殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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エイプリルフール企画とかはあんまり参加しない方です。
普通に投稿しますが、勘弁してください。


019話 くじら島

 戦いはもはや終盤、最終盤。終わりは誰もが当たり前のように理解している。

 あと一手、あとたったの一手で全てが終わるのだ。喜び、悲しみ、笑い合ったこの戦いの全てが。最後の選択肢は単純にして五分、右か左かを選ぶだけ。その一手でこちらかあちらの負けが決まる。

 ある意味、究極の選択だろう。運を天に任せて半分の確率で、どちらかが決定的に負けるのだ。ここまでに多くを失い過ぎた、そうでない半分を選び取っても決して勝ちだと胸を張れることはあるまい。だが、負けるよりかはいい。絶対的な敗者になるよりかはマシに決まっている。

 その瀬戸際で、選ぶ権利はこちらにある。相手はこちらの選択を阻む権利はなく、ただただ結果を押し付けられる。

 なのに、何故だ。何故、そんな平静でいられるのだ。年を重ね、皺が多く深く刻まれた表情から感じるのはただただ平坦。もはやどんな結果でも当然と受け入れる器の大きさを感じた。感じてしまった。

 ああ、思えばこの時には既に俺は負けていたのかも知れない。理由なく、選んだのは左。そして結果は――

(キング)! 最下位回避ぃ!!」

「なんで7人でやるババ抜きの最下位回避でそこまで喜べんだオメーはよ」

「あんた、妹の居る前でそんな情けないガッツポーズやめなさいよ……」

 キルアとポンズは声をかけてくれる分だけまだ優しい。他の面々は呆れているか苦笑いかのどちらかだ。

 手札に残したジョーカーを場に捨てて、ゴンの曾祖母はよっこいしょと腰をあげる。

「まあ、こんな婆と遊んで楽しんでくれたのなら何よりだわ。だけどまぁ年寄りには若いもんに囲まれるのはしんどくてねぇ。部屋に戻らせてもらうよ」

「うん、分かった。おばーちゃん」

 ミトの声にひらひらと手を振ってその場を外すゴンの曾祖母。っていうか、原作に加えて俺とポンズにユアまでいるが、家は狭く感じない。ミトの両親やジンの両親が住んでいた時の名残だろうか。

 1人が抜けたことでトランプをやる雰囲気でも無くなり、子供組と大人組になんとなく分かれてお喋りに興じ始める。

 

 ここはくじら島。ゴンの故郷である。

 天空闘技場の結末は大きく変わっていなかったので割愛。とかく、念の戦闘経験を全員が1回以上を積んだ上で、ゴンはヒソカの顔に拳をぶちこめた。ある程度の目的は達成したといえるだろう。

 ちなみに正式に退場手続きをとった為、キルアももう1回だけなら最初からやり直せるらしい。ただし、キルアは次がラストチャンス。次に天空闘技場に参加したら最低でもフロアマスターにならないと、二度と参加できなくなるらしい。

 今のところキルアにその気はないとはいえ、まだ彼は12歳と幼い。何億の金も稼げる上に、フロアマスターになれば様々な特典を受けられる機会はあるに越したことはないだろう。

 そんなこんなを経過し、9月1日のヨークシンを迎える前に英気を養う目的でくじら島に寄ったのである。

 俺以外。

「じゃ、俺はそろそろお暇させて貰うか」

「え。バハト、泊まっていかないの?」

 もうそろそろ太陽は沈み、反対側の夜空には星々がきらめいている時間である。ゴンの驚きは当然だが、俺にも俺の事情というものがある。

「最近、あんまり情報ハンターとして活動してなかったからな。ヨークシンに合わせて名前を上げておかないと、最新の情報網から弾かれちまう」

「? ヨークシンは一緒にいけばいいじゃん」

 素で聞くゴンに、俺は素で呆れる。

「お前ね、情報にも売る鮮度があるんだよ。今すぐ情報が欲しい! って客に、今から情報網作りますって答えてみろ。2度と取引なんか持ちかけて貰えないぞ」

「あ」

「一応天空闘技場で試合を観戦して200階クラスの闘技者の情報は載せたけど、その程度じゃヌルいし。フロアマスターは手の内を暴けなかったしな。

 本格的に多少は動かないとなってことさ」

 カストロが生きてフロアマスターに挑戦ともなれば彼の分身(ダブル)は多少の価値があったかも知れないが、ヒソカに殺されたからおじゃんである。かつてそんな使い手がいたなどという情報に果たしてどれだけの価値があるのか。

