殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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大分遅れてゴメンナサイ!
これからは更新速度を上げていきます!(できたらいいなぁ)


057話 一坪の密林・後編

 

 一坪の密林のイベントを始めたのは、午後3時過ぎ。つまりは太陽が真上に昇ってから、おおよそ4時間を耐えればクリアだ。

 深夜の時間帯はまだ襲撃に波があり、夜も更け切った頃に一旦収束。そして朝日が昇る直前に大波が一回襲い掛かって来て、明るくなりだしてからは散発的な襲撃があったりなかったりといった具合だ。

 時間的にはそろそろ正午か。

「ブック。ゲイン」

 バインダーから水を取り出して、ゴクゴクと飲み干す。飲まず食わずで戦うことは慣れているが、やはり補給はした方がコンディションは良くなる。水と併せて簡易的な栄養剤も流し込んでおく。気休めと言えば気休めだが、しないよりかはマシだ。流石に腰を据えて休んだり、排泄をしたりといった隙を晒す気はない。

(カロリーバーくらい用意しておけば良かったな)

 空腹が紛れずにそう思ってしまう。長くて数日で町に辿り着くグリードアイランドだから、こういう時に口にする食料の用意がないのだ。栄養剤を持っていることだってハンターとしての心得であって、こんな状況を想定した訳ではない。

 とまあ、こんな事をグダグダ思う程度には余裕がある。少なくとも、今はまだ。

 気力体力は可もなく不可もなく、20時間以上戦い通した割にはマシな方だろう。まあ、アリエットもまだガチガチに攻めてきている様子はない。まだガチ、といった具合だ。レイザー戦で言うところの、念獣(オーラ)を体に戻してない状態レベルに感じる。

 残りの3時間と少し。本気で攻めてくるか、否か。

(いやまあ)

 攻めて来そうだけれども。根拠はアリエットが一回宝籤(ロトリー)で一坪の密林のカードを放出しやがった事だ。あんなチョンボをやらかしたって事は、仲間たち(ゲームマスター)の監視は厳しい事この上ないだろう。そして一坪の海岸線のイベントも含めて、あんまりクリアされることを考慮していない。いやまあ最終的にクリアはさせるつもりなのだろうが、初見クリアはゲーマーの意地にかけてさせないといった決意を感じるのだ。

 このイベントに関していえばそもそもとして殺しに来ている。いつでもリタイア可能、だけど再挑戦不可って辺りが心理的な檻になっているのは言うまでもない。まさかいつまでも逃げない獲物を生かして返してくれるほど、グリードアイランドは優しくないだろう。ここの情報を持ち帰るならば、せめて逃げる判断くらいはしろという訳だ。情報を集めて24時間耐久レースをすると思って戦いに挑めばまたやり方も変わる。

 一坪の海岸線も同じ。レイザー戦も初見で取り巻きの海賊たちに蹴散らされて、次にレイザーのドッジボールまで見る。そこからがようやく本番といった風情だ。ボポボがやらかして処刑をせざるを得ない状況になった為にその雰囲気を流す為のレイザー出陣と、ゴレイヌの能力が上手く嵌まったことで事無きを得ただけだ。普通ならば7戦した後に、満を持して出て来たレイザーに蹴散らされる流れだろう。本来ならば本番はそれから、準備を入念に整えた3回目からなのだ。

(うん、まあ)

 また襲撃がぱったりと止んだ。無駄な思考を回せたのもそのおかげだ。

 とはいえ、残り時間は3時間を切っているだろう。今更油断も何もない。

『ディルムッド、どう思う?』

『悪しき獣がゲームマスターの念獣だとすれば、最後の総攻撃に向けた溜めと見るのが正答かと』

『だな。後は、逃げる最後のチャンスをくれているってとこか』

 見え透いた最終局面の前の空白時間。これほど分かりやすく、逃げるなら今だと言う宣言もない。

 さて俺はと言うと。20時間戦い続けたが、発どころか全力の練さえ発動することはなかった。サーヴァントはもちろんながら、煌々とした氷塊(ブライトブロック)も晒していない。本当に基本的な念と体術のみで捌けた。

 オーラも6割以上残っている。多少節約しながらなら、3時間はおそらく持つ。そして最後にはディルムッドもいる。

(……大丈夫)

 ここまで手札が残っていれば、恐らく死なない。つまり、クリアできる。

『完走するぞ、ディルムッド』

『御意』

 宣言してから急に不安に襲われた。

 大丈夫と思うこの心理さえ、ゲームマスターの掌の上なのではないか。イベントに仕掛けられたジンの罠、一坪の海岸線イベントの悪辣さ。それらが俺を絡めとっていないかが、怖くて仕方ない。

