殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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050話 バハト・1

『ユアが、攫われた』

「……誰にだ?」

『ゲンスルーに。

 ビスケがサブを捕まえたけど、代わりにユアが――』

 体中のが総毛立ち、頭に上った血が沸騰する。

 ユアの身に危険が迫ったということを理解したのは初めてかも知れない、アサンに首を掴まれていた時には現状を理解する前に殺し合いが始まったことだし。

「ゴン、交信(コンタクト)を切れ」

『え?』

「何度も言わすな、交信(コンタクト)を切れ。

 冷静に考えて、今、俺はブチ切れている。お前に八つ当たりをしないうちに、切れ」

『う、うん。気を付けてね』

交信(コンタクト)が終了しました』

 交信(コンタクト)が終わり、俺の情報がゴン側に漏れなくなる。

 容赦も手加減もしない、サーヴァントも使ってゲンスルーたちを殺す。

 バインダーをめくり、磁力(マグネティックフォース)を探し出したところでマチから声が飛ぶ。

「バハト、無限に続く糸電話(インフィニティライン)!」

 そうだ、バカか俺は。ユアには無限に続く糸電話(インフィニティライン)を繋いでいる。ユアの命が守られるなら能力の1つや2つバレることくらい安いもの。マチの言葉に無限に続く糸電話(インフィニティライン)をユアへと繋ぐ。

『じゃあ、私は無傷で返して貰えるのかしら?』

 ユアの声が届く。とにかく今はまだ喋ることができるようだ。だが、これがいつまで続くか分からない。

 召喚していたエミヤを送還し、この状況に最も適したサーヴァントを喚び出す為に詠唱を始める。

「素に銀と鉄――」

 ぐちゃぐちゃになった頭で、鮮明に届くユアの声を聞きつつ、俺は召喚するサーヴァントは決めていた。

 奇襲が理想な現在、神の不在証明(パーフェクトプラン)とスペルによる接敵はもはや決まっている。っていうかこの状況でユアの側に飛んでいかないという選択肢が俺にはない。このまま1時間も焦らされたら気が狂ってしまいそうだ。

 大前提に殺傷能力、できれば隠密能力。これを兼ね揃えたサーヴァント。幸いにして俺にはそのサーヴァントとそれなりの信頼関係を築けていた。

「――天秤の守り手よ」

「アサシンのサーヴァント。李書文、推参」

 エーテルが集合し、初老で中華服を着た男がそこに立っていた。俺の拳法の師にして三騎士にさえ勝る力を秘めたサーヴァント、李書文。

 おそらく人を殺すという能力において、この男に匹敵するのはクーフーリンかスカサハかくらいだろう。クーフーリンは召喚不能で、スカサハは命令に従わない可能性を捨てきれない以上、李書文が最適解だ。

 これでこちらの準備は整った。最後にマチに視線を送る。

「こちらからまた連絡する。待機していてくれ」

「分かったわ。死なないでよ、バハト」

 その声を聞き、俺はスペルカードを掲げて、唱える。

磁力(マグネティックフォース)使用(オン)、ユア!」

 瞬間、空を翔る。青い空気を体で切りつつ、息を止める。発動した神の不在証明(パーフェクトプラン)の効果により、俺の体と一次的に接触している存在は、そのオーラさえも隠蔽される。俺の肩に手を置いている李書文も圏境に上書きしてその存在を隠している。目的地についたら、李書文は遊撃を担当して俺から離れる。

 そんな事をつらつらと考えていたが、着地した瞬間にそんな付け焼き刃の冷静さは蒸発した。地面に転がされているユアを見た瞬間、それを為したであろうゲンスルーに向かって突撃を開始していた。後から考えれば、神の不在証明(パーフェクトプラン)が途切れなかったのは呼吸さえも忘れていただけの話。

交信(コンタクト)使用(オン)、バハト」

 ゲンスルーが手にしたスペルカードを使用すると同時、俺の眼前にバインダーが現れて音声を発する。

『他プレイヤーがあなたに対して交信(コンタクト)を使いました』

「は?」

 間抜けな声を上げてこちらに顔を向ける3人。しかし、その時既にゲンスルーは目と鼻の先。激怒と殺意のオーラを更に万全にする為に思いっきり息を吸った俺を見て、呆気に取られた表情をするゲンスルーに向かって拳を振り上げる。