 言いながら、解かなかった荷物を担いで港に向かうとも宣言。今からならば間に合う最終便の情報は、サーヴァントを使って入手してある。っていうかその時間ギリギリまでは遊んでいたとも言う。

 玄関に向かいながら言葉を置いていく。

「じゃ、9月1日にヨークシンでな。ユアもその時まではゴンたちと一緒に遊べばいいさ。

 後、適度な修行を欠かすなよ」

 

 ◇

 

 バタンとあっさり玄関の扉が閉じられて、ちょっと雰囲気の悪い沈黙がおりる。キルアとユアは比較的平然としているが、直前までの和気あいあいとした雰囲気をまるっと無視したバハトの退出には、少なからず場に影響を与えた。

 ふんすとちょっと機嫌を悪くしたのはミトで、ポンズはある程度の理解を示しているようだった。

「なにあれ。ジンみたい」

「ちょっと感じの悪い都会のビジネスマンみたいね。ま、分からなくはないわ」

 意見が分かれるが、すり合わせるつもりも寄り添うつもりもお互いにない。ミトにはユアがつまらなそうに相づちをうった。

「そうそう。仕事だから~って、私だって何度約束をすっぽかされた事か。もうちょっと妹を可愛がれないのかしら?」

「そうよね、できない約束ならしちゃいけないわ。相手に気を持たせるなんてもっての外よ!」

 ミトはバハトのダメな自由さ――仕事に縛られるのは自由か?――に誰かを重ねているようで、微妙にユアと話が合っていない。が、しかしユアも別に合わせる気はないようで。お互いに好き勝手に愚痴を言い合ってストレスをぶちまけている。

 対してゴンはバハトの切り替えに驚いたようで、どこか納得している様子のポンズに話しかけた。

「ねえねえ、ハンターって皆あんなものなの?」

「半分は、って言おうかしら。ハンターにも色々な区別があるけど、今回の区分は都会派と自然派ね。人が生み出す何かを狩り(ハント)するなら都会の都合に合わせなくちゃだし、自然にある何かを狩り(ハント)するなら自然に合わせる。人間社会に合わせるとあんなビジネスマンみたいな対応になるし、私もアマのハンターとしてああいう人種とも関わり合いがあったわ。手に入れた希少な虫の抜け殻を取引する相手とかね。

 逆に自然派の狩り(ハント)をするなら野生動物とかの生態に合わせなくちゃいけないから、長いスパンをかけて警戒されないように動く。インセクトハンターとして活動してた時なんて、森の匂いを体に馴染ませる為に半月くらい現地調達の食べ物と水で過ごす事もあったわ。しかもその程度じゃ警戒して寄って来ない虫もいるし」

 はぇ~と感嘆の息を漏らすゴン。今の分類とするならゴンは完全に自然派に属し、そのまま虫と友達になれそうなくらいである。

 キルアとしては暗殺者として都会に慣れる事も多かったが、サバイバル技術を身に付ける為に森の中に放り込まれた経験だってあるので驚きは全くない。万能に近い教育をしている辺りは流石ゾルディックといえるだろう。まあ、仕事の都合を考えればやはり彼は都会派だろうか。山や森に隠れた人間を何十億と積んで暗殺を依頼するケースは少ない。プロハンターをターゲットとした暗殺依頼をされないとも限らないので、無くは無いが。

 説明しながら、ポンズは今居るくじら島も自然に溢れた場所だと思い出す。純粋無垢な瞳を向けてくるゴンに、ちょっと自分の知識や技術を広げて自慢したくなるのは、まあゴンの人徳というものだろう。

「今晩はゴンの家でゆっくりさせて貰うとして、明日になったら簡単にインセクトハンターの仕事の仕方を教えてあげる。

 くじら島を教材にしてどう狩り(ハント)をするのか学べばいいわ」

 ゴンはどんなハンターになるのかを考えておらず、色々な事を知りたいと言っていたのを思い出して口にする。

 キルアだって窮屈な暗殺家業に嫌気が差したと言っていたし、ユアは8歳の頃に故郷を離れてからはずっと都会暮らしだ。たまにはこんなこともいいだろう。

「ポンズ、ありがとう。でも、くじら島って俺の庭だよ?」

 ゴンの言葉にポンズの口の端がひくりと動いた。そうだ、そうだった。ゴンはくじら島で人生のほとんどを過ごした野生児であり、鋭すぎる感性を持つゴンをここで相手にしては勝負になるはずがない。

