殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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030話 念・6

「ちょっと待ってよ、バハトさん」

 マサドラから南に向かって走り初めて約1分。ビスケたちがいるであろう岩石地帯はおろか、最初の村にすら着いていない。っていうか、後ろを見ればまだマサドラの一部は見れるだろう位置でポンズが話しかけてくる。

「足は止めるなよ。で、どうした?」

「さっきの男が幻影旅団って言ったわよね?」

「ああ」

「それで、幻影旅団って10人以上いなかったかしら?」

「最大の構成メンバーは13名。ヨークシンで俺が1人、クラピカが1人殺したから補充していなければ11人は居るな」

「それよ! あのレベルの敵が10人も押し寄せてきたらたまったものじゃないわよ! 早くグリードアイランドから出ないと!!」

 手持ちに離脱(リーブ)は複数枚あるし、そうでなくても挫折の弓もある。グリードアイランドから脱出するのには問題はない。そう提議するポンズは至極真っ当だが、俺の『敵』がグリードアイランドから脱出するのを手ぐすね引いて待っているとするならば、打てない手になるのだ。

 慌てるポンズに、俺は静かに話しかける。

「落ち着けよ。何で今、人気のない場所に向かっていると思っているんだ?」

「な、なんでよ?」

「――切り札を使う為だ」

 俺の言葉に、霊体化したクーフーリンがニヤリと笑う。

「バハトさんの、切り札……」

「ああ、幻影旅団の1人を無傷で殺した切り札。労働力がいたあそこで使う訳にもいかなかったが、人目が無ければ問題はない。

 追って来れば、フィンクスの仲間諸共皆殺しにする」

 俺の言葉に、ゴクリと唾を飲み込むポンズ。幻影旅団はたった1人で能力を使わない俺と互角だったにもかかわらず、使えば最大11人にも及ぶ敵を皆殺せると確信して言うその切り札に戦慄しているのだろう。

「――信じて、いいのね?」

「相手が逃げなければ、な。スペルがあれば討ち漏らす可能性もあるが――俺の勝ちは揺らがない」

 そう、サーヴァントとはそれだけ強力な存在なのだ。今の俺でも、クーフーリンと戦えば無傷で取り押さえられてしまう。殺してもいいという話ならば何を況やである。

 だからこそ、情報漏洩には細心の注意を払わなければならない。サーヴァントが『敵』に知られては、英霊が持つ弱点を突かれないとも限らないのだ。具体的に言えばその死因などが挙げられる。そう、サーヴァントは強力無比の存在ではあるのだが、絶対無敵では決してない。俺はそこをはき違えてはいない。

「とにかく今は誰にも見られない場所へ! そこでなら、俺が勝つ!!」

「分かったわ。けれども、ヤバくなったら離脱(リーブ)で脱出。それに異論はないわよね?」

「もちろんだ」

 切り札が通用しないプランにも考えを及ばせるポンズに俺は安心感を覚える。幻影旅団にはミドリという不確定要素も、確かにある。保険はあるに越した事はない。

 勝ちのみを見ている俺には決して出なかった発想に、仲間のありがたさを改めて感じ入るのだった。

 

 そのまま走り続けて、10分。30分。1時間。1時間半。それ以上。

 

 岩石地帯に着いても、幻影旅団が来襲する気配は微塵もない。

「……おかしくない?」

「ああ、確かにおかしい」

 足を止めて話し合う俺たち。ビスケを仲間に引き入れる為に確かにここ、岩石地帯を目指していたが、間に合う訳もないだろうとは思っていた。

 即座にフィンクスが1人で追いかけてくるのが最有力。再来(リターン)があっても磁力(マグネティックフォース)がないからマサドラで購入する時間差が生じるのが第二候補。仲間と共に来るのは大穴。だが、攻めて来ないというのは想像さえしていなかった。一応、俺はノブナガを殺した敵であるはずなのだが。

