懸賞都市アントキバ。
まあ、なんだ。雑に言ってしまえば、あちこちにあるクエストをクリアすることでアイテムをゲットする事が出来る場所だ。ゲームを基本としているので当然といえば当然のシステムなのだが、最初の街ということで多分クエストの難易度は低いのだとは思う。大食い勝負とか、俺やポンズでも多分いけるし。
ともかく、ここで手持ちを増やして情報を買い、手早くマサドラへと向かいたい。
やがてきょろきょろと周りを見るポンズ。ここまで近づかれれば流石に視線に気が付くか。
「ねえ、バハトさん」
「ああ、距離を大分つめてきたな。接触するつもりだろう」
サーヴァントを召喚できていないのが痛い。おそらくはゲンスルーを相手にしても俺は勝てると思うが、保証はない。殺す気の相手と、そして殺しを躊躇する俺。しかもゲンスルーの能力は明らかに殺傷能力が高い。仮に
強く警戒しながら広場へと向かい、近づく者を警戒する。果たしてそこに来たのは――ニッケス。とりあえずゲンスルーでなかったことに警戒のランクを一段下げる。
「プレイヤーだな?」
「その通り。とはいえ、襲いに来たんじゃない。会話をしに来たんだ」
「そう。でも、だからはいそうですかって警戒を緩める訳がないのは分かってるわよね?」
敵意なく話しかけるニッケスだが、対応するポンズの態度は塩。まあ、これはポンズが正しい。何も情報がない状態で近づいてくる相手を警戒しない方がバカだ。
俺も練はしないが、いつでもオーラで強化できるようにする。とはいえニッケスもそんな対応をされるのには慣れているのだろう。気を悪くした風もなく、距離にして5メートル程で止まる。これでこちらが話を聞かなくてもバインダーにリストが載る。向こうとしては最低限の利益は確保した訳だ。まあ、このくらいの強かさがなくてハメ組など作れないだろう。
「最初に聞くが、君たちはバッテラに雇われたプレイヤーか?」
「そうだ。それを聞くという事は、お前もそうか?」
問われると覚悟していた問いなので、さらりと頷いておく。一瞬、ポンズから動揺が届いたが、ニッケスは気が付かなかったらしい。彼は返事をした俺を見て納得したように頷いている。
「なるほど。中々強そうだ。だがしかし、グリードアイランドはそれだけでクリアできる程甘くない」
「俺よりも弱そうな奴に言われてもな」
「もっともな言葉だ、と言いたいところだが、戦うならばともかくグリードアイランドというゲームのシステムに関してはこちらが上手だ。
ブック!」
ニッケスがバインダーを出したと同時に、ポンズは身構える。
俺はというと、そんなヌルい事はしない。ハメ組がこんな行動に出る事は想定内だ。瞬時に足にオーラを込めると、一気に間合いを詰めてニッケスの腕を掴む。
近づかれた事にすら気がつけなかったのだろう。ニッケスは驚きながらも反射的に腕を振りほどこうとするが、動きが鈍い。逃げる動きを絡めとるように腕の関節を極め、そのままニッケスの首に腕を回す。血管を絞めるも首の骨を折るも、ここからは俺の匙加減一つ。
「ま、待てっ!」
「喋るな、動くな、止まっていろ。従わなければ殺す」
「っ……!!」
実際、俺にあんまりその気はないとはいえ、文字通りに首根っこを抑えられては従うしかない。ニッケスは完全に動きを硬直させた。
そのまま数秒、ニッケスが俺に従ったという事を確認した後、視線をポンズへと送る。
「ポンズ、この男のバインダーからカードを全て奪え」
「いいの?」
「構わない。いきなりバインダーを出したんだ、ゲーム特有のシステムで殺されていた可能性もある。敵対者ならば容赦はしない」
青褪めて固まるニッケスに近づき、ポンズもバインダーを出してニッケスのカードを移していく。
だがまあ、勧誘組だからだろう。指定ポケットにカードはなし。1万ジェニー札が6枚と、
「
「ちょっと待って、読み上げるわ」
なるほど、勧誘できるなら良し。敵対するならばとっとと追放するという作戦か。俺も20メートルの距離があれば流石に接敵することは無理だっただろうが、会話をする為に近づいたのが運の尽きという奴だろう。
「私たちを追い払うことはできるかもだけど、傷つけることは無理そうね」
「
「ごもっとも。で、どうするの?」
ポンズが話を先に進めるように促してくる。まあ、ここで硬直しても何にもならない。
俺は少しだけ考えるふりをして、ニッケスに話しかける。
「いいだろう、後はお前が持つ情報を全部話せば命だけは助けてやろう。
ちなみに嘘をついたかどうかの判定は俺がやる。触れている脈拍などから判断し、偽りを口にしたと思ったら首の骨をへし折ろう。返事は?」
