殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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人狼とかの正体隠匿系のゲームが大好きです。
脱出ゲームとかのミステリー体験もワクワクします。
マーダーミステリーとか、もう最高。

……当方、そちら系のゲームは大の苦手ですけど。
感覚で解いちゃうのですよ、しかも的中率はそんなに高くないってね。


054話 初歩的なことだ、主よ(エレメンタリー・マイ・マスター)

「じゃあ手筈通りに」

「ええ、分かっているわ」

 そう言い合い、マチと別れる。これから先に出会った時も、特定の合図を送らない限りは俺とマチは1度も出会った事がない赤の他人。こうしておくことで、俺とマチを結ぶラインを限りなく薄くする。

 マチは残り10種の指定ポケットカードを集めることになり、俺は一坪の密林を探すミッションに挑む。俺たちの仲間が入手していない独占カードはツェズゲラ組が持つカードのみ。ならばここは自前の独占カードを増やし、そして入手方法すら判明していない一坪の密林を探すのが得策。

「ブック。道標(ガイドポスト)使用(オン)、ナンバー001」

 呪文(スペル)を使い、示された町の名前は『森林の町ドドビオン』だった。記憶にはないが、ポンズに連れられて全ての町に行ったことがあるので問題はない。

再来(リターン)使用(オン)、ドドビオン!」

 瞬間、光に包まれた俺は中空を高速で翔け、瞬く間に着地。鬱蒼と茂る、というには少し足りない木々が俺を出迎える。

 来るまで思い出せなかったが、ここに降り立てば来た記憶くらいは甦る。

「――確か」

 軽い足取りで町、というか村の中に入り。原作ではほとんど描写されていなかった一坪の密林について思い出す。

「クイズ大会で言ってたな、一坪の密林に関して重大なヒントをくれるのは長老だって」

 そして、一休みしているといった風情の木こりを見つけ、声をかけた。

「すまない、少しいいだろうか?」

「あん? なんだい?」

「この町の長老に会いたいのだが、教えてくれないか?」

 俺の言葉に返事せずに、手を差し出してくる木こり。

「1万ジェニーでいいぜ」

「…………」

 いや、ゲームのシステムなのは分かるが。

(ガメツイなっ!!)

 無言でバインダーから1万ジェニー札のカードを取り出し、木こりに握らせる。

「へへへ、毎度。長老なら、町の入り口から見て反対側にある一番大きな家に住んでいるぜ」

 ニンマリと笑った木こりはそのまま歩き去っていった。それを見送るまでもなく、木こりに教えて貰った方向へと歩き出す。

 やがて見えてきた、やや大きな家。その前に門番が立っていた。

 嫌な予感を覚えつつも、門番に声をかける。

「長老にお会いしたいのだが?」

「面会料を支払え」

「……幾らだ?」

「100万ジェニー、もしくはそれ以上に価値があるものでも良い」

 一瞬だけぶっ倒して押し通ってやろうかとも思ったが、ゲームというものは短気に任せるとだいたい良いことにならない。

 青筋を立ててつつも、バインダーのページをめくっていく。

 っていうか、そもそもフリーポケットの数は45しかない。普通に100万ジェニーを支払うことは難しい話だ。3人以上のプレイヤーがフリーポケットの中を金で埋めるか、もしくは指定ポケットカードか。100万ジェニーを超えるカードはモンスターカードでもAランクになる。