「ブック」

 嫌な予感がして、バインダーで名前を確かめる。あれは本当にフィンクスだったのか、疑問が浮かんだのだ。

 だがやはりフィンクスの名前はバインダーの最後尾に載っている。ならばあれは衝突(コリジョン)を使ったフィンクスに間違いない。

 では、なぜ奴は追って来ない? 殺す価値がないと思われた? いや、フィンクスはノブナガを殺したのが俺だと明確に認識していた。蜘蛛の矜持も考えれば、仲間を殺した奴はとりあえず殺しておくに違いない。俺を殺す価値は十分にあるはずなのだ。

 となると、現状にさっぱり説明がつかない。

「ええーー……」

 変な声を上げながら、思わず頭を抱えてしまう。これ、マジでどういう状況だよ?

 と、バインダーのリストに次々と新規の名前が載っていく。

 ユア、キルア、ビスケット、ゴン。

「! ポンズ、これを」

「どうしたのっ!? って、あら。ゴンはちゃんとグリードアイランド参加できたのね。

 ユアちゃんはいいとして、ビスケットって誰かしら?」

 バインダーを見せれば、ポンズはその名前を見てとりあえず落ち着いてくれた。恐ろしい敵が襲ってこない焦燥と困惑が、仲間の名前を見ることによって一時的に消失したのだろう。

「俺たちは北から来たから、あいつらは南か。

 いちおう、合流しておくか」

 軽く言いつつ、南へ向かう。バインダーに名前が載ったということは、半径20メートルに入ったということ。すぐに見つけられるだろう。

 ――だが、なんだ。この不穏な感じは? 軽くポンズに目配せをすれば、彼女も真剣な表情で頷く。そして警戒をしつつ、視界が悪い岩石地帯を歩いて行く。

 大きな岩を曲がった先に、その少女は1人で立っていた。いや、少女というには歳がアレだけれども。外見だけならば立派な少女だ、服装もゴスロリだし。

 ビスケット=クルーガー。ダブルの称号を持つストーンハンターであり、その腕前は紛れもなく1流を超える。

 その人物が、鋭い目でこちらを睨んでいた。

「っ!」

「ポンズ、下がれ」

 敵意――とは違うか。闘気ともいえるオーラを発しつつ、油断なくこちらを見据えるビスケットを目にしてポンズを下がらせる。

 フィンクスと勝るとも劣らないそのオーラ。フィンクスは荒々しさが目立ちつつも攻撃的な威圧を隠そうともしていなかったが、ビスケットのオーラは流々としていて意図が読みにくい。歓迎されていないことは分かるが、害意は感じないように思うが。さて。

