殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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047話 幻影旅団・2

 前言を撤回しよう。

「マチのゲームデータ、消さなくてよかったな」

「人間万事塞翁が馬ってやつかねぇ」

 マチのバインダーを見ながら呟けば、マチも頷きながら答える。

 よくよく考えれば、俺はグリードアイランドをまともにプレイしていない上に滞在してる期間も知れたもの。当然、バインダーに載っている名前も相応に少ない。アントキバの月例大会にも出ていなければ、積極的にリストに名前を載せるようなこともしていない。結果、マサドラのカードショップで並んでいた時に近くに居た者とフィンクスくらいしか名前のデータがない。

 対してマチは俺を探したりプレイヤーキルをする為に、なるべくたくさんのプレイヤーの名前をバインダーに載せるようにしていた。ツェズゲラはもちろん、トッププレイヤーであるハガクシやトクハロネといった名前も載っている。これらの相手もマチがゲームクリアを目指していないと知っているので、まさかスペルによる攻撃を受けるとは思っていないだろう。

「作戦実行の前に手に入れておきたいアイテムもあるけどな」

「税務長の籠手だね」

 徴収(レヴィ)を連打できるアイテムであり、これがあるだけで攻撃力が全く違う。破壊されるのも指定ポケットのカードというだけなのだから、贋作(フェイク)の数だけ使えるということだ。

 ユアたちと離れた今、この場にいるのは俺とマチのみ。手分けして準備を整えなければならないだろう。

「まずは……いちおう奇運アレキサンドライトは手に入れておくか?」

「もう条件は揃っているんでしょ? 手に入れるのはいつでもできるんだから後回しでもいいんじゃない? 堅牢(プリズン)で守っている訳でもないし」

「それもそうか」

 急いで取る必要があるアイテムでもなし、慌てる必要はなさそうだ。入手しているプレイヤーも少ないからカード化限度枚数になるとも考えにくいし、そもそもゴンが気が付いて手に入れるアイテムでもある。俺たちは積極的に他のプレイヤーにケンカを売る立場だから、スペルで攻撃をくらう可能性も増えるだろう。わざわざ美味しい餌を身に付ける必要もない。

「じゃあまずは税務長の籠手の入手からだな」

「あ、それならあたしがやるよ」

 順番に手順を進めようとして俺に、マチがさらっと口にする。

「俺が手伝わなくていいのか?」

「ええ、こっちは一人で十分。バハトは他の事をしておいて」

「つってもな、俺が一人ですることって言ったら……」

 言葉を濁すが、マチはそれに対して軽い調子で返してくる。

「あんたなら大丈夫でしょ、フィンクスを殺すなんてさ」

 そう、幻影旅団狩りだ。

 フィンクスを強襲する時はもちろん、これから先も幻影旅団に攻撃する時にはマチは連れて行かない。それは前もって決めておいたことだ。

 海獣の牙(シャーク)幻影旅団(クモ)と交渉できる数少ない組織の一つである。アサンが死亡した今、海獣の牙(シャーク)は瓦解したも同然だが。それを知らなければ窮した幻影旅団が海獣の牙(シャーク)の手を借りる――というか利用しようとする可能性は十分にある。もしもマチが俺の協力者であると知っていなければ、十分にありうる話なのだ。

 つまり、幻影旅団と表立って戦うのは俺とサーヴァント。

(大丈夫)

 じっとりと忍び寄る不安は召喚したサーヴァントであるディルムッドへの信頼で打ち消す。フィンクスは俺と互角か少し上、ならば俺よりも圧倒的に強いサーヴァントならば間違いなく勝てるはずなのだ。まさかフィンクスが本気を出せばアサンよりも強いとは言うまい。

 必要なのは俺の覚悟のみ。この期に及んでそれが持てていないなどとは笑い話にもならない。どちらにせよ、ノブナガを殺した俺は奴らに狙われる。いずれ殺し合うのならば、こちらから仕掛けるのが正解。

「じゃあ行ってくる。ブック」

 バインダーを出してカードを取り出す。同時、ディルムッドが霊体化を解き、俺の肩に手を乗せる。

「心配召されるな、マスター。勝利を捧げると誓います」

「心強い。

 じゃあ行くぞ、磁力(マグネティックフォース)使用(オン)! フィンクス!」

 瞬間、俺の視界は光に包まれて瞬間移動を始めた。

 

 ◇

 