(いや)

 ダメだ、そんな心持ちでは念も弱くなる。少なくとも俺の発とサーヴァントは隠蔽しきっている。これらを使えば最悪でも林の外へ脱出はできると信じよう。

 考えるなら先のこと。これからどんな悪しき獣が出てくるか。

(ゴリラにワニ、サイにライオンと強暴さに定評がある動物はだいたい出て来たよな)

 となれば、俺が想像できるのは2種類だけだ。最悪の動物か、最強の動物か。すなわち。

(人間か、恐竜か)

『マスター!』

 ディルムッドの警告に従い、その場を飛びのく。それと同時、俺が寄り掛かっていた木に矢が突き刺さった。

 遅れて響く、コォンという甲高い音。

「人間、か」

 ぽつりと呟いた俺の言葉に呼応するかのように、出るわ出るわ、どこに隠れていたんだと言わんばかりの人型の悪しき獣の群れ。

 揃いも揃って凶悪な顔をぶら下げて、襤褸切れを体に掛けている。それぞれの手には様々な武器。弓矢に槍、剣に斧に棍棒。人型の悪しき獣――悪しき人間たちの武器は比較的原始的なソレばかりとはいえ、徒手空拳では対応に困る。できなくもないが、そろそろ解禁しても構わない頃合いだろう。

煌々とした氷塊(ブライトブロック)

 オーラを変化させた氷棍を作り出し、構える。間合いが広くなった分だけこちらにも余裕が生まれるし、相手への牽制になる。氷棍を作り出した俺を見て、相手の動きが鈍くなる。

 と、思ったら。奥の方にいた悪しき人間が大声を出すかのように口に手をやると、そこからシャボン玉のようなものを何十となく吐き出す。

「いっ!?」

 これには俺も意表を突かれた。ってかこれ、バブルホースの能力じゃねぇか。白いシャボン玉と赤いシャボン玉が俺を包囲するように囲んでくる。

(白がどっちで赤がどっちだっけ……とか悩んでいる場合じゃねぇ!)

 俺は流が苦手である。もちろんできなくはないが、多少以上に集中力が削られる。もちろん戦闘に際し、必要な流というのは反射的本能的にできる部分はあるが、このケースは話が別である。周囲を包囲するシャボン玉はただ浮かんでいるだけ。それらを識別し、纏と絶を切り替えつつ戦闘を繰り広げるなんて難易度が高いなんてものじゃない。というかそもそも氷棍は念能力の産物であるからして、絶なんてできるはずもない。

 流石に無差別であろうから敵にも足止めは有効だと思う……とか考えている間に、敵の後衛が石やら硬そうな木の実やらを拾い上げて振りかぶっている。

「冗談だろっ!?」

 あれはもしや、遠投猿の攻撃方法か。動きを封じた上で仕掛けてくるとか念の入れようが凄い。マジで殺しに来やがった。

 飛来する石を僅かな体の捻りでかわし、木の実は氷棍で叩き落とす。威力や精度はそんなに高くないのは、救いなのかどうなのか。

(くそったれ、守ってもジリ貧だこれ)

 意を決して、シャボン玉に向かって右手に持った氷棍を振りぬく。と同時、ババババババババンと幾多の爆音と爆風が襲い掛かり、一時的に視覚と聴覚が潰された。

「っ」

(円!)

 敵がこの隙を見逃す筈がない。即座に円を展開して、周囲の状況を把握。案の定、手に近接戦用の武器を持った悪しき人間が襲い掛かってきている。対してこちらは右腕がシャボン玉を破壊した衝撃でコンマ数秒動かせない。

(上等っ!!)

 敵の位置を把握して、円を解除して堅にする。オーラの出し惜しみは無しだ、少なくとも悪しき人間を撃破するまでは。

 右腕を軸にして円を描くような飛び込み蹴りをベストのタイミングで繰り出し、剣と棍棒で突いてきた悪しき人間を薙ぎ倒す。そして着地した場所は槍を持つ悪しき獣の懐であり、左手で発勁。十メートル以上も吹き飛ばし、並みの念能力者ならば致命傷であろうダメージを与える。

 飛び込んできた前衛を一蹴したことにより、悪しき人間の陣形に綻びができた。斧を持った悪しき人間が襲い掛かってくるが、遅い。前衛をいちいち相手にする筋合いはなく、後ろに控えている弓矢を装備した悪しき人間やシャボン玉や遠投を得意とする悪しき人間に標準を合わせて、駆ける。少しあった距離は瞬間で潰れ、反応が間に合っていない奴らに致命の一撃を繰り出す。

