殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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003話 幻影旅団・1

 クラピカが旅立ってから、俺は常にサーヴァントを現界させ続けていた。

 成長を続けた俺は、霊体化した状態ならばノーリスクでサーヴァントを維持することを可能とした。ちなみに侍らせているサーヴァントは呪腕のハサンである。なんでと思うかも知れないが、これには様々な理由がある。

 最大の理由が幻影旅団の偵察を目的として召喚していることだ。索敵に優れているのは隠密能力の高いアサシンか、千里眼のスキルを持つアーチャーか。しかしクルタ族の里は森繁る中にあって、アーチャーの千里眼もあまり効果を発揮できない。となると維持魔力が少なくて済むアサシンが正解だ。

 そして索敵なら百貌のハサンの方が有用と思うかも知れないが、ここにも落とし穴があった。百貌のハサンの分裂能力は常時発動型の宝具であり、それを展開し続けるのは霊体化していても無理がある。何週間も警戒し続けるのに余分な魔力は使ってられない。故に身軽な呪腕のハサンを選択した。

 数日が経過して、朝食を食べている時に呪腕のハサンから念話が入った。

『マスター、里に向かう不審な集団を発見致しました。このままでは昼前に到着するでしょう』

『数は?』

『13。いずれも強者でありましょう』

 間違いない、幻影旅団だ。しかし夜ではなく昼に来るとは恐れ入った。盗賊とはいえ、闇に紛れて盗むことしかできない雑魚とは訳が違うということか。

 しかしここで確認しておかなくてはならない事がある。それは幻影旅団の戦闘能力と、それに俺やサーヴァントが対抗しうるのかという事。幻影旅団といえばH×Hの世界で最強の一角だろう。今の段階で俺は奴らに勝てるのか。サーヴァントならば勝てるのか。それはしっかり把握しておく必要がある。

 それを呪腕のハサンに問いかけると僅かな沈黙の後に返答があった。

『マスターではおそらく、実力の低い者を選べば食い下がれるかも知れません。この集団の中で強い者と戦えば瞬殺でしょうな。

 私でも正面からやりあえば、1人の強者と互角くらいかと。全員を相手にすれば数に潰されます。もちろん、宝具を使えるなら全員暗殺は可能です』

 俺はともかく、幻影旅団の戦闘員はアサシンとはいえサーヴァントと並ぶのか。そして旅団は仲間意識が強く、更に頭であるクロロの命令には絶対服従。連携練度も高いと見ていいだろう。となれば、三騎士でさえ危ういかもしれないか。少なくとも幻影旅団全員と互角くらいには思っておかなくてはならない。

 宝具を使えばとも思わなくもないが、それは相手にも発がある以上絶対の優位にはならない。例えばシャルナークの携帯する他人の運命(ブラックボイス)の一刺しが決まればそれで終了。念の、操作系の恐ろしいところだ。

 やはり奴らを殺すなら最善策は暗殺。次点でイスカンダルやエミヤの宝具のように、逃げ場のない場所に連れ込んでの殲滅か。後者はともかく、前者は選択しようと思えばできる。

 ここが最後の機会。今ならば幻影旅団を壊滅させ、クルタ族の里を守る事ができる。いや、全滅させる必要すらない。呪腕のハサンに命じてクロロだけでも殺せば旅団は撤退するだろう。

『……監視を続けろ、ハサン。然るべきタイミングで退却する』

『――御意』

 その葛藤は何度もした。最後の機会である今でさえ覚悟を決めきれていない。

 だが、選択するのはそちらなのだ。敵対する転生者へアドバンテージを与えない為、俺はクルタ族を見捨てる選択をせざるを得ない。

 それでも。偽善でも。一人でも。

「ユア」

「なに、お兄ちゃん?」

 屈託のない笑顔を向けてくれる8歳年下の妹。

 かなり前に気が付いたが、ゴンやキルアと同い年である。

「前に約束していたよな、一緒に山に行こうって。今日は一緒に山菜でも採りに行こうか?」

「おい、バハト。ユアに山を歩かせるのはちょっと早くないか?」

「大丈夫だよ。俺がちゃんと見てるから」

「む……」

「まあいいじゃない、あなた。バハトはしっかり者だし、ユアもいつか慣れなくちゃいけないし」

「でもだな、ユアにはまだ早いと思うが……」

 ぶつぶつと言う父は見た通り、ユアには激しく甘い。小さな娘が可愛くて仕方ないのだ。そんな父をあらあらまあまあと微笑ましく見るのが母。柔らかい母に強く出るのは難しく、家族の誰も穏やかな母には勝てない。

