殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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まだまだ頑張るよ!
外に出る時間の代わりに、私の小説の粗を探すといい!!


021話 ヨークシン・2

「あ、バハト!」

「おせーぞ!」

「すまんすまん、ちょっと拠点(ホーム)が遠くてな」

「? ヨークシンでホテルを取ってないの?」

「いちおう、狙われる立場でもあるからな。警戒しているのさ」

 しばらく呆けていたせいでホテルでの待ち合わせに間に合わなかった為、昼ご飯を食べているユアたちに指定されたレストラン、というか食堂に着いて適当に大量に食事を注文する。いや、念能力者って燃費が悪いのか、その場にいる全員が大食漢だった。俺にゴンにキルア、ユアにポンズにゼパイル。

「で、この人は誰だ?」

「俺はゼパイル、鑑定士だ。アンタは」

「バハト。情報ハンターだ」

 そう言いつつ、名刺を差し出す。ゼパイルはそれを受け取りつつも、自分の名刺は出さない。

 よくある話である。名刺を出すということは、依頼を聞いてもいいという合図だ。言い換えれば、最低限の信用がそこには必要になる。彼自身が語っていたように、コイツとは絶対に取引しないと思う人間もたまにはいる。それを見極めないで名刺は普通出さない。

 俺が出した訳は、ぶっちゃけポカだ。ゼパイルという人間を原作で知っているからこそ思わず名刺を出してしまった。胡散臭そうにゼパイルに見られるのは仕方がないだろう。逆の立場なら、俺がその視線を相手に送っている。

 そこらをさらっと無視して、席に着いた俺はゼパイルの隣に置かれた像に目を送る。

「その品は?」

「……ゴンとキルアが見つけた品だ」

「お前が買い取ったのか? いくらで?」

「……」

 沈黙を通すゼパイルにやや空気が重くなる。

 慌てたように口を挟むゴン。

「バハト、違うよ! ゼパイルさんは俺たちが騙されそうになったところを助けてくれたんだ」

「ん?」

「目利きが必要ってんで、ゼパイルさんに協力を仰いだところよ」

 ポンズがやや退屈そうに口に出した。まあ、インセクトハンターが面白いと思う分野ではないよな。

 大雑把に話を聞き、今現在が下見市に出す直前の場面だと把握。

 同時、ゴンとキルアの頭をポカリ。

「って~」

「何すんだよ、バハト」

「何すんだじゃねーよ、馬鹿野郎。たかが数十万程度で念の情報を漏らしてんじゃねーよ」

「その木造蔵は億を超えるぜ!」

「金だけで念の情報を売るんじゃねぇって叱ってんだよ!」

 反省の色が無いキルアにはもう一発拳骨をくれてやる。いや、マジでここは浅慮が過ぎる。コイツラは念を何だと思っているのか。情報の世界にもほとんど流通していない代物だというのに。まあ、情報の世界はプロハンターが常に目を光らせているから、下手に情報を流そうとするバカが居たら即刻見つかる。そして一山幾らの暗殺者に依頼されて、だいたいがあの世行きだ。

 そのことを教えると、ゴンとゼパイルはちょっと顔を青くした。ユアとポンズも強張っている。それがどうしたという反応をしているのはキルアくらい。

「ゼパイルとか言ったっけ? 聞いちまったものは仕方ないが、あまり吹聴しないことをオススメするぜ。下手に口を滑らしたらマジで命の保障はしないからな」

「お、おお。忠告感謝するぜ。ってか、お前も情報ハンターだろ。俺を売らないのか?」

「利益にならん情報は扱わない。金にならずに恨みだけ買うなんてゴメンだね。

 ってか、纏ができるなら念能力者の道に片足を突っ込んでるから、その気があるなら念の師匠を紹介するぜ?」

 あ、ギリ説得力が出る展開になった。

 ゼパイルに渡したばかりの名刺をしまった場所を指さしながら声を続ける。

「その気になったら連絡をくれ」

「ってか、お兄ちゃん。ゼパイルさんが念能力者って気が付いたの?」

「正確には念能力者未満って雰囲気を読み取った、という方が正しいか。長年念能力者をやっていれば、できそうな奴はなんとなく分かるしな。プロハンター本試験に進んでいた奴らはだいたいそんな雰囲気あっただろ?」