「あの女の子も、旅団?」

「いや、違う。旅団の顔は全て頭に入っている」

「じゃああの子はいったい――」

「ポンズ!? あ、それにバハトも!!」

 オーラを漲らせるビスケットの後ろにある岩陰からひょっこりゴンが顔を出し、大声をあげる。それにつられてユアが、そしてキルアも岩陰から姿を見せる。

「なにさ。あんた達の知り合い?」

「うん。俺の同期のハンターで、バハトは念を教えてくれた師匠でもあるんだ」

「そして私のお兄ちゃん! グリードアイランドに来てたんだねっ!!」

 先ほどまでの闘気をビスケットは霧散させると同時、ユアがたたっと走りながらこちらに近づいてくる。

 一応、凝。この4人が操作されて『敵』の手駒になっていないとは限らない。クーフーリンも万が一に備えて即座に霊体化を解除できるように備えていた。

 まあ、結果から言えば杞憂だったのだが。ぴょんと俺の胸に飛び込んでくるユアにおかしなとこは1つもなく。久しぶりに会えたユアを思いっきり抱きしめる。

「久しぶり、ユア」

「元気で何よりだよ、お兄ちゃん」

 ユアもぎゅーと抱き着いてきて、えへへと笑うその顔に自然と笑みがこぼれる。

 多分、そんな外から見たら微笑ましい姿にビスケットが呆れた声を出す。

「ハイハイ。ユアがお兄ちゃん大好きなのは分かったから。ってかあんた、バハトって言ったっけ。ここに来る時に剣呑な空気を出してどうしたのよ」

「ちょっと襲われて、逃げててな。一筋縄じゃいかない相手だったから、人目のないところを目指してた」

 ぴくりと眉を顰めるビスケット。その間にキルアが口を開く。

「ってか、バハトもグリードアイランドに参加してたのな。幻影旅団から逃げたんじゃなかったのかよ?」

「ああ。旅団から逃げるには、入るのが難しいグリードアイランドが最適だと思っていたんだ」

「でも多分幻影旅団(アイツラ)グリードアイランド(ココ)に来てるぜ。競売にかけられていたグリードアイランドが1つ奪われたみたいだし。多分、アイツラの仕業だろ」

「キルア正解。衝突(コリジョン)で遭遇して、逃げてきた。あれはフィンクスって奴だったか」

 俺の言葉に、驚きの表情を見せるゴン。心配の表情を見せるユア。同情の表情を見せるキルア。納得の表情を見せるビスケット。

「なーる。あんた程の実力者が何から逃げたと思えば幻影旅団ねぇ。強いんだ?」

「強がりを言えば五分五分かな。実力は同じくらいだと思うが、殺し合うとなると分が悪い。

 という訳で、切り札を使える場を選んで逃げて来たんだが……なぜか追って来ないんだよなぁ」

 そこが本当に不思議である。いやまあ、幻影旅団と今殺し合うメリットは少なすぎるから好都合ではあるのだけど。

「そもそも衝突(コリジョン)ってなに?」

「スペルカードよ、ゴン。マサドラにはまだ行ってないの?」

 素朴な疑問をあげるゴンにポンズが答える。その質問で顔に苦みが走る子供たち。

「行ったには行ったけど……」

「本当に行っただけというか」

「寄っただけ?」

「まー、攻略を開始するよりも地力をあげる方が先だと思ってね。ここでみっちり特訓をしてたって訳よ。

 ユアはまあまあだけど、ゴンとキルアはかなり鍛えがいがあったわ」

「お前がこの3人を鍛えてた?」

「そ。自己紹介が遅れたわね。あたしはプロハンターのビスケット=クルーガー」

「嘘つけ。ビスケット=クルーガーはストーンのダブルで57の初老だ。お前みたいに幼くない」

「…………」

 目が点になるという、ちょっと変わったビスケットの表情が見れた。

「――ちなみにあんたは?」

「情報ハンターのバハト。プロには今年なったばかりだな」

「ああ、最高のアマとかいう噂の。あんたが売ってくれたパープルダイヤの情報は助かったわ~」

「! ガチでお前がビスケット=クルーガー……?」

「納得して貰ったようでなによりだわさ」

 やや迂遠な自己紹介が終わる。俺やビスケットのような実力者同士の場合、顔を知らない敵だということも十分有り得る話だ。有名人の名前を騙るなんて当たり前の揺さぶりである。

 そこで本人しか知らない情報などを出し合って敵でない事を確認する、もしくは自己紹介に嘘が無い事を証明する。こうして少なくとも敵でない事を確かめ合うのだ。

「なに? ビスケってお兄ちゃんのお客だったの?」

「そうらしいわね。盗まれたパープルダイヤの場所を特定したのが、バハトっていうアマの情報ハンターだったわさ」

「ちなみにパープルダイヤは、まだ盗み出された博物館に返されていないんだが……」

「奪い返したあたしを見つけて、その上で交渉次第では返すわよ~」

 おほほほー、と笑うビスケットに子供たちは呆れ顔だ。ポンズや俺はハンターはこういう人種だと分かっているので何も言わない。俺が言ったら色々とブーメランになって返って来るし、ポンズも似たようなもんだろう。