 これが、見納め。

「分かった。危ないと思ったら直ぐに帰って来るんだぞ。バハト、ユア」

「もちろんだよ」

「じゃあ行ってらっしゃい。キナトの葉が採れたら揚げ物にしてあげるからね」

「私、キナトの葉の揚げ物大好き! たくさん採ってくるから!

 行ってきます!」

 天真爛漫に言うユアは、これが今生の別れになるとは思ってもいないのだろう。当たり前の日常が、こんなにも尊い。

「じゃあ行ってきます」

 そう言って、未練を断ち切るように俺は家を出る。にこにこ笑顔のユアは、前の誕生日プレゼントに母から貰った木彫りのペンを持って俺についてくる。

 このペンはユアの大のお気に入りで、どこに行くにも持ち歩いていた。遺品になるだろうと分かっているから俺は持ち歩きを止めなかったし、ユアに甘い父は言わずもがな。母も自分の贈り物を気に入って貰えて喜んでいた。だから、家族の思い出をたった一つでも持ち出せた事は、決して不自然なことではない。

『マスター、標的が分散しました。数人のグループに分かれて里を包囲し、一網打尽にするつもりのようです』

『分かった。索敵を終了し、逃走する。召喚を止めるぞ』

 そう前置きし、呪腕のハサンを回収する。これで新たなサーヴァントを召喚できる。

 里の端まで来た時、俺は次のサーヴァントを召喚した。

『来い。アスクレピオス』

 キャスターのサーヴァント、アスクレピオス。医術に長け、死者すら蘇らせたという逸話を持つ人体のスペシャリスト。

 ユアに俺の前を歩かせていたため、ユアはアスクレピオスに気が付かない。そして召喚した一瞬のタイムラグが過ぎれば目的を果たすのには十分過ぎる。

 前もってしていた指示通り、アスクレピオスはユアを深い眠りに落とした。眠り、崩れ落ちるユアを俺は優しく抱き留める。

「ありがとう、アスクレピオス」

「ふん。子供一人眠らせるのに大層なことだな」

 憎まれ口を叩く彼に重い感情はない。神代を生きた彼にとって、殺し殺されるのはありきたりな事なのだろう。クルタ族という一つの里が全滅するのに彼が思うことはない。

 一番確実にユアを眠らせるのに優れていたという理由でアスクレピオスを召喚したが、ユアが眠れば次のサーヴァントが必要になる。仕事を終わらせたアスクレピオスが溶けるように消え、詠唱を開始する。

「素に銀と鉄――」

 後は逃げるだけ。そしてこの状況で逃げるのならば空を飛ぶのが最も効果的。空間跳躍も捨てがたいが、あれは滅茶苦茶に魔力を喰う上に座標指定が難しいからやめておく。

 例え召喚したキャスターがそれを為しても、俺が方向を把握できないから眠ったユアを抱えて動くのは結構大変なのだ。

「――天秤の守り手よ」

 しっかりと詠唱したのは宝具を使うから。十全な状態で最速力で逃げる為。

 そして目の前には眼帯をしたボディコン服を纏った妖艶な美女。ライダーのサーヴァント、メドゥーサだ。

 無駄を嫌う彼女は無言のまま、得物である杭のような短剣を己の首に突き立てる。そしてそこから噴き出た血液が召喚陣となり、中空に複雑な紋様を描いた。

騎英の手綱(ベルレフォーン)!!」

 メドゥーサが真名を解放した瞬間、いつの間にか俺は空を飛んでいた。

 上には太陽、下には森林。風は前から流れ、翼を持った白馬にまたがっている。腕には妹のユアがすやすやと眠り、体には落下防止の為かメドゥーサの鎖が巻き付いていた。

「これでよかったのですね、マスター」

「ああ、これでいい」

 家族想いの彼女らしく、声には悲痛の色が混じっていた。その声で、彼女が家族を見捨てる選択をした俺を物案じてくれているのがよく分かった。アスクレピオスと同じ神話の出身だというのにこの落差である。

