殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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041話 地盤固め・1

「やだ」

「頼むから言うことを聞いてくれ……」

 押し問答。近くにある椅子に座ったポンズは呆れた目で見ていて、ドア側の壁に寄り掛かったマチは目を閉じてこちらの情報をシャットアウトしている。

 無理もない、この不毛な言い争いはもう2時間を超えているのだから。俺も結構疲れているのだが、頬を膨らませてプイっとそっぽを向いているユアは折れる気配がない。

 現在地はネアトリ共和国の首都にあるボールド私立病院。この国最高の病院と名高い、その特別室である。ハンターが本気になって探せば即座に身バレをするが、逆に言えばそのクラスでないと発見が難しいレベルで情報統制が為されている。ここをポンズの名前で取ったのだから、襲われる心配はほぼ無い。俺の名前で取ったらバッテラの手勢が来る可能性があったからな。

 ポンズにはこの病室でしばらくゆっくりして貰う予定だ。その時間を利用して、俺はバッテラと接触して彼を無力化する。

 で、だ。マチを連れて行き、ユアをここに置いていこうとしたらユアの猛反発にあった。

「マチを連れて行くなら私だって連れて行ってくれたっていいじゃん。なんで連れて行ってくれないのよ」

「だから今度の交渉もなかなか荒れそうなんだ。俺とマチならまず間違いなく帰ってこれるから、ここでおとなしくしていてくれよ」

「そんなの今までと一緒。やだ、私はお兄ちゃんについて行くからね」

 こんな調子でユアは一歩もひかない。

 とはいえ困った。今回ユアを連れて行く訳にいかないのは、ユアの絶対規律(ロウ・アンド・レイ)を使うことが交渉の前提になっているから。もちろんユア自身に使わせる訳ではなく、アサンを撃破した際に作っておいた誓約書にバッテラのサインを貰うのだが、これをユアに見られるだけで不都合がてんこ盛りなのだ。

 まず第一に俺はユアの絶対規律(ロウ・アンド・レイ)を知らないことになっている。ユアの能力でコイツが俺に明かしていないのはこれだけ。つまりユアは俺にこの能力を明かすことを極端に避けているのだ。恐らく、この能力がユアの切り札なのだろう。

 その上で俺が絶対規律(ロウ・アンド・レイ)を使うとなれば穏やかではいられないだろう。少なくとも何故俺が絶対規律(ロウ・アンド・レイ)を使えるかを問いただしてくる筈だ。俺がアサンから奪った知りえた全ての発を扱える発、転生に備わる贈り物(リバースデイプレゼント)を説明せざるを得くなるが、俺にその気はない。これとサーヴァント召喚能力は変わらず俺の生命線なのだから、開示する予定は今のところ全くない。だから説明に困る光景を多く生み出すだろう今回の交渉にユアはついてきて欲しくないのだ。

 ちなみにマチは例外である。彼女は俺に操作されている上に、アサンからいわゆる原作から何まで話を聞いたり記憶を打ち込まれたりしているらしいので、隠す意味もあんまりない。そういう意味で手札を隠す必要がない彼女は得難い味方であるとも言える。

「だから――」

「ヤ」

「――頼むって」

「ヤ」

「――ほんとに心配なんだよ」

「ヤ」

 ……交渉にならん。

「ユア」

「ヤ」

「怒るぞ」

「……」

 怒気を込めて言えば、ようやくユアが口を噤んだ。

「まだ怒ってなかったのね」

 が、ポンズの声で毒気が抜かれる。ポンズは俺の味方という訳ではなく、しっかりとした自分を持っているのだ。そんな彼女は荒れた場面というのを嫌う。やや感情的になりかけた俺を見てその勢いに水を差したのだろうということは簡単に理解できた。

