殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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コロナのせいで外出自粛ならば、私ができるのはこうして作品を投稿し、少しでも飽きを忘れてもらう事くらいしかできない。
楽しんでいただけたら幸いです。



020話 ヨークシン・1

 

 

 ヨークシンについて真っ先にやったこと、それは拠点作りである。

 以前にも語ったが、人間は眠らなくてはならない。そして敵襲に怯えないで休める場所というのが、最低限のラインで拠点に望む条件である。もちろん普通の人間や、なんならハンターだって素直にホテルをとればいい。ゴンやキルアだってそうしていた。

 だが言うまでもなく、俺には『敵』がいる。それもサーヴァントに匹敵するだろう特殊能力を携えた、だ。

 俺はほんの半年前までアマの情報ハンターだったがプロを超えるアマと評されていて、その功績はプロならばシングルクラスとも言われていた。これは99%以上がアサシンのサーヴァントによって得られた名声であると断言していい。それほどまでに、気配遮断のスキルと霊体化の能力を持つアサシンというのはチートが過ぎた。これに加えて百貌のハサンの数の暴力も合わせれば鬼に金棒である。しかもこれはアサシンの得意分野である暗殺の前段階、諜報活動に過ぎないのだ。

 もしもアサシンを存分に扱えるとなれば、賞金首ハンターとしても名を馳せることができただろう。アサシンのみでこれである。サーヴァント全てを扱うならば、トリプルクラスの功績さえも瞬く間に量産しかねない。伝説的にはヘラクレス1人でお釣りがくるだろうし、更に弟子育成能力でさえ李書文を見れば理解できる通りに不足はない。

 恐ろしいのは『敵』もこの程度を警戒しなくてはならない、ということである。どの分野にどの程度のリソースを振った能力かは知らないが、これを脅威に思わないのならば俺はとっくに世界最高峰の1人に名を連ねているだろう。今まで情報分野にしか手を出さなかったのは、そこが最重要だからと思ったに過ぎない。目立てば目立つ程に『敵』に察知されやすくなるのだから。

 どんな能力にも一長一短があるというのが持論だが、例えば俺のサーヴァント召喚能力には明確に3つの弱点がある。1つに時間、2つに数、3つに俺だ。

 時間はサーヴァント現界時間である。霊体化した状態でも、燃費の悪いサーヴァントならば1週間も持つまい。燃費が良くても戦闘状態に入れば瞬く間に魔力を喰いつくし、宝具を発動するとなれば連戦すら危うくなる。ここぞという時の決戦では最高のパフォーマンスを発揮してくれるだろうが、そのタイミングを誤れば切り札は捨て札になり、そのまま過信した俺を滅ぼすだろう。

 数はその通り、同時に他のサーヴァントを召喚できないこと。扱えるサーヴァントは常に1体に固定される。例えば幻影旅団に四方八方から襲われた場合、サーヴァント1体でその全てに対処するのは不可能だ。数を覆せる理不尽さがあるとはいえ、必ず数に勝てるという訳ではない。

 最後の弱点が俺。どんなにサーヴァントが優秀でも、マスターである俺が死ねば意味がない。サーヴァントが強いならばマスターを殺せばいいという、当然真っ当な理屈である。今思えばその為だろうか、俺の念能力はどちらかといえば守りに向いている。煌々とした氷塊(ブライトブロック)は全方位どこにでも氷の盾を創り出せるし、清廉なる雫(クリアドロップ)など多数の条件を課した上でやや苦手な具現化系にまで手を出して癒しの効果を手に入れた。これは俺が心底信頼しているのがサーヴァントに他ならず、念能力はサーヴァントが相手を撃破するまで耐え忍ぶものだという考えが反映されているというのが妥当な気がする。

 もちろん俺1人でもそこらの念能力者より圧倒的に強いが、幻影旅団の戦闘員クラスには多分勝てない。例え念の練度が同等でも、殺しに関する覚悟が全く違う。俺は元日本人だから殺人には多少以上の忌避感があるが、あいつらにそんなものを期待する方が間違っている。そしてその攻撃に対する躊躇いの無さは、念においては直接的に勝敗を決する要素に為り得るのだ。

