徐々に調子を取り戻せたらと思います。
お付き合いいただければ幸いです。
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右腕と左肩の骨折、そして全身打撲のゲンスルー。背中を強く打ち据えられて、絞めで落とされたサブ。いったんは心停止まで至ったバラ。
誰も彼も目を覚ましたとて、とても万全に戦闘を行えるコンディションではないだろう。だが、それが拘束をしないという理由にはならない。丈夫なロープで3人の腕と足を雁字搦めに縛り上げる。
ちなみに念能力者とはいえ、全く身動きできない状態から縄を千切るのは困難である。ウボォーギンやフィンクスはいけるかも知れないが、少なくとも俺は無理だ。
その作業はビスケに任せて俺はマチに連絡を取る。マチの元に飛ばなかったのはビスケがサブを確保していたのと、いざという時にマチを伏兵にする為だった。その配慮は無に帰したが、保険なんぞは使われないのが最高なのである。
マチがスペルで飛んできて、意識のないゲンスルーたちを冷たい目で一瞥する。
「バハト、殺さないのかい?」
「ああ、殺さない」
「敵だろ?」
「敵にすらなっていないからな、簡単に制圧できたし」
嘘だ。ユアに危害を加えた時点で、コイツラは明確に俺の敵である。
しかしだからといって敵を全て殺していってはそれが新たな敵を作り、気が付けば世界は敵だらけになってしまう。殺さなくてすむ範囲を覚える為の練習台がコイツラだ。
そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、マチは肩を竦めるだけで応対を返してくる。
さて、次だ。
「ユア」
「分かってる」
ユアの念能力、形見のペンで文字を書くことでその命令を強制操作できる
準備が整ったので、ゲンスルーを気付けして起こす。目覚めるまで待つなんて、そんな悠長な選択はしない。
半身を起こして、脳に軽い衝撃を走らせる。
「……」
薄っすらと目を開けるゲンスルー。彼は顔を動かさず、素早く瞳のみを動かして周囲の様子を探る。その目には縛られて寝転がされた仲間2人と、彼らを囲むように立つ俺の仲間たちを見るだろう。しかも誰にも認識されないサーヴァントの李書文という切り札も侍らせている。
「状況は把握できたか?」
「ああ」
瞳の動きが落ち着いてから問いかける。ゲンスルーは感情の見えない声で答えを返してきた。
「じゃ、早速だがバインダーを出して貰えるか」
「ブック」
間髪入れずにゲンスルーがバインダーを取り出す。俺の視線がバラに向かったのを確認する前の行動だった。
仲間の拷問や殺害を示唆する前にバインダーを出すとは、従うべきタイミングというのを分かっている男だ。おそらく、捕縛されたことも初めてではあるまい。戦闘経験豊富な男というのは、それはそれで警戒すべき相手だ。
それはさておき、出されたバインダーを手に取るのはマチ。彼女がゲンスルーが持つ指定ポケットカードとレアカードを全て奪っていく。
「後でサブとバラからも奪えよ」
「分かっている」
『闇のヒスイ』の独占は魅力的だ。ゲイン待ち対策までしているアイテムを奪える機会は、これ以外にない。そんな言葉をかわす俺たちを、ゲンスルーは感情のこもらない目で見る。頭の中では生き残る方法を必死で探しているのだろうが、ではまずはそれを暴かせてもらうか。
「ゲンスルー、何を考えている?」
「どうすれば生き残れるかを考えている」
言った瞬間、ゲンスルーは強い動揺を露わにした。隠す気はなかっただろうが、しかし誤魔化すことも出来ずに会話を強制される。明らかに操作系の仕業だが、自分の顔が見れないゲンスルーは発動条件を見破ることはできない。
やや鋭くした目でキョロキョロと探るが。当然、術者も発動条件も分かる訳がない。
「心配するな、お前らが俺たちに従えば命は助けてやるさ」
「信用できないな」
思った事を即座に話してしまうゲンスルーだが、今度は動揺は見えない。ほぼ即座に精神状態を立て直せるとは恐ろしい男である。サーヴァントと
もしもの話はいい。問いかけを続ける。
「お前らの独占カードは闇のヒスイだと分かっている。ゲイン待ち対策はしているな?」
「ああ」
「誰が持っている?」
「…………」
沈黙。『嘘をつけない』という操作の条件は、喋る気がなくなるだけで効果はなくなる。そこに僅か4回の問答で気が付くとは流石である。
ゲンスルーはやはり
そろそろ話を切り上げるか。
「言え」
「サブの道具袋の中にある」