 妹のみを抱きしめて、俺は逃走する。旅団から、そして何より遭った事もない転生者から逃げたのだ。俺はそれを正しく認識する。

 逃げるという事は悪い事ではない。戦略的に間違った事はしていない。そう自分に言い聞かせ、俺は、俺たちは疾風よりも早く空を翔ける。

 背後からの断末魔からさえ、俺は逃げ出したのだった。

 

 適当な町の傍に着き、俺はメドゥーサを送還すると同時に再び詠唱を開始。

 そして呼び出すのは戦闘を得意としたサーヴァント。

「アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎見参」

 第五次聖杯戦争のサーヴァントばかり召喚している気がするが、まあどうでもいい。

 というか、冬木の聖杯戦争のサーヴァントが優秀過ぎるのがいけない。後は単純に文章量や設定が多いから選びやすいのだろう。

「頼んだ」

「任された」

 何をするのかを理解していた小次郎は、たった今俺たちが翔けた空路を逆走する。

 向かうのはクルタ族の里、狙いは幻影旅団。

 俺は確かに敗走したといえるがしかし、収穫なしにする訳にもいかない。

 情報は少しでも多く手に入れる。

 

 夕暮れ。

 クルタ族の里を制圧した幻影旅団は、里の中心に捕縛した村人を集めて緋の目の回収にいそしんでいる。

 それを為すのは拷問を得意とするフェイタンや、大事な者が誰かを把握するパクノダ。そして指示役であるクロロなどだ。他の団員、特に制圧に尽力した戦闘員などは適当に散開しており、仕事終わりの時間を満喫していた。奪った酒や食べ物を里の近くまで持ち込んで、戦場となったそこで酒宴を開いていたのはウヴォーギンとノブナガの二人だった。