 さて、長すぎる脱線を経たところで本題に戻ろう。サーヴァントに時間制限があり、それを補う為には安心できると確信ある拠点が必要なのだという話だ。柔らかいベッドや美味しい食事などは2の次3の次。

 気軽にホテルなんぞに泊まってしまえばいいカモである。俺の名前がバハトであるとバッテラに、ひいては『敵』にバレている以上は至極簡単に宿泊場所は割り出せるだろう。ハンターサイトと同等の情報網をバッテラが持っていないと考えるのは楽観視が過ぎるというもので、あっさり情報漏洩してしまうリスクは必ず存在する。その前提を敷いた上でアナログな手段での安全さを求めるならば、スラムの一角や郊外の廃墟などが考えられる。だがスラムには浮浪者の縄張りが存在する為、これまたクチコミで強くて変な奴が現れたと情報が流れかねない。必然、郊外の廃墟という選択肢が最善となってしまう。おそらくは幻影旅団も同じような理屈でホームを決めたのだろう。尤もあいつらは俺のように怯えたのではなく、いちいち賞金首狙いを相手にするのがウザイ程度の感覚だろうが。

 そうして適当な廃墟を見繕い、他の誰かの手が加えられていない事を入念にチェックしたら狩り(ハント)開始。ヨークシンを舞台に百貌のハサンを使って情報収集を始める。

 まずは最重要人物であるバッテラだが、彼はまだヨークシンに来ていないらしい。世界的な大富豪の彼には様々なスケジュールがある訳で、最愛の恋人と一緒になる為に全財産を処分しようと決めた理由の1つにそのような煩わしさから逃れる為と考えるのは普通の発想であると思う。その財産が恋人を救う為の最大の道具になり、それが俺に牙を剥いているとは辛い話であるが。

 続いて仕事としてのハント。こちらはオークションが毎年開催されているから、隠し財産をここに持ち込む者も珍しくないので順調に情報が集まった。現金しかり、売るモノしかりだ。お宝を隠し持っていて、それを闇競売に売りに出して一夜で資産を伸ばすなどザラにある話。どんなお宝を誰が持っているかなどは、ここでは値百金の価値がある。それを暴くのが仕事とは因果な商売というか、まあ俺も真っ当な人間にカテゴライズされることはあるまい。場合によってはその情報を脅しに使って相手から更なる情報を引き出す事を考えると、本当にハンターもマフィアもその他諸々も紙一重である。ここまでくるとゾルディックや幻影旅団の方が自分の仕事や欲望のみに忠実で真っ直ぐな分、比較的マシに思えてくるから逆に笑えてくる。支配欲が強い人間の方がよほどおぞましさを抱えているものである。これだけは人間として知りたくなかったので、情報ハンターの弊害と言えるだろう。

 

 淡々と仕事を続けていくうちに、ヨークシンにて独自の情報網を築き上げる。情報ハンターとしても名を売ったし、ひとまずは及第点の仕事ができたのではなかろうか。

 やがてキルアたちもヨークシンに入ったと電話が入るが、仕事が忙しくて時間が作れないと返事をする。直後、ユアから怒涛の如く罵声を浴びせられた。怒られるままの俺だが『敵』との監視を考えればユアというよりゴンやキルアに近づきたくない。そしてユアを引き取ろうにも、仕事でサーヴァントをフルに使っている為にそれも難しい。結局1日1回以上、時間を見つけて電話をするという形で収めてもらった。まあ、基本的に働いているのは百貌のハサンなので、俺は比較的暇なのだが。

 数日そんな日を過ごし、ゴンやキルアが良いカモになって手持ちの金を減らしているとポンズから呆れた電話を聞いているうちに、そういえばあいつらの目的を聞いていない事実を思い出した。聞いていないことを知っている風に話すのは『敵』のことを考えると大変危険だから、ここは目的を聞いたというポーズが必要なのだ。