ピキキと右手に氷の装甲を作り出して脅しをかけてやれば、ゲンスルーはやはりあっさりと従った。首根っこを掴んでいる以上、嘘がつけないという条件を見破った程度ではなんの役にも立たない。
ゲンスルーの言葉を聞いて、サブの道具袋を漁って闇のヒスイが10個程まとめてある小袋を奪い取る。これで後はサブとバラのレアカードやサブカードを奪い取れば本当に用はない。
「とりあえず合格だ。すぐには殺さない」
言いながら、ゲンスルーの首筋に手刀を振り下ろす。
「が」
呻き声一つ上げたゲンスルーの意識を再び奪う。
続けざまの単純作業。ゲンスルーの顔に書かれた文字を消している間に、ユアがサブとバラの顔に文字を書く。命令は『一度だけブックと言え』だ。
「ブック」
「ブック」
意識のないまま、サブとバラは命令に従う。たとえこの瞬間に意識が戻っても、『一度だけ』という命令がある以上は顔の文字を消さない限り再びブックとは唱えられない。
具現化されたバインダーから目ぼしいカードを奪うマチとキルア。とはいえ、キルアが奪うのはAかBの指定ポケットカードと
「しかしバハトも用心深いな」
「当然の警戒だろ?」
「まぁね」
キルアの軽口に乗る。ゲンスルーたち、
そこで同じくプレイヤーキラーとして悪名高いマチの出番である。マチ=コマチネがゲンスルーを倒し、そのカードを奪って一気に有力プレイヤーに名乗りを上げたという筋書きだ。ゴンたちと俺、そしてマチは他のプレイヤーたちにとっては別のグループであることを印象付けさせ、裏で繋がる。この3組が99種の指定ポケットカードを集めた時が勝利の時だ。
まあ、俺は便利屋的ポジションで指定ポケットカードはほとんど集めてないのだが。それでも有力プレイヤーの要注意人物として
考え事をしているうちにゲンスルーたちは丸裸だ。もう奪えるものは何も残っていない。強いて言えば命だが、これは奪う気がない。もう一度3人の顔を拭いて文字を消し、それぞれに活を入れていく。
「「「…………」」」
縛られて地面に倒れ伏す男3人。それを厳しい目で見る子供4人と、男と女。地味にシュールだな。
「口を開くな、黙って俺の話を聞け」
一方的な宣言にも黙って従う3人。
「お前らのカードは全て奪った、もうお前らに用はない。
後は、生かすか否か、だ」
ゴンの表情がやや強張った。分かっているからそんな厳しい顔をしないでくれ。
「嬲る趣味はない、結論から言おう。お前たちは殺す価値なしと判断した。生かしてやる」
その言葉にバラの眉がぴくりと動いた。癇に障る言い方をわざとしたが、反応はこれだけである。捕虜となった時に感情を閉ざす訓練はできているとは、やはり一流か。
「ただし、これから言うことを破れば殺す。情報ハンターのシングルとして、地獄の果てまで探し出してその息の根を止める。覚えておけ。
2度とグリードアイランドに入らない事と、現実世界で俺たちと敵対しないこと。次、敵対行動を取れば問答無用だ、容赦なく殺す。せいぜい俺が貸した命を無駄にしないように気を付けろ」
「分かった」
即答するゲンスルーだが、実はこれは相当に厳しい条件だ。敵対するなと言ったが、俺たちがどんな立場であるか奴らはほとんど知らない。俺は情報のシングルハンターだと明かしたが、情報ハンターを調べるのは極めて難しい。それこそヒソカや幻影旅団と同等かそれ以上のレベルが必要になる訳で、普通に無理な話だ。
つまり現実世界に戻っても暴力的な行動はほとんど制限される。バラを即死させた方法を俺が持つと考えれば、自分の命が惜しければ静かにならざるを得ない。何せ、適当にケンカを売った相手が俺たちの身内ならば即座に殺されるのだ。自分の命がかかれば慎重に為らざるを得ないだろう。そう言って、ゴンを説得した。
ちなみにゴンには言っていない裏がこの話にはある。俺たちと敵対しなければいいなら、つまり俺に雇われればその危険性は一気に減る。少なくとも一度俺と仕事をすれば、敵味方の区別は大凡つくというもの。ならばこそゲンスルーたちは現実に帰ったら、俺の下に付くために自発的に動くというのは十分あり得る話なのだ。俺は転んでもただでは起きないのである。
これは多分ビスケは気が付いているが、ゴンは絶対に気が付いていない。ユアとキルアは微妙。
「ゲイン」
敷いた策を考えながら、
「
矢筒に入った3本を消えると同時、3人はゲームから追放される。
とりあえずはこれで良し。ゲンスルーたちは脱落した上、そのカードは全て吸収できた。
「文句ないだろ、ゴン?」
「……うん」
ちょっと不満がありそうなゴン。返り討ちにしたとはいえ、ゲンスルーたちのカードを強奪したのが気にくわないようだ。今回は原作のように勝負の形式にしなかったしな。
