殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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046話 グリードアイランド・10

 グリードアイランドの中に入り、シソの木の前でユアとマチを待つ。

 サーヴァントは召喚できない。スタート地点は未だに見張られているようで、へばりつくような視線を感じるのだ。

「お待たせ」

「ユア」

 程なくしてユアが降りてくる。視線を感じて少しだけ嫌そうな顔をしたユアは、ちょこちょこと俺の側まで寄ってくる。

「それで、目的は本当にゲームクリアなの?」

「ああ。だがポンズの出産には間に合わせたいし、なるべく早くクリアしたいな」

 俺の言葉に、ユアは意外そうに目を大きくした。

「マジなんだ。お兄ちゃんのことだから、別に目的があるとも思ったけど」

「いやまあ別に目的もあるけどな」

「やっぱあるんだ。なに?」

「幻影旅団の1人を狩る」

 さらっと言えば、ユアの表情がピシリと固まった。

「……お兄ちゃん?」

「心配するな、ユア。今までは『敵』が居たから手札を晒せなかったが、その縛りはない。

 俺の切り札を使えば絶対に勝てる」

 そう自信をもって言うが、ユアの顔色は優れない。

 やはり、幻影旅団はユアのトラウマにもなっているらしい。

 分からなくもないが、このトラウマはどうしたって良い事にはならない。やはりそういった意味でも次の標的は幻影旅団だ。

(その為には、やはりサーヴァントだな)

 幻影旅団を確実に殲滅するにはサーヴァントの力を借りない訳にはいかない。転生に備わる贈り物(リバースデイプレゼント)を奪ったとはいえ、使いこなせているとはとても言えないからだ。

 となれば、やはりネックになるのはシャルナークの携帯する他人の運命(ブラックボイス)となる。奴の念能力で俺かサーヴァントが操られる事態となれば、ほぼ詰みだ。

 しかし、グリードアイランドという場所と奴らが除念師を探しているという状況。これらは俺に十分な余裕を生み出す要因となる。

 グリードアイランドは、広い。北海道ほどの大きさを持つというのだから、車や電車はもちろん飛行機が使いたくなる広さだ。その中で除念師のプレイヤーを探すとなれば、当然手分けすることになるだろう。つまりフィンクスは単独行動か、悪くてもツーマンセル。シャルナークに遭わずにフィンクスだけ仕留められるという状況は、グリードアイランドで理想的に整えられているのだ。もちろん、旅団が全員集合しているど真ん中に突っ込んでしまう可能性もあるにはあるが、かも知れないの可能性を全部怖がってばかりもいられない。攻める時は攻めなければならないのだ。

「……分かった。その時は私も戦うから」

「やめとけ、ユアじゃ足手まといだ」

 決意をこめたユアの言葉をさらりと切って捨てる。

 目を丸くした後、じとりと俺を睨むユアだが、サーヴァントや場合によっては転生に備わる贈り物(リバースデイプレゼント)を使うかも知れない以上、ユアを連れて行く訳には絶対にいかない。

 機嫌を悪くしたユアの頭に手をおき、その髪をくしゃりと撫でる。

「ちょ、やめてよお兄ちゃん! 髪がくしゃくしゃになるから!」

「おっとすまん。

 けどな、ユアは安全なとこで待機していてくれ。もしも旅団に害されたと思うと、俺はとても落ち着いていられない」

「う~。お兄ちゃんが心配なのは私もなんだけど……」

 いじけるような声を出すユアがますます愛おしくなり、もうちょっとだけ頭を撫でる。

 ちょっとだけ嫌がる素振りを見せるユアだが本気で拒絶している訳ではないようで、やがてクスクスと笑い始める。

「何やってんだい」

 呆れた声を出しながら、マチがシソの木から降りて来た。

「マチ、ちょっと遅くない?」

「データの初期化をしてたからね」

 肩を竦めて答えるマチ。アサンに生贄にされた女のプレイヤー名がマチであり、つまりマチという名前は使えない。死体が現実世界に還る際、指輪は回収される為に『マチ』のデータは二度と使えないのだ。

 だからといって、偽名でプレイするのも面白くない。何せ自分自身がプレイするゲームなのだ。だからマチは入島した際に名前を聞かれた際に「リヴァイではない」と言い「マチ=コマチネだ」と答える。これでプレイヤー名が変更されるというシステムらしい。

「ん? じゃあ、今までバインダーに登録されたリヴァイの名前が全部変わるのか?」

「そうだよ」

「それって混乱しない?」

「損を被るのはほぼ自分だけだからいいんじゃない? 色々と裏技も使えそうだけど」

 まあ確かに。間違い探しのようにバインダーの名前が一つだけ変わっても、なかなか分かりにくい。逆に顔と名前が一致しないプレイヤーと接触しようとする人間は少ないだろうし、自分の交友関係を白紙に戻すのはデメリットだろう。

