からあった心のしこり。人並み以上の身体能力はあるのに、何故か思うように動かない体。他の者からしてみれば素晴らしい体捌き一つ取っても、ポンズ本人にとってはイメージの差異が大きな違和感となる。そのせいか、ポンズは体を動かすことが苦手だった。不得意ではない、苦手なのだ。その代わりに物事をよく観察し、分析し、理解することを好むようになる。ポンズはその方向に才能を伸ばしていったのだ。それらは彼女の念能力に強く反映されているといっていいだろう。
だが、練を行ったことによってその枷は外れた。思う通りに体は動き、違和感は全くない。僅かな期間とはいえ、李書文に学んだ体術も十全に活かせる。
それでもポンズの本質は変わらない。彼女は敵と相対した時、堅牢な守りを正面から突破するということを好まない。罠を張り、隙を作り、その合間を穿つように攻撃する。わざと敵に銃を撃たせ、それを受け止める事で動揺を誘う。更に囮としてパイプを投げてそちらに注意を引きつけ、自分が相手の死角に潜り込んで渾身の一撃。命中こそしなかったが、これこそがポンズの
彼女らしさは変わらない。しかし、彼女は以前とは全く違う。苦手な距離というものが存在しないのだ。己の念能力と合わせてどんな状況にも対応できるという自信が、ポンズの念を強くする。
「…………」
流れを一方的に掴まれた黒コートの女の顔は険しい。銃弾に周をする事もできるが、それと同時に
だが、手段がない訳ではない。殺そうと思えばポンズを殺す事は可能だと、黒コートの女は確信していた。実際、後数秒時間があればその決断をしていただろう。
「ポンズ、無事か!?」
そこに新たな敵対者が現れれば話はまた別になってしまうのだが。
◇
狙撃手を行動不能にし、俺が路地裏に飛び込むまでにかかった時間は10秒よりちょっとか。絶対に15秒は経っていない。
しかし辿り着いたその場は互角というには無理がある。ポンズには余裕が満ちて、黒コートの女は苦渋の顔をしながらも次の一手を放とうとするもの。
『ポンズが優勢でした。しかし、黒コートの女はまだ手札を持っている様子』
監視につけたアサシンがそう報告してくる。俺はポンズが殺されようともサーヴァントを晒すつもりはなかったが、それはポンズを軽く見ている訳ではない。サーヴァントを晒すという事が俺の死に直結しかねないからこその措置であり、ポンズには死んでほしくないと強く思うからこその全速力での援護のはずだった。
だったのだが、しかし蓋を開けてみれば。ポンズは初めての念能力者との戦いだっただろうに、主導権を握って戦いを進めていた。それは実に――実に驚くべきことである。
「相手は銃弾の操作をしていたわ。あの速度で意のままに動かれると厳しいわよ、気を付けましょう」
しかも冷静に敵の情報まで共有することもできている。純粋な戦闘においてここまでポンズが頼もしいとは、言っては悪いが凄く意外だ。
それはさておこう。
問題は相手が銃弾操作をしたということである。操作系か放出系が妥当なラインだが、それよりもなによりも銃弾操作する念能力者には1人心当たりがあった。
「お前が
「チ。さすが情報ハンターと言っておこうか。私の情報が漏れてるとは思わなかった」
否定することなく認める黒コートの女――本物のアサン。
正直、舐めていた。ここまで容赦なく攻めてくる手合いは珍しい。人が多い街中でいきなり発砲することも、操作した人間を扱うことも。普通なら躊躇して厭う筈である。
それをなんなく実行するとは、流石はバッテラが見込んで雇う人間だと言うべきか。しかし真に褒めるべきなのは、そのアサンを相手にして一歩も引かないで優勢を維持したであろうポンズであろう。
そのポンズに俺まで加わっては、戦闘行為を続ける気もなくなったのだろう。アサンの戦意が急速に縮む。
「マ、このくらいにしておこか」
「バカが。逃がすとで――」
堅をしたまま距離を詰めようとした俺の目の前で、唐突にアサンが消えた。セリフも聞き終えない早業である。
咄嗟に円を展開するが、少なくとも俺の探知した範囲におかしな挙動をする人間はいない。円は範囲内のおおまかな形を感知するのが基本であるので、行動に異常がなければアサンかどうかの判断がつかない。まあ世の中には人の顔の形まで感知する円の使い手もいるそうだが、あいにく俺はそうではない。
これは完全に逃げられた。
「瞬間移動? また?」
「またってことは、さっきもあったのか。情報によれば、アレは
1人は瞬間移動でアサンの奇襲と逃走を補助しているんだろ。それから、屋根の上にいた狙撃手は操作されていた。一般人を手駒にする能力者もいると思っていい。不明なのは後2人だな」