しかし向こうから襲ってきたのだから、このぐらいは大目に見て欲しいものである。っていうか、これまで禁止されたらいくらなんでも俺からゴンに物申す。ゴンのルールはゴンのルールであり、俺のルールではないのだから。
「一気に躍進したな、ゲンスルーたちのカードは88種だっけ?」
「ああ。それから『妖精王の忠告』も併せて89種。99種まで後10種だな」
「あと一歩だわね」
「その一歩が遠いけどな。99里以って道半ばとせ、とはよく言ったモンだ」
「001番の『一坪の密林』と002番の『一坪の海岸線』は未だに所有者が0だからね……」
ユアの言葉に俺の顔も曇る。『一坪の海岸線』はともかく、『一坪の密林』の情報はマジでない。闇のヒスイと大天使の息吹を独占している以上先にクリアされる心配はないが、逆に誰もクリア出来ずに何年もグリードアイランドに留まる心配をしなくてはならなくなってきた。
キメラアント編が色々と致命的な以上、保険としてゴンたちにはカイトの元に行って貰いたいが。ゲームがクリアできないなら話が進まない。最悪、俺とマチだけでキメラアント編をクリアしなくてはならなくなる。
「とにかく、地道にやっていこう。ゴンたちは今までと同じように普通にゲームを進めてくれ。
マチが目立つ以上、俺やマチとゴンたちが結びつくような行動は取るべきじゃない。敵対した風を装って最後に合流するのが最善だ。俺たちの片方が『一坪の密林』を持ち、もう片方が『一坪の海岸線』を持つのが理想形だな」
「同感だね。相手を出し抜くなら最善の手だと思う。2手に別れてそれぞれの方法で探せば見落としが少なくなるしな」
ゲーマーであるキルアのお墨が付いた。ならばやはりこのやり方は間違っていないと思える。
「俺とマチの方針は変えない。他のプレイヤーの独占カードを奪いつつ、できるなら独占カードを増やす。
方針は少し変えて、奪った指定ポケットカードは俺が持つ。マチが調べられれば俺とマチが繋がっていることがバレるから、それの遅延工作だ」
「いいと思うわ。私たちはそれぞれ3組が繋がってないように振る舞う作戦は強烈だと思う」
「あたしもいいと思うわよ。勝つならこれくらいの作戦は必須でしょ」
「…………」
ユアとビスケが賛同するが、ゴンの返事はない。消極的賛成、といったところか。
やはり変なところで意固地である。俺は苦笑いしながらゴンに語りかける。
「納得いかないなら、最後にまた話し合おう。100種類コンプリートした後にな。
今はそれで納得してくれ」
「……うん、わかった」
渋々といった風情のゴンに、キルアもユアもビスケも呆れ顔だ。とはいえ、俺の意見を呑み込んでくれたということは、俺たち6人で先に100種類コンプしない以上は話が進まないということは理解してくれたのだろう。
全く。
(面倒くさい奴だな)
だがそれがいい。この愚直さこそがゴンで、俺が持たざる強固な信念。こういう念能力者は、脆さもあるが強いと相場が決まっている。そこはビスケの教育に期待である。たぶん矯正は無理だが。
「じゃ、そろそろ俺たちは行くぜ」
「…………」
今度はユアが不満顔だ。ゲンスルーを倒した以上、ユアは俺に付いて来たがったが、ゴンたちの仲間であるユアが俺やマチと共に行動すると俺たちの関係を晒すことになる。あくまで俺やマチはソロプレイヤーの体を取らなくてはならないのだ。
苦笑いのキルアとビスケ。その中でキルアが少し俺とマチから離れ、俺とマチもキルアから離れる。そして一定の距離が開いたところで、キルアがバインダーからカードを取り出した。
「じゃあな。
キルアの言葉で、4人は光に包まれて彼方へと飛び去って行く。
それを見送った後、俺はようやく安堵の息を吐いた。
「ふぅ」
「お疲れ、バハト」
「いや全くだ。今回は肝を冷やしたぜ」
歯車が一つ狂えばユアが死んでいた場面、手札の殆どを使ってようやく切り抜けられたピンチだった。
とはいえ、終わりよければ全て良し。
「さて、と。次の話に移らなきゃな」
ゲンスルーたちを撃破したところで、こちらが主導権を握れそうな話がまた一つ。
前もってその話をしていたからか、マチの笑みが凶悪になった。
「じゃ、行くぜ。先手を打つ為に。
向かう先は
彼は彼で有用性があるが、同時に厄介者でもある。生かすか殺すかは、この先の話次第。ゴンがいるとまた話がこじれるし、このタイミングまで待ったという訳だ。生かす殺すもそうだし、クロロを除念する可能性があるというだけで面倒な予感しかしない。
……ゴンがアベンガネに再び出会ったらどんな反応をするのか、ちょっぴり気になったのは秘密であるが。