「行ったね」

 バハトを見送ったマチはやや曇った顔をする。だが、それはバハトの心配をしているからではない。

「全く、あれほどの化け物を従えておいてまだ怖がるなんてね」

 それに関してはむしろ安心しているくらいだ。

 マチもサーヴァントと手合わせをさせて貰ったが、まあ上手に遊ばれた。圧倒的な高みから見下ろされるように戦うのはいつ位ぶりだろうか。自分がまだまだ上を目指せると思えて喜びが胸に沸いてきたのは、マチ自身にも意外だった。

 ともかく向こうから奇襲を受けるならともかく、相手が襲われる準備もされていない状態でサーヴァントによる攻撃ができるのならば、まず間違いなく勝てるとマチは確信していた。

「それよりも――」

 言わないのが本当に正解だったのだろうか。それがマチの顔を曇らせている原因である。

 関わって分かった、バハトはアサンよりもずっと善人だ。人を一方的に利用することを良しとせず、苦しんでいる人がいたら助けようとする人間性。アサンとは大分違い、そしてまたマチ自身とも違うということが彼女の心を痛める。

 マチはバハトやバハトが大事に思う人の利になるならば、それ以外の誰がどうなっても構わないと本気で思っている。

 だからこそ、これからやることがバハトの思惑に沿わないだろうとも。そしてそれも、バレなければ問題ないとも思っている。だからこそマチはその行動を止める理由にはならない。

 まずはマサドラの得意客になっているトレードショップで持ちかけられた商談を受けて、リスキーダイスを入手。指定ポケットカードを購入しようとすれば何千万の金額が必要になるが、これも余った指定ポケットカードを売却して資金にしていたから問題ない。ゲームデータをロードしたのはこういう時にも便利だ。金はやはり強力である。

 そして入手したリスキーダイスをしまい、今度はスペルカードショップの前を張る。雑魚プレイヤーを捕まえるのに、ここより適した場所はそうない。

 しばらく待てば、店の入り口が開いて一人の男が姿を現す。今にも笑いだしそうな雰囲気を見る限り、もしや離脱(リーブ)が当たったか。よりもによって、このタイミングで。

(ご愁傷様)

 もちろんマチは見知らぬ男を幸運の絶頂から不幸のどん底に突き落とそうともなんの痛痒も感じない。

 絶で気配を消して、男の後を追う。やがて路地裏に着いた男が、待ちきれないといった様子で呪文を唱え終わるのを待つ。

「ブック、ムガっ!?」

 背後に忍び寄ったマチは、素早く猿ぐつわを噛ませると同時に目隠しもする。男がそれを外そうと自分の顔に手を伸ばすが、その両腕を念糸で縛る。思わず尻もちをついてしまった男は、身動きが全く取れなくなってしまった。

 男の動きを完全に封じた後でマチは男の首に手を伸ばし、いつでも縊り殺せるようにして声をかける。

「静かにしろ、騒げば殺す」

 マチの殺気に立ち向かう事が出来ず、男は顔を青白くしながらガタガタ震えるだけになった。

 それを確認した上で男のバインダーからカードを奪うマチ。

離脱(リーブ)窃盗(シーフ)徴収(レヴィ)。ため込んでるじゃないか」

「ム、ムガ……」

 念願の離脱(リーブ)が奪われることに男は抗議の声を上げようとしたが、マチは容赦なく男の足首の骨を踏み砕いて黙らせる。

「ムグゥゥ!!」

「騒ぐんじゃないよ、次は殺す」

 コクコクと涙を流しながら頷く男を無視して、目ぼしいカードを全て奪ったマチ。

 それを終わらせたマチは男に声をかける。

「必要なカードは貰ったわ。これで殺してもいいんだけど」

「ムゥゥ!」

「ま、あたしも鬼じゃない。助かるチャンスをあげる」

 言いながらマチは男の猿ぐつわを外す。

「ひ、な、なんだよお前。俺が何をしたって言うんだよぉ……。

 目隠しも外せよぉ」

「目隠しを外してもいいけど、あたしの顔見たら結局殺すわ。それでいいのね?」

「い、いい訳ないだろ!」

「じゃあそのままで我慢しな。

 ああ、言っておくけどあたしも我慢強い方じゃないから。もしも手間をかけさせるようならその場で殺す」

 そう言ったマチに息を飲む男。それらに反応することなくマイペースに、マチは平常心で先ほど入手したリスキーダイスを取り出して男に握らせる。

「振れ」

「!? リ、リスキーダイスかっ!?」

「手間をかけさせんな、次は殺す。振れ」

「ひっ! …あ」

 マチの殺気に男の手からダイスがこぼれ、地面を転がる。やがてそれは大吉の面が上で止まった。

宝籤(ロトリー)の数は合わせて4枚ね。じゃ、よろしく」

「く、くそ! 分かったよ、やればいいんだろ! 宝籤(ロトリー)使用(オン)!」

 煙を上げてカードが変わる。マチはそれを奪い取り、確認。

 指定ポケットカード089番、Aランクカードの税務長の籠手のカードが握られていた。指定ポケットカードの中でAランク以下のカードは約4分の3であり、独占されていることを考慮しても宝籤(ロトリー)で当たる分母は65かそこそこだろう。一発で引けるとは運がいいと、ニヤリとした笑みがマチから零れた。

