今年も頑張っていきますので、どうかよろしくお願いします。
遅くなった言い訳などは活動報告に書いておきますので、気が向いたら見てください。
さてさて、新章開幕です。
どうかお付き合いをよろしくお願いします。
040話 グリードアイランド・9
ゴンの拳が、膝が。キルアの手刀が、蹴りが。マチへと迫り、彼女はそれを簡単にいなす。そして2人が攻撃をした隙を見つけて攻撃を叩き込み、痛みを与えていく。
言うまでもなく、マチが彼らに稽古をつけているのである。
一日経って朝食を終えた時分。ユアの頭が冷えて帰って来るのを待つ間、少しだけ空いた時間でゴンとキルアは朝の運動として組手をしようとした。そこにせっかくだからとマチに稽古をつけるように俺が言ったのである。
ヨークシンで旅団に捕まった時にマチもいたらしく、特にキルアは微妙な顔をしていたが、今の彼女は敵ではない。俺ともビスケとも違う、そして同等の力量を持つ実力者として彼女に手合わせをしてもらうのは決してマイナスにならないだろう。それに、ユアが帰ってきたら俺はいったん現実に戻る予定である。手合わせをする機会もそう多くは取れない。
さて。ガガガガガと凄まじい打撃音をBGMに、俺とポンズにビスケはズズズ~と食後のお茶を飲んで寛いでいた。ポンズは妊婦だから仕方がないが、俺とビスケはぶっちゃけサボりである。俺は『敵』を殺してちょっと腑抜けたといえば、まあその通りだ。肩の荷が下りて飲む茶は旨い。
そんなところで話はポンズの故郷について。どんな国か知らないと調べるのも大変である。
「私の故郷はエバノ王国って言うんだけど」
「「ああ、エバノ」」
俺とビスケの言葉が重なった。一般人の知名度は高くはないが、多少の地位がある人間ならばそれなりに馴染みがある国だからだ。ビスケの年でダブルハンターならば当然関わる機会はあっただろうし、俺も情報ハンターとしてエバノ王国の貴族から依頼を受けたことがある。
エバノ王国出身であるポンズの話と合わせてどんな国かを頭の中でまとめ直していく。
エバノ王国はオチマ連邦の内陸にある、日本で言うなら京都と大阪を合わせたような形に近い国だ。大きさとしてはそれらよりやや小さいか。
王国の名前の通りに王制を取っているが、例に漏れずに結構えげつない政治体制で、そして外貨を入手する方法がかなり独特なのだ。
というのも一夫多妻制を代表するように、一部の権力者に都合のいい法律が多々存在する。そしてこの国は貴族位や法律が金で買えるのだ。もちろん表立ってそう言っている訳ではないが、この国の王族に金銭やお宝を貢ぐことによって、王族が好き勝手に貴族に任命したり法律を作ったり潰したりしている。一夫多妻制だったり多夫一妻制だったり、まあ細かに都合よく法律が整備されているのだ。なので『自分の国では違法じゃない』という体面を金で整えることができる国といえる。それと併せて外国ならばともかくエバノ王国内では結構好き勝手ができるのだ、金があれば。
そんな法律だが、実は一筋縄ではいかないのが多い。不幸に感じたら配偶者を殺していいという法律を例にあげるが、これには色々な意味がある。一つとしては配偶者に殺される程度に力が落ちた者は国にも必要ないという冷酷な面、一つとしてはある程度配偶者に配慮をした法律を作ることによって他の国への体面を良くする面、殺された人間の相続税を取って金回りをよくする面などだ。実際に黙って殺される必要はなく、殺人未遂と殺人の罪を免除するというのが実際のところらしい。十分怖いが、サーヴァントやマチがいる上に俺の念能力も強い部類だろう。ちょっとだけ心配が薄れた。
少し話を戻して、エバノ王国は大きく4つの層に分かれている。王族層、貴族層、富裕層、労働層だ。
この国は親の王権は子供にしか適用せず、それ以外は全て平民になる。王の子は王族だが、孫は平民になってしまうのだ。故に王の子は自分の子が可愛ければ王族か、せめて貴族位を取りにいかなくては子供が悲惨な目に遭う。まあ、王族であればそれなりの金は手に入るから、自分の代で遊び惚ける者も一定数いるらしいが。少なくとも王族であれば衣食住に趣味と愛人には困らないだけの金は一生手に入れ続けることができるらしい。寿命まで国が続いていればだが。
