活動報告もたまに上げたりしてりるので見てね!
……久しぶりの更新なのに短めで申し訳ないです。
「だいたい300メートルか。俺の円で覆えないのはちょっとキツイな」
一坪の密林、その戦場である庵の奥の林。そこに入り、反対側までとりあえず歩くことを目標にして、襲撃されること3度。雑魚でしかない悪しき獣を紙切れのように千切り捨て、そこに到達した。
広さは凡そ直径300メートルといったところ。真円か楕円か、はたまた四角かは知らないが、一辺の長さは測れた。まさか厚さがほとんどないということもなかろう。
(いや)
「予断は危険だな、一応調べておくか」
そのまま林の境目に沿って歩き出す。背後から押し出されてはたまらないから、3メートル程の距離を取って歩き出す。
歩いている間にも襲ってくる悪しき獣。鳥、猪、巨大な鼠、虎。形も大きさも強さも様々だった。が、苦戦らしき苦戦はほとんどない。強いて言うなら虎型の奴が少しだけ強かったくらいか。
っていうか、さっきと比べてエンカウント率が異様に高い。まあ、理由はすぐに察せたが。この林の外側から悪しき獣はやってくるのだ。設定上、ここは清廉な結界が張られているはずであり、悪しき獣はここを目指してやってくるとなっている。と、いうことはこの中で悪しき獣はポップしないのか。
(つまりイベント後半になって、悪しき獣を狩り足りないと思ったら境界の側に来ればいい訳か)
リタイアしやすい条件を提示しているように見えるが、リタイアする気がある奴の選択肢ではないだろう。逆に傷を負ったりした場合、中央に居たらジリ貧であり。そして脱出しようとしても悪しき獣を突破しなくてはならない。
本当に、あの手この手でリタイアを妨害してくるシステムになってやがる。大方、撤退するにも余力を残せという教訓でも伝えたいのだろうが。
(その教訓を持って帰る前に死ぬだろ)
活かせない教訓に意味はあるのだろうか。そう、益体もないことを思いつつ、蝙蝠型の悪しき獣に向かって足元にあった石を投擲。あっさりと撃破する。
そうこうしているうちに、一周が終わる。
「ふむ、形としては円形に近いな。直径が300メートル程度だから、外周は1キロ弱。フィールドの広さは7万平方メートル飛んで650ってとこか」
これが分かったからなんだという話だが。俺は結構感覚派だから、外周や広さを数字として出されてもあまりピンとこない。それよりか、実際に自分の足で踏破した感覚の方がよっぽど頼りになる。
だが、おそらくこれを神官アリエットが聞いているだろうことが重要だ。ぽつぽつと、どうでもいい情報を口にしてこちらは情報を集めているということを教えて圧力をかけておく。
「まだ開始から1時間も経過していないな。休めるうちに休むか。
外周に近くなるほど悪しき獣がたくさん湧いたし、休むならど真ん中だな」
わざわざ宣言し、林の中心に向かって歩を進める。そんな俺の背後から襲い掛かってきた牛型の悪しき獣は蹴りの一発で地面にめり込ませておく。
(肉食、雑食だけじゃなくて草食動物型もあるんだな)
これは本格的に何でもアリかも知れない。最悪の想定をしつつ、俺は林の外周から離れるように動き始めるのだった。
『ほうこーく。現在、一坪の密林のイベントにチャレンジャー在り。経過時間、2時間21分43秒』
(ビンゴ)
俺の耳に届くのはアリエットの声。神官としてではない、ゲームマスターとしてのそれ。彼女に付けた
っていうか。
(……随分印象と違う素だな)
庵の奥の林の中心部で座り込み身体を休める態勢のまま、そんな感想を抱く。なんというか、ちょっと残念な雰囲気が耳に届いて来るのだ。
俺に聞かれているとは気が付かないまま、ゲームマスターアリエットは言葉を続ける。
『はいは~い、真面目にやってるよ。ペナルティもこなしてるんだから文句言うなっての。
なんだい、
プレイヤーはSSランクカードを当てて幸せ。私はイベントをサボれて幸せ。WINWINじゃんか。
……ええ、もちろん。反省していますが、何か?』
(…………)
何やってんだコイツ。そりゃ他のゲームマスターも怒るわ。全くの偶然で当てられたならともかく、運営側の文字通りの怠慢で