 それにマチに関しては実はメリットもある。それはプレイヤーキラーであるマチの悪名を少しだけ誤魔化せるというものだ。

 俺たちが天空闘技場にいた当初、グリードアイランドにはマチだけが入ってプレイヤー狩りをしていた。それでマチというプレイヤーキラーが有名になったのであるが、そのゲームデータは生贄にされた女に移された。そして今、マチのプレイヤー名は『マチ=コマチネ』である。バインダーだけ見ればマチとは別人だと思うだろうし、そもそもプレイヤーキラーであるマチの顔を知っている者も少ない。

 っていうか。

「……そもそもリヴァイのデータは消して、普通に新規データを作った方がよかったんじゃないか?」

「あ」

 それは考えなかったと言わんばかりに目を丸くするマチ。

 いやまあ、やっちゃったものは仕方ないけどさぁ。プレイヤーキラーの悪名に比べれば預金データとかバインダーデータとか誤差だろ。

 俺とユアのジト目を向けられて、マチは素直に頭を下げる。

「ごめん、考えが足りなかった」

「まあいいさ、今更だしな」

 そもそも俺もここでアサンと大立ち回りをしたところを監視している連中に見られている訳だ。マチと共に行動することも合わせれば、名前で誤魔化せる部分もやはり誤差になる。結局は気休めの範囲でしかないのだ。

 話が一区切りついたところで時間を確認する。12時7分。

「キルアからの連絡がないな」

「忘れるなんていい度胸してるわね、キルアの奴」

 ユアが品のない顔と口調で罵った瞬間、ポーンとユアのバインダーが音を立てて具現化した。

『他プレイヤーがあなたに対して交信(コンタクト)を使いました』

『ユア?』

「その声はビスケね」

『そうよ。あんたら戻ってきたのね~』

 間延びして緊張感のないビスケの声を聞きつつ、俺は呆れて声を出す。

「2分遅刻だぞ」

『ゴメンゴメン。いつもはキルアがチェックしてたんだけど、今はゴンと一緒にイベントに挑んでいるのよね。

 あたしはこういうの苦手でさ、操作に手間取っちゃった』

「まあいいわ、早く迎えに来てよ」

『それがね、初心(デバーチャー)はあるんだけど同行(アカンパニー)を切らしちゃって。キルアかゴンも持ってたかしらね?』

「「「…………」」」

 なんとな~くビスケが言いたい事を察して、俺たち3人に沈黙が降りる。

『イベントもいつまでかかるか分からないし、マサドラまでは自力でよろしく。

 あんたらなら100キロくらいの距離は散歩みたいなモンでしょ』

「ちょ、ま、ビスケ!!」

『じゃね~』

交信(コンタクト)が終了しました』

 通信が一方的に切られてしまう。

 数秒、嫌な沈黙が流れた。

再来(リターン)でマサドラに行って、スペルカードを補充するとか方法はあるよね」

同行(アカンパニー)はレア度高くないし、普通当たるだろ」

 徐々に沸き立つ怒りと共に言葉を口にするユアと俺。なんの為に時間を決めて入島したのかわかりゃしない。

「こっちを窺ってる奴らを何人か、のしてカードを奪うかい?」

「やめとけって」

 既に切り替えているマチの案にストップをかける俺。ここからは比較的真っ当にプレイをするつもりなのに、わざわざいきなり敵を増やすこともないだろう。

「とっととマサドラに行こう。それで同行(アカンパニー)を当てて、ビスケを一発殴りに行こう」

「異議なし」

 心を一つにした俺たちは、一路マサドラへ向かって爆走するのだった。

 

 同行(アカンパニー)、当たりませんでした。

「えー」

 全員のカードを突き合わせて、微妙な顔をしているユア。そりゃあまあ、3人で買ったカードは105枚だ。同行(アカンパニー)が当たらない可能性はあるっちゃある。

 だけど、なんとも言えない声と顔を出す原因はそれだけではない。

堅牢(プリズン)擬態(トランスフォーム)、それから強奪(ロブ)ねぇ」

 マチが引きつった笑みを浮かべながら入手したカード名を口にする。SにAとBランクのレアカードを当ててしまったのだ。これで何故同行(アカンパニー)が当たらないのか。

「よし、切り替えよう。レアカードをたくさん入手できたことを喜べばいい」

 当たらなかったカードは仕方ない。再来(リターン)は5枚、交信(コンタクト)は7枚あたったし、磁力(マグネティックフォース)も2枚ある。ひとまずこの3人で連絡を取り合う分には問題ない。