「いや~、今回の仕事は面白かったな!」

 豪快に笑いながら酒をかっくらうウヴォーギン。苦笑いで、それでも充実した仕事の後の疲れすらも楽しみながら干し肉を口に運ぶノブナガ。

「でもウボー。テメェ、雑過ぎるぞ」

「あ? どこがだ?」

「最初に殺したヤツ、頭を潰しかけただろ。緋の目を繰り出せなかったら意味ねぇだろうがよ」

「う。お、思ったより強くて手元が狂ったんだよ! 結果的に首から下しか木っ端微塵にしてないんだからいーじゃねぇか」

「ったく、盗賊がお宝を壊しかけてどうすんだか。……しかしここの酒はイケるな」

「ああ、美味いな。こんなところで腐らせておくにはもったいねぇ」

「だから俺たちが飲んでやってるじゃねぇか。どうせもう飲むヤツはいねぇんだ、ちゃんと飲まれてやった方が酒も喜ぶだろうよ」

「違ぇねぇ!」

 ガハハと上機嫌に酒をあおるウヴォーギン。クックッと上機嫌に笑いながら酒を口に運ぶノブナガ。

 その二人が同時に臨戦態勢を整え、村の外を睨んだ。そこには直前までの気の緩みはありはしない。殺し殺されるのを生業とした二人の男が居た。

「気をつけろ、ノブナガ。強えぞ」

「誰に言ってんだウボー。俺は油断しねぇ」

 オーラを見たのではない。殺気を感じたのでもない。いわば勘でしかない。だがしかし、旅団(クモ)の二人は確信していた。今、ここに向かっているのは比類なき強敵だと。

 やがてその逢魔が時から湧き出たように姿を現したのは民族衣装を身に纏い、刀を手にした男だった。それが和の装いであると、ノブナガは気が付く。

「臭うな。血と死の臭いに酒気が混じっている。

 戦後(いくさご)の祝杯をあげているところに邪魔してしまったかな?」

「テメェ、ナニモンだ?」

「自分でもよく分からん、何せ学がないものでな。所謂(いわゆる)影法師の一種だとか」

「……念獣か?」

 影法師という単語からノブナガがそう類推するが。そんな訳がないと自分で否定する。この男はそんなちゃっちい括りに縛られる存在ではないと。

 しかしどうしてこの男が分からない。殺気がなく、悪意がない。直前まで人殺しをしていた二人を前に、どこまでも自然体だ。

「ふむふむ、なるほど。強いとは聞いていたがここまでか。幻影旅団とは話に違わぬ(つわもの)よ」

「――俺らをクモと口にした以上、死んでいいと思ってるんだな?」

「然り。弱ければ死す、世の道理也」

 コイツは自分たちと同類だとウヴォーギンとノブナガは確信した。

 力のみを絶対の基準とし、その領分で頂点にいると確信しているからの傲慢。死ぬのは敗者が弱かったからだという事実のみに注釈し、それこそが絶対唯一の悪だと断言するその独善。

 だが、同類であっても同種ではない。和服の男は理由のない殺しはしないだろうが、ウヴォーギンやノブナガは意味なく殺す。だからどうしたという程度の差異ではあるが、やはりそこには絶対的な違いが存在していた。

「得物が得物だ。俺がやる」

「死ぬなよ。死んだら殺してやる」

 そう言い合い、前に出るのはノブナガ。彼は和服の男から8Mほど離れ、刀の柄に手をかける。

 それを見て愉快そうに口を開く和服の男――小次郎。

「居合か」

「…………」

「さて。ならば見合っていても仕方あるまい。

 こちらから仕掛けさせていただこう」

 居合とは基本、待ちの戦術である。刀を鞘に納め、敵が射程内に入るまで待つ。その上で鞘奔りした一閃に全てを懸けて一太刀に斬り伏せるのだ。対策として、間合いに入らずにひたすら待つという戦法が常套手段として存在する。

 それを知る小次郎、そして己の力量に絶対の自信を持つからこその迂闊な一歩。無防備に小次郎が歩き出した瞬間、ノブナガは居合の形のままで瞬きの間で間合いを詰めた。

(――縮地!? 否、摺り足! この速度で!?)

「殺った」

 首を狙った鋭き居合。それは小次郎の持つ長い刀が振るわれる事によって逸らされる。

 ギィンと硬質な剣戟(おと)が響き、お互いが驚きに目を見開く。だがそれも一瞬以下、即座に常人には見切れぬ速度で両者の刀が振るわれ、音と刀が照り返す光のみがその闘争を示す証となる。

 それを離れた場所で見るウヴォーギン。

(強えぇな、ノブナガ相手に斬り合いでここまでやるか)

 もちろんウヴォーギンにはその剣閃が見えている。離れた場所で俯瞰的に見ているからこそ分かるが、互角というにはノブナガが悪い。先手を取った勢いで一気呵成に攻め立てるノブナガだが、小次郎はその全てを涼し気な顔で受け流しているのだ。とはいえノブナガの猛攻の前に反撃に出る隙もなさそうだが。言わば、試合で互角で勝負に負けているのがノブナガの現状だ。

(くそ、柳かコイツ……!)

(ふむ。なんと荒々しく、力強い剣よ)

 苦虫を噛み潰したような顔で攻撃を続けるノブナガ。否、彼は攻撃を続けさせられている。一瞬の余裕を与えたその瞬間の反撃を喰らってはいけないと勘が警鐘を鳴らしているのだ。

 対して小次郎に焦りはない。ノブナガの猛攻に反撃はできていないが、防御は完全にできている。もう一人の巨漢が迫ってきたら対応を考えなくてならないが、それも急ぐ話でなし。宗和の心得を持つ彼に焦燥は微塵もなく、冷静に滝のような剣閃を逸らし続ける。