「なんで襲ってきたのかしら?」
「――情報によれば。俺の『敵』が大富豪バッテラを取り込んだ。アサンはそのバッテラに雇われた手駒だ。
この先いくらでも『敵』を始末しなければあの手合いは送り込まれる」
俺の言葉に、やれやれと肩をすくめるポンズ。
「気が重くなる話ね。けどまあ、いいわ。
私はバハトさんに大きな恩がある。最後まで付き合うわよ」
「助かる」
正直、結構意外です。ポンズはあっさり俺を見捨てると思ったが。
思うだけでも大変な失礼になので、出来る限り表に出さないようにして頭を下げる。そんな俺の態度にポンズは機嫌良さそうに笑っていた。
「なに、私ってそんな薄情に見えたかしら? あなた、情報ハンターの割りに人を見る目が無いのね」
いやはや、返す言葉もなければ否定する要素もない。女性は鋭いものと相場は決まっているが、脱帽である。
信頼に値して実力もある仲間を1人味方につけたと確信したところで。路地裏から出ると、そこには顔を青くしたサダソが。
あ、忘れてた。
まあいい、コイツにはズシがお世話になったしな。意趣返しはたんまりとくれてやらねばなるまい。
「待たせて済まないな、新人狩り。
ちなみに上にいるゴンやキルアはポンズと同じくらい強いし、ユアは更に強い。
そんな俺たちと戦ってくれるなんて、よほどの自信なんだろうな。胸を借りるつもりで全力で相手するように伝えておこう」
「ッッーー!?」
「じゃあ、一緒に行こうか? ユアと戦ってくれるんだろ?」
にやにやと笑いながらサダソの1つしかない肩を組む。言うまでもなくこれは親愛ではなく、捕縛と脅迫である。
人が悪いと困った顔をするポンズだが、彼女も止める気配はない。これも自業自得と諦めて貰うか。
戦いまでは1週間。明日にヒソカ対カストロの試合もあるし、流れでいけば凝も覚えるだろう。滑らかな流ができるとは思わないが、攻防力の勉強もさせておくか。
原作よりも酷くなるであろう戦いを想像し、くっくっと零れる笑いは抑えられなかった。
その後、試合登録をしてズシをウイングの元まで届ける。
ズシが目を覚ますまでに経緯を報告すれば、ウイングは異常な程に無表情。明らかに激怒していることは分かるが、それを一切感じさせないのは熟練の賜物なのだろう。素直に素晴らしい境地だと思う。この怒りを持ちながら、オーラに一切澱みがないところを含めて。
「容赦なくお願いします」
口から発される言葉にも怒気は感じない。ここまで来ると、聞いてるこっちが怖い。一緒に来たゴンにキルア、ポンズとユアも同じようだ。みんなちょっと纏が乱れてる。
目を覚ましたズシは道を歩いていた記憶が最後であったようなので、ウイングが適当に誤魔化していた。
まあ彼もまだ12歳の少年である。わざわざ怖がらせる必要もないというのには同意見だ。
明日にあるヒソカ対カストロの試合を一緒に見る約束をして、その場を辞することでお開きにした。
※
惨殺が終わる。
ヒソカによって殺されたカストロは未だ舞台上に遺されているが、係の者がもう間もなく回収するだろう。
勝利者となったヒソカもダメージが大きく、その両腕はカストロによってもがれていた。しかし問題は全くない。彼が向かう先にいる女性がいれば、その腕も瞬く間に繋がれてしまうからだ。
「今日で確信したわ。あんたバカでしょ?」
「やあ、マチ♥ お待たせ♦」
「ホント待たせやがって。いい度胸してるね」
悪態をつくのはジャポン風の服を着こなす紫色の髪を後ろで束ねた、ヒソカにマチと呼ばれた女性。
彼女はヒソカが自業自得以前の問題で失った腕を、その技量による
「組織がくっつき終えるまで無理は禁物だからね」
訂正、完全ではないらしい。
「う~ん、相変わらず素晴らしい♣ どうだい、お礼の一環として奢るから一緒に食事しないかい?」
「寝言は寝て言え。それとテメーの腕はついでに決まってんだろ。
用事が終わったから帰る」
ヒソカの眼前で、その鋭い眼光で睨みつけていた。それを面白そうに見るヒソカだが、やがてくるりと反転したその背中に声をかける。
「くっくっくっ♥ キミも正直者だねぇ♠」
バタンと奥の扉が閉められて、ヒソカは独り残された。
彼はそれに構う事無く、携帯を取り出して着信したメールを見る。
『業務連絡。
暇な奴改め、全員集合するように。
団長命令。』
目に映ったその文字を見て、ヒソカはニヤァと嗤う。
(……新しいオモチャもできたし、そろそろ
狂気の奇術師、動く。
激動を予感させる9月1日のヨークシンで、ブレーキをなくした物語は暴走を始める兆候を見せ始めていた。