 弓矢の悪しき人間には氷棍を首に叩き込んでその骨をへし折り、シャボン玉の悪しき人間の胸に左手を当てて発勁。心臓を潰す。

 と同時、全ての悪しき人間の姿が儚く消えていった。

「群狼の長、か」

 リーダーを倒さないと永久的にリポップしてくるモンスター。おそらくはシャボン玉を作る悪しき人間が親玉だったのだろう。もしもそれに気が付かずに前衛のみを倒し続けても何もならないという厭らしい手だ。

 今のでようやく気が付いたが、ここに出てくる悪しき獣はグリードアイランドに出てくるモンスターの特徴を兼ね揃えているらしい。俺は出会っていなかったが、遠距離から酸や熱湯を吐いて来るモンスターとかいるのかも知れない。

 さて。

「今度が最後だといいが」

 ズシン、ズシンと。前に来た象よりも重量のある足音が、いやさ地響きを感じる。

 来るかもしれない、とは思ったが。来て欲しいとは思っていない。

「恐竜……」

 ティラノサウルスか? 獰猛な牙を覗かせる、体長10メートルを超える巨体に頬が引きつる。

 まじで殺しにきてるなゲームマスターアリエット。クリアさせる気、ないだろ。

 いやまあ。

(それは俺以外のプレイヤーに限るけどなっ!!)

 強化系の俺にとって、力任せに強い相手というのは地力の勝負になる。純正の念能力者が相手ならばともかく、具現化系が創った近接念獣に負ける程にヤワではない。いくら相手がデカくて強い恐竜の念獣とはいえ、いちいち負けてはいられないのだ。

 それにここまでデカい相手で、しかもほとんど四脚獣に近いとなったら攻撃手段も限られる。噛みつきや爪撃などに当たってやる程鈍くはないし、となれば広範囲の尾撃くらいしか有効攻撃はない。

 そう思っているうちにティラノサウルスは半身になり、尻尾で薙ぎ払ってくる。

(そらきた)

 巨大な鞭のような攻撃を跳躍して躱し、宙に浮いた俺に向かって間髪入れずに開いた顎で噛みついて来る。

 だが、しかし。

「効かねぇよ!」

 その横っ面を氷棍で引っ叩き、無理矢理口の方向を変えさせる。俺の横にある何もない空間を噛みつくティラノサウルス。

 ギロリと黄色い眼で俺を睨む。その縦に割れた瞳孔に向かって俺は腕を振りかぶる。

煌々とした氷塊(ブライトブロック)

 右手の手首から先に円錐状の氷を創り出し、破壊力と貫通力を増した一撃を準備する。氷棍は技を振るうのに適した(タイプ)だが、これは単純に力を突き詰めた(タイプ)。隙が大きい為に実力者には使いにくいが、こういうタフなパワー馬鹿にはうってつけだ。

氷柱(ツララ)抉砕(ケッサイ)!!」

 その一撃はティラノサウルスの眼球の奥にある脳にまで達し、破壊した。

 

「異国の勇者様のご活躍に感謝を。

 おかげさまで悪しき獣は退けられ、新しい結界は張られました。これで向こう数十年、次代の神官が結界を張るまで時を稼げましょう」

 今は夕方。24時間の防衛に成功した俺は、神官アリエットがいる庵へと戻り、深々と頭を下げるアリエットを見ている。それと同時、申し訳なさそうな表情をしている長老ヒラも。

「ここまで尽力して下さった方に、お礼だけというのも申し訳ありません。せめて『一坪の密林』、そして『山神の庭』の真実をお教えしましょう」

「し、神官アリエット! それは……」

「いいのです。改めて結界を張れた今、義理を果たさなければなりません。長老ヒラ、あなたの為にもね」

 そう言って神官アリエットは瞼を閉じて上を向く。

「結論から申しましょう。『山神の庭』はこの世のものではありません」

「この世のものでは、ない?」

 いきなりぶっ飛んだ説明をぶっこんで来たな、オイ。

「ええ。麓の村にあるドドビオンに伝わるいつか辿り着く場所、すなわち幽世(かくりよ)のことです。そこでは生きていた頃の姿を失い、動物となって広い山野を自由に駆けて過ごすのです。