「死ねぇぇぇぇぇーーーー!!」

 硬の一撃は、怒りで冷静さを失ったせいで、身を捩らせたゲンスルーの芯を捉えることはできずにその左肩に命中する。その骨を砕きつつ、錐もみさせながら吹っ飛ばす。

 そこでバラが襲い掛かってくるが、俺は手を出す気すらない。彼のすぐ横に、圏境にて姿を隠した李書文が居る。

「死ね」

无二打(にのうちいらず)

 それはアサシンのサーヴァントである李書文の宝具。相手の気を呑み、その体に触れることによって起こす迷走神経反射によるショック死。ただ触れるだけで相手を死に至らしめる、死神の接触。

 意外にもこれは科学的根拠のある話である。極度のストレス状態に置かれた自律神経が脳への血流を減らすことがあり、それによって失神する。更に過負荷がかかれば心臓にまで影響を伸ばして心停止も起こさせる。

 そしてひと昔前の眼の手術では、間違って神経に触ってしまい心臓が停止したという話まである。李書文の无二打(にのうちいらず)はこの現象に近い。末梢神経に干渉することにより、迷走神経反射を誘発。失神と同時に心停止まで相手を追い込むのだ。

 結果、末期の言葉一つ遺すことなく地面に倒れ伏す人間(バラ)が出来上がる、という訳だ。

(さてと)

 崩れ落ちたバラを見届けたら、もうこんな場所に用はない。バインダーからカードを取り出して、ユアが効果範囲に収まっていることを確認。

 そこでようやく遠くでゲンスルーが地面に叩きつけられる音が聞こえたが、もはやどうでもいい。

同行(アカンパニー)使用(オン)、ゴン」

 ユアと共にこの場を後にする。

 行く先にはビスケが居るだろうから、李書文は圏境で隠蔽。霊体化したら姿を現すのに一瞬だけ隙ができるし、普通ならば圏境によって認識範囲から逃れるだけで十分だ。

 そのまま数十秒の滞空を経たのち、着地した場所では果たして不安そうな顔をしたゴンとキルア、そして能面のように無表情のビスケが居た。

 着地した俺たちを見たゴンが破顔して駆け寄ってくる。

「ユア、バハト! 良かった、無事「凝!!」」

 俺の鋭い一言に、ビクリと体を震わせたゴンが目にオーラを集中させる。

 それを見て、俺はようやく表情筋を緩ませた。

「無事を喜んでくれるのは嬉しいが、このタイミングは操作した相手を送り込むのに最適過ぎる。

 安心した時ほど凝。忘れるな」

「うん。ありがとう、バハト」

 見ればキルアとビスケは言われるまでもなく凝をしている。ビスケはともかく、キルアは流石のシビアさだ。

 ひとまずお互いに操作されていない事を確認した後、倒れている意識のない男――サブを見やる。

「サブは?」

「ビスケが落とした」

 言いつつ、キルアはユアの束縛を解く。安全を確保できたと確信した俺は、ようやくユアの様子を見た。

 腹部や脚部に打撲はあるが、骨が折られる程の怪我はない。せいぜいがヒビだろう。

清廉なる雫(クリアドロップ)。飲め、ユア」

「うん、ありがとう。お兄ちゃん」

 この程度なら念能力者であることもあり、癒しの水があれば問題なく治る。

 ユアに清廉なる雫(クリアドロップ)を飲ませている間、俺はビスケを睨みつける。

「――何か言うことはあるか?」

「あたしは最善を尽くした。それだけ」

「…………」

「あたしを恨むのはお門違いよ。グリードアイランドに参加する以前にハンターなら自衛は当然、プロならなおさら。言い訳なんてできる訳ないでしょ?」

 チと、荒々しく唾を吐き捨てる。ビスケの言うことは正論だ。正論過ぎて頭にくる。そんな正論はさておいて、ユアを預けた信頼を返せと言いたくなる。

 だが、ユアが手元に戻ってきていなかったなら冷静さを失っていただろうが、落ち着いた今はビスケの選択も悪くなかったとも思える。ビスケはサブを人質として確保しており、人質交換は十分現実的な取引だった。そこに俺が割り込んで相手をなぎ倒したが、あのままでもユアは無事だった可能性は低くない。

(……ユアを俺の側に置いておくか、離すか)

