殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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すいません、パソコンがぶっ壊れました。
データをサルベージしたり、お気に入りの音楽を探したりしているのに手間取る今日この頃。
前のパソコンも10年くらい使っていたので、新しいのにも少し違和感が……。とりあえず、明度を安定させたい。

とにもかくにも、やや短めですが、最新話をあげました。
楽しんでいただけたら幸いです。


031話 念・7

 

 1週間が過ぎた。

 幻影旅団が襲ってくる気配は微塵もない。

 まあ、グリードアイランドはスペルで一足飛びに襲いかかってこれるのだから気配も何もないが、それを差し置いてもちょっと不気味に思う程に旅団が接触して(ころしに)くる気配がないのだ。都合がいいといえばいいのだが、バインダーでたまに確認しているフィンクスの文字の横に点灯している光が不可解だ。

 ともかく、こちらからフィンクスに接触する予定がない以上、今は己や仲間を鍛える事が最優先。どんな敵や困難が待ち構えていようとも、力業で食い破ってしまえば問題ないという考え方もある。

 そういう意味で、現状は素晴らしい環境が整っているといえる。初心者から中級者に上がるのに絶好であるグリードアイランドのモンスター達は元より、成長期真っ只中ともいえるユアにゴンとキルア、そしてポンズ。教師役として俺とビスケもいる。そしてこの教師役同士も手合わせをして互いにレベルアップが望める関係だ。

 今はゴンとユア、キルアとポンズがそれぞれ流を用いた組み手を行っている。この中ではユアが頭一つ飛び抜けているのが悩みの種だ。ポンズは俺が流の特訓もさせていたからゴンやキルアになんとか食い下がるレベルを維持できているが、ユアのようにレベルが高いものがその質を落とせる訳がない。そしてユアを相手にするには俺やビスケは強すぎる。この場において、ユアだけがレベルアップにしくい状態である。

 とはいえ、腰を据えて修行できる環境に変わりはない。確実にユアもレベルが上がっている。

 流々舞(るるぶ)は実力が伯仲していないと成立しないとは、原作のビスケの言だったか。ポンズはキルアにかろうじてついて行けているが、ゴンはユアにギリギリついていけない。っていうか、現時点でユアにギリギリついていけてないレベルか。念を覚えて8ヶ月程度とはとてもじゃないが思えないな。ユアは念を覚えてもう3年は経っているというのに。

 ――キメラアント編になったら俺も追い抜かれかねない。もうちょっと気合い入れよう。

「はい、そこまで」

 ビスケの声で4人が鍛錬を止める。ポンズはかろうじて立っているだけという消耗具合で、ゴンとキルアは肩で息をしている。やや呼吸を乱しているだけなのはユアだけ。

 それだけ修行が厳しいというのもあるだろうが、これはいただけない。

「どんなに疲労が溜まろうが、最低限逃走が可能な体力は残しておくように」

「無茶、言う、なぁ……」

 ポンズが息も絶え絶えに言うが、これはハンターの基本である。ハントする側にとって、相手を消耗させるというのは常套手段。ならばいつ何時狙われようとも、逃げ切るだけの算段は立てておかなければならない。ハンター試験でイモリが逃走専門の発に目覚めても便利だと思ったのはこれが根底にある。生きていさえすれば、再起は可能なのだから。

 まあ、今はいいだろう。俺とビスケがそばに居るし、最悪の最悪でも大天使の息吹を使えば体力も回復できる。大分勿体ない使い方ではあるが、削った相手が一瞬で体力全開になるとか普通に悪夢だ。手段としてなくはない。

 そして監督が終われば次は俺とビスケの組み手である。言わずともルーチンになったそれに、組み手を終わらせた4人は自然と距離を取る。そして俺とビスケは向かい合い、練。

 初日と同じオーラをまき散らすが、見学者たちはもう慣れたのか怯みもしない。これだから才能あるってヤダ。もうちょっと初々しい可愛さを見せろってものだ。

 ともかく、俺とビスケの組み手を全力で見学させる。このスピードに目をならさせる訓練とも言う。

 仕掛けるのはだいたいビスケから。俺は防御的な方が得意なため、自然と受けに回る事が多い。まあ、1回不意を打って先制を仕掛けた事もあったが、見事に対処された。やはり57歳の経験値は伊達ではない。

「シィィィ!!」

 俺の思考が漏れたのか、いつもより殺意3割増しのビスケの攻撃は俺の左側から。それも当然、俺は左目をくり抜いているから左半分の視界がない。こんな分かりやすい弱点を狙わない方が間違っている。