次に貴族だが、これは王族の一存で決定される。王権は子供にしか適用されないと言ったが、爵位に至っては本人にしか適用されない。とある伯爵がいたとして、その人物が生きている間は家族全員が伯爵家だが、当人が死んだ途端に一族全てが平民になってしまう。それが嫌ならば伯爵が生きている間に子供や孫などに爵位を与えなくてはならず、結果王族に更に金が貢がれるという図式だ。ここまでして爵位を強調するのは、この国の法律は貴族に極めて有利にできているということを言うまでもないだろう。自分に都合のいい法律を王に願うのにも自国の貴族のみに適用するのが基本であるから、エバノ王国の貴族位が必要になるのだ。
そして富裕層と労働層は貴族位を持たない、いわゆる平民の部類になる。だがここでも区分けをされていることで気付くだろうが、同じ平民でも生活水準は大きく違う。
富裕層と言われるのは、日本でいうサラリーマンなどが該当するといえば通りがいいか。頭脳労働やそれに準ずる仕事が振り分けられ、給金も悪くない。一部エリートになれば行政などにも関わり、覚えが良ければ王から貴族に抜擢されることさえある。そういった人間でも王族の自分勝手な指示に従って政治などをせねばならず相当に苦労はしているらしいが、どちらにせよなんにせよ労働層に比べれば天国だろう。
労働層は、容赦なく遠慮なくぶっちゃけてしまえばほぼ奴隷に近い。無論、鞭で打たれる訳でもなければ配給のみという訳ではないが、薄給な上に過酷な肉体労働が多い。上の特権階級を肥え太らせる為に搾取される地位といえる。
とはいえ東ゴルドー共和国ほど酷くはないらしく、週に1日の休養日はあるし、たまには酒も飲めるし、子供もお腹一杯食べられる。新年祭や国立記念日など心から笑って楽しめる行事も少なくなく、スポーツや芸術を楽しむ余裕もある。
だがそれだけだ。ある分野のプロとなって国の代表になれば貴族位も与えられることもあるが、そうでなければ自分の家も持てない生涯を送り、死後には一族の墓に入れられて何も残らない。この人生のレールから外れる方法がほとんどない時点で、俺は奴隷に近いと思う。
エバノ王国は8年間の義務教育がある。子供が5歳になった時、高等学校か平等学校に入学させる決まりになっている。言うまでもないが平等学校は金のない労働層が入り、高等学校にもランクがあって親の身の丈にあった学校を選ばなければ子供が悲惨な目に遭う。その学校で優秀な成績を修めれば子供の仕事の内容と生活水準が上がり、次の代からもう少し上を目指せるといったところか。
そしてポンズはとある男爵の娘らしい。娘とはいえ母親は愛人らしく、父親とはロクに会ったこともないらしいが。
だがエバノ王国では数少ない自由に生きられる立場だったポンズは、幼少期に勉学に励み、そのうち外国に憧れたらしい。自分の国を良くしようと考えた訳ではなく、世界中に知らない生き物や見たこともない風景が広がっている事実に憧憬を持ち、それを見たいと思い至った訳だ。
高等学校を卒業した13歳でエバノ王国を旅立ち、様々な仕事をしているうちにいつの間にかアマのインセクトハンターとしての知識と実績を身に付け、15歳でハンター試験に初挑戦。5年かけて合格をして今に至る、と。
(……ポンズ、同い年だったんだな)
今更知った事実である。そういえばポンズの年は聞いてなかった。俺はユアがゴンやキルアと同い年と言ったことや、ユアとの年の差を口にしたことで実年齢を知る機会があったと思うが。
ってか、よく考えたらクラピカの年齢も知らない。まあ、今はそこはどうでもいいか。
「んじゃ、ポンズの国籍はエバノ王国のままなんだ」
「そうよ。帰ってはいないけど、プロハンターの資格を取ったことは実家に電話で報告したわ。
お母さんは凄く喜んでくれたわ、これで旦那に捨てられなくて済むって」
「「…………」」
王制、エグいなぁ。思わずビスケと目を合わせてしまった。
「まあ、お母さんをずっとエバノ王国に置いておくつもりもなかったけど。お金を貯めたら外国に連れだして、そこで楽をさせてあげたいなと思ってたわ」
「男爵の愛人だっけ?」
「愛人だからね、見た目が麗しくなくなれば雑に扱われるの。
あそこじゃ普通の話で、子供が役に立たなくちゃ親も惨めだわ」
「あんた、よくそんなとこに母親を置いて旅に出たわね……」
「他にもお母さんの子供はいたし、エバノ王国は上を目指すのに向いてなかったしね。外国に行ったことは後悔してないわよ」
俺と出会わなければキメラアントに銃殺されていたけどな。まあ、運命は変わってるだろうからこの世界ではないIFの話は考えない方がいいだろう。今は今の話をしなければ。
「つまり、俺がポンズに婿入りしてエバノ王国の人間になるってことか?」
