殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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パソコンが帰ってきたので投稿するよー。


036話 情報過多・1

 光を纏い、高速で空を逃げる爆弾魔(ボマー)たちを見送る。

 追って殺すことは、おそらく可能。サーヴァントを解禁すれば確実に、だ。

 それ故に急ぐ必要は全くない。邪魔になれば殺せばいいし、むしろ今殺してしまうと『敵』に無駄な情報を与える羽目になる。

 俺の名前や素性がバレているのはもう諦めているが、奴らを殺すにはそれなりに手札を晒す羽目になる。体捌き一つ取っても『敵』との決戦を考えれば知られないに越した事はないし、奴らを急いで殺す理由を探られてニッケス生存に辿り着かれても面白くない。

 それに、直近、急いでしなければいけないことが2つある。そのうちの1つである、顔を青くしたキルアに走り寄った。そこには既にゴンとビスケが居て、キルアの様子を診ている。

「ゲホ、ゴホッ!!」

「キルア!」

「だい、じょうぶだぜ。心配すんなよ、ゴン……」

 青白い顔で言うキルアは誰が見てもやせ我慢だと分かる。

 とりあえず清廉なる雫(クリアドロップ)を取り出してキルアに渡せば、心得たと言わんばかりに口をつけた。

 能力を知られるのは不便ばかりでないという好例だ。

 さておき、キルアを慎重に診察していたビスケを真剣に見る。

「どうだ?」

「内臓がイってる。肺は確実、消化器系も怪しい」

「……清廉なる雫(クリアドロップ)じゃ気休めにもならない。早く病院で治療が必要だな」

 真面目な表情で言うビスケにまずは妥当な手段を挙げるが、問題もある。

「そんな、ここはグリードアイランドだよ! 病院なんて――」

「医療都市ボセラって町があるわ。呪文(スペル)ですぐに行ける」

 ゴンの悲痛な声を切るのはポンズ。余った漂流(ドリフト)を使って全ての都市を記録しておいた甲斐があったというもの。

 だが、問題はそこではない。

「ハンター試験には間に合わないな」

「……しかたねーよ。別に次で受からなきゃいけないわけでもねーんだ」

 青い顔のままでいうキルア。それはまあそうだろう、助かるだけでも御の字。病院送りで済み、命が助かるなら選択する余地はない。

 それは他の、俺とポンズを除いた全員の認識。

 俺はポンズに視線を送り、力強く頷かれたことで完全に吹っ切った。ポンズは純粋に仲間を想ってだろうが、俺としては次の試験にキルアが行かないという原作ブレイクが怖い。

「ブック。

 大天使の息吹、使用(オン)

「なっ!?」

 バインダーを取り出し、複製した大天使の息吹を取り出して使用する。

 俺が大天使の息吹を使うことにニッケスが驚きの声を上げたが、無視する。

 そして現れた大天使の――虚像とか偶像だよなコレ? まさか本物の大天使ってことはないだろ。

『わらわを呼び出して何用じゃ?』

「こいつ……キルアを治してやってくれ」

『お安い御用――』

 呆気にとられる一同の中、大天使がふーと息を吐きかけるだけでキルアの顔に赤みが戻った。

 いや、改めて凄いなこれ。念能力か、それとも全く別の不可思議現象かすら分からん。サーヴァントですらこの域に達した奴はいないぞ。

 多分。

「キルア、治ったか?」

「あ、ああ。今のは?」

「指定ポケットカード003番、大天使の息吹。あらゆる怪我や病気を一息で治す効果を持つ」

 言いながら名簿(リスト)で大天使の息吹を調べる。カード枚数はやはり3枚、ゲンスルー組の引換券が変化したか。

 ゴンがバラに重傷を負わせたから、気が付けば恐らく奴らは大天使の息吹を使うだろう。問題は擬態(トランスフォーム)で引換券を増やしているか否か。もしもしているならば、大天使の息吹の独占は不可だ。

 まあ、俺は攻略にそこまで執着していないし、大天使の息吹は原作では奴らが独占したカードでもある。そう齟齬はないと思うが、一応ちょいちょい確認しておくか。クリア阻止の為に独占したいというのももちろんだが、大天使の息吹が手元に2枚あるか3枚あるかの差は大きい。