 ゴンとキルア、ポンズに問いかける。ゴンとポンズは納得を得たようだが、キルアは「そんなデキる奴らだったかねぇ」と呟く始末だ。これだからゾルディックは。

 そしてプロハンター本試験という言葉にゼパイルは目を丸くする。

「アンタ。情報ハンターって言っていたが、プロか?」

「プロハンター試験には今年に受かったばかりだけどな、アマとしては4年程活動している」

「いや。ゴンといいポンズといいバハトといい、らしくねぇな。俺が知っているプロハンターはどいつもこいつもどこか狂っているような奴らばかりだったから」

「もうちょっと俺を知った後にその言葉が言えたら、あんたも大したモンだよ」

 冷笑を受かべてやれば、ゼパイルの顔が引きつった。いやまあ実際、俺も結構エグい事はやっている。情報ハンターなんて言っても、やっている事は窃盗や盗撮と同じだ。公的機関に依頼されて犯罪者や反政府組織関係者のみを狩り(ハント)しているから許されているのであって、一歩道を踏み外せばただの無法者。こういった事例が多いから、自分の興味ある分野では犯罪を犯すプロハンターが後を絶たない。そういう訳で才能の保護というか恩赦的取引の意味が強く、プロハンターは超法規的に守られる事が認められているのだ。

 盗み出す時にはサーヴァントを使っているから血を見た事はないが、盗み出した情報を売れば足がつくことだって少なくない。となれば報復的に暗殺者が送り込まれたことだってあるし、そいつを返り討ちに殺した事だってある。例え情報ハンターだろうが、血の臭いがしないなんてことは有り得ない。

 まあ、俺よりも。俺の隣で他人事のように聞いているキルアの方が余程人を殺しているだろうが。オンオフの切り替えができる殺し屋は普段ヤバイ雰囲気を出さないから読みにくい。

「ま、いいや。それで、そっちで稼ぐ算段を付けたってことは、幻影旅団を追う事は止めたんだな?」

「そんな訳ないじゃない、お兄ちゃん。レオリオが今、電脳世界で情報集めているわよ」

 安心した風を装って言うが、当然のようにユアに否定された。ちなみにゼパイルはユアのお兄ちゃん発言にちょっと驚いている。そう言えば兄妹だって言ってなかったな。

 ゼパイルを無視して渋面を作る俺。

「流石に正気を疑うぞ。幻影旅団を狩り(ハント)するっていうのは」

「でも20億だぜ、20億!!」

「死んだら元も子も無いだろ。と、言いたいところだが」

 前言を翻した俺に、ゼパイルを除く全員が目を丸くした。逆の立場なら俺も同じ表情をしただろう。

「実は俺の『敵』について、幻影旅団に情報があるらしい。ある筋からの間違いのない情報だ」

「マジかっ!?」

 都合が良すぎる話にキルアが驚きの声を上げた。

 だが話は最後まで聞け。俺はお前らと行動を共にするとは言っていない。

「ああ。だから俺は情報ハンターとして全力で動く。相手が幻影旅団なら、奥の手を使わざるを得ない場面も出るだろう。

 それはもちろん、お前たちにも見せる訳にはいかない」

「バハト、俺たちは仲間じゃないの?」

 傷ついた顔で俺を見るゴンだが、ここはキッチリと釘を刺して置かなければならないところだ。

 厳しい目つきでゴンを見やる。

「仲間でも、だ。むしろ俺の念能力の一部を見せただけでも十分な信頼だと思っている。今まで、ユアやほんの一握りにしか教えていなかった情報だ。

 ゴン、キルア、ポンズ。良い機会だから重ねて言う。秘密を喋らせる操作系なんて珍しくもない、自分だけが持つ切り札を大事にしろ」

 ユアには幾度となく聞かせたし、あいつは結構秘密主義だと分かっているのでもう言わない。初歩の初歩だからこそ、重ねて言う意味は薄いのだ。キルアなんてもう言わなくてもいいくらいにはしっかりした目で頷いている。未だに実感が沸かない様子のゴンにはもう少し繰り返さなくてはならないだろう。