 心の中でちょっとだけ動揺しながら、ポンズは言葉を続ける。

「私がここに来るのは初めてだからね。ハンターが初見でどれだけ情報を集められるのかも勉強になるでしょ?」

「そっか、そうだね。ありがとう、ポンズ」

「オメー誤魔化されてんぞオイ」

 察しのいいキルアは咄嗟に逃げをうったポンズに気が付いたようだが、ポンズはもちろんゴンもスルーした。

 とにかく、インセクトハンターとして活動してきたポンズから教えを受けられるには違いないのだ。それ自体が喜ばしい事であり、文句なんてある筈がない。キルアもそこは分かっているのかツッコミを1つだけ入れて、後は黙っている。

「じゃあ今日は腕によりをかけますか!」

「あ、おばさま。私も手伝います」

「ユアちゃんは料理できるんだ。じゃあ手伝って貰おうかな」

「俺は洗濯機回して、風呂掃除するね」

「ゴン、よろしく」

 先ほどまで離れていたところで意気投合していたミトとユアは、いきなり割り込んで話の流れを掻っ攫っていった。

 そしてあっさりとそれに乗るゴン。多分、ミトの唐突さに慣れているのだろう。この家族と勢いを一緒にするユアを見る辺りに、ハイペースでヨークシンに旅立ったバハトとの血の繋がりが見えなくもない。

 ぽつんと残されたのはお客であるキルアとポンズ。あの勢いに混ざれなかった組である。暇をつぶそうにも、あるのはトランプくらい。

「スピードでも、やるか?」

「やりましょうか。暇だし」

 そこでポンズはゾルディックの恐ろしさを目にし、食事の準備の支度を終えて残った2人を呼びに来たミトは念能力者(プロハンター)の恐ろしさを目の当たりにするのだった。

 

 明けて翌日、ゴンたち4人は森へと入る。

 ポンズのインセクトハンターのレクチャーや、ゴンの穴場の解説などを経て島を巡る。そして水辺でキツネクマのコンからのプレゼントである魚を食べて、また夜。

 全員が空を見上げて星々の輝きを瞳に入れる。

 これからどうしようか。それを話すゴンにキルア、そこに乗っかるユア。

「私もさー、どうしようかなとは思うのよ。これからっていうか、人生で何しようかなーって」

「ユアも?」

 比較的しっかり者のユアは、なんとなく人生設計を細かく設定しているように見えた。そんな彼女が将来に関してノープランだったことが少し意外だったらしく、少しだけだが全員が驚いた様子を出す。

 それに、あーと少しだけ言いにくそうに自分の半生を聞くユア。

「ちなみにクラピカさんとも仲良かったみたいだけど、クルタ族について聞いてるの?」

「……それは、その」

「まあ、聞いたよ」

「幻影旅団に襲われたとかね」

「あっそ。まあ、ある程度は割り切っているからそこはいいわ。お父さんとお母さんの記憶も朧気になってきてるしね」

 昔はよくお兄ちゃんに抱き着いて泣いたけど。そう笑うユアに、笑い返すことは難しかった。

「クラピカさんみたいに復讐に生きるつもりもないわ。けど、私はもう家族を失いたくないの」

「それはバハトを狙う『敵』?」

「聞いてるのね。そう、お兄ちゃんを狙う『敵』を私は許さない。けどそれしかないから、お兄ちゃんの『敵』を倒した後の事は何も考えてないんだよねー」

 ちらりとユアの顔を見たキルアは、その瞳がカラーコンタクトを貫いて緋に染まっているのが見えた。

 ユアにとって、お兄ちゃんはとても大切なものなのだろう。

(ナニカ、忘れている……?)