 『敵』がいなくなった以上、危険の度合いは普通。プロハンターとして当たり前の危険しかない。ユアは俺の側にいれば、大概の危険からは守り切れるだろう。しかし、それではユアの成長に繋がらない。ユアを想うならば、彼女を外の世界に送り出して成長させるべきだ。キルアを信じたシルバのように。だがしかし、そうあっさりと決めるには俺は心配性過ぎたらしい。どうしたらいいのか、即断ができない。

「後はゲンスルーを仕留めれば終わりね」

 悩んでいた俺だが、清廉なる雫(クリアドロップ)を飲み干したユアがそんな声をあげる。

 そんなユアに声をかけるゴン。

「ゲンスルーは一握りの火薬(リトルフラワー)命の音(カウントダウン)を使えるし、一番強いよね」

「大丈夫、もう仕掛けは終わっているわ」

 にやりと笑うユアと呼応するように、彼方から移動スペルの音が聞こえてくる。

 俺たちが来たのと全く同じ方向から飛んでくるそれに、キルアがまさかという表情をする。

 光が俺たちの眼前に着地すると同時、そこから人影が飛び出した。眼鏡をかけた細い顔、砕けた左肩。ゲンスルーに相違ない。

 彼は血走った目でユアに一直線に向かい、その細腕に掴みかかる。

「え」

 呆気に取られるユアだが、それを場は許してくれない。ゲンスルーが伸ばした右腕を俺は容赦なく叩き折る。これでゲンスルーは両腕が使用できなくなり、実質的に念能力を封じられることになった。手からしか能力発動できない弊害、というべきか。

 しかしゲンスルーはそんな自分のダメージを顧みず、狂ったようにユアに向かう。右脚でユアを蹴りつけようとするが、軸足である左を払って地面に転がす。うつ伏せに這いつくばったゲンスルーの脚関節を極めて、動きを完全に封じ込める。

「ォォォォォォォォ!!」

 それでもゲンスルーは血走った眼でユアを睨みつける。もはや獣染みたその咆哮は理性を感じさせず、その有様は狂戦士(バーサーカー)に限りなく近い。

 ぶっ壊れた価値観を持つゲンスルーだが、ここまで理性を無くすのは普通じゃない。そもそもユアに真っ直ぐ向かうのが異常だ。現状を鑑みれば、ユアではなく俺やビスケを殺そうとする方が理に適っている。そんな理屈を捨てて、狂気に身を任せてユアを狙う理由が思いつかない。

 俺はゲンスルーの脚に手を当てつつ、問いかける。

「何が目的だ?」

 パクノダの能力、記憶弾(メモリーボム)が発動される。

命の音(カウントダウン)を解除させる。ユアのクソガキに命の音(カウントダウン)を解除させる。

 手段は選ぶな。手段は選ぶな。腕一本を残して達磨にしろ。行動選択の余地を削いで命の音(カウントダウン)の解除を強制させろ―

(…………)

 ユア、お前何やった。

 いやまあ、ゲンスルーを操作したのは分かる。行動の優先順位の一番を操作したとか、たぶんそんな感じ。

 でもさ、うん、これエグくない? いや、エグくない操作系って想像つかないけどさ。ゲンスルーの思考がアレだから異常な攻撃性が表に出てるけど、人によっては靴を舐めて相手に隷属するぜ、コレ? 普通にドン引きなんだけど。

 ちょっと形容しがたい視線をユアに送ってしまうが、それは俺だけじゃないらしい。ビスケとキルアも、ユアに向かってお前何やったんだと言わんばかりの視線を向けている。ゴンだけはこの状況のゲンスルーを警戒してるけど。

 さておき、ユアも顔をやや引きつらせてゲンスルーの側に寄ってくる。

「コイツにはボコボコにされたしね。仕返しはしておくわ。

 ゴン、ちょっと能力借りるね」

「? うん」

 身動きは取れず、狂声を上げるゲンスルーの前に立ったユアは腰を落として拳にオーラを込める。

「最初はグー」

 キィィンという甲高い音を立てつつユアの拳に異常な量のオーラが集まる。ゴンの能力であるジャジャン拳だ。

 ――この光景を見るまで勘違いしていたが、ゴンの能力は異常なまでに拳を強化する能力ではないみたいである。硬をした拳に、潜在オーラを振り絞って顕在オーラを倍増させる能力といったところ。ただしオーラの使用用途はグーチョキパーに限るか?