「わ、分かった」
「まずはお前の名前だ」
「ニッケス」
「次に、どうして俺たちに近づいた?」
「ゲームをクリアする為、仲間を集めているんだ」
会話していくうちに落ち着いてきたらしい。ニッケスは首を抑えられながらも情報を吐き出していく。
カード化上限を利用し、
ゲーム内での金の使い方。トレードショップの利用方法。その他、指定ポケットカードを得る方法、などなど。
そして、彼ら自身の情報。
「お前らのアジトはどこにある?」
「…………」
「どうした、言え?」
「……言えない。それは俺たちの最大の秘密だ。仲間以外に明かす事は、ない」
「このままお前が死んだとしてもか?」
「そうだ、このゲームに参加した時点で死ぬ覚悟くらいできている。ここで情報を吐いたとしても、仲間たちから裏切り者と殺されるだろう。
だが、グリードアイランドでプレイヤーキルは最大の禁忌だ。それを為すなら、お前に協力するプレイヤーはいないだろう。それでいいなら俺を殺すがいい」
会話を許されて、隙あらば逆襲してくる。なるほど、ハメ組の初期メンバーとやらは戦闘力はともかく、頭は回るらしい。ゲンスルーに使い捨てられる雑魚の印象が強いが、この辺りはバッテラに選ばれた上でなおクリアを目指す気概がある男であるといえる。
ニッケスの返事を聞き、俺は彼を解放してポンズの側まで寄る。ニッケスは後退りをしながら首を押さえて命がある事を確かめていた。
「有意義な情報をありがとう、ニッケス。俺の名はバハト。こっちは――」
「ポンズよ」
「……俺を見逃すのか?」
念を押すように確かめるニッケスに、俺は頷いて返す。
「ああ、まずは嘘を詫びよう。俺たちはバッテラに雇われたプレイヤーではない」
「!」
「ゲームクリアはついでだ。俺はちょっと命を狙われていてね、敵から逃げる為にここに来たに過ぎない」
「では何故、バッテラに雇われたプレイヤーだと嘘をついた?」
「お前から情報を引き出す為」
ケロっと言う俺に、ポンズとニッケスは呆れた表情を表に出す。
「ま、それはいいだろ。とにかく、俺は協力者が欲しい。命を助けた貸し一つ、頼まれてくれればいい」
「……要求はなんだ」
「マチっていうプレイヤーが来たら教えてくれ。後、レアなカードやアイテムが手に入ったら譲ってもいい。俺を追って来る『敵』を倒す手伝いに人手が必要かも知れないからな。
そちらも多少の手間でクリアが近づくなら悪くないだろ?」
「そういうことか。分かった、要求を呑もう」
「交渉成立」
敵意なく近づき、片手を出す。ニッケスもややぎこちなくだが手を出して、握手をした。
「ポンズ、スペルカードを返してやってくれ」
「いいの?」
「いいのか?」
「移動系のカードがあっても、グリードアイランドに来たばかりの俺たちには意味ないだろ。
防御系のカードは少しだけ惜しいが、ニッケスの心象の方が大事だ。ぶっちゃけて言うが、クリアを目的にしていない俺はカードを取られても別に痛くも痒くもないしな」
それを聞いたポンズは少し呆れた顔をする。やはり俺は分かり易いのか? 嘘がバレた気がする。まあしかし、ポンズにならば構うまい。
そしてポンズに否はないらしく、スペルカードを全てニッケスに返していく。彼はというと、狐につままれたような表情でそれらを受け取っていった。
「始めたばかりで金は必要だから、こっちは貰うぞ」
「あ、ああ。それで済めば、俺としては御の字だ」
「何かあったら連絡をくれ。利害が一致する限り、協力しよう。ただしこちらに敵対的な行動を取るならば、次は殺す」
俺の言葉に、ゴクリと唾を呑むニッケス。
深刻に頷いた彼は、1枚のカードを取り出す。
「肝に銘じよう、仲間にも伝えておく。次に会う時はもっと友好的な会話がしたいものだな。
瞬間ニッケスは光に包まれて、中空にその残滓を残してその場から消えた。
一応警戒するが、もう俺たちを見る視線はない。まあ、あれだけの事をやらかしたからして、まともな神経を持っていたらまずは距離を取る。
「で、どういう意味? ニッケスを逃がすのはともかく、スペルカードを返す必要はなかったでしょ?」
「返さない意味もない。相手は人海戦術でスペルカードの攻撃を仕掛けてくる作戦だろ。1枚や2枚の防御系カードなんて誤差だよ。
それよりもニッケスに敵と認識されない方が大事だ。『敵』と戦う為の協力者は多い方がいいし、ニッケスの仲間は数は多そうだ」
と、その瞬間にポーンと音が鳴って俺のバインダーが出現する。
……いきなりなんだ?