 ふと、大切な顔が思い出せそうになり、ズキリとした頭の痛みでそれらが全て消える。

 キルアは頭を振って()()な思考を追い出した。今はユアの話を聞く方が優先である。

「だから私はお兄ちゃんにも自分の発は全部見せない。最後の最後、例えお兄ちゃんが操作されて奪われても、お兄ちゃんが死ぬ前に取り返せるように」

「俺だってバハトの友達だよ。バハトを狙う『敵』とだって一緒に戦ってやるさ!」

「ま、俺もね。やることねーし、友達は裏切らない」

 ゴンにキルアも頷いたところで、ポンズも口を開く。

「私もバハトさんには恩があるわ。ハンターの厳しさを再認識させて貰って、李師父を紹介してくれて、念まで教えてくれて。

 バハトさんの『敵』を倒すまでは協力する。それが終わったら――ようやくインセクトハンターとして胸を張れるかな」

 そう言ってゴロンと転がり、ゴンの横顔を見てくすりと笑った。

「プロハンター試験でお世話になった人への義理も返さずに、プロハンターとして胸を張れないって立派な事を言う少年もいることだしね」

「……俺のは自己満足だよ、ただの」

「「「知ってる」」」

 声が3つ揃い、笑いが4つ揃った。

「そして9月1日」

「ヨークシン」

「あのピエロがクラピカさんを呼び出したってことは、そこに幻影旅団が関係するはず」

「大きいイベントだし、バハトさんの『敵』の情報も集まるかもね」

 彼ら彼女らも大きな予兆を感じていた。何かが起こる、何も起こらない筈がない。その胎動を。

 それを確信しつつ、ユアが両親の僅かな思い出話をしたことで親の話になり。ゴンがミトに対する想いも語る。

 木陰にいる育ての親にそれを聞かれていると、気が付いた者は幸いにもいなかったけど。

 

 ◇

 

 ヨークシンは大都市である。大都市過ぎるといってもいい。

 第4次聖杯戦争における冬木の町でも百貌のハサンの手は足りたとはとても言えないだろう。敵はたった6組のマスターとサーヴァントのみというだというのに、結局イスカンダル組の居場所や切嗣の行動を捕捉しきることもできなかった。

 ましてや『敵』のことはほとんど何も分からない今回、その数倍数十倍の大都市というならば何を言わんやである。

 だからすることは絞らなくてはならない。まず確実に調査するのはバッテラ、奴は確実に『敵』と組んでいる。組んでいるというか、支配されていると考えておいた方がいい。となれば、ツェズゲラも敵に回っただろう。金目当てとはいえ、契約ハンターならば寝返る事はないと確信している。そこは相手もプロであるし、しっかりしているはずだ。そもそも、何百億という金は用意できないが。

 そしてバッテラを敵とするならば、天空闘技場で襲ってきた海獣の牙(シャーク)のような傭兵集団にも注意しなくてはならないだろう。だが、襲撃のタイミングはほとんど限定されているといっていい。何せこちらは情報ハンターであり、その筋の勝負ならば上手を取れる自信がある。もしも相手が確信をもって襲ってくるならばそれは原作沿いであるし、ほとんどが幻影旅団がセットで付いてくる。あのレベルの念能力者の集団と関りになるのはリスクが高いだろう。俺も情報ハンターとしての仕事を理由に、ゴンたちとは距離を取るつもりである。

 続けて次の原作であるグリードアイランドへの布石。とはいえ、俺はバッテラに賞金を懸けられている身であるからしてバッテラの募集には参加できない。

 まあ、グリードアイランドなら持っているから問題ないのであるが。

 世界に100の数だけ存在するグリードアイランド。その最大の特徴は、プレイ中は現実世界に帰ってこれないというものである。となれば、急に姿を消した念能力者などの情報を集め、その拠点をハサンに捜索させればプレイ中のグリードアイランドは回収できる。現に俺はこれで2つのグリードアイランドを手に入れた。うち1つは死体が側に転がって停止していたが、まあよくあることだろう。っていうか、グリードアイランドの事を知らなくては普通に呪いのゲームだ。知っても呪いのゲームか。

 それがバッテラに狙われるかもと思った理由であるが、あの大富豪ならばまずは札束で頬を叩いてくるだろうからそこまで警戒していなかったが。まさかいきなり賞金首にされるとは、あの時は本気でビックリした。とにかくまあ、この辺りが『敵』に対して注意すべき点だろう。

 後はマフィアや富豪の情報を覗き、情報ハンターとしても働かなくてはならない。競売という性質上、相手の財布の中身というのは結構価値のある情報なのだ。俺が――というか、ハサンが主に集めるのは屋敷にある隠し財産の部分なので、なおさら価値が高い。これを色々な相手に取引を持ち掛けて抜く、もしくは売る。

 ゴンに言ったことは嘘ではない、やることは結構山積みなのだ。その為に今は魔力を温存しているので、サーヴァントは召喚していない。

「ああ、いい天気だ」

 雲一つない夜空を見上げて呟く。

 敵もいない、護衛もいない。この時間は俺にとって相当に貴重。普段ならばビクビクして過ごさなくてはならないが、その心配がない今は自分1人の時間を思いっきり満喫できる。

 円で船中を確認したのに重ねてハサンにも厳重なチェックをさせた以上、これで敵対者が居たら素直に諦めるしかない。息抜きの時間はとても大切なのである。

 

 確実に訪れるだろう厄介事と、たくさんの仕事のことはひとまず忘れる。

 波に揺られてゆっくりと微睡みを楽しむのだった。

 

 

 




追記

直前に修正前の、変な題名の最新話が投稿されてしまったことをお詫び申し上げます。

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