「とにかく、俺は幻影旅団の賞金にはあまり興味がない。もちろん絶好の機会があれば別の話だがな。

 できる限り情報をハントすることに全力を注ぐ」

「……分かった。じゃあいったん、ここでお別れだね」

 決意がこもった目をするゴンに、説得の無意味さを知る。まあ、ゴンを説得する気はさらさらない。ノブナガと単独で会う為にはゴンが幻影旅団に捕まることが必須と言っていいからだ。

 むしろ説得したいのは女性2人。

「キルア、ポンズ、ユア。お前らはどうする?」

「俺はゴンについてく。隙があれば殺せばいい」

「私はお兄ちゃんについていく。幻影旅団なんかに関わりたくないもん」

「私もユアちゃんと同じかな。別に賞金首ハンターじゃないし、お金を稼ぐにしても危険が大きすぎるわ」

 キルアはゴンについていき、ユアとポンズは俺に着いてくる。

 理想的な分かれ方をした。黒髪の男という不安要素はあるが、こればかりは気にし過ぎても仕方がない。あれは間違いなく『敵』の仕業だろうし、原作主人公を殺せば先の展開が読み辛くなるとか、キメラアント編で致命的になるとか、そんな事を考えると期待するしかない。

 正直、俺とユアだけでもいっぱいいっぱいなのに、ゴンにキルアとポンズまで手を伸ばし切る余裕は本当にない。冗談無しに、命の選択を迫られたらどちらを選ぶかの覚悟は済ませてある。

『じゃあアサシン、頼んだ』

『あいよ』

 それはそれとして、ゴンとキルアに霊体化したアサシンを憑けておく。彼らが幻影旅団を見つけ、そのアジトに入るのは期待大だ。その時に情報を受け取る為である。

 アジトの情報だけでも高く売れるし、そうじゃなくてもノブナガと接触するには知っておいて損はない。

 改めて召喚したサーヴァントを彼らに憑け、俺はユアとポンズと共にその場を離れる。

「一応、最後に言っておく。どうしようもなくなったら、俺を頼れ。グリードアイランドなら何とかならなくもない」

「ありがとう、バハト。でも、俺は俺が満足できる方法でジンに辿り着きたいんだ」

 そう言うゴンの顔は、確かにプロの面影を宿していた。

 俺は理論で考える方ではあるが。それをすっ飛ばす位、ゴンを信じられると思える顔だった。

 ふっと笑い、その場を後にする。続くのはユアとポンズ。キルアはゴンと共に見送って、ゼパイルも彼らと一緒に行動するようだ。

 ひとまずここで解散。2組に分かれて行動を開始する。

「で、お兄ちゃんどうするの?」

「まずは戦いだな。全員、臨戦態勢を取っておけ」

 言う俺は既に最大の円を展開している。隠も併せて行っているから、探知できるものは限られるだろう。

 俺が何を言っているのか呑み込めないユアとポンズは疑問符を浮かべているが、俺としては『敵』が攻めてくる絶好の機会だと思っている。原作に着いて行動している俺だが、ヨークシンの初日には姿を見せなかった。そして2日目は腕相撲大会、地下競売、値札競売市を経てようやく俺が姿を見せたのだ。しびれを切らさない筈がないと踏んでいる。