「スカだね。あたしが欲しいカードを当てたらゲームから脱出させてやってもいい。ほら、さっさと振りな」

「ぅぅぅ…。なんで俺がこんな目に…」

 涙を流しながら、男はそれでも気丈にダイスを掴み、振る。

 大吉、Aランクカードの千年アゲハ。

 大吉、Bランクカードの縁切り鋏。

 大凶。

「あ」

「ひっ! な、なんだよ。大凶が出たんじゃないだろうな!」

 目隠しをした男には結果が分からないが、彼に説明する気もないマチはその場を素早く離れた。それと同時、男の真上にあるビルの窓から何故か大量の包丁が投げ捨てられ、男に向かって落下する。

 ズガガガと落下した包丁に切り刻まれた男は間違いなく絶命していた。

「あんた、包丁マニアかなんか知らないけどまたこんなに無駄使いして!」

「だからって窓から捨てる事ないだろう!」

 比較的どうでもよくて洒落にならない痴話喧嘩が頭上から聞こえてきた。

「ま、いっか」

 とりあえず目的のカードを入手したマチは切り替えて、この場で起きた事をあっさりと忘れるのだった。

 

 ◇

 

 フィンクスの元に着地して最初に確認するのは、敵の仲間が近くにいるかどうか。特にシャルナークが側にいるかどうか。

「誰かと思えばいつかの情報ハンターか」

 場所はどこかの林、見通しの悪くないこの場で幻影旅団が隠れ潜む必要もない。

 つまり、フィンクスは一人。

「仲間はいないようだな」

「――後ろの剣士はタダモンじゃねぇな。面白れぇ、俺を殺しに来たってわけか?」

 フィンクスの視線は俺の背後にいるディルムッドに注がれていた。俺を無視する程に、サーヴァントであるディルムッドを警戒していた。

 そしてその警戒は正しい。フィンクスはオーラを爆発させるように溢れさせ、戦いに備える。

「バハト、構わないですよね?」

「もちろんだ。命令する、フィンクスを殺せ」

 俺の言葉にディルムッドが双剣を抜きつつ、前に出る。その威圧感は、殺気を向けられていない俺でも思わず息を飲んでしまうもの。だがしかし。それを向けられたフィンクスはそれでも笑みを消さない。

「ハ。バケモンって奴はいるとこにはいるもんだな」

「誉め言葉と受け取っておきましょう」

「殺りがいがありそうだぜ」

 強がりではない、オーラに淀みがないから。フィンクスはディルムッドの実力を把握した上で、彼を殺すことを諦めていない。

 構える段になって、フィンクスの笑みが消えて逆にディルムッドの顔に笑みが浮かぶ。

「我はフィオナ騎士団、ディルムッド=オディナ。名乗りを上げよ、勇者よ」

「――幻影旅団、5番。フィンクス=マグカブだ」

「尋常に……勝負!!」

 言い終わると同時、ディルムッドが動く。辛うじて目で追えるといった速度でフィンクスへと迫ったディルムッドは、首と脚を狙ってその剣を振るった。フィンクスは首への剣閃は回避するが、脚は回避しきることができずに僅かに切り傷ができて血が流れる。

 間合いを詰めようと潜り込むように進もうとしたフィンクスだが、即座に横にずれる。直後、寸前まで彼の頭があった場所に上からディルムッドの剣が降ってきた。

 横に移動したままサイドを取ろうとしたフィンクス。しかしまたもやその狙いは達することなく、勢いよく後ろに下がる。ディルムッドの追撃である刺突は空を切り、フィンクスに手傷を負わせない。

「く――」

「ほう」

 ディルムッドがぬるい訳ではない、フィンクスが凄いのだ。俺だったら深い傷を負っているような攻撃を回避できるのは、きっと死線を潜った勘というものだろう。動き自体は俺にもできるだろうが、あそこまで鋭く動くという考えが今までなかった。

