殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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005話 試験開始

「ステーキ定食」

「……焼き方は?」

「弱火でじっくり」

 24時間営業の飯処ごはん。H×Hで屈指のネタシーンをこの目で見て、心に軽い感動が芽生える。隣で立つポンズはつまらなそうな顔をしていたけど。

 奥に案内される。じゅ~と焼かれるステーキが実にシュールだ。

「このままゆっくりしてれば試験会場まで着くよ。もし生きていたらお嬢さんはまた来年会おう」

 そういって、パタンとドアを閉めるキリコ。同時に妙な浮遊感と共に部屋全体が下がる感覚に包まれる。

 無表情のまま席に座り、俺とポンズは用意されたステーキ定食を食べ始める。

「……なんか、バハトは受かるか死ぬかみたいなニュアンスだったわね」

 流石は本試験進出者、ポンズは鋭かった。

 キリコは念能力者である。おそらく血統に依るもので、あの変装能力は恐らく操作系の念だろう。生まれつきの念ならばメモリーも極小だろうし、キリコがキリコたる所以にもなる。俺の念能力の熟練度を見て、そして情報ハンターとしてナビゲーターを探し出せたのならば。そのレベルではハンター試験に落ちないと思っても不思議ではない。もちろん、絶対でもないが。(※メンチの試験参照)

 また、やや話が逸れるが。俺が勝手に思っている事ではあるけれども、血統に依る生まれつきの念能力に割かれるメモリーは極小であると考えている。そもそもメモリーとはヒソカの造語であり、それを解釈していくと念に対する許容量とも取れる。そして念には自分の意志で働きかける部分とそうでない部分があり、血統に依る能力発現は明らかに後者。血統に依るならばそれは体に刻み付けるレベルで馴染んでいるものであり、それにいちいちメモリーを奪われるならばその類の人間は自発的な念の発動に大きな制限を設けられる事になってしまう。

 もちろん、クラピカにそれはない。クルタ族は緋の目を発現した時に異常な力を出す事が確認されているが、それは緋の目が発現するほどに感情が高ぶるとオーラにも影響があるだけなのだろう。俺の例も鑑みれば、恐らくは顕在オーラの上昇効果。後は特質系に移行することであるが、これは例が少なすぎるので確定ではない。

 まあこんな答えの分からない話はさて置いて。ウィ~ンと間抜けな音を立てながら地下100階まで下がる部屋でモグモグとステーキ定食を食べる二人の男女。シュールだ。

「……本試験の数は毎年違うわ」

「ん?」

 唐突に語りだすポンズに、思わず変な声が出てしまう。

 それに構わず、ポンスは語り続ける。

「私は最終試験に届いたことはないけど、噂では例年5個か6個。毎年、プロハンターが委任されて試験の作成・監督にあたる。

 正確な統計はされていないけど、ハンター試験全般に渡る致死率は3割を超えるわ。本試験のみに限れば7割を超えるとも言われる。故に、最初の本試験では生き残ることが最優先課題とされるのよ。生き残り、生き残り、その果てで勝機を掴んだ年に乾坤一擲で合格する。これがスタンダード。

 稀に現れる異常者はあっさりと試験をクリアするけど、そんな怪物は滅多にいない。去年に一人いたけど、ソイツすら結局合格しなかった」

(ヒソカだな)

 アイツは自業自得過ぎるので勘定に入れないでおこう。試験官を自発的に襲うな。

 ヒソカに対して失礼な、それでいて真っ当な感想を思いつつ。黙ってポンズの話を聞く。

 ポンズは俯き、自虐的な笑みを浮かべながら言葉を続ける。

「理解してる。私は前者で、貴方は後者。きっとあのキリコも貴方が今年受かると思ってた。そして、キリコは私が今年も受かると思ってない。

 ……これが私の持つ本試験の情報の全て。役に立つといいわね」

「ああ。それじゃあこれからもよろしく、ポンズ」

 俺の言葉にポンズは思いっきり顔をあげる。その目尻には涙が溜まっていて、唇は噛み締められていた。

「――なんでよ。あんたは才能がある、素質がある。そんなあんたが、どうして私なんかと組もうっていうのよっ!」

 涙声で叫ぶポンズに、俺は彼女がどれだけ追い詰められていたかを知る。

 いや、きっと彼女だけではない。飛行船で一緒になったトードーだって、他の本試験常連者だって、きっと思っていること。本当に才能がある奴はハンター試験なんてひょいと超えていく。それすら超えられない己はハンターになってもロクな結果は残せない、と。