 円に高速物体を探知、案の定だ。円として広げていたオーラを即座に縮小し、堅として維持する。同時に左腕を上げて凝をすると、そこに銃弾が突き刺さった。

「っ!!」

 強い衝撃に息がつまる。そのままだったらこめかみに命中していたそれは、防御しなければ確実に俺の命を奪っていた。

 遅れて響く銃声。

「『敵』だ」

 突如とした銃声に周りが騒然とするが、ユアとポンズは既に戦う心構えを終えていた。

 ――しかし、生け捕りのみ有効(アライブオンリー)に対する敵への攻撃ではない。この程度は防ぐと思っていたのか、生死問わず(デットオアアライブ)に変わったのか。

 銃弾が襲ってきた方向を見れば、伏射の体勢でビルの屋上からこちらにライフルを向けてくる人影。1キロ近く離れているが、間違いない。海獣の牙(シャーク)のアサンだ。

「全員、逃げろ! その男は10億の賞金首、何人もを殺してきた危険人物だっ!!」

 唐突に響く声。そちらにも意識を割けば、2人の男が大声で周囲に注意喚起をしながら近づいてきた。あながち嘘を言っていない辺り、律儀なのかなんなのか。

 だが2人ともオーラを纏っている、間違いなく念能力者。この2人で注意を引きつつ、アサンがライフルで援護か仕留めてくるかをしてくる作戦だろう。

 ともあれ、数は丁度よく3対3。そして俺にライフルが通用しない事は証明された。

「任せた」

「任されたよ」

「降りかかる火の粉は払わないとね」

 俺はアサンを目掛けて直進する。アサンは慌てる事無く次弾を装填し、発射――!!

(! ヤバイッ!!)

 直感的にそう判断し、射線から身を逸らす。躱しきれず、手の甲にかすった銃弾は弾く事は出来ずに俺の肉を削った。

(防ぎきれないだとっ!?)

 銃で? バカな。

 ――いや、有り得る。そういえば奴は銃弾に周をかけていたのだ。つまりは、そういう能力なのだろう。

 気を引き締め直して、アサンを睨みつける。建物に隠れながら近づけば、ユアとポンズへの隙となり援護を許すだろう。正面から迫るしかない。俺は覚悟を決めて全力で前進するのだった。

 

 ◇

 

(チ。この距離じゃあ躱されるか)

 アサンは口汚く舌打ちをしながらライフルを迫るバハトに向ける。

 銃とは単純に凶悪な武器だ。凡弱な念能力者程度ならばあっさりと殺すことができる凶器。だが言い換えれば、ある程度以上の念能力者には効かないとも云える。

 もちろん、単純に全ての銃が効かないということなど有り得ない。例えば、子供でも撃てる銃というものはある。5歳児でも発砲できるようにデザインされた銃は人間相手には十分な殺傷力を持つが弾道がブレたりしやすく、また腹に雑誌を仕込むだけでも防げたりするだろう。比べて、アンチマテリアルライフルというものもある。場合によっては戦車を射抜く事さえ視野にいれた強力な狙撃銃である。同じ銃とはいえ、これらを同列に扱うのは愚が過ぎると云うもの。

 そこで念能力者が銃を使う事を考えてみると、これが案外難しい。

 まず最初に思いつくのは具現化した銃だが、これは放出系と極めて相性が悪い。相当に厳しい制約を加えなくてはいけない上に、それに具現化した銃弾にまでオーラを付加するとなると更に難易度があがる。現実に為るかどうかはともかく、実戦的ではないだろう。

 じゃあ放出系が弾丸に周をすればいいのではないかと思うだろうが、これも相当に難しい。というのも、銃弾の速度に人間の思考が追い付くのがほぼ不可能だからだ。銃口を見切り、射線上に何かを置いて防御する事は可能である。が、音速を超える銃弾に意識して生命エネルギーであるオーラを纏わせるのは不可能だ。撃った瞬間に意識が逸れ、オーラが置いていかれる。

 辛うじて可能なのは、操作系で銃や弾にまで愛着を持ったパターンだろう。これならば銃弾にオーラを纏わせる可能性がある。しかしアサンが扱っているのはそれらの方法ではない。単純に、銃弾にオーラを纏わせる発を使っているのだ。

 

 殺意ある鋭き者の攻撃(ストライク・ダム) 悪意ある小さき者の仕業(ストーカーワークス)

 

 単純に銃の攻撃力を上げる発と、銃弾を誘導させる発。これらを使い分けてアサンは銃による攻撃を仕掛けている。

 これが普通に効果が高い。先ほど述べた通りに、一口に銃といってもその用法などに様々なデザインが存在する。操作系ならば1つの銃しか扱えないが、銃ならばあらゆる状況に対応できるこの2つの発は傭兵として身を立てるのに十分な能力を有しているといえるだろう。天空闘技場で仕掛けた時は拳銃を使って自身が奇襲し、今回はライフルによって狙撃することで補助をもこなす。