「……お前が大天使の息吹を独占していたのか」

「ん? そうだよ」

 やや茫然としたニッケスに軽く答える。

「なぜ、俺たちとの取引に使わなかった?」

「そりゃ、限度枚数3枚のSSカードだぜ? とんでもなく吹っ掛けるつもりだったに決まってるだろ」

 建前でもニッケスを黙らすのは容易い。

 反論できずに悔しそうに黙り込むニッケス。っていうかお前、もう脱落しているようなもんだし、今更だろとは思うのだが。

 そんなニッケスは放っておいて、次に見るのはユア。

 あのタイミングでバラに仕掛けた命の音(カウントダウン)が解除されるのは明らかに不自然。っていうかそもそもユアが命の音(カウントダウン)を使えた時点でおかしい。

 除念した能力を発動者にそのまま返す因果応報(ユー・フォー・ユー)という能力はあり得ない、だってニッケスを除念しているのはポンズだしな。あれは爆弾魔(ボマー)たちを騙すためについた嘘だろう。

 それはいい、それはいいのだが、ユアの能力が全く見えないのはよろしくない。今回のように、訳の分からないまま相手を追い詰めて、訳の分からないまま能力が解除されるというのは精神的にも心労的にも大変によろしくない。そういうプレッシャーは敵にだけ与えればいいのである。

 つまり、こうなった以上はユアには多少なりとも能力の内容を開示して貰わなくばなるまい。ユアの能力を知っていれば、解除条件を満たさせない可能性もあった訳だしな。これは今後に生きる話でもある。

 じっと、俺とビスケ、それからキルアに見つめられるユア。彼女は居心地が悪そうにしながらも、視線をニッケスへと向けた。

 それにつられてふと彼を視界の端にとらえ、ユアの視線の意味を把握する。奴には念能力を教えたくないのだろう。

「ニッケス」

「なんだ?」

「結局、お前はどうするつもりだ?」

「どう…とは?」

「ポンズの除念が終わった後だ。ゲームクリアを目指すのか? ゲンスルーたちに復讐するのか? それともゲームから降りるのか?」

「……」

 沈黙で答えるニッケス。まあ気持ちは分かる。できればゲンスルーたちに復讐したいだろうし、ゲームクリアも放棄したくはないだろう。しかしながら、どちらかの選択肢も選べる状況に彼はない、両方なんて論外だ。だからといって尻尾を丸めて逃げるなんてことも選べる心境ではないことくらい分かる。

 つまり、ニッケスは心情的に身動きが取れないのだ。

「まだ決めかねる、か」

「……ああ、優柔不断と笑え。

 分かってはいるさ、俺にゲンスルーをなんとかできる力なんてないことくらい。

 今回だって、バハトがいなければあっさりと殺されていた。痛感したよ、俺はグリードアイランドにいる限りこめかみに銃口を押し付けられているのと同等だと。

 だが、だからといってハイそうですかと一矢報いずに撤退する気にもなれん」

「だろうな。

 そこでだ、お前の情報をリークするというのはどうだ?」

「それも考えた。だが、バハトと離れて生きていられるとも思えなくてな。

 ――いい年した大人がおんぶにだっことは、な。情けなくて涙が出そうだ」

 そういうニッケスの瞳は僅かにうるんでいた。心底、自分が情けないのだろう。

 だがまあ、いい年したおっさんの涙を見て喜ぶ趣味は俺にはない。とりあえずこの場から離れてくれるように誘導するだけだ。

「確かに普段なら俺から離れるのは賛成しかねるが、今だけは例外だ。

 バラとかいう男にゴンが大ダメージを与えた、奴らは当分身動きが取れないだろう。また、態勢を整えたとしてこちらに攻めてくるのは相当に躊躇するはずだ。今回、返り討ちに遭った訳だしな。

