殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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004話 始まりの船

 幻影旅団から逃げた翌日。

 逃げ出した町でとったホテルで目を覚ましたユアに状況を説明し、取り乱した妹をなだめる。8歳の子供が現状を把握し、呑み込むには重すぎる事実だったが、起きてしまった事はどうしようもない。時間をかけてゆっくりとメンタルをケアしていく事にする。

 その後に行ったのは国民番号の確認だ。クルタ族はほんの僅かでも外界と関わっていたから、いつの間にか俺もユアも国民番号の申請がされていた。ちなみにV5が把握していない部族が人里に来た場合、その時に国民番号の登録をされるらしい。ただし乳児でない人間の国民番号の登録は成り済ましを防ぐ為、かなり厳重になるとか。

 流星街から来た人間にそういった措置がされないのは、まあマフィアとグルだった事を考えたら腹黒い密約でもあるのだろうとは簡単に想像できる。というか、国のトップだって便利に使える人間は喉から手が出る程欲しい筈だし、マフィアとしか関りがないとは到底思えない。そういった諸々が重なって流星街という特殊な環境が成立しているのだろう。

 そして生きていく為には稼がなくてならない。流石にユアは働かせるには幼過ぎる為、働くのは俺のみ。とはいえ俺は念能力者であり、サーヴァント召喚能力も携えている。そして世界のどこかに殺し合う相手がいるという現状、真っ当に稼ぐなんて暢気な事はやってられない。賞金稼ぎや用心棒など、危険も多いが稼ぎも大きい仕事を請け負った。

 その中で知ったのが俺の実力だ。念能力者と戦う機会もあったが、内容としては余裕の勝ち。修行を重ねた今、俺の円は100メートル近い大きさを相当な時間維持する事が可能となっている。それを強化系が身体強化に当てればそりゃ強い訳だ。そして俺より強いサーヴァントは言わずもがな。戦闘職のサーヴァントでは完全なオーバキルになってしまう為、サーヴァントの運用は特殊な技法の活用が主になっている。一番よく使っているのはアサシンによる索敵や、情報収集。次点でアーチャーによる遠距離からの監視や狙撃か。キャスターの魔術も遠視などがあり、実に便利。

 そういった仕事を繰り返すうち、方向性が決まってきた。というのも、百貌のハサンがチート過ぎる。なにせ、数十人のほとんど誰にも察知されない諜報員を自在に扱えるのである。三次元世界で情報を得るのにこれ程便利な能力はそうそうなく、段々と情報収集が俺の仕事の専門分野になっていったのだ。ハンター試験は受けていないので肩書はアマだが、情報ハンターとしてそこそこ有名になるくらいには活躍している。もちろん巡り合わせで武力行使が必要になることもままあり、なるほどハンターには最低限の力は必要になると納得した。

 情報収集専門家として、そういった事を専門とするグループや組織に所属すれば武力は必要ないのだが、そんな不自由な立場にはいられなかったので当然その道は選んでいない。ちなみにその手の組織の中で最大規模のトップにいたのはプロハンターだった。ハンター専門の情報の取り扱いもしているらしく、原作でハンターサイトの情報量も納得である。

 セイバーやランサーとは組手を重ねたし、一部の達人系サーヴァントからは武術も学ぶ。また、何人かのサーヴァントは仕事で俺の仲間として他人に面通しさせた事もあったし、ユアにも紹介した。もちろん俺の能力だなんて正直に話す訳もなく、とある伝手で知り合った知人としての紹介だが。

 

 そうしてクルタ族が滅亡してから4年。

 俺は今年20歳になりユアは12歳となるこの年は原作が始まる年である。ゴンの、キルアの、クラピカの、レオリオの。そしておそらく俺の運命も大きく動き出す年でもあるのだ。

 試験用の荷物を背負い、身支度を整えた俺の4年前と一番大きな違いは付けている眼帯だろう。俺は自分で緋の目となった左目をくり抜き、ホームに保存しているのだ。言うまでもなくこれは念能力の制約と誓約に依る。他の差異といえばほんの少し背が伸びたことと、クルタ族の民族衣装を着ていないことくらいか。