 だが、それもバハトには通用しない。そもそも遠くからの狙撃となれば、発射した瞬間から着弾までにほんの僅かとはいえ時間差が存在する。その僅かな間を縫うように、凝をするなり躱すなりするのは、バハトならば可能な範囲である。

 では引き付けて撃てばいいといえば、それも容易くない。何せ、1キロ先の目標を狙う為に照準を合わせているのだ。半分以下まで詰められてしまえば、合わなくなるのは道理。調節している間に距離は更に詰まるだろう。

 こうなってしまえば、アサンはライフルを放棄するしかない。近距離で拳銃で迎え撃つか、格闘技で戦うか、それとも――

(マ、この辺りで今日は勘弁しておきますか)

 1キロ先で戦いが終わったのを確認したアサンは、瞬間移動にてその場を離脱する。

 僅か30メートルまで距離を詰めたバハトだが、再びアサンを逃して歯噛みするしかない。

 瞬間移動をどうにかせねばアサンは仕留められない。それを把握しただけ良しとするしかなかった。

 

 ◇

 

 ポンズはゆっくりと近づいてくる男の内、長身の方を敵と見据えて相対する。彼女らは知る由もないが、この2人の男はバッテラに雇われた傭兵であり、砂漠の毒針(スコーピオン)と名乗るコンビだった。今回はアサンのサポートの元、バハトかもしくは彼の仲間を仕留めることを請け負っている。

 つまり、ポンズを殺すことになんの躊躇もない。そして男と女では筋力の下地が違う。発を使うまでもないと拳を振り上げる。

「はっ!」

「がっ!?」

 そのテレフォンパンチを潜り抜け、ポンズは腰を深く落としての肘撃ち。長身の男の脇腹に食い込み、メキリと肋骨がイヤな音を立てる。

 幸い折れてはいないようだが、痛打である。それより何より、動きが読めない。

(なんだ、今のは? 能力? そんな感じじゃなかったが、それ以外に説明がつかん……)

 距離を取り、混乱する頭を鎮める長身の男。正解は李書文に習った武術であり、それはある程度のレベル差があれば念よりも摩訶不思議な感覚を相手に残すのである。

 これは決して大袈裟な話ではなく。武の極致に至った者と戦い、運よく生き残った者はまるで魔法にかかったようだったと、そう表現するのは決して珍しい話ではない。そもそも中国拳法八極拳という概念がこの世界にはない。驚きも一入だろう。

(移動系の能力ならば放出系か。ついでに堅はしても流はしていない。発はともかく、念能力者としては中といったところか)

 ならば勝てる。そう判断した長身の男は能力を使う。

 長身の男の体にカサカサと蠍が何匹も這い回り始める。その蠍は男を襲うことなく、ポンズに向かって尾の針を向けて威嚇していた。

 貪食蠍群(グラトニーインセクト)

 この男の念獣の名前である。10を超える蠍は男の体を這い回り、動く鎧として機能を始めている。

 もちろんポンズはそれが単なる防御であるとは思っていない。インセクトハンターである彼女には、その蠍が現存するどの蠍とも共通しない事を見抜いていた。故にアレは操作された蠍ではなく、念獣であると結論を付けるのは容易い。また、その針の形状から強力な毒を持つタイプではないとも類推する。毒を強く意識すれば毒を持つ形状の蠍になるだろうから、毒を攻撃の手段とするタイプではない?

 喰らえば分かるが、喰らいたくはない。しかし、ポンズの能力も接近して効果を発揮するタイプである。近づかなくては話にならない。

(――攻める!)

 座して待つ。今までのポンズならそれを選んだかも知れない。

 だが、十分な罠を張れていない現状、真っ向からの戦いではそれは余りに弱気。そして弱気が過ぎる程、ポンズは己に自信を無くしていなかった。

 李書文に習った体捌きによって、長身の男に瞬間移動したかのような錯覚をさせながら、虚に入り内を取る。その隙だらけの腹部に向かって、両手を打つ。

 発勁。

 全身の筋力を余す事無くその腕に集約させ、打つ中国拳法独特の技法。

 長身の男はそれを読み切った訳ではない。だが、ポンズと彼の間には確かな身長差が存在する。ならば腕を伸ばす分、一瞬の猶予を与える上半身の攻撃はないと読み切った。残るは、胴か脚。初撃は胴だったが、次はどちらかは運。

 そして長身の男は運を勝ち取った。

(凝!)