『他プレイヤーがあなたに対して
「ニッケスか?」
『そうだ』
まあ、グリードアイランドで他に知り合いは居ないしな。しかしいきなり
「なんだ?」
『約束の情報だ。マチというプレイヤーについて知りたいんだったな?』
「まあ、な」
『結論から言おう、マチというプレイヤーは有名だ。今、分かっているだけで4組以上のプレイヤーキラーがグリードアイランドに存在する。マチはそのうちの一人だ。
奴は女だが、ゲームクリアを目指していない。判断基準は知らんが、選択的にプレイヤーを殺している。特徴的なのが、既にクリアを諦めたプレイヤーばかりを狙っているということだ』
(――なるほど、そういうことか)
理解する。これは『敵』の戦略だ。
バッテラは雇ったプレイヤーの半数がゲームの離脱を諦めていると嘆いていた。そこでマチを使い、『敵』はバッテラの枠を広げたのだ。それでグリードアイランド1つ分以上の容量ができるとなれば、バッテラが俺の首に10億の賞金を懸けるとしても十分に採算は取れるだろう。
となるとしかし、またもや『敵』の情報が隠れてしまった。俺としては『敵』は操作系で、特殊能力にバッテラの恋人を治す能力でもあるのかと思っていたが、そうでなくてもバッテラは十分に『敵』と取引をしていることになる。掴んだはずの情報が、またもや隠れてしまった。まあ、間違った情報を掴んだままというよりかはマシか。
「いい情報を感謝する、ありがとう」
『俺の命の対価にしては安いものだ。ちなみにマチとやらは今のところゲーム外にいるようだが、いつ戻って来るかは分からん。戻ってきた時にもう一度連絡しよう。それでいいか?』
「構わない」
『ではな』
『
ニッケスとの会話が終了する。
ニッケスはもともとマチの情報を持っていたのだろうが、あの場面で暢気に情報は吐かないだろう。最悪、目の色を変えた俺が更に情報を搾り取ろうとする可能性さえもあったのだから。距離を取って
とまあ、ひとまずマチはグリードアイランドに入って来る可能性は濃厚な事は理解した。できれば罠くらいは仕掛けておきたいところだ。通用するかは別として、ポンズはそういう方向のプロだし、彼女に頼ってもいい。
更にゴンたちのクリアも手伝うとなれば、ある程度のカードは持っていた方がいいだろう。彼らが原作で使っていた
そんな風に色々と考えていているが、しかし。
「次の目的地はマサドラでいいな。北に80キロだったか」
「そうね。何が起こるか分からないし、準備はしたいわね」
「それじゃあまあ、3万ジェニーずつ持とうか。1時間後に町の北に集合しよう」
「オーケーよ」
そう言ったポンズから3枚のカードを受け取り、いったん離れる。
さてさて。円で周囲に監視がない事を確認して、と。
「素に銀と鉄――」
ようやくサーヴァントを召喚できるというもの。これでやっと生きた心地が戻る。
詠唱を終えるまでは油断なく、終えた後に俺はようやく安堵の息を吐けるのだった。
※
(クソっ!!)
バハトの『敵』は苛々を隠さずに足元にあった石ころを踏み砕く。
側に控えるマチがそんな彼女を痛ましそうに見ていた。マチは彼女が心穏やかでいられないのが、悲しくて仕方ないのだ。
(何故『敵』はミドリを襲わなかった? これ以上の機会はない筈なのに。ここから先、ミドリはクモとして常に行動する。クロロにクラピカが
――まさか、奪う価値がない? こちらの情報が大きく漏れているのか?)
その想像をした時、ゾクリと彼女の背筋に冷たいものが走る。ない、とはいえない。
(動くか? 『敵』はゴンたち原作組と行動を共にしている。今ならばまだ未熟、奴らを殺せば流れは大きく狂う。目論見を外せるかも知れない)
その可能性に考えを巡らし、しかしやはりそれはないと首を振る。
理由は2つあり、1つは原作から逸れ過ぎると世界の命運がどうなるのか分からないというところ。例えばキメラアント編など、ネテロが
そしてもう1つが、ゴンたちを襲う事が『敵』の罠でないと言い切れないところだ。特殊能力も分からず、やたらと攻める事はできない。するならば、やはり退路はしっかりと確保しておきたいところ。
(その為には……)
やはりグリードアイランドだ。原作組と同じように動くならば、確実にグリードアイランドについて行く。そしてスペルカードを使えば退却も容易。
欲を言えば、相手が撤退できない状況ならばなお良し。グリードアイランドに入ったばかりの時はフリーポケットに何も無い状態であるので、スペルによる撤退はない。
何時を狙うか。どうやって仕留めるか。
彼女は深く深く思考を回していくのだった。
※