 いや、フィンクスもそう考えている訳ではないことは分かる。だが、そう動かなくては終わると感じとれるからこそ、そう動けるのだ。俺にその感性はまだない。

 一回の攻防が終わった時点でフィンクスはじっとりとした汗を掻いている。対してディルムッドは涼しい顔である。勝敗の行方は分かるというもの。

 それでもしかし、フィンクスは諦めていない。

「今度はこっちから行くぜぇ!」

 前進するフィンクスに合わせてディルムッドが剣を構えるが、間合いに入る前に方向転換。横にある木の枝に向かい、それを足場にして急降下。加速して突撃するフィンクスは余りに早い。それでもディルムッドは揺るがない、迎撃する相手をしっかりと見据えている。

 振られる剣、その側部にフィンクスの拳が叩きつけられて弾かれる。フィンクスの左腕とディルムッドの右剣が残る。突撃して距離を潰した分、距離は近く剣の間合いではない。

「オ、ラァァ!!」

 溜めた左腕を振るうフィンクス。柄頭でさらりと受けるディルムッド。

 同時、一歩下がったディルムッドは間合いを剣のそれに直す。

「いくぞ」

 詰みだと、俺はそう確信した。十全にフィンクスを剣の間合いに収めたディルムッド、ここから逃がす訳がない。

 多分だが、フィンクスもそれを感じ取ったに違いない。ニィと笑う奴は、しかしそれでも諦めていない。死んでいないのに諦めてたまるかといった様子だった。

 次の瞬間、フィンクスに降り注ぐ剣の雨。

 ディルムッドの剣撃を。フィンクスは時に拳を合わせ時に躱し、そして時に多少斬られながらも致命傷を避ける。

 時間にしておおよそ7秒程か、英霊の攻撃を受けきったのは見事としか言いようがない。そうそうにフィンクスの回避力を見切ったディルムッドが彼の動きを封じるように剣を振るい、それに抗えなくなったフィンクスが致死の刃を受けるのみになる。

 フィンクスの首を落とす為に剣を溜めるディルムッド。その現実を見て、なおフィンクスは哂う。

「次は、俺が勝つ」

「そうか」

 そして振るわれる剣。

離脱(リーブ)使用(オン)! フィンクス!」

 刹那、光が割り込んでフィンクスを包み込んだ。

 俺が最後に見たフィンクスは。首を浅く斬りつけられて血を流しながら、憤怒激怒の悪鬼が如き表情をしていた。

「は?」

「曲者っ!!」

磁力(マグネティックフォース)使用(オン)! フランクリン!」

 少し離れた木陰から光が空に飛び、消える。

 距離があり過ぎたせいで、ディルムッドもその半ば以上までしか踏破していない。

 あの優男風の声は、おそらくシャルナーク。

 いや、そんなものはどうでもいい。確認をしなくては。

「ブック」

 バインダーを出してリストを確認するが、シャルナークの名前はない。奴は俺の半径20メートルに入らなかったのか。ディルムッドはバインダーも持っていないし、スペルを唱える訳にもいかない。

 つまり。

「……逃げられた?」

「申し訳ありません、マスター。私の責任です」

 肩を落として俺に詫びるディルムッド。結果だけ見れば、情報だけ抜き取られた形だ。

 だがしかし、俺にはディルムッドを責める気はない。

「いや、仕方ない。俺もまさか旅団が気配を隠していたなんて考えもしなかった。しかもシャルナークだけなんてな。

 それに何もしなかった俺が責められる訳もない」

「寛大なお言葉、感謝いたします……」

 それでも敵を仕留めきれなかったディルムッドは元気がない。慰めるように言葉を続ける。

「それに旅団の戦闘員と戦って実感が掴めたのは大きい。次こそは仕留められるだろう、期待している」

「ありがとうございます」

 汚名返上の機会があると知ったディルムッドはやや元気を取り戻す。

 だが、このまま順調にいけば幻影旅団と遭うのはB・W号になるか。アサシンの独壇場である為、ディルムッドの出番はないかも知れない。

 そうも思いながら、終わった戦闘に思いを馳せる。

 素晴らしい戦いだった、ディルムッドもフィンクスも。アサンを殺して、強さに対する餓えというものがなくなっていたのかも知れない。だがしかし、あんなものを魅せられて、心が動かない程に俺も枯れてはいない。

「ディルムッド」

「はい」

「強くなりたいな」

「…はい、微力ながらお手伝いをさせていただきます」

 どこか清々しい気分でそんな会話をするのだった。

 

 ◆

 

「全員集まったね」

「フィンクスが居ねぇぜ?」

「バインダーを確認しなよ、フィンクスはもうグリードアイランドに居ないよ」

 そこにはグリードアイランドにいる幻影旅団が全員集まっていた。

 シャルナーク、フランクリン、シズク、コルトピ、フェイタン、ボノレノフ、ミドリ、カルト。グリードアイランドにいると思われる除念師を探してそれぞれに散っていた仲間たちを集めたのはシャルナークだった。