「じゃあ行ってくる」

「行ってらっしゃい!」

 空港で元気に挨拶をする大きく成長したユアはオーラを纏っていた。俺がいつ死ぬか分からないというのもあり、長ければ目覚めるまでに年単位を要すると言われる念能力だから、10歳になる時から瞑想を始めさせた。そしてそこは流石クルタ族というべきか、念の習得は早く纏を覚えるまでに一ヶ月もかからなかったのだ。

 念に関しては基礎のみを集中してやらせていて、系統は操作系。どんな発を作るかまではもちろん俺も知らないし、もう作っていても不思議ではない。

 体術も生き延びるには必須であるからして俺も手解きをしているし、たまにサーヴァントにも面倒を見て貰っている。12歳とはいえ、俺がハンター試験を受ける間くらいは一人でも大丈夫だろう。

 この年のハンター試験は原作開始でもあるから、相手の転生者も注目している可能性が高い。殺し合いになる可能性もあるとなれば、今までのようにサーヴァントを霊体化させてユアを護衛させておくという事もできない。クルタ族は緋の目のせいで狙われる可能性もあり、正直ユアを独りにするのはかなり不安だが。いつまでもそう言ってられない台所事情でもあるのだ。

 後ろ髪をひかれながら飛行船に向かう。

『おーおー、健気に手を振ってるぜ』

 そう言ってくるのは霊体化させたサーヴァント、ランサーのクーフーリンだ。

 俺のサーヴァント召喚能力最大のネックはやはりその詠唱にある。有事の際にいちいち30秒弱の詠唱などしていられない為、今回は彼に終始護衛をしてもらう予定だ。槍の技量に優れ、魔術にも精通し、宝具は必殺となればその有用性は言うまでもない。俺が召喚できるサーヴァントの中ではトップクラスの対応力がある。相手の転生者の索敵が今回の主な目的だが、もしも確信を得られれば即殺せる能力を持ち、また護衛に相応しい力量を持つということからも今回は彼に白羽の矢が立った。

 とにかく、まずは相手の転生者を見定める必要がある。もしも間違った相手を転生者と信じて殺した場合、本物の転生者への殺意がなくなって、死ぬのは俺だと気が付いたからだ。普通ならば転生者を間違える筈もないが、この世界には念がある。適当な人間を操作して自分が異世界から転生したと思い込ませ、身代わりにするくらいは平気でやるだろう。というか、俺が操作系だったらする。こういう発想に至る時点で相手がやらないとは限らない。

 なので、相手が転生者であるという確信がどうしても欲しいのである。最終的には神から貰った特殊能力が最大の根拠となるか。となれば、結局最後はガチンコ勝負になるだろうし、サーヴァント召喚能力を選んだことはやはり悪くないと改めて思えた。

 そんな事をつらつらと考えていたら、いつの間にか飛行船が空を飛んでいた。周りには強面の人間がチラホラといて、ハンター試験に応募した者たちだと推察できる。というか、ハンター試験に来てここまでハンター試験に集中していない奴も稀だろう。俺はハンターになりたくない訳ではないが、最優先は相手転生者の殺害だから仕方ないのだが。

(どれ)

 一応、凝。ここにいるのはごくごく一部とはいえ、ハンター試験参加者もいる。そこに念能力者がいれば当たりの可能性もある。が、やはりそうそう見つかる訳もなく、念を修めた者は見える範囲にはいないようだった。

 代わりになかなか良いオーラをしている者もいた。その中で一人の女性を見つけ、俺は少し驚く。

(まさか……)