 このままでは持久力で不利か。そう考えるウヴォーギンは、うーんと頭を傾けて考える。

(手助けした方がいいか? コレ、ノブナガの分が悪りぃよな。

 でもそうしたら後で怒るよなぁ、アイツ)

 少しだけ考え込むウヴォーギンだが、比較的早く結論は出た。

(ま、謝りゃいいか)

 仲間を見捨てる選択よりかは仲間に怒られる選択を選んだウヴォーギンが攻撃の意志を見せたと同時、戦局が動いた。

 ノブナガの剣戟を逸らさずに受け、小次郎が大きく飛びのいたのだ。間合いが開き、攻撃が届かなくなった双方。余裕がある小次郎はともかく、殺意の刀が届かなかったノブナガの形相は悪魔のよう。

「いやあ見事見事。素晴らしき剣を堪能させていただいた」

「ほざけ」

「しかし4人(・・)を相手にしては、さて、間違いも起きるかも知れん。ここは引かせて貰おうか」

 そう言い残して、素早く木々の中へ姿を消す小次郎。敵の撤退を見逃してノブナガが叫ぶ。

「てめぇ、逃げんじゃねぇ! 斬らせろ!!」

「うっせ。斬れなかったお前が悪りぃ」

 見えなくなった敵に怒鳴り散らすノブナガに、呆れた声をかけるウヴォーギン。そんな彼らの元に二人の男が駆け寄ってきた。

 傷だらけで、とてつもなく大きな巨体であるフランクリン。眉を剃り、バランスよく攻撃的な肉体を持ったフィンクス。両名とも旅団の構成員であり、戦闘力が高いメンバーである。

「オイ。さっきから戦闘音が聞こえるがどうした? ノブナガが叫んでるだけじゃねーか」

「刀の打ち合いか? そんな感じの連続した金属音だったぞ」

 フィンクスにフランクリンが聞くが、ノブナガは激昂しているだけだしウヴォーギンは説明が上手くない。

「敵だ。お前らが来た事で逃げたみたいだが」

「あ? 逃がしたのかよ。ダセェな」

「クルタ族が残っていたのか? なら、追いかけて仕留めた方がいい」

「いや、クルタ族じゃなかったな。ノブナガと同じ刀を使ってたし、思い出せば服の感じも似てた」

「そしてノブナガと少しやり合って、俺たちが来たら逃げたか。

 偶然か、そうじゃないか……」

 考え込むフランクリンだが、フィンクスはどうでも良さげに口を開く。

「とりあえず団長に報告していた方がいいだろ。ウボー、実際に敵を見たお前が行ってくれ。俺はノブナガに付いておく」

 顔面に血管を浮かび上がらせているノブナガはどうみても冷静ではない。確かにお目付け役は必要だろう。

「分かった。一応言っておくが、結構な手練れだったぜ。

 もし次来たらノブナガに遠慮するなよ。殺れ」

「知るかよ。指図は受けねぇ」

「……まあいい。じゃ、俺は行くぜ」

 この程度のじゃれ合いなど日常茶飯事、コインで決めるまでもない。ウヴォーギンはクロロに報告するべくその場を離れるのだった。

 残ったのは未だに怒りが収まらぬノブナガと、考え込むフランクリン。そして彼らを見守るフィンクスの3人だった。

 

 

「殺していいのは一人まで、それも男のみか。主も難儀な条件をつけるものよ。確かにクー・フーリン(ランサー)には任せられぬ仕事よな。拙者も本音を言えば遠慮をしたかったが、なかなかどうして楽しめた。楽しめきれなかったのは無念だがな。

 しかし、強い。あれ程の猛者が13人か。世界は広いというべきか……。実に佳い」

 小次郎は闇夜を歩く。言われた仕事、敵の威力偵察はそれなりにできたというべきだろう。

 それに加えて戦いにも恵まれた。あれほど心躍る剣戟はそうそうない。

 朧月を眺めながら帰還する小次郎は、直前までの闘争の余韻をゆったりと噛み締めていた。

 

 

 


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