 しかしながら自分で自分の視界を潰し、そして何年も経過しているのである。当然対処法はある。

 俺の最も得意な応用技は円だ。全力で広げれば100メートルを超えるが、堅として維持しているオーラにも円の効果は付随する。俺は体からおおよそ50センチ程度の堅を保つので、その範囲に入ったなら相手の動きは全て感知できる。

 事前の動きからビスケの攻撃はミドルかローのキックと推測し、両方をカバーできるように左腕で胴を守って左脚に苦手な流で僅かながら防御力を上げる。

 結果、ビスケの狙いはミドル。見えはしないがおおよそ攻防力80程度の蹴りが左腕に響く。ジンジンと痛むが、戦闘続行に支障なし。捻転を込めつつ、最短距離を抉る発勁を右手で放つ。蹴りを叩き込む事で体勢を崩したビスケに回避は不可。彼女は左腕にオーラを集め、瞬時に受けに入る。

 しかしいかにビスケの流が速くとも、完全に対応される程に俺の攻撃はヌルくない。集まった攻防力は65程か。それでは強化系かつ体の大きさで勝る俺の攻撃は受けきれない。ビスケは表情を歪めつつ、勁を受ける。

 実は発勁はここが厄介なのだ。外部破壊でなく、内部破壊。身体を震わせるように衝撃を浸透させる事により、攻撃箇所から響くような衝撃を相手に与える。結果、防御箇所の周辺にもダメージを与える技が発勁なのである。下手に硬で一点防御をしてしまえば、例えば腕で受ければ手首や肘が破壊される。俺は堅タイプだが、相手が流に優れようと決して後手には回らない。流には失敗による大ダメージという緊張が常にあるが、俺の戦法はそれを倍加させるのだ。

 僅かに硬直したビスケに向かって両手でラッシュをかける。ラッシュとはいえ、ボクサーのようなそれではない。八極拳のラッシュは一撃一撃、相手の芯に響くような勁を込めたそれなのだ。となれば、ビスケも流を使っている場合ではない。体格差から打ち下ろしにならざるを得ない俺の攻撃に対応して、上半身にオーラを集めて防御をする。

 つまりビスケの下半身にオーラは少なく、一瞬の隙を見出してローキック!

「甘いっ!」

「げっ!」

 が、それが逆に俺の隙になった。最初の蹴りで痺れてほんの僅かに動きが鈍くなった左腕をビスケが抑え、関節を極めにくる。

 こんなとこで腕を失えば負けは確定。慌てて蹴りを中断し、自ら飛んで宙返り。極められかけた関節技を外す。それは当然大きな隙となり、ビスケはガラ空きとなった俺の腹に正拳突きを見舞ってくる。

 俺の体勢は大きく崩れたが、ビスケの体勢も万全とはいえない。それを整えるほんの僅かな時間の空白を利用して流を為し、腹を防御。体捌きについて来ないだけで、俺だって流は1流以上の速さで行える。っていうか、それができなければ凝もロクに出来ない事になるのだから当然だが。

 ビスケの拳にオーラが集まり、オーラで守った俺の腹を打つ。

「ぐ…」

 やはりダメージはあるが、それだけ。堅タイプの俺は、体力を重点的に鍛え上げている。多少ダメージを食らおうが、戦闘に問題ないように仕上げている。というか、ダメージを食らう事は織り込み済みなのだ。強化系だから回復も早い。

 ビスケの攻撃を耐え、即座に反撃。今の攻防は6:4で俺が不利といったところか。しかし基礎体力や潜在オーラはおそらく俺の方が上。長期戦になればなるほどに勝敗の天秤は俺に傾いてくる。

 ビスケの体力が尽きる前に彼女が俺を仕留めるか否か。俺と敵対する相手は、大凡そんな戦いを強いられる。ちなみに先述した通り俺の攻撃も別に軽くはないので、体力が尽きるとは俺の攻撃を捌ききる気力や集中力が持たなくなるという意味もある。ゴリゴリと相手を削るのが俺の戦い方だ。

 もちろんこれは殺し合いではないので、適当なとこで切り上げる。具体的にはビスケが本気で殺す気になる一歩手前でだ。もちろんその前に俺が致命打を食らえばそこで組み手は終了だが、今のところそれは一度もない。サーヴァントに鍛えられた身は伊達ではないのだ。

 だいたい10分くらいが平均。俺とビスケは組み手でたっぷりと汗を流すのだった。

 

 ◇

 

 魔法都市マサドラ。

 食料品などの買い出しはここに来る。幻影旅団に狙われている現状バハトとポンズは当然来れず、名前が割れているゴンとキルアもこわい。なので買い出しは名前も顔も割れていないビスケとユアが担当になっていた。シャワーも浴びれないポンズが恨めしそうに買い出しに出る女性たちを見ていたが、さらっと無視する神経の太い買い出し組2人である。