「っていうか、なんでゴンやキルアはそんな金を集めてんだ? 天空闘技場で何億か稼いだだろ。どんな貴重品が欲しいんだよ」

『あら、キルアから聞いてないのね。入手しようとしているのはグリードアイランドっていう念能力者専用のゲームよ。ゴンの父親であるジンがそこに自分の手がかりを残した可能性があるとか』

「ジン=フリークスの手がかりぃ!? マジで!?」

『そ、そんな驚くことかしら?』

「ったり前だろ、むしろ俺が買いたい。精度にもよるが、追跡可能な情報なら100億の値がつくぜ」

『嘘っ! そんな高いのっ!?』

「高いってか、供給がほぼ無いから値段なんか付けられない。俺も1回依頼されたことがあるけど、結果は失敗。価値のない屑情報が断片的にって感じで、依頼人の満足は得られなかった。

 それでも同業者からの評価は上がったぜ、屑情報でも()()ジンの情報を拾えただけで評価された」

『そこまでなのね……。電脳ページで極秘指定人物だったから凄いとは思っていたけれど、想像を超える話だわ』

「けど、うーん。俺が集めた情報でジン=フリークスに直結するものがグリードアイランドにあったとは思えないが……」

『言って納得する子じゃないでしょ、ゴンは』

「まあ確かに」

『私とユアは無茶な金策はしないで、ゴンとキルアの失敗を見て勉強しているわよ』

「俺が言うのもなんだが、お前らも結構薄情だよな」

『いちおう忠告はしたわよ、生半可に手を出したら火傷するだけだって。それでも挑むのはあの子たちの勝手。

 人のお金の使い方にまでケチをつけられないわ』

「そりゃそうだ」

『それでバハトさんはいつになったら合流できそうかしら?』

「そうだな、遅くても9月2日には1回合流する」

『できれば早く合流して欲しいわ。ゴンやキルアと一緒にいるのは楽しいけど、同じくらい疲れるもの』

 ため息を吐くポンズに同感である。彼らはビックリ箱みたいなもの。ワクワクドキドキもするが、四六時中一緒だと気疲れもひとしおだろう。

 苦笑しながら通話をオフにする。そして笑顔を消して入手したばかりの情報に目を通した。

 それはノストラードファミリーの情報であり、つまりはボスの娘であるネオン=ノストラードの到着時刻。及び、彼女たちが泊まるホテルのそれである。

 クラピカには悪いが、彼は今回の本題ではない。目的はネオンの占いである天使の自動書記(ラブリーゴーストライター)だ。彼女の父親であるライトが語っていた通り、未来の確実な情報というのはあまりに魅力的だ。特に俺は幻影旅団や『敵』と相対する可能性があり、ひいては死ぬ可能性も高いとなれば是非とも占って貰いたい。

 その為の手段は用意してある。懐に忍ばせた小さくて透明な瓶に入ったそれ。世界七大美色である、クルタ族の緋の目だ。1つしかないそれは、俺の左目。これをエサにして、ネオンに直接依頼を申し込む。

 ネオンの能力はその月の予言をするというもの。車の中で予言をしていた描写があったが、あれは毎月初めにするネオンの仕事だろう。つまり9月1日の出来事であり、そこからネオンはヨークシンについてダダをこねて疲れて寝込む。その間にダルツォルネがライト=ノストラードに指示を受けて指揮を執り、夜の競売に臨む。幻影旅団の襲撃があり、クラピカの闘いが始まる。

 このゴタゴタの間、ネオンに護衛がいた描写はない。いたのはおそらく侍女2人と、スクワラに操作された犬くらいだ。その程度ならば、ネオン本人を懐柔すればなんとでもなる。サーヴァントを使えば勝算は十分にあった。

 今はとにかく情報をため込み、来る日に向けて準備をするのみだ。

 

 そして9月1日、オークションが開催される。とはいえ、初日や二日目は人々が盛り上がる為の前座に近く、主催者側も本気の品はあまり出さない。出たとしてもオークションの目玉としてここ1番で出すかどうかだろう。大物は様子見なことも少なくなく、まだ前夜祭の様相を抜けきっていない。