 そんな彼女の気持ちを無視する訳にはいかない。そもそも、俺としても怒鳴り散らしたい訳ではない。

 一度大きく深呼吸をして、切り替える。

「ユア、悪いが今回はお前は連れて行けない。危険が大きいんだ。

 それはお前がいるだけ増える危険で、居なければなくなる危険だ。この状況でお前を連れて行くことはできない」

「……」

「分かるな?」

「……分かるわ。けど」

「けど。納得はできない、か?」

 俺の言葉にこくりと頷くユア。まあここではい分かりましたと言うくらいならばあそこまでゴネまい。

 無理矢理置いていく事はできる。だが、ユアも俺の妹である前に一人の人間だ。その意思は可能な限り尊重したい。

「分かってるわよ、お兄ちゃんがそこまで言うなら、ホントに私が行かない方がいいんだって。

 でも心配だし、仕方ないじゃない……」

 ぶつぶつと言い訳のような言葉を口にしつつ、俯き足元を見ている。丸っきり叱られていじけた子供だ。

 ちょっとほっこりしつつ、そんなユアの頭に手を置いてその金髪をくしゃりと撫でる。

「ユア、今回お前を置いていくのは、お前がまだ頼りないからだ」

「……」

「俺とマチは強化系に準じているが、お前の系統は操作系。肉弾戦に向かない、そういった理由ももちろんある。

 だが、操作系でも具現化系でも強い奴は強い。お前にはまだ純粋に強さが足りていないんだ」

 肉弾戦で勝てないからトリッキーな戦い方をするのが操作系や具現化系、特質系だ。それらの系統の中でユアの能力はそこまで戦闘向きという訳でもない。

 ノヴなんかは即死系の技を持っているし、クロロはもう特質系である事が信じられない身体強化をしている。そこまで突き抜けろとは言わずとも、ペンで命令を書く必要がある存在命令(シン・フォ・ロウ)はいくらなんでも隙が大きすぎるというのが率直なところ。だが、ユアはまだ13歳だ。年齢の割には十分強いとも言える。

「だから、お前は一回落ち着いて自分を見直せ。幸い『敵』はもう殺した。慌てて強くなる必要はもうないんだ」

「……うん」

「肉弾戦に頼らないって意味で、ポンズはその道のエリートだ。ポンズに色々と話を聞いて、よく考えてみろ。

 今回はその為の時間だと思えばいい」

 俺についてくるのではなく、自分を見直す為。紛れもなく俺の本心の一つを聞かせてやれば、元気なくユアはこくりと頷く。

 視界の中でポンズが『私が面倒を見るのね、妊婦なんだけど』と言わんばかりの苦笑をしている。正直、ちょっとすまんとは今思った。

「分かったわよ」

「いい子だ」

 しぶしぶと言うユアににこりと笑いかける。ぶすっとした顔でそれを受け止めたユアを見届けてから、マチを見る。

 随分と待たせてしまったが、マチに不満の色は一切ない。

「待たせたな」

「別にいくらでも待つさ」

 そんな返答を聞きつつ、マチはドアノブに手をかけた。

「行ってくる」

「「行ってらっしゃい」」

 ユアとポンズの言葉を聞きつつ、外へと歩みを進めるのだった。

 

 

「ヨークシンまでは3日か」

「高速船を借りられて良かったね」

 マチの言葉に頷く。ネアトリ共和国はそんなに力のある国ではないから、ヨークシンへの直行便をうまく捕まえられなかった。直行便を待つか、大都市まで飛行船を乗り継いでヨークシンまで行くか。どちらにせよ6日くらい時間がかかる計算になる為、時間をかけるよりはと高速船をチャーターした。それなりの出費になったが、それ以上に稼いでいるというのもある。むしろ他の誰かに借りられていてチャーターできなかったという事態にならなかっただけいい。

 元の世界にあるジェット機ならば半日で着くような距離なのだが、この世界にジェット機はない。いや多分V5直轄の組織なら持ってはいるだろうけど。例えば今すぐ俺が暗黒大陸へ舵を切ったとして、それが発覚した時に追いつける速度のある乗り物がなければアウトである。それを考えれば極秘裏にジェット機くらいは政府が所持しているだろう予測はつくというもの。