 つまり、奴らの襲撃直後の今が最大の好機という訳だ」

 実際は知らんが、ニッケスがそう思ってくれればいい。っていうか、俺らから離れた先で死んでくれれば除念の手間が省ける上に原作通りの生存者になるからなお嬉しい。

 そんな心情はちらりとも出さないようにしながらニッケスを説得する。うん、ランサーからもよい演技だと念話を貰ったから自信が増した。

「なるほど。確かにいつまでも怖いとは言ってられないな」

「もちろん、危険を感じたら即座に戻れ。誰かが呪文(スペル)で移動してきたらもう危険域だ。即座に俺のところまで戻って来い」

「分かっている」

 いいながらニッケスはバインダーからカードを取り出す。

磁力(マグネティックフォース)使用(オン)、ツェズゲラ!」

 瞬間、ニッケスは光に包まれてこの場から離脱する。

 ふう、やっと邪魔者が消えた。

「お見事、綺麗に席を外させたわね」

「嘘は言ってない」

 本音も喋ってないがな。

 ニッケスがいなくなった途端に被っていた猫を脱ぐビスケと、面倒くさそうな声色を隠さなくなった俺。

「え…え?」

 即座に切り替わる俺とビスケにゴンだけがついてこれていない。

 ふと思ったんだが、コイツにユアの念を教えていいのだろうか? まあ、上手よりも信頼を取ったということだろうが。

 文句はないなとユアを見れば、ユアも満足そうに頷き返してくれた。

「じゃあ教えてくれ、お前の能力を」

「まあ、仕方ないわね。

 いちおうビスケには説明しておくけど、私たちクルタ族は緋の目になった時にオーラの質が変わって特質系になるの。

 だから普段は操作系なのは嘘じゃないけど、特質系としての顔でも戦えるのが私」

「あらそーなの、すごーくレアねぇ。

 それじゃあバハトも特質系になれるのかしら?」

 無視。

「で、私の能力だけど、お兄ちゃんが察している通り因果応報(ユー・フォー・ユー)なんて能力はないわ」

「あ、そうなの?」

「ユアはニッケスを除念してねーだろうが。気が付けよオメー」

 ボケをかますゴンにキルアが容赦なくツッコむ。

 今度はユアが無視。

「私の本当の能力は悪戯仔猫(ミスティックキャット)っていうわ。

 緋の目で見た能力をそのまま模写する能力」

 言いながらユアはそのオーラを変化させ、氷に変化させる。確認するまでもない、俺の能力である煌々とした氷塊(ブライトブロック)だ。

 だがしかし。

「でもさユア、この氷って凄く脆そうだよ?」

 ゴンがツッコんでくれた。脆そうというか、それ以前の問題。不安定すぎて今にも氷からオーラに戻ってしまいそうだ。

 自覚はしているのだろう、ユアはため息をつきながら煌々とした氷塊(ブライトブロック)を解除した。

「言ったでしょ、悪戯仔猫(ミスティックキャット)はただの模写。特質系は当然強化系やその両隣の放出系や変化系とは相性が悪いわ。

 能力を奪う能力じゃないの、能力を真似る能力」

「使えねー」

 キルアから思わず漏れた言葉に、ユアがギロリと睨む。だがキルアはどこを吹く風といった様子。

 まあ、これはキルアが正しいと思う。今回はユアの味方には、今のところ、なれない。

 まともに使い物になるのは特質系とその両隣だけ。しかも真似るだけということは、その強さはユアに依存するのだろう。例えば命の音(カウントダウン)はユアよりも格上の能力、その上相互協力型(ジョイント)でしかも放出系を含むという悪条件。模写できたのはガワだけの可能性が高い。爆発しても、ちょっとした火傷をするくらいのダメージだったのではないだろうか。そんなものに期待して、あれだけ時間稼ぎをしたとなれば泣きたくなる。

 加えて他にも制約がある、これは絶対。でなければ、あのタイミングでバラに仕掛けられた命の音(カウントダウン)が解除される訳がない。模写(コピー)ということは遠隔解除条件も存在しないということまで一緒だろう。

「で、なんであの時に命の音(カウントダウン)が解除された?

 状況を鑑みるに、悪戯仔猫(ミスティックキャット)の発動条件が満たされなくなったと考えるのが妥当だが」

「さっすがお兄ちゃん。私の悪戯仔猫(ミスティックキャット)は元の能力者が能力を模写される事を拒否していないことが発動の大前提、能力を使うなって言われるだけで二度とその能力を模写できなくなるのよね」

「流石じゃねぇよ」

 妹のバカさ加減に頭を抱えたくなる。何を考えてこんな能力にしやがった。ビスケがやや憐憫の感情を込めた視線を向けてきやがるのがなおさら腹立たしい。

 発動条件が見るだけという緩さな分、封じる方法も拒否するだけという緩さ。威力も低い上にこんな緩々の条件の能力に命を託せる訳がない。他人ならまだいいが、我が妹がこんな能力にしたという事実に何もかもを忘れて寝込みたくなってしまう。