 ゴンたちとの接触も最小限に抑える。かかってきた電話は無視し、メールで送られてきたレオリオと合流したということだけ頭に入れる。彼らはこれから腕相撲でエサを撒き、裏の人間を釣り上げるのだろう。幻影旅団ともかかわる為、俺は積極的にスルーしたいので合流を9月2日に設定したのだ。ネオンに占って貰うことも含め、そこで20億の賞金首が幻影旅団である話を聞いてから情報ハンターとして動くとして離脱する。後は推移を見守ればいい。っていうか、この辺りは歯車が狂うと本当に仲間が死にかねないので、できる限り原作に沿って欲しいところだ。

 俺はゴンたちの事をいったん頭から追い出し、監視に集中する。監視するのはもちろんネオンのホテルであり、百貌のハサンのほとんどをここに集結させて厳戒態勢をとっている。ちなみにバッテラはまだヨークシンに来ていない。彼のスケジュールを把握したところ、やはりというかグリードアイランドの落札にしか興味がないようだった。

 ――あれ、おかしいぞ? 『敵』によって恋人の治癒が為されるならば、グリードアイランドなんてものに頼る必要はなくないか? ツェズゲラが情報を持ち帰った今ならば大天使の息吹の存在を確信しているだろうし、それを求めるということは未だ恋人は治癒されていないということか?

 いや、考えてみれば当然か。バッテラは恋人を治癒して貰えれば本気で俺を追うこともないだろう。だからこそ例えば瀕死の人間を目の前で治癒したことでバッテラを信用させ、俺を生け捕ることを条件に恋人を治癒する。これなら未だに俺にツェズゲラが迫っていないことにも納得がいく。彼は彼でグリードアイランドを攻略中、サブプランとして海獣の牙(シャーク)などといった傭兵集団で俺を狩り(ハント)するのだろう。魔女の若返り薬などはそうじゃなくても欲しいだろうしな。

 と、目の前でいかつい男たちが黒塗りの車に乗って急発進する。俺の円で感知できる範囲だけでも向かう先は砂漠地帯。原作通り、幻影旅団の襲撃があったと思っていいだろう。

『いい隙だ。やれ、ハサン』

 俺は百貌のハサンの命じてネオンの護衛の犬と、侍女たちを昏倒させる。もちろん後遺症などを残すような真似はさせず、ただ眠らせただけである。

 そして邪魔者がいなくなったホテルを悠々と歩き、ネオンが眠っている部屋に到着。鍵は部屋に回ったハサンに開けさせる。眠る侍女たちがいる部屋を通り過ぎ、ネオンが暴れ疲れて眠る部屋へ。