 今はその辺りの話はどうでもいいか。チャーターした高速船で一路ヨークシンまで向かう。その間3日、狭い高速船の居住スペースに居なければいけないということ。そして海の上空を往くこの密室では盗聴の心配は殆どないというのが重要だ。

「じゃあ改めて情報を整理しようか、一から十まで全部な」

「おーけー、ボス」

 俺の言葉に茶目っ気を込めて返事をするマチ。

 まず何故ヨークシンに向かっているのかというと、マチが持つバッテラとの接触方法がヨークシンに行かなければ使えないからだ。

 ヨークシンから汽車で数時間のところにある古城を改造してグリードアイランドの置き場にしているバッテラだが、その事実が示すようにヨークシンは彼の重要拠点らしい。どうやら彼の恋人が入院しているのもヨークシンで最高権威の病院らしいのだ。

 何故それを知っているかというと、アサンが居場所を突き止めて忍び込んだから。それは取引相手だったバッテラの急所を探る事ともう一つ。

「重要なことだから確認する。バッテラの恋人は玩具修理者(ドクターブライス)で治せるんだな?」

「ああ。少なくともアサンはそう言っていたよ。治せる手応えがあったってね」

 バッテラは恋人を治せるならば大概の要求を呑むだろう。これは極めて重要な情報だ。

 もっともそれを前提として誓約書を作っているので、今更治らないと言われても困るのだが。

 とにかくマチはバッテラを呼び出せる。そうなればサーヴァントがいる俺ならば制圧は可能と断定していい。どんなボディーガードを付けているかは知らないが、シングルハンターを超えるものはそうそう居ないだろうし。居たとして問題ない戦力差だ。

 そうした後に追い詰めて誓約書にサインをさせる。大丈夫、うまくいきそうだ。

「じゃあ次に指揮者のタクトはその両手(ルーラーコンダクター)で操作している残りの3人について」

「電話に出た2人は問題ないけど、NGLに忍び込んでいるルナはねぇ」

 マチの溜息混じりの声に、つられて俺も溜息を吐きたくなる。

 1人は非念能力者、アサンのホームに詰めていたメイドのルーシェと。もう1人は同じくアサンのホームのセキュリティ担当だった具現化系能力者のベルンナ。この2人はマチからの電話に出て、俺の声を聞かせてやれば絶対服従を電話越しに誓ってきた。

 ――操作系はなんか慣れん。ちょっと怖かったが、いやそれはいいのだ。

 置いておいて、問題はNGLに潜入した最後の1人。アサンが敗れた時に備え、キメラアントを強化する役割を持った女であるルナ。

 ルナは操作系であり、意識を操作したり奪ったりする能力を持っている。ルナに意識を奪われた相手は彼女が解除条件を満たすまで目を覚ますことがなく、その人間をキメラアントに捕獲させてキメラアントを強化させる。その上で原作にいない師団長を作り出し、そいつを捕獲。万が一にもアサンが死んだ時には、アサンの死体を師団長に持たせて巣に戻す役割を与えること。

 何が厄介といえば、ルナの行動を阻止する手段がない事だ。NGLに潜入しているから、もちろん携帯は持っていない。そしてアサンが死ぬ前提で動いている為に他人との接触は捕獲行動以外は起こさないし、アサン自身が操作される可能性を考えてこちらからコンタクトする手段も構築していない。

 そして死んだ時の保険という性質上、主が俺に変わったとしても自分の行動を止める理由が彼女にはないのだ。死んだ主を復活させる手段を作っている為、主がアサンから俺に変わろうともルナの行動は変わらない。俺としてはキメラアントを強化するなんて絶対に止めろと言いたいところだが、俺の声はルナに届かない。主人に崇拝させる能力の弱点であるが、主人の望みと行動の行く先が噛み合わないことがあるのだ。

「百貌のハサンでも広いNGLに潜伏する1人を見つけるのは厳しいだろうしなぁ……」

 いや、マジで困った。しかもルナは王が生まれる気配を感じたら自分もキメラアントに捕まって餌になる手筈らしい。証拠隠滅の為と聞いてもそこまでやるかとドン引きしたが、アサンの命令だそうだ。どこまで冷血なんだよあの女。自分とマチ以外は本当にただの駒としか思っていなかったのだろう。