 ユアが発について考えたのはおそらく10歳かそこら。そんな子供に発を作らせてはいけないというゾルディックの教育方針は正しいと言わざるを得ないだろう。

 これだけだった、ならば。

 ビスケは俺の左側、ユアの右側。俺はビスケには見えない右目でユアを見て、ユアはビスケには見えない左目で俺を見返す。

 その視線で察した、やはりユアの悪戯仔猫(ミスティックキャット)には更に奥がある。それを晒すのは仲間にもできないということだろう。それはもちろん俺にも。しかし俺にはこんな馬鹿な妹だと思われたくなかった、といったところだろうか。

 やや安堵する。本当にユアがこの程度でなくてよかった、と。

 クルタ族は自分本来の系統とは別に特質系を持つ分、普通の念能力者よりもメモリが圧迫される。それでも特質系と本来の系統を切り替えられるというのは相当過ぎるアドバンテージだが、そんなアドバンテージを自分から捨てるような幼い妹を守りながら『敵』と戦う自信は全くない。ユアが自分で言った通りだけならば、コイツをグリードアイランドから退避させてホームに帰していたところだ。育てる手間が惜しくなるレベルで使えない。

 だが更に能力が深く、しかも他者の念に干渉するタイプならば話は別。おそらくだが更に条件を満たせば、相手が念を使用できなくなる位は期待していい。模写という特性ならば、そこを進めて念を奪うことさえ有り得る。相手に拒否をされないという条件は、ユアが相手の念を支配しきるまでにされてはいけない事だと考えればキツめの条件ということで目を瞑れる。

(この分だと、ユアは俺が知らないだけで誰かの念を奪ってるかもな)

 仲間とはいえ、妹とはいえ。念の全貌を知ることは至難。だからこそどこまで信頼していいのかの見極めが難しいと、困った上で期待の笑みを浮かべてしまう。

 その笑みをどう捉えたのか。ビスケが声を上げて話題を転換した。

「ハイハイ、ユアの話はいったんここまで。話はこれだけじゃないんだから」

「? 他に何か話題あるか?」

 大天使の息吹についてとかか? まあ、今更隠す話でもないが。

 そう思っていたが、ビスケは俺ではなくポンズを見ていた。

「ポンズ、あんた何か言うことはない?」

「……」

 気まずそうにビスケから視線を逸らすポンズ。それは許さないと言わんばかりにポンズを見るビスケ。

 俺にユア、ゴンとキルアは訳が分からない。ただ黙って2人の様子を見るだけ。

 ポンズは何か言いたそうに俺を見るが、意味が分からん。ポンズと共有している隠し事はもうないと思うが……。

「バハトさんは知らないのに。ビスケ、気が付いていたの?」

「伊達にここまで女をやってないわさ」

「う」

 半ば認めるようなポンズの言葉に、ビスケはやれやれといった風に同意する。

 ってか、俺に関係あるの? マジでなに?

「妊娠、しました」

「――は?」

 は?

 はぁっ!?

「え」

「妊娠てポンズ、まさか相手は」

「うん。バハトさん」

 は? はあ。

「はぇ!? お、俺ぇ!?」

 訳が分からんが。

 とりあえずランサー、爆笑するな。そんな場合じゃねぇ。令呪使うぞ。

 じゃなくて。

「えええええぇぇぇ!? お、俺の子!?」

 『敵』を殺さなくちゃいけないのに!? 死ぬかもしれないのに!? 俺の子!?

 顔を赤らめてこくりと頷くポンズに一層混乱する。

 心当たりは――まあ、あるが。アイアイで爛れた生活を送った一週間、あの時は確かにポンズと子供が出来かねないような事しかしていない。

 いやいやいや。まてまてまて。

 モジモジと顔を赤らめているポンズマジ可愛いとか思ってる場合じゃない。

「…………」

「うわっ! ユアが白目を剥いて気絶してんぞ!」

「ユア、しっかり!」

 キルアとゴンの声が遠い。

 もう、何を考えていいのかも分からん。

「青春ねぇ」

『何はともあれ目出てぇ事じゃねぇか、マスター』

 ビスケとランサーの声は聴きたくねぇ。

 

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