 オーラを集め、流にて防御にギリギリながら成功。ダメージを受けつつ、長身の男は攻撃が成功したことに笑みを浮かべる。

「く、くくく……」

「何がおかしいのかしら?」

 胴に受けた苦痛に歪みながらも嗤う長身の男に、ポンズは素朴な疑問を上げた。

 それに答える為、長身の男はポンズに纏わりついた1匹の蠍を指さす。

「それは俺の念獣、貪食蠍群(グラトニーインセクト)。まだ気が付いていない様だから教えてやるが、ソイツは寄生型の念獣だ。

 とはいえ、別に毒じゃねぇ。寄生されている間、ソイツは宿主のオーラを喰い続けるのさ」

 カサカサと掌から腕を登って来る蠍を無表情で見るポンズ。

 勝ち誇って笑う長身の男。

「さあ、どうする? 時間をかければかける程、ソイツはお前のオーラを貪るぜ!? かといって俺に接近戦を挑めば倍々に蠍が増えていく!!

 どちらの地獄を選ぼうが、お前はオーラを喰いつくされて無様に倒れるしか――」

小瓶の精霊(ホムンクルス・ハニー)

 ポンズは小瓶を具現化すると、蠍に被せるようにそれを腕に押し付ける。

 そうして具現化される、蜂の念獣(ハニー)

「食べて、蜂の念獣(ハニー)

 デフォルトされた蜂の念獣(ハニー)が蠍に齧り付き、(じょ)念する。

 それを目を丸くして見る長身の男。

「な、なぁ……? 除念? 放出系じゃないのか?」

「私は自分の系統を語ったことはないけど」

 ポンズの蜂の念獣(ハニー)は確かに除念もできる。だが、彼女は除念が専門という訳ではない。ただ単に、オーラを喰う性質の念獣を扱えるだけで、その効率は極めて悪い。多少強力な念ならば、数時間かけて捕食しなくてはならないだろう。未だに半端なポンズが簡単に除念できたカラクリは、貪食蠍群(グラトニーインセクト)が数を頼りにした念であり単体では弱かっただけに過ぎない。

 それを知らない長身の男は顔色を青くしているが、それは長身の男が心理的不利に立っただけではない。唐突に蠍の念獣が解除され、その場に倒れこむ長身の男。

「ッ! …、……!!」

「あ、ようやく効いた。やっぱり念能力者には効きが悪いわね」

 薬毒の妙(アルケミーマスター)。ポンズが誇る、毒をも具現化する能力。凶悪なのは発勁と共に内臓に向けてオーラを浸透させることによって、直接身体に毒を擦り込むことができる点。

 これはそれこそゾルディックのような例外でもない限り、一撃にて相手を昏倒させる必殺技に昇華する。ポンズが相手を殺す気がなかったからこそ、体が痺れる程度で長身の男は済んでいるのだ。

 尤もこれは彼女が懸念した通り、念能力者の格が違えばオーラに弾かれる為に効果はない。僅かでもダメージが与えられる相手に限定される一撃技といえるだろう。また、発勁自体も本来隙が多い技ということも問題点だ。武術に優れる者や、動体視力に優れる者には通用しない。

 だがやや格上程度の相手ならばご覧の通り、無傷の勝利すら有り得るのがポンズの能力である。

「っし!」

 実際の殺し合いでも接近戦で勝ちを手にしたポンズは自信を深くする。

 そして余裕ができた為にユアに戦いを見れば、そこも今まさに勝負が決まるところだった。

 

 ◇

 

(くそ、蛇かコイツっ!)