 と、またユアのバインダーがポーンと音を立てた。既に具現化していたので、今回の変化は音だけである。

『他プレイヤーがあなたに対して交信(コンタクト)を使いました』

『おっす、ユア』

「キルアじゃん、イベントはもう終わったの?」

『ああ、ラクショーだね。それでお前らは今どこ?』

「マサドラよ。スペルカードを補充したけど、同行(アカンパニー)が当たらなくて困ってたとこ」

『そんなに買った数が少なかったの?』

「わけないだろ、ゴン。100枚以上買って当たらなかったんだよ」

『運悪いわね~』

「ビスケ、お前が言っていいセリフじゃねぇよ」

『おほほほほ~』

『ま、いいや。俺たちもスペルカードが少なくなってきたし、いったんマサドラに向かう。

 町の中じゃ落ち着かないから、ちょっと離れたとこで落ち合おうぜ』

「分かった。じゃあマサドラの南東2キロ地点くらいの林で待っている」

『おっけ。じゃあな』

交信(コンタクト)が終了しました』

 とりあえずゴンたちと出会う約束は取れた。ユアとマチを見て、口を開く。

「んじゃまあ、必需品を買ってまたここに集まるか」

 グリードアイランドでは金もカード化しなくてはならないし、新鮮な水や食料にキャンプ用品も嵩張るものはカード化して持ち運んだ方が便利だ。といってもスペルカードだけで大分埋まっていて、残りのフリーポケットは10しか残っていない。こういうところでも頭を使わされる。

 とりあえず、今日のところはゴンたちと落ち合ってこれからの話をするだけでいいだろう。ならば、フリーポケットもいっぱいにしていい。手の込んだ料理を作ってもいいだろう。

「あたしはキャンプ用品とか今夜の食料を買っておくよ」

「じゃあ私は保存食とか水とかかな」

「俺は紙とかペンとか買っておくかな」

 そう言って三々五々に分かれていく。円に隠を被せて誰にも監視されていないことを確認して、と。

「素に銀と鉄――」

 サーヴァントを召喚する。やはり余力があるならばサーヴァントは召喚しておきたい、この島に幻影旅団が全員でいることだしな。

 

「バハト!」

「おー、ゴン。早いな」

「いい匂いがしたからね、すぐに見つかったよ」

 待ち合わせの林の中で調理をして小一時間、少しだけ空が赤くなってきた時分にゴンたち3人組がやってきた。

 彼らを見ながら、凝。出会った瞬間に凝をするあたり、念能力者の出会いは目にオーラが集中して面白い。

 ともかくスペルショップで時間がかからなかったのはラッキーだといえた。食事の支度はユアとマチに任せて、訪れた仲間たちに水を配って労わる。

「お、サンキュー」

「ありがとう」

「ありがたくいただくわさ」

「ちなみにビスケは後で殴るから」

「なんでっ!?」

「バハトたちがゲームに戻ったのに迎えにいかねーからだろうが」

「だって同行(アカンパニー)なかったし」

 気心が知れた仲、すぐにわちゃわちゃし始める。まあビスケに対しての怒りはほぼほぼ無くなっていたし、ちょっとからかっただけである。

 そのまま少し手の込んだ食事を済まし、腹が落ち着いたところで火を囲んで話を始める。

「それでゴンたちは指定ポケットカードは何種類くらい集めたんだ?」

「へっへ~。見てよ」

 ニコニコとしながらゴンがバインダーを寄越してくる。まだまだ空いているとこは多いとはいえ、ところどころは埋まっている。

「順調だな。指定ポケットカード23枚か」

「約4分の1が集まったぜ、BとAばっかだけど」

 ここから先が大変だと言わんばかりにキルアが両手を上げた。

 確かにランクが上がれば純粋に入手が難しくなるシステム、ここから先はイベントクリアできるかも分からない。しかもクリアしたとしても、カード化限度枚数になってないとも限らない。トッププレイヤーはカードを当然独占しており、既に5種類くらいはゲイン待ちになっていると考えるのが妥当だ。

 まあ、それは相手ばかりではないのだが。

「それで大天使の息吹を狙ってゲンスルーたちは襲って来なかったのか?」

「うん。全然音沙汰なかったよ」

 うーん、俺がグリードアイランドを離れている時がチャンスだと思わなかったのか? 大分慎重になっているとも考えられるとはいえ、それで好機を逃すタイプには思えなかったが。

 まあ、考えても仕方ない。追い回そうにも、ゲンスルー組はかなりのスペルカードを抱えているだろう上に、奴ら曰く奴隷のフリーポケットも活用できる。物量作戦は得策とは言えないだろう。