 それに前者はあっているが後者は間違っていると断言できる。確かに才能ある奴はハンター試験なんて低いハードルの一つだろう。ゴン、キルア、クラピカ、レオリオ、ヒソカ、イルミ。ゾルディックの血統と教育は別格として、他は突然変異種だ。クラピカも微妙だが、特殊な血統という意味ならばありふれている。特殊な血統がありふれているというのも不思議な語感だが、そういった者が集うのがハンター試験とも云える。

 さて。この中で確実な一般人枠といえばレオリオだろう。彼だけは特別な血統でなく、摩訶不思議な経歴もなく、ありきたりな悲劇の上で医者になろうとハンターを志した。しかもその理由が金がないから、稼げるハンターになろうである。過酷さや倍率を考えれば、宝くじを大人買いする方がよほど現実的な確率だ。

 それでも彼はハンターになった、ハンターになって、その溢れる善意で多くの人を救うべく戦い続けるのだろう。それは運だけの宝くじを当てた一般人にはできない芸当だ。プロハンターを志し、プロハンターに成り、プロハンターだからこそできる事というのは紛れもなく存在する。サトツの言葉を借りるならば、そのような者にこそハンター証は渡されるべきだとも。それでも力なき者は淘汰されねばならない、その為のハンター試験なのだと。

 ここまで言えば分かるだろう。ハンター試験を超える技量が必要なのではない、超えたという自信が必要なのだ。奇しくもそれこそが強い念が発起される原動力となる。ハンター試験如きに執着し過ぎてはいけないし、それに目が眩んで未来を見失ってもいけないのだ。

 俺としては、自分の不足を嘆いて、それでいて正確な情報を才能溢れる新人に託すポンズの方が俺よりもずっと才能に溢れていると思う。なにせ俺の根本は神に与えられたチート能力と纏から始まった才能、そして原作知識。いわば才能の成金である。それがこんな自分の卑屈さを認められる人間の才能を潰させてはいけないと、強く、強く思う。

「ネテロ会長は知ってるよな?」

「グス。…? ええ」

「ネテロ会長は50そこそこまで程度の知れた雑魚だった。そこから悟りを開き、60になるまで研鑽を積み、やがて最強のハンターと称えられるまでになった」

「…………」

「20や30程度で自分の才能に蓋をすんなよ。情報集めてりゃ、大器晩成なんて珍しくもない。むしろ天才鬼才が珍しい。

 ポンズ、アンタはどんなハンターになりたいんだ?」

「……インセクトハンター。昆虫について調べて、どんな生態か理解する。その過程の進化にこそ生命の叡智があると信じている」

「その信念で十分、手を組むという言葉を撤回するつもりはない。ハンターになって、その道を極めてくれればいい。

 俺がハンターになるのに矛盾しない」

「バハトさん。あんた、なんの為にハンターになるの?」

「…………」

「飛行船が着陸してから軽く調べたわ。アマの情報ハンター、バハト。情報ハンターとしてはトッププロを超える逸材。特に、いわば、力によらない抜きだしに特化した人材。プロを超えるアマ。

 そんなあなたが、今更プロハンターに興味を示すの? 何故、私と組み続けるというの?」

「その情報を抜き出せる時点でポンズはプロハンターとして十分だと思うがな」

 情報屋は、当然ながら己の情報流出には特に厳しい目を向ける。バハト自身が与えた名刺があったといえどもそれを掻い潜って『力によらない抜き出し』まで、この短時間で至ったポンズはやはり並ではない。

 インセクトハンターとしてはどうか知らないが、ポンズは明らかにプロハンターの領域になる。ハンター試験が筋力や体力に依存せざるを得ないのが彼女の大きな不幸だろう。合格後に体力を鍛えるのを前提とした学力依存の試験ならば彼女はとっくに受かっていても不思議ではない。まあ、ハンターには知力よりも体力が求められるのは理解するが。