「で、なんでワタシたちが集められたね。除念師が見つかたか?」

「ヒソカが居ないし、違うんじゃない?」

 フェイタンが軽く言うが、ミドリがあっさりと否定する。

 それに怒るでなく、じゃあなんだと言わんばかりに眉を顰めるフェイタン。

「順番に説明しようかな。情報ハンターのバハトが攻めてきた」

「誰だっけ?」

「ノブナガ殺した奴を忘れんな」

 シズクがいつも通りにボケをかますが、流石に許容範囲を超えていたのかフランクリンがいつもよりも強めに窘める。

「あー、いたね。あれ? でもフィンクスが雑魚って言ってなかったっけ?」

「それが発を使ったバハトは化け物だった、フィンクスが一方的に追い詰められてたんだ」

 そこでシャルナークが先ほど見た戦闘を簡単に説明する。

 聞き終わったところでボノレノフが口を開いた。

「ちなみになんでシャルはその場にいなかったんだ?」

「便所」

 幻影旅団とはいえ生理現象はある。その姿を見せて喜ぶ訳もなし、多少の隠蔽はする。バハトにとっての不運は、よりにもよってそのタイミングで強襲してしまったことだろう。

「でも、シャルはフィンクスの戦いに手を出したんだよね? たぶん、凄く怒ってるよ」

「ああ、それは分かっている。だけど仕方ないんだ」

 コルトピの言葉に、シャルナークは簡単に返事をする。

「ヨークシンの仕事で俺たちはウボーとノブナガを失った、戦闘職が不足気味なんだよ。

 そしてバハトの念獣は捨て身の前衛が何人か必要なレベルだ。あれと戦うクモとして、フィンクスはあそこで死なせられない」

「でもそれって団長命令じゃないよね。フィンクスが納得しないと思うけど」

「後で好きなだけ殴られるし、死んでも仕方ないかな。アレに勝つのがクモが生き残る道で、その時までフィンクスが生きているなら俺の命は払ってやるさ」

 ミドリの言葉に肩を竦めて話すシャルナーク。

 そこら辺にあまり興味がないカルトが口を開く。

「でもそんなに強い念獣ってありえる? バハトの仲間って可能性は?」

「あの念獣の半径20メートルに入ったけどバインダーに名前が載らなかったんだ。これでアレがプレイヤーじゃないのが確定。

 そしてフィンクスがバハトに近づこうとする動きを偶然のそれも牽制していた。本体への防衛本能が高いんだろ」

「なるほどね。つまり念獣を足止めしている間に本体を仕留めればいいのか」

「そう。って言っても桁違いの強さだったし、旅団がまとまる必要があるね。だからバハトと遭遇しないうちに団長の除念をしよう。

 フィンクスの説得も俺がやるから――」

「ふざけてるか? なんでワタシがそんな事を聞かなきゃならないね」

 シャルナークの声をぶった切るのはフェイタン。顔に青筋を立てながら、フェイタンはシャルナークを睨んでいる。

「そもそもシャル、お前がフィンクスの戦いに手を出したのも納得できないね。

 それ、フィンクスに対する侮辱よ」

「否定はしない。けれど、旅団存続の為に最善の判断をしたつもりだ」

「お前は団長か? なんでお前の判断にワタシやフィンクスが従う必要があるね。バハトとやらは殺す、優先事項ね」

「流石に除念師は優先だろ?」

「そう思うならお前たちはそっちに手を割けばいいね。ワタシとフィンクスは舐めた真似をしたバハトを先に殺す。その後に除念師はちゃんと探すから心配するないね」

 聞く団員はどちらにも利があるように思えた。優先すべきはクモという原則に従えばシャルナークが正しいように思えるが、そもそもそれ程の脅威がバハトにあるかどうか分からない。実際その戦いを見た訳でもないし、ノブナガが殺された時点でフィンクスだって殺される可能性もあるのだから。しかしそんなかも知れないを怖がって私闘に手を出していてはキリがない。それで死んでも自己責任なのだから。

 こういった場合はどうするか。

『コインだな』

 結局ここに落ち着く、落ち着かざるを得ない。リーダー不在の統率力のなさはあるが、それでも最低限の纏まりがあるのは流石だと言えるだろう。

 フェイタンがコインを取り出し、宙に放る。それをつかみ取り、自分の手と腕で表裏を隠した。

「表」

「裏」

 シャルナークが表で、フェイタンが裏。果たして出てきた面は――

 

 

 




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