 適当に一枚の指定ポケットカードを取り出して門番に渡す。

「これは複製(クローン)のカードだな。面会料には足りないが、まあくれるというならば貰ってやろう」

「…………………」

 ぶっ殺してやろうかとも思ったが、なんとか自制心が勝った。ってか、変身する前のカードの価値かよ。

 渋々、キルアから受け取ったキングホワイトオオクワガタのカードを突きつけてやって、ようやく屋敷の中に入る。

 また集られるんじゃないかとも思いつつ、しかしそんな事はなく。ようやくと言っていいのか、長老の前に辿り着いた。10分も経っていない筈だが、妙に疲れた。

「どうも異国の方。儂はドドビオンの長老、ヒラと申す。何用かな?」

「『一坪の密林』について、詳しい事も聞きたい」

 俺の言葉に、ヒラ長老の眉がぴくりと動いた。おそらく、一坪の密林の言葉がキーワードになってイベントが進行したのだろう。ヒラ長老の眦が鋭くなる。

「ほう、どこで知ったかは聞かぬが、珍しいことを聞きたがるものよ。

 しかし、一坪の密林から繋がる山神の庭は聖地である。そう簡単に入り込めるとは思わぬことだな」

「分かっている。何をすればいい?」

「そうじゃな、1つ試練を課そう。この町、ドドビオン中にたった一人だけ『一坪の密林』を守る神官の名を知る者がおる。

 その者を探し出し、儂にその名を告げてみよ。そうすれば『一坪の密林』を守る神官の元に案内してやろう」

 なるほど、これは要するにお使いクエストなのだろう。長老と面会するだけで、1万ジェニーと指定ポケットカードの1枚が奪われた。

 どこに居るか分からない情報提供者、しかもその人物が満足する報酬を用意しなくてはならない。

 そりゃ、トッププレイヤーでも見つからない訳だ。

「分かった、また来る」

 俺はそうとだけ言い残し、ヒラ長老に背を向ける。

 長期戦になる事は間違いない。覚悟を決めつつ、長老の家から出て、広めの村とも言うべき大きさのドドビオンの町を睨みつけるのだった。

 

 ~~~~~~

 

  一ヶ月後

 

 ~~~~~~

 

「あぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 俺は奇声を上げながら思いっきり地面を殴りつける。

 そんな俺の目の前にはにやにやしながら聖水(ホーリーウォーター)呪文(スペル)カードを手で弄んでいる女。

「神官様の名前? 知るかバーカ」

 これが彼女の直前のセリフである。都合、17人。情報提供者は全部スカだった。失ったカードはもはや考えたくもない。

 10人目くらいで一度キレて村人を殴ってしまったが、傷害罪とかで1週間くらい拘留された挙句に罰金として3000万ジェニー分のアイテムを支払わされた。もしも法に従わないのならばドドビオンから追放されると脅されれば是非もなし。

 仲間に貰ったトレード用の指定ポケットカードはもはや底を尽き、狂いそうになる心を奇声を上げることで何とか保つ。ドドビオンにいるとたまに同じような行動をする人間(プレイヤー)がいたことから、どうやら皆が同じ心持ちらしい。

 たまに名簿(リスト)で確認するが、一坪の密林の所有枚数が0枚であることに悲しめばいいのか喜べばいいのか。自分以外がこのクエストをクリアするのは悔しいとも思うが、もはや誰かがクリアしてそれを奪った方が楽なんじゃないかとも思う。

(……もう、なりふり構っちゃいられねぇ)

 ユアが危害を加えられたのとは別の方向でキレながら、俺はドドビオンの町を後にする。

 そのまま1キロくらい歩き、最大に円を広げて監視者がいないことを確認。

「素に銀と鉄――」

 禁止されていた手を使う。最悪、令呪を使ってもいい。

「――抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よォォォ!!」

 ややおかしなテンションになりながらも詠唱を完成させ、サーヴァントを呼び出す。

「ルーラーのサーヴァント、シャーロック・ホームズ。ここに推参した」

「すいません、助けて下さいっ!!」

 腰を直角に曲げつつ、突如として森林に現れた英国紳士に頭を下げる。

 俺はかつて、このサーヴァントを召喚したことがある。それはまだクルタ族の村に居た頃、世界のどこかにいる『敵』がどのような相手か推理して貰おうと思ったからだ。

 その時のホームズのセリフは以下の通り。

 

―いいかね、マスター君。探偵は『解き明かす者』であり、『全てを知る者』ではない。何も情報がない現状で答えを出せと言っても無茶なもの。小説の1ページ目から犯人が名乗りを上げる推理小説のようなものだ。まあ、そのような形式がないとは言わないが。

 それはともかく、何でもかんでもサーヴァントに頼ってもいけない。マスター君はサーヴァントを1体しか召喚できない上に、時間制限まであるときている。ならば君は自分を磨く努力を怠ってはいけないのだよ。

 それから私のような軍師型のサーヴァントもお勧めしない。何故ならば我々は現在最高の一手を見つける事には長けているが、明日もその一手が最高のものであるとは限らないからだ。未知から産み落とされる偶然という名の怪物は、今日の偉人を明日の凡人に変えうるのだよ―

 

 とまあ、こんな皮肉を出会い頭に言われてしまったのだ。

 これには心が折れた。ベキバキと折れた。以降、今に至るまで軍師系のサーヴァントを召喚しなかったくらいには心が折れた。

 だがしかし、俺は既に一坪の密林のイベントで心を折られている。これから先どれだけの時間、心を折られ続けるかを天秤にかけた時。とうとうこの皮肉な探偵を召喚する覚悟を決めたのだ。

「ハハハ。そうかしこまらなくても私はサーヴァントさ」

「え」

 思わず顔を上げれば、そこには爽やかな笑みを浮かべた優男。

「もちろんマスターの力になるとも。そもそも、ある程度『敵』の情報が集まったら私を召喚して推理を聞いてくれてもよかったのだよ?