 バブルホースがウン十万になると話を聞いていたので、それらのモンスターカードを元手に食料品や雑貨を買い、ついでに役得といわんばかりにお風呂に入って身体を清める。

 湯船に浸かりながら一糸纏わぬ姿で寛ぐユアとビスケだが、ふと気になったユアがビスケに問いかける。

「ねえ、ビスケ。お兄ちゃんってどのくらい強いの?」

「バハト? バハトねぇ、あの歳であたしと組み手が成立するってだけで褒められていいわさ。

 二十歳そこそこだっけ?」

「うん。もう21歳になった」

「見事と言っておきましょうか。天才、鬼才。そういうレベル。しかも情報ハンターとしても1流となれば、あんたのお兄ちゃんは素晴らしいの一言」

 大好きなお兄ちゃんを褒められたユアはふんすと得意げな顔になるが、続くビスケの言葉に顔を顰める。

「ただし、怖くはない」

「――どういうこと?」

「攻撃の一撃一撃に殺気がない。殺す気がない攻撃は怖くない。

 しばらく仕合って分かったわさ。バハトは殺す事より殺されない事を主眼に置いて戦っている。それは殺す気の相手にとって絶好のカモ、防御を気にせず殺す攻撃ができるなんていいサンドバッグだわね」

「お兄ちゃんは、人を殺した事もあるはずよ」

「あのレベルの念を使えれば、そりゃ楽に格下は殺せるだわね。だが、それは戦いの上での殺しじゃない。自分が死なない位置を確保した上で、結果的に死ぬ攻撃を出しただけ。

 対等な戦いにおいて、バハトは相手を殺せる拳を持ってないのよ」

 ビスケの言葉にユアは、う~と言いながら頬を膨らませる。バハトに否定的な意見が面白くないのだ。

 そんなユアを見ながらビスケは、まだまだガキねぇとほんの少し微笑ましい気持ちになる。

(まあ、だからこそ信用に値するともいえるのだけど。後ろから急に襲ってくるタイプじゃないわね)

 それに。

(本当に怖いのは、2つ。あそこまで防御的なバハトの切り札。幻影旅団の1人を殺したというのだから、その発は十分な殺傷能力を持っていると考えるのが筋)

 拳で戦うバハトは怖くない、殺す気がないと言っているのも同然だから。だが裏を返せば、殺す気の発を使う時は一切の容赦がなくなるという意味でもあるのだ。それは普段の殺意の無さが擬似的な制約にもなっているのだろう。発を使う時は相手を殺す強い意志を込める、その一撃は凶悪で強力なのは想像に難くない。

 そしてもう1つ。

(バハトが道を踏み外した時)

 八極拳の全てに殺意が乗る、それはビスケにして脅威と言わざるを得ない。バハトのタガが外れ、誰彼構わず殺すような存在になった時、彼を止める手段は殺す以外なくなるだろう。そしてその時は簡単に殺せる存在では無くなるだろうとも。

 そんなバハトを殺せるか。ビスケは殺そうとは思えるだろう、勝てるとも思えるだろう。だが、殺されないとも思えなかった。

 温かい湯船に浸かるビスケの背筋にゾクリと冷たいものが奔る。子供達にとっては大人のお兄さんなのだろうが、ビスケから見れば二十歳そこそこの若造だ。何かの拍子に暴走する不安定な年頃に思える。実際、ビスケに言わせれば30になろうとも60になろうとも、狂う人間は狂う。ビスケ自身、己が道を踏み外さないように心源流という武道に身を置いている側面はある。力ある者が道を踏み外さないような心得が、長年の歴史を持ってそこに存在するのだ。

 バハトにそれがあるのか。無いとはいえないだろう、ユアやバハトに言わせればシフであるリショブンという先達者もいる。ビスケは知らない武術といえども、外道に為る事を歯止める心得はあるはずだ。

 では、何がそんなに怖ろしいのか。

(――ユア)

 幻影旅団に部族ごと虐殺され、バハトに最後に残されたたった1人の妹。ビスケの感想では、バハトのユアに対する接し方は妹というより娘に近い。ユアがバハトに依存しているのと同じように、バハトもユアに依存している。ビスケにはそう見えた。家族なのだからある程度の依存はいいのだが、この兄妹には依存先がなくなった時に壊れかねない危うさも感じさせる。

 さもあらん。若い時分から、たった独りで守ってきた幼い家族なのである。ユアが害される、殺される。そんな時、バハトは正気を保てるのか。

 ビスケには自信を持って頷く事が出来なかった。

 ちらりと横目で、無邪気にバハトは凄いんだとぶちぶち文句を垂れるユアを見る。

(要はユアに問題が無ければいいのよ、うん)