 ひとしきり笑った後、ビスケットはポンズに視線を向けた。

「で、そっちのお嬢ちゃんは?」

「あ、ポンズって言います。バハトさんの手伝いをする為にグリードアイランドに参加したん、ですけど――」

 自分よりも頭2つ分くらい背の低いゴスロリの女の子(57歳)にお嬢ちゃん呼ばわりされて、やや戸惑ったポンズの声が萎んでいく。

「――バハトさんと幻影旅団の戦い、とてもついていけないわ。目で追うのが精いっぱいよ」

「目で追えるだけで十分凄いんだけどな。同行(アカンパニー)での撤退は凄く助かったし」

「……ポンズって、あのレベルの動きを目で追えるんだ」

 ゴンは呆れたような感心したような声を出す。ゴンは原作通りなら、幻影旅団に一瞬で捕まったか。それと同じような目に遭ったと考えれば、まあ分からなくもない。

 だが俺がここに来たのは、仲間たちをあのレベルの戦いに引きずり込む為でもある。

「フィンクスも何故か追って来ないしなぁ。

 えっと、お前らはここで修行してたんだっけ?」

「うん、そうだよ!」

「まあ結構強くなったかな」

「ゴンもキルアも成長速度がバケモノなんだけど……」

 ユアは世界中の人々に総ツッコミを受けそうな事を言う。ユアも十分バケモノだろ、と。まあ、そんなユアがこう評するくらいにゴンとキルアがなおバケモノ染みているのだろう。

 今日は11月21日。修行もかなり進んだ頃か。

「俺の方も結構手詰まりになった感じがあるし、いったん頭を空っぽにして修業するかな? ポンズも、フィンクスに勝てとは言わないけど戦闘は成立するくらいにはなって欲しいし」

「……上は高いわねぇ」

 ちょっと遠い目をするポンズ。ってか、こんな表情をするポンズも久しぶりだな。ゾルディックの敷地内に居た時はだいたいこんな目をしていた。

 そんなポンズを放っておいて、ビスケットが俺を品定めするように見てくる。

「ゴンとキルアに念を教えたのがあんただっけ? あのレベルにするのもなかなかだけど、ユアはかなり高水準にまとまっていたわね。その師匠であるあんたの実力も興味あるわ。

 それに、高みの戦闘っていうのも見せてあげたかったしね」

 挑戦的なその口調。悪くない、俺が望む展開でもある。

 ニヤリと笑ってその挑戦を受ける。

「手合わせのお誘いと取っていいか、ビスケット」

「ビスケでいいわよ。

 では一手、拳で語ろうか」

 ずんと空気が重くなる。足を大きく開いて右手をこちらに向け、左手を下段に構えるビスケ。腕はともかく、脚は膨らんだスカートのせいで動きが読みにくい。

 俺は李書文に習った太極拳の構え。両手を前に出しつつもやや折り曲げて、体は半身にする。攻撃的な構えではなく、どちらかというと身を守るのに向いた構えだ。

 同時に俺とビスケは凝をする。手合わせならば構えをした瞬間から何をされても文句は言えない。これが敵からの奇襲ならそれ以前の問題。俺もビスケも、自己紹介が終わるまで何度も凝をしていた。

 ピンと澄んだ緊張に、いきなり始まった手合わせに。残る4人は戸惑いながらも後ずさる。流石にこれには巻き込まれたくないのだろう。

 そんな中、ビスケは緊張感のない声で後ろにいる教え子たちに声をかける。

「あんた達に問題。バハトは凝を何回した?」

「?」

「今、してるよな?」

「あたしが近づいた時もしたけど」

「ゴンとキルアは論外、ユアは赤点。正解は7回。

 あたしを警戒して凝をしたのが5回、出会った時にユアが危険でないかどうかを確認したのが1回。手合わせの開始に1回。

 指をあげた時に凝をするのはあくまで訓練、違和感を感じた時や離れていた相手と再会した時も凝。誰かに操作されている可能性もあるからね」

「そういうビスケは9回凝をしたよな。ポンズは何回気が付いた?」

「え、ええと。最初に会った時に凝をしていたのは気が付いていたけど、それ以外は今やっているのしか……」

「ポンズも赤点な」

 遠くを見るのに目を凝らすのと同じ感覚で凝。口で言うのは易いが、為すのは至難の業。

 特に凝をするのは、仲間だと思っている相手に甘くなりがちな傾向にある。仲間たちとくつろいでいる時にそのうちの1人が唐突に操作の条件を満たされてしまう場合もあるので、どこで気を抜くかというのは本当に難しい問題なのだ。俺はサーヴァントがいるからまだしも、普通ならば俺とビスケが警戒し合っているような緊張感の中で、凝を怠ってはいけないのである。