 頼り切ってはいけないだけで、頼ってはいけない訳ではないのだから」

煌々とした氷塊(ブライトブロック)!!」

「バリツ!!」

 右腕に氷塊を纏わせてホームズに殴り掛かる。それを鮮やかな手並みで逸らして、関節を極めようとするホームズ。危険を悟った瞬間に一気に後退、ホームズから距離を取る。

「じゃあ最初にそう言えテメェェェ!!」

「ハハハ。マスター君は少々疲れているようだ。パイプ吸うかね?」

「アヘンじゃねぇかそれ! 吸わねぇよ!!」

 ダメだ、やっぱりコイツとは根本的に反りが合わん。会話するだけで精神にダメージを食らう。

 とっとと本題に入ろう。

「で?」

「それが人に教えを乞う態度かね?」

「ドウカイキヅマッタワタシニコタエヲオシエテクダサイ」

「ふむ、まあ良かろう」

 くいと眉を動かしたホームズ。途端に雰囲気が変わる。

「……っ」

 一瞬で呑まれた。流石はサーヴァント。流石は人類史上最高頭脳を持つ一人にして、世界唯一の顧問探偵。

 先ほどまでの爽やかな顔から、真実を暴き出す鋭き(まなこ)をのせた顔に為る。

「答えから言ってもいいのだが、それは流石につまらないし、私の沽券にも関わる。

 少々退屈な話に付き合って貰うが、構わないかね?」

「ああ、こんな下らないことで令呪を使う気はない」

「結構」

 一度俺の魂にある聖杯に回収されたホームズは、俺と情報を同じくする。そこからホームズは何を見つけ出したのか、そして俺が何を見落としたのか。答えを導き出したと言い切ったホームズである、気にならないと言えば噓になる。

「まずはおさらいだ。求めるモノはSSランクの指定ポケットカード、『一坪の密林』である」

「ああ」

「そしてSSランクカードの探索方法は君が知る物語で明示されている。

 名前をキーワードにして聞き込みをして『~~をしたら教えてくれる』という条件をクリアする。

 真偽を判定し、入手条件を満たせばイベントクリア。アイテム入手というのが一般的な流れとなる。ここまではいいかね?」

「ああ」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………?」

 悲しそうな顔をするホームズにイラっとした。

「何が言いたいんだよ?」

「分かった、本当に1から説明しよう。

 はぁ」

 思いっきり溜息吐きやがったぞコイツ。

 なんなんだよこのイベント。なんで心の耐久性を試してくるんだよ。殴りたいけど殴れない相手が多すぎだろ。

「聞こう。SSランクカードは何種類ある?」

「『支配者の祝福』、『一坪の密林』、『一坪の海岸線』、『大天使の息吹』、『ブループラネット』。

 5種類だな」

「その中で君が入手方法を把握しているものは?」

「『支配者の祝福』、『一坪の海岸線』、『大天使の息吹』」

「更にその中で、先ほど言った一般的なSSランクカードの入手の流れが通用するものは?」

「…………」

 あ。

初歩的なことだ、主よ(エレメンタリー・マイ・マスター)

 さも当然のように前提条件を提示されたからといって、それが真実であるとは限らない」

「ちょ、ちょっと待て! じゃあ、原作で言われていたあの情報は嘘か!?」

「嘘とは言わないさ、おそらくそれで入手できたSSランクカードもあったのだろう」

「『一坪の密林』はイベントクリアされていないから、『ブループラネット』か!」

「その通り。君が知る物語ではツェズゲラ組もゲイン待ちのブループラネットを手に入れているし、ニッケス組かゲンスルー組も入手していた。

 つまり『一般的なSSランクカードの入手の仕方』は『ブループラネットの入手の仕方』に過ぎないのだよ。ゆずって『大天使の息吹』を含めてもいいが、それでも40種類の呪文(スペル)カードを集めればいいという情報は簡単に手に入り過ぎる」

 いや、これは目から鱗だ。その視点は全くなかった。原作で言われていたから丸呑みしていた。

 だがしかし、この事実は見たくもない事実を浮き彫りにさせてくる。

「え、待て待て待って。

 じゃあ『一坪の密林』はノーヒントで探さなくちゃならないのか!?」

 羅針盤が壊れていると分かったとして、気分は大海原のど真ん中。360度全てが水平線、どこを目指していいかも分からない。

 何百人いるか分からないドドビオンの住人を、虱潰しに当たらなくてはいけないのか?