『ん? 可愛い嬢ちゃんだな。ナンパか、マスター』

『訳あるか』

 優先順位は低い。が、しかしだ。死ぬ運命にある人を見つけ、余裕があるのに見逃すという事もしたくない。

 原作とは流れが変わってしまうが、俺がハンター試験に参加する時点で今更である。毒を食らわば皿まで。俺は座ってドリンクを飲んでいた女性の元まで近づき、声をかける。

「ちょっといいかい?」

「……」

 胡散臭そうな視線を向けてくる女性。明らかに拒絶の意味が込められていたが、俺はそれを無視して彼女の向かいに座る。

「アンタ、ポンズだろ? 前回のハンター試験で本試験まで進んだ」

「!! あなた、どうしてそれを?」

 ずばり言い当てられて女性――ポンズは目を見開く。ポンズからしてみればハンター試験で見た記憶がない男に、本試験まで進んだと言い当てられるのは不気味でしかない。特にポンズは罠を張ったり薬を使ったりした搦め手を得意とし、直接攻撃能力はかなり低い。自分の情報が漏れるというのはかなりのディスアドバンテージとなるのだ。

 俺はそれを知っているからこそ、悪い意味だろうが興味を惹くように話しかけた。そうしなければ無視されて終わりだろう。

「俺の名前はバハト。情報を専門に扱っている」

 そう言って名刺を差し出す。それを受け取ったポンズは軽く目を通し、警戒のこもった目で俺を睨む。

「で、その情報屋が私になんの用?」

「特になんの用って訳でもないんだが、今年のハンター試験に初受験だからな。情報集めさ」

「……」

「本試験の情報はほとんど入って来ない。ま、当然ちゃ当然だが。そこでふと見つけた本試験参加者、話を是非聞きたいと思ってね」

「私にメリットがないんだけど」

 当然だ。ライバルとなる相手に本試験の傾向を教えるのはデメリットしかない。新人とそれ以外の差異はそこが最も大きいというのに、それを自分から捨てるバカはそうそういない。

 だから俺からもメリットを示す必要がある。

「俺はナビゲーターの情報を持っている」

「ナビゲーターの情報、本当に?」

 食いついた。ポンズの目に興味の色を浮かぶ。

 ナビゲーターの情報というのは相当に貴重だ。何故かというと、試験会場は毎年変わるのにナビゲーターは変わらないから。仮にナビゲーターを降りるとなっても、その次の試験に降りるナビゲーターは新しいナビゲーターを紹介しなければならないシステムとなっている。

 つまり一度ナビゲーターを確保すれば、以降の年から本試験までのチケットを手に入れたも同然なのだ。その分ナビゲーターの情報は試験会場よりも深い場所に隠されており、見つけるのは容易ではない。普通に考えるならば受かるつもりの試験で、来年の保険まで得るメリットはない。というか、その手間をかけて本試験に落ちてしまったら本末転倒である。

 だが、今回のポンズの様にぽんと無条件で渡されれば話は別。ポンズは複数回試験を受けている身であり、試験会場を見つける手間というのは理解していた。もしもナビゲーターを見つけられるならば、それに越した事はない。

「疑わしいわね」

 怪しんだ素振りを見せつつ、目から興味の色は消えない。まあ当然だ。ここで本試験の情報を話し、俺がナビゲーターの情報を渡さなかったら意味がない。そもそも俺が掴んだ情報がガセでないという根拠もない。

 しかし俺としては疑われても何の問題もない。そもそも本試験の内容は(相手の転生者が関わっていない限り)把握している。ポンズから聞き出す意味はないのだ。重要なのは彼女に興味を持って貰い、行動を共にすること。そうすれば死の運命から逸らす事も可能になるかも知れない。