 まあこれはやや難易度が高い話ではあるか。そして今から為すのは、単純だが更に長い修練の時間が必要となるもの。

 

 練

 

 ビスケの体から、小さな少女には有り得ざるオーラが噴出する。

 目の隅に映ったユアたちの表情が驚愕に歪んだ。おそらく、ここまでのオーラを出したビスケを見た事がないのだろう。それも道理、俺も同じくらいのオーラを出している。つまり、ここまでのレベルの相手をして来なかった証左。それ程の念能力者の数は、多くないという言葉で表現するに過大だろう。

 圧倒的なオーラで強化してビスケから動く。背は、俺の方がずっと高い。左手を突き出すように愚直な突き、から体全体を捻転させて巻き込むような左脚のハイキック。流にいささかの澱みもない、素直に反応したら左手の突きのフェイントに引っかかるところ。

 俺は流をせず、堅と体術のみでその攻撃を捌く。左手のフェイントには右の掌を、本命の左のハイキックには右の肘を当てる事で防御を成立させる。フィンクスの攻撃に劣らない衝撃が右腕全体に走るが、それはつまり戦闘続行可能だということ。空中で独楽のように回るビスケの後頭部に向かって左脚で蹴りを放つ。

 と、ピタリとビスケの動きが止まった。捻転させたことで体が傾き、伸ばした左手で地面を掴み慣性を殺したのだ。今のビスケは俺に向かって背中を向けつつ上下を反転させている状態。彼女はそのままサマーソルトキック染みた動きで、俺から見て真下から蹴りを合わせて俺の攻撃を相殺する。

 そして今度こそ完全に空中に体が取り残される形となったビスケは、体重で勝る俺の蹴りに耐えきれずにズリ下がる。その隙を見逃す俺では、当然ない。フィンクスとの戦いでは退却を優先したが、ビスケとの手合わせでは遠慮しない。蛇行する蛇のような動きで撹乱しつつ迫り、狙うのは小柄な体の更に下から。顎を目掛けて抉るようなアッパーを繰り上げる。

「疾っ!」

「吻っ!」

 八極拳の動きに惑わされてビスケの回避は間に合わない。それは間違いのない事実だろうが、防御は間に合った。両手を顎の下で合わせ凝も併せた掌で攻撃を完全に受けきられてしまう。