 自分の顔が絶望で歪むのが分かる。そんな俺の顔を見つつ、澄ました顔でパイプを吸うホームズを殴りたく思う。

「考察は可能さ。奇しくも、君だけならね」

「……それは、どういう?」

「先ほど言った通り、我々は3種類のSSランクの入手方法を確定で知っており、『ブループラネット』の方法も恐らく分かっている。

 そこから推理することは可能」

 そう言いつつ。まずはとホームズが例題として出したのは一坪の海岸線。

「前提条件となる同行(アカンパニー)でソウフラビへ15人以上で移動する。

 これが現実に起こりうる可能性は、そもそもどれだけある?」

「? 原作でやっているし、普通にあるんじゃないか?」

「本当に? ゲームのクリア報酬は指定ポケットカードが3枚しか手に入らないという前提条件があるのに、15人ものプレイヤーが一つの目的の為に行動できる可能性は『普通に』あるのかね?」

「いやまあ、そう言われれば確かに」

「大人数が徒党を組むというのは、巨大な個が現れた時と相場が決まっている。巨大な個を上回る戦力を揃える為に数を集め、また上回られた方も挽回する為に数を集める。人間というものはその繰り返しで集団を形成してきた」

「…………」

「ゲームマスターであるジン=フリークスは人間というものを極めてよく熟知している、と私は断言しよう。

 『一坪の海岸線』は正にジン=フリークスの掌の上で踊った末に発見された。クリアを目前としたプレイヤーが現れた時、それを阻止するべく多人数の人海戦術でカードを独占してクリアを阻止する。

 その筋書き通りに進んだ訳だ」

 ゾワリと背筋に冷たいものが走った。漫画では軽く読み飛ばした部分、あえて言うならばゴレイヌの「えげつねぇな」が印象的だったあのシーン。それも含めて何もかもがジンの思惑通りだった。

(ありえる)

 会長選挙編で十二支んを手玉に取ったジンならば、十分に。

「続けよう。つまり私が解き明かすべき本質は『一坪の密林』の入手方法ではない。

 ジン=フリークスという人間の仕掛けだ」

「……可能なのか?」

「もちろんだ。何せ、ジン=フリークスは本気ではない。遊んでいる」

「…………」

 絶句。ただ絶句。

 これほどまでに壮大な仕掛けをしたジンが遊んでいるだけ。そしてそれをそうと言い切るホームズ。

 何百人の念能力者を閉じ込めて、何十人もの天才たちが右往左往しているこの現状。これを、ジンとホームズは俯瞰して見ている。

「ゲームはクリアされてこそ。グリードアイランドはその原則から外れていない。そしてジン=フリークスの行動を見るに彼は愉快犯だ」

「愉快犯?」

「いるだろう? 盗みに入る前に予告状を出す怪盗、殺人現場にメッセージを残す殺人鬼。障害を増やして、それを出し抜くことに快楽を覚える犯人が。

 今回のジン=フリークスはその一歩手前。自分が残した痕跡を辿らせて、事件を解決して喜ぶ人間を見て楽しむ人間。ああ、ゲームマスターとはよく言ったものだ。クリアのご褒美まで用意しているとはね。

 要はクイズの出題者、という訳だ」

 顔色一つ変えずに己の推論を口にするホームズ。こういった手合いはよく相手にしたものだと言わんばかり。

「……狂ってる」

「狂気を知るには己が狂人になるのが一番だ、とは言わないがね」

 さて。そう一言おいてからホームズは続ける。

「今回の事件、もといクリア条件。それはジン=フリークスの手口を考えるに、一つの閃きで届くものと推論される。

 逆に言えば地道な捜査から最も遠い場所に答えを置いた、とも言えるだろう」

「つまり、普通にドドビオンの住人を総当たりしているだけでは無理か?」

「その通り。そしてご丁寧なことに、ここにもジン=フリークスは答えを用意していた」

 そこで一呼吸。

 ホームズは己の眼前で両手を合わせ、青い瞳で俺を射抜いた。

「ヒラ長老は神官の名前の真偽をどう判定する?」

「あ」

「答えは1つ。ドドビオンで神官の名前を知る唯一の人物がヒラ長老であれば矛盾はない」

「それ有りっ!?」

 思わず叫んだ。

 幸せの青い鳥じゃああるまいし、スタート地点に答えがあるだろうとは思わない。

 だが、この底意地の悪い答えが一番しっくりくるのも事実。

 それを呑み込み、俺はがっくりと肩を落とす。

「ここまでは落ち着いて考えれば誰でも分かる事だが」

「令呪で自害命じるぞテメェ」

 なんでこの探偵はいちいち喧嘩を売ってくるんだろうな?