 ここで愚痴を言っても仕方ない。ルナさえいなければNGLを張ってキメラアントを即座に殲滅する手段も簡単にできただろうが、多少敵が強くなることは覚悟せねばなるまい。とにかくNGLには早めに行った方がいいだろう。早すぎても仕方がないだろうから、グリードアイランドをクリアした後くらいが狙い目か。そのタイミングならば原作ではそこまでの侵攻具合では無いはず。ルナの動きが不確定要素だが、仕方ない。

「それで旅団に関してだが……あまり有益な情報はないな」

「ごめん」

「いや、謝らなくてもいいけど」

 そもそも幻影旅団は原作で結構語られている部分もあってそこは俺も知っているし、その上で同じ旅団員以外とは排他的なところは変わらない。アサンやマチは同じ流星街出身だということで電話でのやり取りくらいはできたらしいが、一歩道を違えれば即座に殺し合う間柄だとお互いに認識していた。結果、かなりドライな関係しか構築できなかったそうだ。

 今現在、旅団は全員グリードアイランドに入っているだろうし、携帯も通じない。現実世界で接触できないとなれば、グリードアイランドで接触するしかない。

 そしてアサンを殺したことで状況は一変した、アベンガネを殺すことも含めてもう一度考え直してもいいだろう。

 それでも少し怖いのは、シャルナークの携帯する他人の運命(ブラックボイス)の存在だ。サーヴァントに効くかどうかは分からないが、万が一サーヴァントを操作されたら大分マズイことになる。令呪で自害させることは可能かもしれないが、そうなったらサーヴァント無しで幻影旅団を相手取らなくてはならないのだ。胸を張って大丈夫といえる程、俺は自信過剰ではない。となればグリードアイランドでは旅団を見逃して、ヒソカにシャルナークとコルトピを殺してもらう方がいいか。悩ましい。

 ここはもう少し時間をかけて考えてもいいだろうと思考を打ち切る。

「最後になるが転生に備わる贈り物(リバースデイプレゼント)の弱点についてももう一度聞いておきたい」

「いいよ。とは言っても、アサンから聞いた話を繰り返すだけになるけどね」

 かつて言ったが、どんな能力にも長所と短所がある。転生に備わる贈り物(リバースデイプレゼント)のそれを改めて洗い出すのだ。

 まず真っ先に出てくるのが発の燃費の悪さだ。発は切り札である為、燃費よりも出力に重きを置かれるのが殆ど。複数の発を同時に発現させることも可能であるが、当然ながらそれ相応のオーラを必要とする。俺は一流の念能力者を自負しているが、4つも5つも同時に発は扱えない。よくて3つ、現実的に考えれば2つが限界。護衛軍の発など、まともに運用できないものもある。

 また100を超える発をストックしているが、咄嗟の時に3桁の選択肢をいちいち吟味してられないし、それら全ての練度をあげる時間も余力も持てない。常用の発をいくつか見繕っておいて、基本的にそれを鍛え上げる。時間をかけてもいい時には全ての発の中から最適解を引っ張り出す。アサンはそんな運用をしていたらしい。自分の発が最も馴染むのは当然であるので、俺も基本的には煌々とした氷塊(ブライトブロック)を主軸に戦っていくことになる。っていくか、バトルスタイルをそれに合わせている為に別の戦法があんまり合わないというか。例えば剣術は使えるけど、氷棍を使って戦う方が多分強い。

 総じてサポート系は積極的に使っていいが、結局は地力を上げなくてはならないという結論に至った。強化・変化系で戦闘に長じたタイプの俺には十分にありがたい能力だ。

 それからアサンがオーラ捕食をする時、家畜に洗礼をして覚醒させて喰っていたらしい。人を食わなくてもオーラを増やせる方法としてこれは深く心に刻み込んでおく。

 

 そんな話をしつつ、ヨークシンに向かって海の上を往く。

 まずはバッテラを上手く無力化する。全てはそこからだ。

 

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