 そして俺の拳を掴んだビスケは、魚を釣り上げるように自分の首の後ろに投げるように俺の腕を引っ張り上げる。対抗することもできず、俺の半身が伸びあがってしまう。

 残るのはお互いに、伸びていない方の脚のみ。

「「破っ!!」」

 ドゴンと音がして、脚と脚がぶつかり合う。押し負けたのは――俺の方だった。流を為したビスケの一撃に俺の攻撃は威力が足りず、今度は俺がズリ下がる。

「ま、こんなとこかしら」

「だな」

 そこでようやく空気が弛緩し、オーラを抑える。戦いの時間は、さて何秒だったか。自分が戦いの場に入ると時間の感覚が狂ってしまう。

 ともかくビスケもやはり俺と同じ領域で戦える相手だ、今の状態で。いわゆるゴリラ状態にならずにここまでの戦闘力を叩き出すとは、亀の甲より年の功という奴だろう。

「なんかすごくあんたをぶん殴りたくなったわさ」

「勘弁してくれ」

 ギロと睨まれる。ここは迂闊な事を考えた俺が悪い。

「しかしそうねぇ、堅タイプとは珍しいこと。あんた、強化系だわね」

「え、ビスケ分かるの?」

 ずばり俺の系統を言い当てたビスケに、手合わせは終わったと無警戒で近づいてくるゴンが声をかけた。

 ビスケは俺に言っていいか目配せをして、俺はそれに頷いておく。

「まあね、強化系にたまにいるのよ。オーラの身体強化が過ぎて体の動きに流が間に合わない、通称堅タイプ。

 このタイプは流による攻防力の移動が苦手だから、ひたすら堅を強固にしていく傾向にあるわね。

 攻撃的な性格の奴はそのまま相手の攻撃を無視して襲い掛かるし、バハトみたいなタイプは防御に専念して相手の消耗を待つのだわさ。

 そして隙を見つけるか消耗した相手に一撃必殺の発を叩き込むのがバハトだとあたしは見た。人目を気にして幻影旅団との戦いの場所を選んでいたのもそうだし、体術も明らかに防御向きだわさ」

「そこまで言っていいとは言ってねぇよ」

 戦術まで裸にされて、流石に一言物申した。当の本人はオホホのホ~と、どこ吹く風だが。

 人には念の向き不向きがある。俺はその中で流が苦手なのだ。もちろん当たり前にはできるのだが、本気の戦闘では体捌きに流によるオーラの攻防移動がついてこない。

 その為に編み出した戦術はビスケの言う通り。堅と体術による鉄壁の守りはもちろん、サーヴァントが使えない状況も想定して、発の切り札は3枚伏せてある。ノブナガを仕留めた妖艶な吐息(ラシェットブレス)もその1つである。

 裏を返せば、俺は同レベルの相手に対して通常攻撃の殺傷能力が低い。格上になれば尚更に。まあ、最強の手札がサーヴァントという時点でそこは察して貰えるだろうが。

 だからこそ、俺の拳には殺気がほとんど乗らないのだ。殺すよりも守る事が本質であるが故に。殺意が溢れる時は、3枚の切り札を使う時のみ。まあ、殺意もなくあっさりと格下を殺せるのが俺クラスの念能力者でもあるのだけど。

「さて。俺の『敵』や幻影旅団はこの領域にいるからな。できればここまで皆には来て欲しい」

「お、おう。努力するぜ」

 やや引き攣った顔で応えるのはキルア。気にせんでもお前やゴンは順当に成長すればここまで来れるから心配すんな。何年かかるかは分からんけど。

 対してキラキラした瞳で俺を見るのはユア。明確に目標が示された事でやる気が増したらしい。操作系のユアと具現化系のポンズは一番遠い場所にいるんだが、まあ言うのは野暮だろう。

「じゃあ、もうしばらく修行を続ける感じでいいか? ビスケ」

「そうねぇ。もう合格にしてゲーム攻略を始めようかとも思ったんだけど、バハトくらいに強くなりたいならもうしばらく基礎を詰めてもいいかもね。

 そうすればヨチヨチ歩きでも、もうちょいマシになるわさ」

 真面目な顔で言うビスケに、俺は追加で言葉を続ける。

「で、だ。ビスケ、もしも幻影旅団に襲われたら俺以外の4人を守ってくれない? アイツ等を相手にして、他にまで気を回す余力は流石に残りそうもない」

「ま~いいわよ。お金次第で」

「金取んのかよ!」

「オッケー、1回5億払おう」

「そしてバハトさんもあっさり払うのね!?」

「もう一声!」

「そしてガメツイなっ!」

「7億」

「商談成立っ!」

 凄くイイ笑顔をした俺とビスケは握手を交わす。これもヒソカに旅団の情報を売った収入があればこそだ。ヒソカの奴が敵対行為をしてなくてマジで意外である。

 呆れた顔をする仲間たちに、俺とビスケはまた真面目な顔をして話しかける。

「何言ってんのさ。A級賞金首からひよっこを守れなんて、そんなハードな依頼普通なら断るわよ。ゴンとキルア、ユアが居たから引き受けただけで」

「俺としても7億で戦いの時にお前たちの安心が買えるなら格安だ。ビスケの腕は確かめたばかりだしな」

 そう言い合う俺たちだが、ゴンのため息交じりの声でその場は〆られる。

「どうでもいいけど、もうちょっとテンションを安定させてね。疲れるから」

 

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