「問題はむしろここから。ヒラ長老から神官の名前を聞きだす方法だ」

「聞けば教えてくれる、訳はないか」

 それほど簡単な条件を、ここまで仕組んだジンが用意する訳がない。

 一坪の海岸線でも、スポーツで7戦した後に8つの勝ちをもぎ取るレイザーのドッチボールが待ち構えているのだ。ここでもう一捻りあると思った方がいいだろう。

「私が予想する条件は2つ。1つはドドビオンに於いて一定数の人物に話を聞いた、というものだ」

「……まあ、妥当っちゃ妥当か」

 いきなりヒラ長老に神官の名前を聞いても答えはない、ドドビオンである程度の聞き込みをした後に気が付くというパターン。

 だがこの条件は、今までの推理を聞くに、あまりに基本的過ぎる。なんというか、グリードアイランドのゲームマスターらしくない。

 だから多分違う。

「そして私が考えるもう1つ。それは数の反対、質だ」

 

 

「90種類もの宝物を集めた手練れ。

 お主を認めて神官の名前を教えよう」

 ヒラ長老が諦めたようにそんな言葉を口にした。

 俺がやった事は簡単。マチを呼び出して、彼女のバインダーにあった指定ポケットカードを全て俺のバインダーに移しただけ。

 これでドドビオンの住人に話を聞きまくったという条件も、質を証明する指定ポケットカードを多く集めるという条件も、その両方を満たすことが出来た。

 ちなみに急に呼び出されたマチは、俺の後ろで退屈そうに欠伸をしている。

(そりゃ、マチは何もしてないけどさ……)

 散々苦労した身としてはどうにも釈然としない。理解はするけど納得はできない。

 そう思いつつ、ヒラ長老の口から神官の名前を聞かされる。

「アリエット。神官の名前はアリエットじゃ」

 さて、そろそろ気を引き締めようか。

 流れからして、このアリエットとやらはおそらくゲームマスター。名前から類推すると女性だろう。

 レイザーの件を鑑みるに、イベントクリアにゲームマスターの撃破は必須。

 つまり、レイザークラスの念能力者を相手にしなくていけないのだ。肩の力を抜いてばかりもいられない。

「それではヒラ長老に告げよう。

 『一坪の密林』を守る神官の名前はアリエットだと」

「――確かに聞いた。それを言ったお主を神官の元に案内しよう。

 もちろんお主だけだ」

 どうやら本当にレイザーとは逆に個の力を試されるらしい。

「ちょっと待て」

「十分に準備をするとよかろう」

 ヒラ長老から許可が下りた。とりあえず、俺の指定ポケットカードをマチに返しておく。

 今この瞬間に念視(サイトビジョン)を使われて俺のバインダーを覗かれたら目も当てられない。

『私の扱いはどうなるんでしょう?』

『……さあ?』

 念話で俺に語り掛けるのは霊体化したサーヴァントであるディルムッド。

 再来(リターン)とか単体に有効な呪文(スペル)の効果を考えると念獣と同じ扱いになりそうだが、本当にそうか分からない。

 っていうか、赤の他人であるゲームマスターの前でそうそうサーヴァントを晒したくない。

『いつも通りにしよう。俺の命の危機になるまで切り札(サーヴァント)は隠し通す。

 俺だって弱くはないつもりだしな』

『御意』

 念話とカードの移し替えを終えて、俺はヒラ長老に向き直る。

「案内してくれ」

「よかろう、ついて来るが良い」

 そう言って長老は俺に背を向け、そこにあった壁に手を添えて力を加える。

 するとゴゴゴゴゴと壁がズリ下がり、隠し通路が姿を現した。

「気を付けて、バハト。カードの移動を許したってことは、プレイヤーが死ぬことを考慮に入れているはずだよ」

「分かってるさ」

 マチの言葉に軽く返す。

 レイザーがそうであったように、ゲームマスターを相手にすれば命の危機は当然ついて回るのだろう。

 簡単に重い返事をしつつ、俺は薄暗い隠し通路に歩を進めるのだった。

 


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