『くそ、折角当てた奴もあっさり死んじまうし。
あ~あ、仕事したくないでござる』
お前、何でグリードアイランドのゲームマスターに名乗りを上げたんだよ。
思わず心の中でツッコミを入れた俺は悪くないと思う。
『……あ、悪い悪い。こんな事を言う為に繋いだんじゃないのよ。
今回のチャレンジャー、ちょっとカンに引っかかってね。情報をちょうだいよ。
うん、クリアの目はあるわね。つーわけで、エレナよろしく。
……、わーってるわよ! わざとクリアなんかさせないって!』
通信の相手はエレナ、グリードアイランドの出入国を管理している双子か。情報を集めるデータベースはそこなのだろう。
やや時間が空いて、アリエットがポツリと呟く。
『ああ、
バレテーら。
俺がアサンから奪った
まあ、
そんなどうでもいい感想は、アリエットの深刻そうな声で断ち切られた。
『――おかしい。
多分だけど、アイツは強化系よ。立ち居振る舞いは、完全に。それなのに万能性の高い除念能力も持つ? あり得ないわ』
(…………)
腐ってもゲームマスター、ジンの仲間か。見かけだけで系統がバレるとは思わなかった。しかも、その確信と得た情報との齟齬に頭を捻っている。両方が信じるに値しないと、容易く片方に天秤が傾くのが普通。つまりアリエットは自分の感覚と仲間からの情報の両方をかなり信頼している。
これはよほどの納得がなければ、疑惑の棘は抜けないだろう。
(まあ、困る事もないが)
どうせアリエットとはこのイベントが終われば二度と会うこともあるまい。疑うならば好きなだけ疑ってくれればいい。俺は別に困らない。
『……いやまあ確かに知ってどうなるってもんでもないけどさー。
すっきりしないっていうか、なんというか。
……へいへい、分かった分かった。そーいうのは気にしないでイベントの進行に集中しますよ、っと』
どこか投げやりな様子であるアリエットの声を聞く。
『長期戦って分かっている上に、後半終盤に向けて序盤前半で情報収集と体力温存しているのは流石だわね。肝が太いわ。
多分、こっちが気が付かないような警戒はしているだろうから、仕掛けまくって気力と体力を削る方向に持っていく。
疲れるからあんまやりたくなかったけど、数で攻めるわ』
オッケーオッケー、そういう戦略ね。
『とりあえずもう少し時間を置いて、気が緩んだだろう頃に攻めるわ。
じゃね、こっちはイベントに集中したいから通信切るわ』
会話が終わったのだろう、急に耳に届く声がなくなる。
グリードアイランドの中とはいえ、ここは林の中。ブンブンと飛び回る虫の羽音や、悪しき獣とは関係ないだろう獣の動くガサゴソという音はひっきりなしに聞こえてくる。
(こちらが落ち着くのを待って攻めてくる、とは言っていたが……)
『マスター!』
(やっぱりな!)
ディルムッドの警告から遅れることコンマ数秒。俺の警戒網にも引っかかった。俺の頭上から猿型の悪しき獣が襲い掛かってくる。しかも一匹じゃない、四匹まとめてだ。
座った体勢からバネ仕掛けのように体を起こし、飛び掛かってくる猿共を迎撃。ぱっと見だが、最初に襲い掛かってきたのと同タイプだ。堅はおろか、発を使うまでもない。纏のままで頭上に向かって4回、拳を振り上げて猿型の悪しき獣を粉砕する。
『う~ん、私の声を盗み聞いているような気がしたんだけど、油断ないなぁ~?』
当たり前だ。そもそも、休みたいのは俺の勝手。それを邪魔するように動くのが敵対者の基本であるからして、様子見で休ませて貰えるなんて思っちゃいない。
ゲームマスターアリエットの声が聞こえていようがいるまいが、俺はいつでも襲撃されるものと思っていたし、襲撃されるまでは思う存分休んでやろうと思っていた。
とはいえ、これ以上アリエットの声を聞くのもまずいな。薄々俺が声を盗み聞きしているのがバレている以上、その確信を持たれるのはいかにもまずい。具体的に言うと、難易度があがりそう。ゴンの名前を聞いて手加減を投げ捨てたレイザーのように。いや、普通はあそこまで酷くならないと思うけど。
とりあえず
『引き続き、休みつつ警戒態勢を続ける。
イベントの性質とアリエットの言葉から考えても、後半終盤にキツイ攻撃が来そうだ。そこまで体力とオーラを温存する。