 比較的矮躯な男と戦うのはユア。とはいえ、ユアはまだ12歳の少女である。流石に成人男性と身長や体格で競うのには無理がある。

 では小さい方が負けるのが道理か。否、それを覆すのが武術、そして念。武術は李書文といったサーヴァントたちにこれでもかと仕込まれた上、才能の化け物であるクルタ族の少女がユアだ。

 矮躯の男が味わったことのない動きで幻惑し、攻撃を躱して隙を窺う。そして勝る念の大きさによって矮躯の男の右腕に文字を書く。

 ―絶―

 そう書かれた右腕は、そこから指先に向かってオーラが閉ざされる。左脚と併せて四肢の半分を奪われた格好になる。

 ユアの能力である存在命令(シン・フォ・ロウ)は単純であり、書かれた命令を強制するという操作系。ならば文字を消せば効果はなくなるが、まさか戦闘中にそんな隙は晒せない。ユアも体全体に効果を及ぼす為には顔に文字を書かなくてはならない為に、必然じわじわと四肢をもぐような戦い方になるのだ。

 そんなユアが持つペンだが、当然のように指3本で扱うなどという悠長な扱いはしない。人差し指と中指をくっつけて、その隙間に挟むようにしてペンを持つ。そのまま腕の動きや指の動きで文字を書けるようにユアは訓練を積んでいた。手品(トリック)においては比較的容易な技術であるパームの一種といえるだろう。

 両手を防御に扱い、右手を振るって文字を書く。それがユアの()()()()バトルスタイルだ。

 ジリ貧になる。それを感じ取った矮躯な男が左腕にオーラを集中させて発を扱う。

飛散する捕食毒(ブラディ・ポイズン)!!」

 放射状に放たれる痺れ毒。

 実は砂漠の毒針(スコーピオン)は共有型の念能力者であり、それぞれが短所を補完している。(実際に使われることはなかったが)長身の男が体から具現化した念獣を離す場合には矮躯の男が放出系で補い、矮躯な男が必殺の技を放つ時には毒を具現化するのに長身の男の力を拝借する。

 だが、それも当たればの話だ。

『回避しろ』

 自分の体にそう書いたユアは、回避の一点に於いて普段以上の俊敏性で攻撃を躱すことが可能。

 ユアに向かって放たれた液状の毒は、その飛沫一滴さえも交わることなく回避される。

「く――」

 ユアは既に矮躯な男を射程圏内に捉えた。しかし矮躯な男は右腕と左脚のオーラを縛られて思うように身動きが取れない。

「――くそ」

 鋭く振るわれた腕と指、それが書いた文字は『眠』。

 矮躯な男はその場に倒れ、大きないびきをかきながら眠りにつく。その額に書かれた文字が消えない限り、文字通り死ぬまで彼は眠り続けるように操作された。絶ではないのでオーラは流れているが、強制的な眠りの前では纏すらできていない。

「……ふぅ」

 ここまでやって、ようやくユアは安堵の息をついた。

 勝ちを確信するまで気を抜かない。勝ちを確信しても気を抜かない。サーヴァントに叩き込まれた心構えである。安堵の息を付きつつも、彼女に油断の2文字はない。

 ゆっくりとポンズを見て、年上のその女性が操作されていないことを冷静に確認する。とはいえ、ポンズの戦いは盗み見ていた。操作されている可能性は、流石にない。あくまで残心の精神である。

「お疲れ、ユア。やるじゃない」

「ポンズさんも接近戦苦手だったのに凄いね。それに比べてお兄ちゃんときたら……」

 痺れた長身の男と、眠る矮躯な男。それを見つつ、アサンに向かったバハトが敵を仕留め損なったのを確認。

 原因であり要であるバハトが戦果をあげられなかったのが、お兄ちゃん子であるユアを更に不機嫌にしたらしい。ぷすと膨れる少女を微笑ましく見るポンズ。

 1人を逃がしたとはいえ、この場は快勝。バッテラの、ひいては『敵』の攻撃を凌ぎ逆にダメージを与えた形。

 アサンにまた情報を抜かれたことに目を瞑れば、良い結果だったといえるだろう。

 

 

 




とりあえずユアとポンズの活躍回。モブは名前を考えるのが面倒だったという悲しい現実。
ちなみに、もちろんこの2人はまだまだ手札を隠しているので悪しからず。今回勝てたのは、99%李書文先生のおかげです。
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