 ぐっすりと眠るネオンの肩を揺すって起こす。

「ネオン。ネオン=ノストラード、起きてくれ」

「う~ん……」

 ゆっくりと目を開けたネオンは、目の前にいる俺に驚いて叫び声をあげようとする。

 その前に、咄嗟に手を出してその口を閉ざす。同時に茶目っ気を込めたウインクを1つ。

「騒がないでくれ、俺は君の敵じゃない」

「むー、むー、むー!」

「君のお父さんが余りに横暴だからね、酷いと思ってきた情報屋さ。お土産もある」

 そう言って、懐から俺の緋の目を取り出す。

 いきなり出された貴重品、しかも自分が欲していたもの。ネオンは驚きで暴れるのをやめてくれた。

「情報屋と言っただろう、君が緋の目を欲しがっているのは知っているのさ。

 話だけでも聞いてくれるかな?」

「…………」

 少しだけ悩んだ様子だったが、未だに俺がネオンに危害を加えないのと緋の目が目の前にあるという現実の前にコクリと頷く。

 慎重にネオンの口から手を放す俺だったが、ネオンは純粋に俺を見上げて声を出す。

「私がパパに欲しいってずっと言ってたのに、緋の目がオークションに出されたって知ったのも最近よ。

 お兄さん、よく見つけられたね」

「ま、腕は確かなのさ」

 自分の情報が漏れていることなどに危機感を感じない辺り、扱いやすいと見るか危なっかしいと見るか。

 俺には関係ない事なので放っておく。

「それに聞いた話によれば、今回は君が直接自分の手で品物を手に入れたいと思っていたにも関わらず。お父さんは君を競売に参加させないと、急にホテルに縛り付けた」

「そうそう、そうなの! ひどいよね、今回のオークションには私が参加するって約束でたくさん占ったのに!」

 ぷりぷりと怒るネオンに、頷きながら俺はネオンの説得にかかる。

「そこでだ。もしも君がこの人物の占いをしてくれたなら、この緋の目を譲ろう」

「えっ、1回の占いでそんな貴重品を譲って貰っていいの?」

「もちろんだ。しかもこれは俺と君だけの間で締結されたビジネス。ネオン、()()()()()()手に入れる報酬だよ」

「やるっ!!」

 即答。ニコニコ笑顔のネオンだが、俺も内心笑いが止まらない。

 紙を手渡し、ネオンはそれを眺める。

「バハトさんね、必要なこともちゃんと書いてあるし。おっけーおっけー。

 じゃ、いくよ」

 

 天使の自動書記(ラブリーゴーストライター)

 

 ざかざかと凄まじい勢いで詩が書かれていく。そんなネオンの瞳は焦点が合っておらず、内容を理解していないのは明白。まあ、そういう能力だから仕方ないが。

 あっという間に占いが終わり、ネオンの瞳に光が戻る。

「終わったよ、はい」

 渡された詩の、最初の一節に素早く目を通した。

 

 ~

 

 陸海の悪魔が登った舞台 月達が紡ぐ物語を共に離れて見る

 陸の悪魔は狂った月に焦りを浮かべ 海の悪魔は深淵で笑みを浮かべる

 孤独に悲しみ猛る睦月に触れよう 海の悪魔が胸を見せるから

 代わりに魔女に光を捧げよ 1つだけなら眠気はない

 終わりに島へ向かえばいい その時なら睡魔から逃げ切れるから

 

 ~

 

(眠りの比喩は死の暗示……!)

 やはり一歩間違えれば死ぬ場面だったか、ネオンに接触して正解だった。そして月は幻影旅団の暗示だった筈、睦月は1番のノブナガだ。狂った月とはヒソカしかいない、やはり何かやらかすのかあの野郎。

 だが、敢えて幻影旅団と接触しなくてはならないのか? 危険なだけだと思うし、必要だとは思えない。だが、ネオンの占いは100%当たる。

 分からないのは陸と海の悪魔という表現。2人を指している辺り、俺と『敵』のことだと思うが、どっちがどっちだが分からない。俺は陸の悪魔なのか、海の悪魔なのか。はたまた『敵』とは関係ないのか。

 島に向かえというのはグリードアイランドに行けという意味だろう。終わりは、週末かそれともすることをしたらとっとと向かえという意味なのか。ここも冷静に見極めなくてはならない。

 だが気になる一節もある。これは一体?

(魔女に光を捧げよ)

 切り札を切れという意味か? そこまでの事態が起きるのか? それより魔女とは――メディアか? メディアに切り札を切れとはいったい?

(あ)

 違う。令呪か、そっちだ。確かに令呪は発動する際、淡く赤く光る。それなら1つだけという言葉にも矛盾しない。

 つまりこの予言は魔女メディアに令呪を使えという意味か。悪属性のサーヴァントを呼ぶには相当悩ましいが、そういう場面に追い詰められると思うべきだろう。

 そこまでを考えて、予言をしまう。これ以上考え込んでいては無駄に時間をかけてしまう。

 予言を見ていた俺を、満足そうに見ているネオン。彼女自身は占うことも好きだったか、たしか。それがこんな未来予知になるのだから、本当に念とは分からないものだ。

「満足してくれた?」

「ああ、見事だ。これが約束の報酬」

 一切の未練なく、俺は俺の左目を差し出す。それを喜んで受け取ったネオン。

 とたんにその喜色が消えた。そして冷たい声で言い切る。

「これ、いらない」

「? どうした、本物の緋の目だぞ?」

 いきなり機嫌が変わったネオン。これは驚くなという方が無理だろう。普通なら偽物を疑うが、これに限っては紛れもない本物である。だって俺の左目だ、間違いなんてあるはずがない。