「ま、いきなり信じろって言われても無理なのは承知しているよ。それに本試験の情報を得たって適時対応できる能力や経験がなければ意味がない」

「経験にまで言及するのね」

「情報を扱ってるからな。知識と経験の隔絶した差は理解しているつもりだよ」

 他人から聞いた事と、自分で体感した事。この差異は次元が違うというレベルがある。百聞は一見に如かずという言葉もあるくらいだ。

 そういう意味では、俺はまだ本試験の難易度を計りきれていないといえた。

「どうだい、俺と組まないか? これでもそこそこ腕が立つ部類には入るつもりだ」

「……、まあしばらく行動を共にしてもいいわ」

 とりあえずポンズとしてはナビゲーターの情報を得られればそれでいいのであり、本試験に入ったら俺を裏切ったっていい。ハンター試験とはそういう側面もあるから、俺もそうされたとしても全く文句はない。裏切るのは悪いが、裏切られる方も間抜けなのだ。アマでもハンターの真似事をしていれば、その辺の感覚は骨の髄までしみ込んでいる。

 一緒に行動できるだけで俺としてもとりあえず良し。握手もしない関係だが、まずはここからだ。

 と、その時船内放送が流れた。いくつもの乗客番号が呼ばれ、船内イベントホールへ来るように指示される。その中の番号の一つに俺の乗客番号があり、また一瞬ポンズの瞳が揺れ動いたことから彼女も呼び出されたと分かる。

『ランサー』

『おう、分かってる』

 霊体化した状態で先にランサーをイベントホールに向かわせた。

「ハンターの予備試験か」

「流石は情報屋ね」

「この程度の情報も集められなかったら廃業だよ」

 実際、このくらいの情報はハンター試験に応募した者から結構漏れる。原作知識がなくとも俺の情報網に引っかかったといえば、程度の低さが分かるだろう。

 ちなみに原作知識抜きで知った事と言えば、ハンター試験に応募した時点で最低一度はこのようなふるいにかけられること。また、試験会場はザバン市で固定だが、その場所は毎回違ってザバン市で情報を収集しなければそこまで辿り着けないことと、その情報収集のヒント。そしてザバン市まで向かうにも幾つかトラップがあり、それに引っかかってしまえば即失格になること。このくらいだ。

 ここら辺は専門のハンターが情報を隠匿しているのか、かなり厳重にガードされていた。ふるいやドボンがあるというのも新人には役立つ情報でもあるし、ザバン市での情報収集のヒントに至ってはかなり価値があるとは思う。原作知識はこれらを全て吹っ飛ばすが。

 そんな取り留めのない事を考えながら、イベントホールまでポンズと共に向かう。ちなみに無言だ。

『マスター、いかついのが一人いるぜ。恐らく念能力を使える人種だ』

 ランサーから念話が入る。ちなみにサーヴァントは念というか、オーラを見る事はできない。とはいえそこは英霊、違った雰囲気を持つ人間を嗅ぎ分けて念能力者を区別することはほとんどのサーヴァントが可能だった。

 そしてランサーの報告から多分戦闘に類する試験が行われると予想できた。もちろん妄信はしないが、唐突に戦いになった時の心構えが違う。

 ぞろぞろとイベントホールに向かう人の流れができる。できるがしかし。どいつもこいつも顔つきだけでロクでもないと断言できた。ほとんどがそこらのチンピラと変わらない。

(お)

「トードーか」

「……どこでそんな情報集められるのよ」

 そんな中、ふと目に付いたのはレスラーのトードー。メンチにやり込められるあの巨漢である。

 名前を呟いた俺に、ポンズは呆れるというか引いていた。情報ハンターに探られるプライバシーに危機を覚えているのかも知れない。今更であるが。

 やがてイベントホールに数多くの人間が集まり、一番奥にいた体格のいい男がこちらを見て不敵に笑っていた。纏をしているところから見ても間違いなく彼は念能力者。俺も日常的に纏をしているから、お互いに念能力者だという事は分かっている。

「さて、よく来たハンター志望の諸君。俺はハンター予備審査員のガラハだ。まあ俺の名前なんてこの船を降りる時には忘れてくれて構わない」

「予備審査員?」

 こちら側の誰かが声をあげる。おそらくはハンター試験初受験者か。

「ああ。ハンターを志望する人間は無数にいる。本試験に辿り着くまでに様々な関門があるのは周知の事実だと思う。これもその1つだと思って貰って結構だ」

 そしてそんな問いにもしっかりとした返事と必要以上の説明を返すガラハとかいう男、思ったよりも人がいい。そして間抜けな顔を晒す新人。……本試験まで無条件に行けると思うのは流石にどうかと思うが、そんな想像すらしていないレベルなのだろう。見た目の印象通りである。

「これ以上の質問はないな?