 俺の言葉を嫌味と取ったのか、ポンズはギリと鋭い目つきで俺を睨む。それに関わらず、俺は言葉を紡ぐ。

「信頼に値すると、俺は思った。信頼は何よりも勝る宝だ」

「……何を?」

「試験の数はおおよそ5~7だと調べはあった。プロハンター試験前後に、それなりに有名なプロハンターの5名前後が活動不明になるとも。鑑みれば、ポンズは誠実な対応をしてくれた」

「!! あんた、私を騙して!」

「嘘は一切言っていない。思い出して欲しい」

「…………」

「で、聞こうか。プロハンターはどんな試験を出してくる傾向にある? 盟約を結んだ相手の同士討ちを狙うか?」

「……!! た、確かに受験生同士を争わさせるのは常だけど、私の場合は協力を強制された試験での共倒れ。自分の利益にはしって自滅したわ」

「思った通り。やはりプロハンターは自己の才能や力量は最低限に留めて、それ以上に同調や協力を求めている」

 最低限の体力がいらない訳ではないのだろう。それはサトツが第一試験で数十キロ以上も走らせたところからも想像できる。いくらインドアハンターとはいえ最低それぐらいはできろと。第一試験にそれを採用した辺りでも基準が理解できた。

 だが、それ以上に大切なのは仲間。信頼できる友。お互いがお互いを蹴落とすハンター試験において、それを見つけられれば僥倖。それこそがハンター試験突破の鍵となる。

 ……最終試験でそれを裏切らせるネテロの性根の悪さは筋金入りだろう。何せ、戦いたくない相手を事前に聞いて、それを回避しないようにトーナメントを組んでいる。あれは勝てない以上に、勝ちを選べない相手と当たる事を優先している選考だった。

「信頼できる相手ができただけで十分僥倖、文句を言う気なぞ微塵もない。

 で、だ、俺がハンターになる目的か。端的に言うなら、1人の命が欲しい」

「!? ……怨恨かしら?」

「いいや、依頼だ。詳しくは言えないが、そいつを殺さなくちゃいつか俺が死に至る。それ故にソイツを殺したい。その為にハンター試験を受けた」

 何度でも言おう。嘘は言っていない。

 俺の言葉をゴクリと唾を呑んで聞くポンズ。

「それで、バハトさんは私に何を求めているの?」

「特に何も。強いて言うなら敵対しないことと、有事じゃない際に味方でいて欲しいことかな」

「悪くないわね。もしもバハトさんのおかげでハンター試験に合格できたら呑んであげる」

「は。そのくらい狡猾な方が望ましい」

 自分の合格が最低限であるとポンズは言う。

 笑う俺。笑うポンズ。呆れた声は、クーフーリン。

『マスタぁ。一応言っておくが、この手の腹黒女は後腐れがあるぞ』

『まあ、正直、神話を紐解けば分からんでもない』

 だが。

『俺は組むと決めた。フォローを頼む』

『はぁ、俺に丸投げかい。まあ、死ぬ可能性が高い嬢ちゃんだったか。んじゃまぁ、その歴史を変えてみるとしますかね』

 俺の原作知識は召喚したサーヴァント全員に共有されている。より正確に言うならば、召喚した後に魂にある聖杯に回収した時に俺の記憶が共有される。だから1度目と2度目のサーヴァント召喚が本当に緊張するのだ。場合によってはそこで殺されてもおかしくない。だからこそ、いきなり殺しにかからないサーヴァントを慎重に選ばなくてはいけないのだ。

 ともかく、クーフーリンはそういったタイプではない。彼が望む全力での死合は叶えにくいだろうが、少なくとも召喚したマスターを裏切るタイプではない。俺が彼を重宝する理由の一つである。他の多くのサーヴァントはそこが保証されないのだから。仕事人系サーヴァントはそこが信用できるから気楽だが、クーフーリンは騎士系でもあり仕事人系でもあるからより深く信用できる。

 と、色々とくっちゃべっているうちに深階に着いた。B100という有り得ないレベルの階層が表示され、チンと到着音が鳴る。

 ……B1~B99階までに何があるのか激しく問い質したい。

 辿り着いた地下には人は数える程で、10人かそれより多いか。どうやら早く着きすぎたようだった。

 お互いにお互いを監視し合う中、豆のような特徴の人…? 豆…? やはり人? が俺たちにナンバープレートを持ってくる。

「どうぞ」

「ありがと」

「あ、すいません」

 一応心の中で言っておくが、ポンズ。この人?はネテロ会長の秘書であるビーンズ氏だからな。凄い滑らかにオーラを流しているが、その実恐ろしい実力者だからな。どんだけかと言うと、霊体化したクーフーリンが一瞬闘志を顕わにするくらいだからな。そんなおざなりに相手にする人じゃないからな。