 豊富な木の実、清らかな水。穏やかに過ごすに満ちたものがそこにはあると言われています」

 神官アリエットの言葉に、辛そうに悲しそうに恥じ入るように顔を伏せる長老ヒラ。

「しかしそれを知っていいのは身の清らかな神官のみ。それ以外の者がその事実を知ってしまったら穢れが入り込み、『山神の庭』は醜悪な地獄と化すとも言われているのです。

 そうと知らず、その秘密を暴いてしまったものが何を隠そうここにいる長老ヒラ」

「――若気の至りだったのですじゃ」

 ぽつりと言う長老ヒラ。しかし言葉は続く。

「もう40年も前の話になろうか。村の秘密とされた『山神の庭』に強い興味を惹かれた儂は、先代の神官を謀ってその秘密に辿り着いてしもうた。

 先代の神官は命を削りながら『一坪の密林』の清らかさを保ち、やがて力尽きた。そして今代の神官アリエットも全力を尽くしたが、『山神の庭』を汚される一歩手前まで来てしもうた。

 長い間ずっと結界を張るのに必要な勇者を探しておったが、時間も差し迫る中、もうダメかとも思った」

 そう言った長老ヒラはがばりと地に伏して、俺に頭を下げる。

「礼を、強く礼を申しますぞ! これで我が人生の恥が雪げたっ!」

「後は秘密を知った者が――長老ヒラが『山神の庭』に向かえば、これから先の代の神官も苦労はなくなるでしょう。他に秘密を知る者がいなければ、俗世の邪念である悪しき獣が襲来することもなくなるはず」

「っていうか、その理論で言うと秘密を知った俺はどうなるんだ?」

 至極当然の疑問を投げかけるが、神官アリエットはくすくすと笑うのみ。

「大丈夫ですよ。異国の勇者さまが成し遂げた24時間の荒行、それによって貴方も神官と同様に清らかな身となりました」

「と、いう事は……」

「ええ。残るのは長老ヒラのみです」

 そう言って神官アリエットは庵の中へと入り、長老ヒラと俺も続く。

 果たしてそこには、一坪の大きさに区切られた盛り土があった。

「ここが『一坪の密林』、つまりは『山神の庭』への入り口です。

 さあ、長老ヒラ」

「分かっておりまする」

 長老ヒラはその盛り土の上に立ち、手を組んで天を見上げる。

「…………――――

 ォォォ、山の民がいずれ辿り着く幽世(かくりよ)よ。彼の身についた穢れを祓い、その罪人を導きたまえ」

 神官アリエットが言うと同時、一坪の密林の地面から半透明の木々が生い茂る。

 それはほんの少ししか奥行きがない筈なのに、奥が見通せない。

「――さらば」

 そう言って長老ヒラは幻想の密林に消えていく。

 そして彼が見えなくなる瞬間に煙が立ち上り、幻想的な光景の代わりにその場に残されたのは1枚のカード。

 

 『一坪の密林』

 山神の庭と呼ばれる巨大な森の入口。

 この森にしかいない固有種のみが数多く棲息する。どの動物も人によくなつく。

 

 ピクチャーには、森へ向かう一匹の獣が描かれていた。

 

 

 

「無事だったかい!」

「マチ、待っていてくれたのか!」

「当然さ」

 逆走してドドビオンに戻り、長老の家を出たところでマチが駆け寄ってきた。

 長老の家がキーポイントだということは、気がつく者は気がつく。そう判断しただろうマチはその入り口でたむろする事を選ばずに監視のみに留めたのだろう。ここら辺は流石に機転が利く。

「まずは落ち着けるところに行ってからだな」

「そうだね」

 頷くマチを連れてドドビオンを出て、30分程歩く。更には円とサーヴァントも活用し、監視者がいない事を確認。

 誰にも聞かれていない事が確かになってから、俺は一坪の密林が収まったバインダーを見せる。

「難易度は高かった、流石ってところだな」

「そんなことより、バハトが無事でよかったよ」

「ははは、心配してくれるのはありがたいな」

 和やかな空気が流れる。

 それはそれとして。

「俺のバインダーの指定ポケットには『一坪の密林』しか入れてないし、複製(クローン)を使ってくれ。

 とっとと独占しちまおう」

「え?」

「え?」

 俺の言葉に驚いた様子のマチに、俺が驚く。

 何か変なこと言ったかな?