 ユアは己の顕在オーラの上限を超えて、その拳にオーラを集める。

「ジャン、ケン。グー!!」

 ゲンスルーの背中に向かって、鉄槌のようにその拳を振り落としたユア。緋の目を発現させて特質系になっているとはいえ、増加した顕在オーラに加えてそれを倍増させるジャジャン拳。ウボォーギンほどに強化系を極めたのならともかく、身動きがとれない具現化系であろうゲンスルーに為す術はなく、その衝撃に耐えきれずに白目を剥いて失神した。

「すご…」

 思わずユアが呟くほど、その威力は凄まじい。強化系と正反対の特質系なのにも関わらず、ゴンと同じくらいの威力が出てなかったか? 正直、ユアもかなり末恐ろしい。

 そしてユアは意識を失ったゲンスルーに手を置いて一言。

爆弾魔(ボマー)捕まえた」

 解除条件を満たした。これでゲンスルーはユアに命の音(カウントダウン)を仕掛けることはできない。

 今更それがどうしたっていうレベルでゲンスルー組は壊滅しているが。

 とにかくこれでゲンスルーとサブにバラも無力化できた。ゲンスルーが到着した場所にバラも転がっているが、李書文に確認させたところ息はあるらしい。

『儂の无二打(にのうちいらず)は心停止をひき起こすが、適切な処置をすれば蘇生は可能だ』

 らしい。ユアに操作される前のゲンスルーが蘇生行為を行い、それが功を奏したということだろう。

 さてさて。そんなユアの能力、暴かせて貰うぞ。

 気絶したゲンスルーから離れてユアに近づき、その肩に手を置いて質問を投げかける。

「お前、ゲンスルーを操作しただろ。何をやった?」

 

宣誓記録(ノゥ・ツゥ・オゥ)

 緋の目を発現して特質系になった時のみ使える具現化系。(特質系にならないと相性が悪くて使用できない)

 相手が発した言葉を、身に付けた紙に文字として具現化させる能力。

 これ単体で強制力はないが、宣言した言葉として絶対規律(ロウ・アンド・レイ)で縛ることが可能となる―

 

絶対規律(ロウ・アンド・レイ)

 ………………

 ………………―

 

「秘密よ」

 キシシといたずらっぽく笑うユアに対して顔が引きつるのを全力でこらえる。

 極めてエグい。下手な事を言おうものなら、言質を取ったと言わんばかりにその発言を強制させる能力ってオイ。

 対して穴も多いといえば多いか。そもそも念能力者は心に沿った行動をすればオーラが強くなるという傾向からして、思わないことは言わないタイプも少なくない。これは強化系に多いか。ゴンやウボォーギン、フィンクスなどは分かりやすい例だろう。

 それでも言質を取れるとすれば、虚言や嘘で相手の隙を作るタイプ。思いつくのはヒソカやクロロなどが該当するか。しかしそれでも宣誓記録(ノゥ・ツゥ・オゥ)は緋の目を発現した時しか使えないということは、明らかに強いオーラを放っているということになる。つまり相手に警戒される前提が敷かれる訳で、その状態で言質を取るのはかなり難しい。

 しかも多分だが、この能力は相当効率が悪い。ユアは具現化系は得意ではないからして、その練度は低いだろう。それがそのまま燃費の悪さに跳ね返る。しかも絶対規律(ロウ・アンド・レイ)を併用させないと効果がないとか、おそらく身体強化に回すオーラはほとんど残るまい。相手に警戒させた上で、自分は防御も攻撃も放棄しなければならないのである。リターンに見合ったハイリスクと云えばそうだろう。

 まあ、カラクリを知ればなんて事はない。緋の目を発現したユアに対して言質を与えなければ問題ないということ。逆に言えば、この能力の詳細だけは他人に知られる訳にはいかない。ユアが絶対規律(ロウ・アンド・レイ)まで隠し通そうとするのも分かるというものだ。俺はそのフォローをしてやればいい。

 ユアから話を逸らし、倒れ伏すゲンスルーたちをみやる。

「さて、と」

 堅。

 体中にオーラを漲らせて、意識がない3人の急所を見る。

 ユアを攫った以上、もはや容赦はしない。こいつらはここで殺す。

 一歩ゲンスルーに近づいた瞬間、俺とゲンスルーの間に人影が入り込んだ。

 両手を広げて通せんぼをするのは黒髪黒目の少年、ゴン。

「どけ、ゴン」

「いやだ。どかないよ、バハト」

「…………」

 練。オーラを体に留めることなく周囲にまき散らす。

 純然たる事実として、俺はゴンよりも圧倒的に強い念能力者だ。当たり前といえば当たり前、生まれた時から『敵』と戦う為に鍛え上げて来た俺が、いくら才能溢れるとはいえ念を覚えて1年そこそこの子供に負けているようでは話にならない。格上は確実に俺なのである。