 そう無理矢理自分を納得させるビスケ。実際ユアも念能力者として十分な実力を備えている、弱冠13歳にしてだ。このままいけば、間違いなく1流の範疇に入るのだろう。

 いや、そもそもとして。

(そこまであたしが面倒見る義理ないしね~)

 これに尽きる。

 あっけらかんと切り替えたビスケは、しばしの入浴を楽しむのだった。

 

 ◇

 

 フィンクスと遭遇してから約1ヶ月、今日の日付は12月14日。

 幻影旅団からのレスポンスが全くない。

 多分ここまで来たら、バインダーに載った『クロロ=ルシルフル』を見つけて除念師探しに移行しているのだろうなとも思うが、そうなるとあそこでフィンクスが衝突(コリジョン)で遊んでいた事の説明がつかない。

(いや待て)

 ピンと閃いた。あの時、俺の協力者であるポンズの名前を調べる為にフィンクスはバインダーを調べた筈だ。その時に初めてクロロの名前を見つけたらどうだ?

 ノブナガの敵討ちか、クロロの除念か。どちらに天秤を傾けるかは分からないが、クロロの除念を優先したとしても不思議ではないだろう。ならば幻影旅団が襲撃してくるのは除念師を見つけた後である。時間は、かなりあると見ていい。

 だが、下手すると幻影旅団が団体で来る可能性も高い。忙しいのならばともかく、ノブナガの敵討ちに暇している連中が大挙してやってくる可能性は十分にある。

(となると、やはり)

 サーヴァントを使わざるを得ない。『敵』と戦う前にサーヴァントを晒すのはかなり痛いが、背に腹は代えられない。せめて襲ってくる幻影旅団は全滅させて、情報漏洩は最小限にしなくてはならないだろう。

『そんな感じになるが、頼めるか?』

『任せとけって』

 気負わないクーフーリンがとても頼もしい。まあ俺を殺しに来て、その相手がクーフーリンになるとなれば、敵を全滅させられる可能性は十分にある。幻影旅団で現在バインダーに名前が載っているのはフィンクスだけ。ならば初回の襲撃で敵を全滅させれば、後続はない。あって衝突(コリジョン)による単独の襲撃ならば、やはりクーフーリンで勝ち確だ。刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)とか、マジで反則である。

 と、そんな事を考えながら4人の修行を見てつつ、ビスケと話し合ってそろそろゲーム攻略を始めようかという結論になりかけていた時分。

 スペルによる移動音が聞こえてきた。

「っ!!」

(今かよっ!?)

 全力で練をする俺に、この状況を伝えていた全員に淀みは無い。スペルによる移動では、着地点は対象より手前と決まっている。つまり音が聞こえてくる方向から見て俺よりも後ろに居れば、先に戦うのは俺となる。大きく下がる4人に、それと俺との間にビスケが立つ。この布陣ならば少なくとも同行(アカンパニー)で逃げる時間くらいは稼げるだろう。敵が集団で来た場合ならば、左遷(レルゲイト)などでの援護も期待できる。

 と、そんな覚悟をする俺を通り過ぎて。さらにビスケも通り過ぎて。ビスケと4人の間に着地するその男。

 俺ではなくポンズを目標に飛んできたかと一瞬絶望するが、見えた肌の色は黒。そして肩に付着した時限爆弾。

 ……あれ? ちょっとスケジュール早くない?

「あんた、確か選考会に居た――」

「っていうか、その肩の念。なんか禍々しいんだけど」

「そうだ。爆弾魔(ボマー)にやられた。警戒するのは分かるが、話を聞いてくれないか?」

 キルアがその顔を思い出し、ユアが異質なオーラを出しながら嫌悪の目で命の音(カウントダウン)を見る。

 そしてスペルで飛んできた男、アベンガネは全力で警戒している俺たちをなだめるような口調でそう語った。

 うん。っていうか、ここでアベンガネを殺せば、クロロの除念って相当困難になるよな。

 仲間達とは大分違う方向に思考を飛ばしつつ、まずはアベンガネの話を聞く事にする。

 アベンガネを殺すかどうかは、話を聞き終わってからでいい。仲間の前で殺す訳にもいかないから、スペルでここから去ってから後を追うのがいいか。

 そう思考を回しつつ、まずは爆弾魔(ボマー)の情報を仕入れる。

 素知らぬ顔で彼を殺すかどうか、そのメリットとデメリットを冷静に天秤にかけていく。

 決断までの時間は、彼が話し終えてスペルで移動するまで。

 




次回更新も、少し時間をいただけたらなぁと。
っていうかいい加減、ポンズの夜のシーンも書かなくちゃですから。
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