「どうした?」

「『一坪の密林』は独占しない方がいいと思うんだけど……」

「え、何で?」

 素で聞く俺に、マチが説明してくれる。

 

 一坪の密林を独占しないメリットは2つ。奪取の危険性を減らすことと、マチがソロプレイヤーであることが強調される為だ。

 まず前提として、マチはソロプレイヤーであることを装っている。今回の一坪の密林のクリアもマチが成し遂げたことにして、カードはマチに託すつもりだった。

 ここでもしも独占してしまうと。それはどうやって? ということになる。複製(クローン)は指定ポケットカードの中から1枚をランダムに選んでコピーするが、指定ポケットカード枚数が90を超えるマチが一坪の密林を複製(クローン)でコピーできるかというと、かなり分の悪い賭けになる。かといって擬態(トランスフォーム)はレア度が高く手元にはないし、ソロプレイヤーが2枚も3枚も入手するのは現実的ではない。

 普通に思考すれば、ここにまだ知らない協力者がいると思った方がいい状況になる。

 更に独占した場合、マチのバインダーの総数144枚のうち3枚が一坪の密林で満ちることになる。堅牢(プリズン)で防御するにしても、フリーポケットにある一坪の密林は守り切れない。聖騎士の首飾りで防御していたとしても、おおよそ120分の2の確率で徴収(レヴィ)で奪取されてしまう。

 しかし独占していなければ徴収(レヴィ)ならば120分の1、複製(クローン)を使われたとしてもおおよそ90分の1でしか成功しない。敵がカードを奪える可能性が半減するのだ。これに堅牢(プリズン)を使えば、事実上複製(クローン)でしかカードを入手する可能性はなくなる。

 そして幸いなことに堅牢(プリズン)ならゴン達が持っていた筈である。Sランクの呪文(スペル)カードであるから、オリジナルは取っておこうという話になっていたはずだ。ここは擬態(トランスフォーム)がなくてオリジナルを使わざるを得ないとしても防御しておく場面だろう。

 

「――なるほど」

 マチの説明を聞き、自分の浅慮が恥ずかしくなる。確かに他のプレイヤーからどう見られるのかを考えた時、独占しない方が情報戦として有利だ。

「問題は他のプレイヤーが『一坪の密林』のイベントをクリアできるかどうかだけど……」

「無理無理。それこそ幻影旅団レベルじゃなきゃクリアさせてくれねーよ」

 マチが心配そうに呟くが、俺は楽に首を横に振る。ツェズゲラでも多分無理だ。基礎を疎かにした奴では、ティラノサウルスで詰むだろう。あれは小手先でなんとかなる相手じゃない。

「OKだ。マチの案で行こう。

 とりあえず、ゴンたちと合流して堅牢(プリズン)を譲ってもらうところからだな」

「そうね。なるべく早く堅牢(プリズン)で防御したいところだわ」

 俺とマチは頷き合う。

 これで残りは3種。一坪の海岸線と、ツェズゲラ組が独占している2種のみ。マチのバインダーに大天使の息吹と妖精王の忠告はないが、これらは俺が持っている為に補充はいつでも可能。

 名目上、マチは94種のカードを持っていることになる。奇運アレキサンドライトを回収したのも、クリア寸前のプレイヤーがいるということで一坪の海岸線の攻略を進めさせる為だ。

「それが済んだら、攻撃呪文(スペル)を集めなくちゃな」

「ええ。できればツェズゲラ組から独占カードを奪いたいもの」

 奴らが独占しているカードは。『浮遊石』、カード化限度7枚と『身代わりの鎧』、カード化限度8枚。流石シングルハンターのツェズゲラ、いいところを押さえている。

「できればトクハロネ組から奪ったのと同じ方法でカードを奪いたいな」

「それをするにも攻撃呪文(スペル)を集めないと。いや、その前に取引で片方の独占カードを崩したいね」

「そうだな」

 神の共犯者を使った攻撃ならば強奪(ロブ)でほぼ間違いなく目的のカードを奪えるだろう。ただし2枚も奪えると思うのは虫がいいと言わざるを得ない。その前に交渉で独占カードを1種にして、その後に残りの1種を強奪(ロブ)で奪うのが妥当か。

(まあ)

 まだ強奪(ロブ)も持っていないのだが。取らぬ狸の皮算用極まりない。まずは攻撃呪文(スペル)を集めるところから始めなくてはならないだろう。

 

 そうした話し合いから3日後。

『他プレイヤーがあなたに対して交信(コンタクト)を使いました』

『初めまして、こちらはゴレイヌというプレイヤーだ。

 ハンターバハトと一度膝を交えて話がしたいのだが、どうだろうか?

 こちらは『一坪の海岸線』について有力な情報がある』

 ……ゴレイヌさんから交信(コンタクト)がかかってきたんだけど?

 え、これ、俺もレイザー戦に参加する流れかな?

『苦労が絶えませんね、マスター』

『全くだ』

 苦笑気味に言うディルムッドの言葉に、がっくりと頷くしかない俺であった。

 

 

 

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