「うん。そうすればすんなり一夫多妻制の中に入れるわ。マチと結婚しても私は文句を言わないし。
ただ、エバノ王国の人間になるならやっぱり爵位は欲しいから最下層の爵位くらいは買って欲しいわ。
それで外国で子供を育てればエバノ王国の教育からは逃れられるし、お母さんも外国に逃がしてあげられるしね」
「ってか、ポンズはエバノ王国から全力で出たがってるのな」
俺の言葉にポンズは肩をすくめながら答える。
「王族貴族が威張るだけの国だもの。貴族も外から来た金持ち一代だけでだいたい潰れるし、ほとんど王族の為だけにあるような国だと思うわ。
子供を産むならもっと自由に学べる国がいいもの」
祖国だからか、ポンズが容赦ない。そして既に母親としての自覚が出てるのすげぇな。俺なんかまだ父親になる自覚皆無だぞ。
思いながら、ビスケが俺に視線を向けてくる。
「バハトはどこの国の生まれ?」
「俺? 俺はクルタ族の里で産まれたから、祖国なんてものはない。クルタ族が滅ぼされた後はネアトリ共和国で過ごしていたから、国籍はネアトリ共和国になるな」
ちなみにネアトリ共和国は可もなく不可もなくといった法律だ。国力としては下の中といったところか。だからこそ治安が悪いところも多く、念を含めた戦闘能力を鍛えるのに適した国でもあったのだが。
「私としてはヨークシンとかそういった都市がいいと思うのよね、子供を育てるには。治安も悪くないし、両親が共にハンターだと家にいる事も少ないでしょ?
だったらベビーシッターとか充実していたり、実の親が手をかけなくてもいい下地が整ってる方がいいと思うの」
「メイドだったら心配ないのが一人いるけどな。それにネアトリ共和国にある俺のホームはセキュリティはいいぜ?」
「ホームだけならいいかも知れないけど、外を歩かせるにも心配なのは嫌だし」
「はいは~い! 夫婦の相談事はあたしがいないとこでやってね!!」
あ、すまんビスケ。確かに今のはビスケがいるのに話すことじゃなかったな。ポンズもバツの悪そうな顔をしている。
全くと、表面上だけはぷりぷりと怒るビスケだが、そこでようやくスペルによる飛来音が聞こえてきた。
ユアでない可能性もあるし、立ち位置には注意が必要だ。マチとゴンにキルアは組手をやめて、俺とマチが前に出る。最後尾は当然ポンズであり、側にはビスケがついている。
着地音。
「ただいま」
「おかえり、ユア」
一応、凝。よし、操作されていないな。
ユアもポンズもゴンもキルアもちゃんと凝をしている。基本がしっかりしているようで何より。
「それじゃあこれからのことを話し合うか」
タオルで汗を拭いているマチたちを見つつ、次の話を始めた。
「まず最初に言っておくが、俺はいったんグリードアイランドから脱出する」
口火を切るのは俺。素朴に疑問符をあげるのはゴン。
「なんで?」
「俺の『敵』が仕掛けた罠とかを潰してくる。ま、戦いの後始末だな。
まだ俺の首に賞金がかかってるし、そういった諸々をフラットにする。それが済んだらポンズを入院させないといけないし」
バッテラの名前は出さないでおく。場合によってはバッテラを殺すことになるから、名前は出さないに越したことはない。
賞金を懸けたのがバッテラだと言い、この後にバッテラが死んだら一番の容疑者は俺だ。ゴンの殺人の許容範囲が見えない以上、下手な情報は出さないに限る。
「あたしはそのサポートね、バハトの『敵』の情報はあたしが一番詳しいし、強さも申し分ないし」
「――否定はしねーがよ」
マチの言葉になんだかなぁという雰囲気のキルア。まあ、分からんでもない。昨日まで敵で、結構ギスギスした間柄だったマチをはいそうですかと信じるのには相当な胆力が必要で、その胆力は暗殺者だった人間が持ってはいけないものだ。
キルアに心配されてほっこりしつつ、話を進める。
「ゲンスルーたちがグリードアイランドに居る以上、ポンズとユアも当然現実に連れて帰る。異存は?」
「ないわ」
「ないけど……また現実にトンボ帰りなのね」
グリードアイランドに来た意味を考え込むユア。まあ、うん。気にすんな。
「で、現実での仕事が終わったら、俺はまたグリードアイランドに戻ってくる」
「なんでだわさ?」
ビスケが疑問符をあげた。みんな俺が『敵』との戦いでグリードアイランドに戦略的撤退をしたことは知っている。『敵』を殺した以上、グリードアイランドに戻る意味はあまり無いように思えるだろう。
だからこそ、逆になんでそんなことを聞くんだという表情で言い返してやる。