 だがネオンは、偽物を掴まされて機嫌を悪くしたという風でもない。言うならば、急に興味を失ったといったところか。

「だってこれ、生きてるし」

「!!」

「人として希望が残ってるよ、この緋の目。目だけになってまで、まだ未来を見てる。

 私、そういうの要らないんだ。私が人だったものが欲しいのは、そこにかつてあった情熱を感じられるから。

 ――どんな形であっても、そこに愛があれば輝きがあるんだ。そういうの以外は手に入れてもすぐに倉庫にしまっちゃう。

 でも、この子はそれさえも可哀想。だって生きているのに、未来も見えない場所に置かれるのは悲しいよね」

 ……俺は、ネオンという少女を本格的に誤解していたのかも知れない。

 確かに彼女は原作で描写が多かった訳ではなかった。短慮で我儘、簡単にクロロに念能力を盗まれた哀れで情けない少女。猟奇的な趣味を持ち、それが許されたマフィアの娘。理解が及んだのはその程度だろう。

 だが、ネオンは人と人だったモノを明確に区別している。そして彼女なりのやり方で、遺体から人生を見出して愛しているのだろう。さもなくば、この緋の目が生きているなんて理解が及ぶ筈がない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()。念の制約上、片目を抉り取らなくてはならなかったが、最終的に俺はネオンから緋の目を奪い返すつもりだった。サーヴァントを使えば可能だという打算もあった。

 そんな薄暗い打算を簡単に乗り越えて、ネオンは俺の緋の目はまだ生きているといい、だから自分の手元には置かないという。

「……分かった。じゃあ今回の報酬は、借り一つで」

「うん。それでいいよ、じゃあまたね。()()()()()

 ネオンは左目に眼帯を付けている俺の顔を見ながら、笑顔でそういうのだった。

 

 ネオンのホテルから去り、拠点に戻る。そこでじっくりと紡がれた予言を読む。

 とはいえ、実はさっきの部分以外に書かれた詩はない。つまり、本来の運命ならば今週に俺は死んでいるはずだった。

(危ねぇーー!!)

 心底ほっとする。逆に言えば、今週に何か仕掛けられるのは確実ということ。そしてそれから逃げるのが大切なのだろう。逃げる先は予言の通りにグリードアイランドか。1つだけ未起動のグリードアイランドが手に入っていて本当によかった。ジョイステ本体は持ち歩く気は起きなかったが、グリードアイランド単品ならば話は別である。ジョイステ本体は簡単に入手できるし。

 さて、問題はこれからどうするかである。予言に従えば生き残るのがネオンの占い最大の長所であり、ここで示されたのは3つ。

 ノブナガに会うこと。メディアに令呪を使うこと。グリードアイランドに逃げること。

 これがネオンの占い最大の短所であり、どんなタイミングだとか1週間あるうちの何曜日だとかいう情報が皆無なのである。これが死ぬ前提だと怖くて仕方がない。

 だが、順番が狂うことはないだろう。まずはノブナガに会わなくてはならない。

(ノブナガにねぇ)

 正直、無茶言うなという感想である。幻影旅団はだいたいが集団行動をしているし、個人行動をする描写なんてほとんどない、例外はクロロと――

(ノブナガがアジトでゴンとキルアを逃がした時!!)