 ここからが本題。ハンターという職業は強さが求められるのはいうまでもない」

 ガラハの言葉にトードーがぴくりと反応し、自信に満ちた微笑を浮かべたのを目の端でとらえた。そういえばあいつ、賞金首ハンター志望だっけ。

「よって試験内容は単純明快! これより90分の間、この部屋で俺に強さを認められる事だ! 強さを示す為なら受験生同士が戦う事はもちろん問題ないし、俺を狙ってくれても構わない。とにかく俺に認められろ!!」

 微妙に暑苦しい言い回し。もしかしてこの男、バトルジャンキーか? 脳筋か?

「最後に試験を開始する前に1つ」

 そう言いながらガラハは俺の事を指差す。

「お前は合格だ。この部屋から出て良し」

「どうも」

 そりゃ、念使いだしな。普通に戦わせたら他の参加者を全員のしかねない。俺を試験開始前にとっとと合格にするのは理に適っている。

「ちょっと待て! 何でいきなりそんな弱そうな奴が合格なんだよ!?」

「ふざけんなコラァ!」

「試験官がえこひいきをしていいと思ってんのかぁ!?」

 理に適ってはいるだろうが、それで納得できないのは他の参加者達だろう。ポンズまで俺に厳しい視線を向けてくる。

 それでも受験生に対して涼しい顔を崩さないガラハ予備審査員。

「審査の基準は審査員に一任される。たとえそれが裏金を渡されていたとしても、だ。反論は認めない」

 ……ガラハ予備審査員。それ、絶対に俺に悪印象を持たせようとした上での発言だよね? やっぱりハンター関係者には性格が悪いのしかいないのか?

 後、ポンズ。納得した表情を見せないでくれ。そんな事実はないから。前もって情報を得て裏金を渡したとかないから。

 さて。ここでポンズとの縁が切れるのもつまらないし、仕方ない。

「ガラハ審査員、別に俺はここにいても構わないな?」

「ああ、ここにいる分には構わない」

「じゃあ審査が終わるまでここにいることにする」

 その言葉に周りの受験者と、そしてガラハ審査員の笑みが深くなる。今の言葉にはつまり、自分の力を示す相手に俺を選ぶ事も可能だという事も意味しているのだから。

 周りの受験者たちはどうせ俺をタコ殴りに出来るチャンスが出来た上に合格が決定している奴を倒せれば自分が評価して貰えるだとかその程度の考えだと思うが、ガラハ審査員の笑みの意味はさっぱり分からない。

 とりあえず纏として体の周りに留めておいたオーラを全方向に撒き散らす。練ではないが、少し鋭い人間ならば威圧感として感じ取れるだろう。近くにいたポンズもそれを感じ取れたのか、やや怯えた顔で後ずさる。

「始め!」

 ガラハ審査員の言葉で俺に一斉に襲いかかってくる受験生たち。ある者はナイフで、ある者は棍棒で、またある者は素手で殴りかかってくる。ちなみに近くにいたポンズは俺に戦いを挑むでなく、俺の戦いに巻き込まれないよう距離をとっていた。色々な意味で正しい判断だ。

 いちおう凝をしてオーラがこもっていない攻撃である事を再確認。隠で実力者を見落としていたら間抜けが過ぎる。が、どうやらやはり全員が非念能力のようだ。

 ならば問題はない。強化系にも適性がある俺の堅は、拳銃の弾すら弾く。実際に自分の腕を撃った時は滅茶苦茶怖かったが、一度無傷で銃弾を弾いてから堅の強度と安定度が一気に増した。これも覚悟によって念の威力が上がるという一例だろう。