 いったん思考を切り替える。

「それでこれからの方針だが」

「俺たちはこのままゲームを進めるよ、順調だしね」

 元気いっぱいに返事をするゴン。それに反対する気はなく、頷いてから仲間たちを見渡す。やはり反対意見はないようだった。

「ゴンとキルア、ビスケはそれでいいと思う。

 それで俺たちなんだが、真っ当な攻略はしない方がいいと思うんだ」

「というと?」

「俺たちが大天使の息吹を独占しているように、他のプレイヤーも独占カードはあると見るべきだ」

「そういうのはトレードで手に入れるしかないよね」

「それ以前の問題だバーカ。1種類でも独占しておけば他のプレイヤーがクリアできないんだから、どんなトレードにも応じる訳ねーだろ」

 純粋無垢に言うゴンを心底バカにするキルア。

 しゅんとなるゴンはいじけつつ、それでも口を開く。

「じゃ、どうするのさ」

「戦って奪うか、スペルで奪うか。なんにせよ難易度高いと思うけどな」

 どうすっかなー、と言いながらコップを傾けるキルア。

 そんな少年たちに苦笑しつつ、口を開く。

「そこを俺がなんとかしよう。

 これでも情報ハンターだからな、気が付かれないように接近するのは得意分野だ。

 隙を見つけてスペルでカードを奪うことも不可能じゃないさ」

「え~、できんのかよ」

 キルアが胡散臭さそうに聞いて来る。

 まあ、分からなくもない。半径20メートル以内に入ったらスペルをかけあえるということは、限られた範囲を注意しておけばいいということだ。はっきりと区切られた警戒範囲を抜くことは難しい。しかも気がついた時点でする警戒はバインダーを出すだけなのだ。これは防御側が圧倒的に有利。

 だが、サーヴァントと神の不在証明(パーフェクトプラン)はこの警戒網を容易く突破できると確信している。サーヴァントは霊体化すれば一切気取られることはないし、神の不在証明(パーフェクトプラン)も声を出せないとはいえまたしかり。神の共犯者でマチも気が付かれない状態にして、彼女が一方的にスペルを唱えれば奇襲は容易く成功するだろう。サーヴァントでバインダーを出していない隙を窺い、そして半径20メートルに神の共犯者で侵入して攻撃。初見で回避できるものはいない筈だ。

「まあ、試してみるさ」

「貴重な攻撃スペルを使うなら無駄撃ちすんなよな」

 キルアの遠慮のない言葉にユアの機嫌が斜めだ。俺をバカにするなと表情で語っている。

 結果さえ出せば問題ないだろうから、苦笑でユアをなだめる。

「それから誰も入手したことのない激レアカードの情報も集めておくか。

 名簿(リスト)と攻撃カード、それから相手のバインダーを見れるカードはできるだけくれ」

「いいぜ。こっちは聖騎士の首飾りがあるとはいえ、防御カードとレアカードが欲しいな。場合によっては取引に使う」

 キルアの言葉に頷き、全員のカードを入れ替えていく。

 俺は奇襲をかけて相手の独占カードやレアカードを奪う担当、ゴンの組は真っ当にゲームを進める担当。

「ユアもゴンたちについて行っとけ。イベントをクリアするのもいい経験になるだろ」

「う~~」

 俺に付いて来たがったユアだが、これはマサドラに来るまでに説得してある。旅団に攻撃を仕掛けるにも、身軽な方がいい。俺の切り札を隠す為にも離れてくれと。

 その時はしぶしぶ頷いたユアも、再び俺から離れるように言われるのは面白くないらしい。ふくれっ面で抗議してくるのを無視する。

「あ、そうだバハト。お互いに追跡(トレース)密着(アドヒージョン)をかけておこうぜ」

「ん? ああ、なるほど。それもいいかもな」

 追跡(トレース)をお互いに掛け合えば、位置情報を確認し合える。近場にいた時に気軽に会えるのはもちろん、なんらかのアクシデントで動けなくなった時にそれが分かるというメリットもある。

 それに密着(アドヒージョン)も使い方によってはかなり有用だ。

密着(アドヒージョン)をかける意味はあるのかい?」

「ああ、指定ポケットカードの入れ方でSOSの合図とかを決めておくんだ。簡単な情報しかやりとりできないけど、こういう備えはしておくもんだぜ」

 マチが疑問の声をあげるが、キルアはあっさりと答える。とりあえず大天使の息吹は俺とゴンにキルアの指定ポケットに入れて、これがなくなった時は異常事態発生という合図にしておく。他にも話し合って、簡単な合図を決めておく。集めたカードの多くはゴンが持つことになっているし、それを利用した連絡法だ。贋作(フェイク)の2~3枚で発信できるのだから悪くない。

 そうして話し合いは続き、順番に警戒しながら夜を過ごすのだった。

 

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