ディルムッドは引き続き、警戒を頼む』
『御意』
霊体化したまま、ディルムッドは周囲から襲ってくる悪しき獣の索敵をする。これだけでもサーヴァント、マジで便利。
俺は座った体勢をやめて立ち上がり、太めの木に寄り掛かって楽な格好を取る。襲撃されると分かっている以上、このくらいの対応はして当然だ。それでも自分から積極的に動かないのは、まだじっくりと余力を蓄える時間帯であるからだ。
そんな俺に向かって猪型の悪しき獣が突撃してくる。大きく避けてその隙に攻撃を叩き込めば楽に勝てるタイプだが、それが続いてしまえば徐々に俺の体力が削られてしまう。
「ふ」
李書文に習った八極拳。その技を使い、突進してくる猪型の悪しき獣の右前脚を踏み折り、左前脚の踏み出す方向を優しく変えてやる。それだけで猪型の悪しき獣はまるでドリフト停車するスーパーカーのように、土煙をあげながら俺の目の前に体を横たえる。
「GSHYAAA!!」
獰猛な雄叫びを上げるが、普通の生物なら痛みのあまりに悶絶している惨状だ。右前脚はもちろん、地面に突進するように動きを止めたのだから、体中の骨が軋んで肉が傷ついていてもなんら不思議ではない。
やはりコイツらは作られた念獣なのだろう。
「破っ!」
それが分かったところで俺の対応が変わるはずがもちろんない。まるで殺して下さいと差し出されたかのようにあった頭に向かって発勁を叩き込む。発勁を受けた猪型の悪しき獣はビクンと妙に生き物臭い反応を示した後、霞のように消え去った。
なんというか、悪しき獣はサーヴァントのそれに近い。心臓か脳か首が恐らく弱点なのだろう。そこに致命傷を与えない限り、ひたすらに襲い掛かってくる。これはこれで厄介なタイプの念獣だ。
って、今度は空中を泳ぐ魚型の悪しき獣が現れた。ちょっと先の木々の間から、群れと呼べる数が湧いて来たのはちょっと気味が悪かった。気持ち悪いとは違う、常識に攻撃を受けたような違和感。
「と、うぉ!?」
なんて下らない事を考えていたら、魚型の悪しき獣の口から水鉄砲を放ってきやがった。反射的に躱したが、外れた水鉄砲が木に当たったら、ジュッとか嫌な音を立てて木が腐食した。強酸か、熱か。両方か。
地味に殺傷力が高い。回避した時に木から離れて前に出たが、魚型の悪しき獣は俺から離れるように距離を取りやがった。完全に遠距離専門のタイプだろう。
「ならば、近づいて殴るのみ」
ぽつりとそう言い、魚型の悪しき獣との距離を一気に縮める。奴らも口から水鉄砲を放ってくるが、来ると分かっていれば発射口も分かっている直線の攻撃なんて回避してくれといっているようなもの。
冷静に攻撃を躱し、魚型の悪しき獣を拳の射程範囲にとらえ、無視してすぐそばの木の陰にいたカメレオン型の悪しき獣に拳を叩き込む。
「無駄無駄ぁ!!」
予想できないと思ったか! ちゃんとディルムッドに指示を出して索敵させておいたんだよ!
あからさまな遠距離型の砲撃を用意したのなら、その周辺に伏兵か護衛を置くのは当然警戒の範疇だ。俺一人ならば集中力が削がれるだろうが、索敵要員がいるなら負担も大分軽い。
その場に居た悪しき獣を殲滅すると同時、15メートルくらいの円で索敵。敵が居ないことを確認する。
「ふぅ」
そして手ごろな木に背中を預け、絶をして休む。どうせ1分かそこらしか休めないだろうが、ほんの少しでも張り詰めた緊張を緩めるだけでも長期戦では大分違う。
『マスター』
案の定、すぐさまディルムッドから警告が入った。薄く目を開ける、までもなく。地面に落ちた枯れ枝を踏み折る音が断続的に聞こえてくる。
そこにいたのはゴリラ型の悪しき獣。敵意と悪意がこもった瞳を俺に向けてくる、大型の獣。叫ぶようなことはしないが、胸を叩くドラミングでこちらを威嚇してくる。分類としては強化系か、今までの悪しき獣よりも一段強そうだ。
(こりゃ纏じゃ無理だな)
しかし全力の練をするほどでもない。纏の倍程度のオーラで十分だろう。
絶から一転、体中からオーラを噴出させ、先手必勝とばかりにゴリラ型の悪しき獣に殴り掛かる。
そろそろ日が沈むころ。
このイベントはまだ序盤といっていい具合だった。