 まあ、言っても聞かないだろうし分からないだろう。俺は色々と諦めてビーンズ氏からナンバープレートを受け取る。番号は15だった。

「…………」

 本当に早く来すぎたようだった。よく考えればハンター試験開始は1月7日からで、後1日以上も先の話である。ぶっちゃけ遠い。

「じゃあ私はしばらく様子を見るから」

 そう言ってポンズは14のプレートを持ってこの場から離れる。この場といってもビーンズ氏が離れた以上、大きな地下道前の広場に俺がぽつねんと立っているだけなのだが。

 虚しくなって、それでも一応凝にて十人程度の受験生を見渡す。

「!!」

「!!」

 咄嗟に纏を解いたか。だがそれが大きなミステイク、せめてただの念能力者と白を切ればよかったのに。

 この年のハンター試験において、あえて念能力者と知られたくない。絶対ではないが、一番の可能性に気が付かないほど俺は愚鈍であるつもりはない。

(見つけたぞ)

 ナンバー5の受験生、名前も知らない黒い肌に黒い髪の女。だらだらと冷や汗を流すその女を鋭く睨みつける。

 あまりの露骨さを考えれば当人ではないと思われるが――まあ関係ない。情報はできるだけ絞り出す、操作されている為におそらくは出ない情報を。巻き込まれただけだろうナンバー5には全くもって不幸な話だろうが、こちらには容赦する気は一切ない。ここで止めるようなら転生を、ひいては情報ハンターをやってない。

(逃がさない)

 ひたすらナンバー5を睨みつける俺に、だらだらと暑くもないのに汗を流すナンバー5。

 しばらくその時間が続いたが、やがて背後から鳴るチンという到着を示す音に良くも悪くもその時間は中断された。

「おっ。新人さんだねぇ、こんな早い時期に珍しい」

「……」

「俺はトンパ。まあ、いわばハンター試験の常連だな」

「……」

「ナンバーは16か。まあよろしく頼むぜ」

「……」

「おいおい、新人だって見破ったから警戒してるのかい? 俺ほどの熟練者になれば新人かどうかなんて一目で分かるさ。

 現に注意すべきベテランだってそらで言えるしね。一番はやっぱり去年受験した奇術師ヒソカっていう異常者――」

「黙れ、新人潰しのトンパ」

「!!」

「貴様如きに名乗る名はない。ナンバー15とでも覚えておけ。

 俺の職業は情報屋で、お前のデータも集めている。どんな悪辣な仕掛けを用意しているが知らんが、俺に近づくな。

 次に気安く声をかければ、容赦なく殺す」

 ナンバー5がいるから練すらできない。だが、睨む視線に殺意を込めて、トンパを凝視する。

 侮るな。平和な日本で過ごした感性を持つ俺が、いったい何人殺したと思っている。

 侮るな。ハンターであることを諦めたお前が、いくらハンターの種籾を壊したとて何もならない。

 いっそ苦痛ハンターや絶望ハンター、綺麗事をいうなら感情ハンターなどと評して人の心を踏み躙ればまだその信念が認められただろうに。

 何もかも中途半端なお前が、この場所で俺と同じく立っていることすら不快。その意味を込めて睨みつける。

 怯えたトンパはそそくさと立ち去った。

 こんな俺を初めて見たポンズが信じられないといった表情をしていたが、知ったこっちゃない。敵対者には大概俺はあんなモノだ。

 それを全て無視し、警戒をクーフーリンに任せて壁に寄りかかって寝る。

 人間。食うのも大事だが、同じくらい寝るのも大事なのである。

 

 

 じりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりり

 

 不快な金属音が鳴る。それと同時、俺は目を覚ました。

 ふと見れば、周囲には人の群れ。いったい何時の間にここまでの人数が集まったのかと。

『アンタが呑気に寝こけている間にだよ、マスター』

 無視。

「お待たせいたしました。

 これよりハンター試験を始めます」

 

 言うのはプロハンター、サトツ。原作知識に違わぬ情報。

 修羅の試験が始まる。

 

 

 




頑張った。
次回は間が空くかも。
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