「ゴンはグリードアイランドをクリアして、あるかも知れないジン=フリークスの情報を集めるんだろ?」
「うん。けど、バハトが無理することないよ?」
「無理はしてない、理由は3つ。
1つはジン=フリークスの情報が手に入るかも知れないってこと。情報ハンターとして見逃せない価値がある。
2つ目は次の目標に向けてだな。『敵』を殺したからやるべきことがなくなったし、どうしようかと思ってはいたんだ。だからダブルハンター、トリプルハンターを目指そうと思っている」
「星なんてハンターやってれば勝手に集まるもんだけど。それにシングルやダブルまでならともかく、トリプルはあんま意味ないと思うけどね」
ビスケがとんでもない事と夢のない事をブレンドした内容をブチまけやがった。
まあ、分からんでもない。俺やビスケのようにある分野で突出した能力を持てばシングルという称号は勝手についてくる。そして弟子を育ててソイツがまた星を取ればダブルだ。ビスケならば勝手に集まるとも言えるだろう。そこまでの才覚は、素晴らしい才能を血反吐を吐いて育てなければ手に入らないだろうが。これを軽く言うのはビスケがビスケだからだろう。
そしてトリプルに至っては多くのハンターが取る価値があんまりないと思っているのも事実だ。シングルは自分の専門分野を突き詰めた証だから欲しがる者も多いだろうが、自分の専門外まで手を伸ばすハンターはあんまりいない。
俺もとりあえず取っておこうかなって感覚だしな、取れるかどうかは別として。暇だからやろう程度だからあんまり本気じゃない。新しく人生を楽しむ為に、つなぎの目標を持っておこうってだけだ。
「そして3つ目。ゴンの手伝いをしたいからさ。
仲間だろ、俺たち」
にやっと笑う俺に、ゴンは喜色を浮かべる。キルアもまんざらじゃない表情だ。
「ま、そこらへんはアンタの好きになさい。
こっちはこっちでゲームを進めるわよ。いいわね、ゴン、キルア」
「「オス!」」
あ、天空闘技場の時の癖、まだ直ってないのな。
ってか、たまにやっちゃう感じか? 当分直らないだろうな。どうでもいいけど。
「それでなんだが、俺はゲームから出るだろ? だから独占した大天使の息吹をどうするかなんだが」
話を進める。やはりゲンスルーたちはバラに大天使の息吹を使ったらしく、空きができていたので
とはいえ、あのタイミングで大天使の息吹の引換券が変化したということは、キルアに与えたダメージを考慮しない訳がない。
「どうする?」
「バハトが折角集めてくれたカードだもん。俺が預かるよ。
大丈夫、絶対にゲンスルーなんかに渡したりはしない」
俺の言葉に、ゴンが力強く返事をした。無条件で信じたくなる力強さ、流石はゴンだ。
その決意に苦笑しながらも、俺はバインダーをゴンに渡しながら口を開く。
「俺は大天使の息吹よりもお前の命の方が大事だよ。無茶はするなよ」
「うん、任せて!」
(絶対無茶するよな、こいつ)
やや諦めながらも、次に紙束を取り出してそれをキルアに渡す。
「これは?」
「
「!」
「奪われる前に燃やせよ。お前のオーラを電気に変える能力なら焼き切れるはずだ」
「ああ。恩に着るぜ」
そう言いつつ渡した紙に目を落とすキルア。どうやら攻略本を見るのに躊躇しないタイプらしい。それとも仲間からの情報は別なのか。
ゴンが俺のバインダーを見て、キルアが紙束に目を通している隙に。ビスケに目配せをする。
任せたというニュアンスを込めて見やれば、任されたと言わんばかりに力強く頷き返すビスケ。
「俺とユア、ポンズがいなくなるからな。フリーポケットの数も半減だ。
必要なカードは厳選しろよ」
「分かってるよ」
キルアが上の空で言う。ちなみにマチもいなくなるが、彼女は急遽仲間になったので、フリーポケットの上限に数えていない。
それからレアカードを中心にゴンとキルア、ビスケに渡し。余ったカードは彼らがマサドラのトレードショップに売って貯金する。マチのカードも当然ゴンたちに渡す。10日で帰ってこれる自信はないしな。
そこでゴンたちとはいったんお別れだ。俺たち4人は西の港へ向かい、港の所長から通行チケットをゲットした。
目指す先はネアトリ共和国にあるブレク港。そこから俺のホームへ戻り、身重のポンズを置いて世話係としてユアも残す。
俺とマチでアサンの遺産を回収し、バッテラなど邪魔者を排除する。
得体の知れない特殊能力を持つ『敵』がいなくなった分、俺は来た時よりもずっと楽な気持ちでグリードアイランドを後にした。