 あった、ノブナガが単独で行動するタイミングが。しかも他の団員はマフィアたちを殺しながら競売品を奪うタイミングでアジトに戻る可能性は低い。これ以上ない絶好の機会だ。

 幻影旅団と接触する気がなかったから選択肢に入れていなかったが、これなら確かに『孤独』というワードにも合致する。

 と、ふと気が付いたら太陽の光を感じた。あまりに集中し過ぎて時間を忘れていたらしい。同時、携帯が鳴る。

 発信元はユア。

「もしもし」

『あ、やっと出た。ちょっとお兄ちゃん、今日は本当に合流できるんでしょうね!?』

「もちろんだ。そっちは何かあったか」

『ええと、ゴンが腕相撲をして挑戦料を巻き上げたって話をしたよね。

 で、なんかマフィアっぽい人間が腕利きを集めて賞金首探し染みたことを始めたのよ。

 それがキルアの予想じゃ幻影旅団かもって話だし、ゴンも引かないし! 幻影旅団は流石に無理よ、お兄ちゃんからも止めて!!』

 ユアはクルタ族が緋の目になった時にどれほどの力を出すのかを知っている、そのクルタ族を狩った幻影旅団とは実力的にも心情的にも関わり合いたくないのだろう。気持ちはよく分かる。

「話は分かった。で、みんなはどう動いてる?」

『ゴンとキルア、レオリオは張り込み。この広いヨークシンで人通りの多い所を適当によ? そんなとこに幻影旅団が現れるかってのよ。呆れるわ』

 現れるんだな、これが。まあ、ゴンたちは見つけられないが。

『とにかく、お兄ちゃんからも言ってやって。今までは黙っていたけど、今回のは酷すぎる』

「分かった。とりあえず、そっちに合流しよう。ホテルに向かうから、ゴンたちにもいったん戻るように伝えてくれ」

『ホント、早くしてよね』

 ユアはそう言って通話を切る。

 会話を終えた携帯をしまい、俺は側にあったノートパソコンを手繰り寄せて情報サイトを立ち上げた。裏の賞金首サイトであり、マフィアが賞金を懸けるならばそこにも幻影旅団の情報が載っているという予想だ。ちなみにネット環境は廃墟でもしっかりと整えている。これがあるのとないのとでは差があり過ぎるから多少の手間はかけたのだ。

 これはノブナガが間違いなく載っていることを確認するだけの作業。そのはずだった俺は、完全にフリーズした。

「バカな……」

 思わず言葉が漏れた俺を誰が責められよう。

 確かに居た、ノブナガが居たのだ。だがしかし。

 マチがいない。

 代わりに、見たこともない黒色の髪をした男が映っていた。原作に存在しない、完全なるイレギュラーが唐突にノートパソコンの画面に現れた。

「誰だコイツ……」

 どうしてこんな事が起こっている? 決まっている、『敵』が起こした行動のせいだ。マチを殺してコイツが代わりに幻影旅団に入ったか? しかしマチは天空闘技場でヒソカに念糸(ねんし)縫合(ほうごう)を施している。この短い期間にマチが死んだとは考えにくい。

 いや、死んだのはマチじゃなくてもいいのか? 他のメンバーを殺して幻影旅団に入り、今回の仕事をマチの代わりに受けた。

 ではこの黒色の髪の男が『敵』か? 俺に正体を見せつけるようなそんなミスをするか? 俺のようにクルタ族として生まれたのならば生き延びる為に原作改変をしなくてはならないが、幻影旅団に入って俺との戦いにどんなメリットがあるというのか。

 まてまて。『敵』は操作系だった、黒色の髪の男を操っているだけという可能性は? 旅団クラスを操作する? 可能か? 特殊能力を使えば可能なのか? それをするなら旅団全員――いや、クロロだけでも操作すればいい。それで幻影旅団全てを操れる。

 いや、無理だ。百歩譲って、特殊能力も使ってクロロを操作するとしよう。だが、誰かに心酔するクロロを見れば大半の旅団員は彼に愛想を尽かすだろう。彼のカリスマなくして旅団は旅団足り得ないというのが俺の見解だ。それにヒソカが旅団に入るメリットも――いやまて本当にヒソカはこの世界で旅団に入ったのか? 俺はその確認をしたのか?

「ヤバイ、ヤバイぞ……。とにかく落ち着け、俺」

 想定外過ぎる事態に混乱が収まらない。

 必死になって落ち着こうとするが、混乱する思考は暴走をやめてはくれなかった。 

 

 

 




誤字報告をして下さる方々。
いつも本当に助かっています。本当にありがとうございます。

っていうか、今回凄い大変だった……。
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