 その格上の怒気を含んだオーラを全身に受けたゴンは、しかし小揺るぎもしないで俺を視線で射抜いてくる。

「っ。どけ、ゴン!」

「どかない。勝負が決まった後にトドメを刺そうなんてバハトなら、ここは通さない」

 ゴンの言葉に、ギリと歯を食いしばる。今更俺を止めるゴンに対して、頭に血が上るほどに腹が立つ。

「それの何が悪い!? ゲンスルーはユアを攫った。俺の敵だ!

 敵対した相手を殺す。何が悪い? 何がおかしい? 俺の『敵』を殺すのを止めなかったお前が、なんで今更っ!!」

「バハトの『敵』については何も言わない。殺さなきゃバハトが死ぬし、相手も殺しに来るんでしょ? 止められないよ。

 でも、ゲンスルーは違う」

「違わねぇよ! 俺もユアもポンズも命の音(カウントダウン)を知った! こいつは俺を殺しに来る!!」

「殺しに来ないかも知れない」

 激昂した言葉をゴンに叩きつけるが、ゴンは淡々とした口調を崩さない。

「グリードアイランドのプレイヤーはみんな念能力者だ。いつかバハトを殺しに来るかも知れない彼らを、バハトは皆殺しにするつもり?」

「詭弁だそれは! その他のプレイヤーはゲンスルーたちとは立場は違う!!」

「そうだね、違う。だけど同じだ。殺されないほど強くなればいい」

「俺は殺されねぇよ! けどユアやポンズは――」

「殺されないほど、強くなればいい」

 揺らがず、ゴンは俺に語り掛ける。

 気に食わなければ殺すのかと。敵対すれば絶対に殺すのかと。

 ――それは、ゲンスルーと変わらないと。

「っ、っっ、っ」

 揺らがない黒曜石の瞳。俺より弱いゴンは、明確なその意思で俺の理屈をへし折りに来る。

 間違ってない、俺は間違っていない。ゲンスルーほどの使い手に恨みを買い、そして野放しにするのはリスクが高すぎる。ここで殺害するのが最適解。

 だが、間違っていない最適解が、正解とは……限らない?

「辛いよな、バハト。殺しをやめるってよ」

 後ろからキルアが俺の肩に手を置いて語り掛けてくる。

 敵対者は殺す。それが俺より染みついているのはキルアだったはず。しかしそんな彼は、殺し合いの世界から抜け出す為に自分を変えた。

 ――俺は、『敵』を殺してからまだ人を殺していない。引き返すならば……今しかない、のか?

 殺し合いから身を引くには。胸を張ってゴンやキルアの友と言うには。今ならまだ、間に合う、のか?

 レントの父親としても、この選択はしてはいけないのか?

「お兄ちゃん」

 ユアが声をかけてくる。しっかりと俺を見つめて。

「やめよ?」

 そう言いきった。

「っっ、っ~~~~~~~~~!!」

 声なき絶叫を上げて、俺は両腕を地面に叩きつけた。

 地面は陥没し、揺れる。それに関わらず、今度は喉を裂かんとばかりに大声をあげる。

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 思う通りにはいかない世の中を恨んで憎むような、そんな感情。

 だけれども。

 この道を選択したことで、ほんの少し胸がすくような。そんな清々しい気持ちも確かにあった。

 

 ◇

 

 咆哮するバハトを見ながら、ビスケは優しい表情を浮かべる。

(ゴン。キルア。ユア)

 自分よりも強い仲間。念を教えた師。そしてユアにとっては実の兄。

 そんなバハトが道を踏み外しかけたのを、子供たちが止めた。バハトを人の道に留めたのは、間違いなくこの3人の功績だ。

 それがどんなに難しいことなのか、為した彼らは分かっていないだろう。今まで共に歩いて来たからこそ、喜びも苦しみも分かち合ってきたからこその偉業。

 あまりにあまりに、誇らしい。

(立派だわさ)

 心の中で、そう賛辞を贈る。

 彼らならきっと大丈夫。ビスケはそれを確信した。

 

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