 降り注ぐ攻撃を防御しないで完全に受けきる。

「なっ!?」

「ナ、ナイフが刺さらんだと?」

「痛ぇ! コ、コンクリで出来てんのかよコイツの体?」

 唖然とした声が数多く上がる中、やる気なさそうな念話が届く。

『なあ、マスター。いちいち受ける意味あんのか?』

『ポンズに対するデモンストレーション』

 ここで近接戦闘に優れている事を見せれば、身体能力に自信がないポンズに組む価値ありと思わせられる可能性があがる。

 次いでサーヴァントたちに鍛えられた体術も披露する。フットワークを駆使し、襲ってきた男たちに一発ずつ拳を叩き込む。ちなみに非念能力者にはいちいち殴る時にオーラを極端に減らさなくてはならないのが凄く面倒である。下手をすれば洗礼になりかねないから仕方のない手間なのだが。

「おご」

「ぐぼぅ」

「げぇ……」

 ほんの数秒、11の拳を繰り出し、11人の男が地面に転がった。

 ある者は顎に拳を当てられて脳震盪を起こし、ある者は腹を押さえてピクピクと痙攣している。残ったのは俺とガラハ予備審査員、そして俺に襲い掛からなかったポンズとトードーのみだ。ランサーは霊体化して見えてないからノーカン。

「ふっ。審査が楽になって助かったぜ」

「確信犯か」

「当たり前だ。

 だがまあ、こういう審査方法もありだろ。前後の会話からお前が審査するまでもない強さを持っていると理解できたなら合格。それが分からなければ不合格。

 相手の強さを見極めるのも実力だからな」

「もっともらしい事を言ってるけど、それ明らかに後付けだろ。

 俺が自分から容赦なく全員を戦闘不能にしたらどうするんだよ」

 呆れて言った俺にびくりと反応するポンズとトードー。今の戦いで俺との差を思い知ったのだろう。

「それならそれで」

「てきとーだなオイ」

「適当だよ?」

 開き直りやがった。

「ま、それはともかく。ここに立っている三人は合格。目的地まできっちり送ってやるから安心しな」

 特に何もしなかったポンズとトードーも合格してしまったが、別に構わないか。認められるという条件は確かにクリアした。

 ガラハ審査員は無線を使って俺がのした受験生を医務室に送る手続きをしている。

 その間に退室したのはトードー。恨めしそうに俺を睨んでから部屋から出ていく。大方賞金首ハンターを目指す自分が、俺みたいな青二才に強さで劣っているだろう事が許せないのだろう。どうせハンター試験に合格すれば嫌でも念を覚えるのにと、知っている身としてはそう思わざるを得ない。彼、今年と来年はほぼ確実に受からないだろうけど。

 残ったのは周囲に倒れている男たちとガラハ審査員、そして俺とポンズ。俺はポンズを見てニヤリと笑う。

「どうだ、そこそこ腕が立つだろ?」

「……そうね。そこそこ、ね」

 口元を引きつらせつつ、ポンズはそう返事をした。それを見て悪くない結果になったとちょっと満足。

「で、改めて聞くが。俺と組む気はないか?」

「組んでもいいわね」

 同じ受験生同士、組んで下さいと下手には出られない。

 にっこりと笑って差し出した手を、ちょっと震える手で握り返すポンズ。

『マスター、ナンパの仕方が酷いぞ』

『だからナンパじゃねーよ!』

 ニヤニヤと趣味の悪い感情を乗せた声に、叩き返すように言葉を返す。ともあれ、これでポンズと共に行動することが決まった。

 

 そしてやがて着いた空港で、ポンズは声をかけてくる。

「それで、ナビゲーターはどこにいるの?」

「ドーレ港から程近い山の中だ」

「ふーん。じゃあ行きましょうか」

 そう言うポンズの声は、ずいぶんと柔らかい。どうやら俺をある程度は認めてくれたようである。

 道連れを一人増やし、俺とポンズはドーレ港へ向かうバスを捕まえるのだった。

 

 

 


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