どんな題名にしたのかは今回のを見ればだいたい分かるかと思います。
短めですが、最新話をご賞味下さい。
煤けた様子で椅子に腰かけ、大きな手のひらで自分の顔を覆っているゴレイヌ。
「あ~、その、すまん」
「ごめんね、ゴレイヌさん……」
それに申し訳なく感じたのか、キルアとゴンが謝った。
「……いや、俺も戦略として正しいのは理解している。
だが、ちょっとだけショックでな」
謝罪は必要ない、けど少し時間をくれというゴレイヌ。
彼にはおおよその状況を説明した。ゴンが正攻法で攻略を目指し、俺がそのサポートをするという戦略を取っていたこと。
大天使の息吹も俺が持っている為にゴン組で独占が成立していることと、
これらを説明したが、手を組んでいたゴンたちと俺がグルであるという事実と、俺とコンビを組めると思っていたのに後から参加した仲間の1人という扱いになってしまったことで少々大きめのダメージを受けてしまったゴレイヌであった。
それでも秘密裏に手を組む重要性を呑み込めるだけ、やはりゴレイヌは器が大きい。感情的に責め立てるでなく、現状を把握したゴレイヌはなんとか頭を切り替えて俺たちに質問をする。
「そもそも、5人が手を組むとは普通じゃないが、どういった経緯だ?」
「俺は別用でグリードアイランドに入ったんだが、そこでゴンたちと出会ってな。俺の用事も終わったし、ゴンたちを手伝うことにしたんだ」
「以前からの知り合いだったって訳か……。
ちなみにどんな関係か、聞いてもいいか?」
「ユアは妹でビスケはグリードアイランドで出会った仲だが。ゴンとキルアはプロハンター試験で出会った縁だ。仲間でもあるし、念の師弟である」
「ああ、噂に聞く裏試験か」
呟くように言うゴレイヌに頷いておく。プロハンター試験に受かった者たちのほとんどが短期間のうちに念能力者として目覚めるのはそれなりに有名な話だ。知っていても不思議なことではない。それに己の陣営の素人を念能力者として目覚めさせることも珍しい話ではない。まあ、念に目覚めたばかりの初心者は使い物にならないから、即戦力を欲しがるところではそんな悠長なことをせずに念能力者を雇うのが普通である。ノストラードファミリーや、グリードアイランドを攻略するバッテラが良い例だろう。
ともかく、それで俺がゴンのサポートをしていたことは受け入れてくれたらしい。話は次に移る。
「それで、取り分はどうなる?」
「素直にこのメンバーで受け取った金額を等分でよくないか?」
「それでいいんだな?」
確認するようにゴレイヌが言うが、この中で金を目当てにしているのはビスケくらいだ。そんな彼女も等分なら不満もないらしく、誰もごねることなく頷く。
ゴレイヌとしても後から参加した以上、取り分が少なくなることを危惧したのだろう。こちらとしてはゴン組とゴレイヌ独りの指定ポケットカード数が拮抗していることから、半分を請求されるかとも思ったが。そこら辺のバランス感覚は狂っていないらしい。平等な仲間として手を組むことが成立した。
――まあ、マチの事は話していないんだけどね? 彼女には俺の取り分を半分渡すから、嘘は言っていないということで勘弁してほしい。
「とりあえず、指定ポケットを合わせるのは最後でいいか?」
「ああ。どちらかが脱落するかも知れん。2組のプレイヤーグループが協力しあう形がいいだろう」
俺の言葉にゴレイヌが頷く。俺の真似をするような形にもなるが、協力しているという情報を隠すのも有効だ。
それにゴレイヌの言う通り、どちらかが殺されたりしてゲームを脱落するかも知れない。ならば、カードを一箇所にまとめるのは危険だという意見が普通。この例に漏れるのは本人に自信がある上に
とにもかくにも、これで合わせて73種の指定ポケットカードが集まった。
「ところで確認したんだけど、私たちは6人になったわよね? 『一坪の海岸線』のイベントには挑戦するのかしら?」
そこで確認するようにユアが口を開いた。腕利きが最低でも8人必要という『一坪の海岸線』イベントのクリアが近づいたが、一方でカードを手に入れてしまえば奪われる危険性も増える。大天使の息吹を独占している上に
「「する」」
それに口を揃えたのは俺とゴレイヌ。ゴレイヌはともかく、俺が即答したことでユアがキョトンとした顔になる。
苦笑するゴレイヌ。面倒そうな様子を見せずに説明する辺り、やはり彼は人が好い。
「挑戦条件が俺たちしか知らないのなら良かったんだけどな。カヅスールたちにも知られている以上、いつかは漏れる情報だ。
マチ=コマチネはソロプレイヤーだから置いておくとして、ツェズゲラ組にはいつクリアされるかも分からん」
「それにカード化条件枚数の3枚という縛りがなくなった訳でもない。誰かがクリアしたら独占されるからな」
「でも、奪われる可能性も大きいわよ?」
それについてどうするのか。ユアは重ねて聞くが、その答えはユア自身が言っている。
「ああ。『一坪の海岸線』をエサに、ツェズゲラ組とマチ=コマチネの独占カードを削る」
「他に独占カードがなければクリア目前の相手にこんな手は取れないが、こちらが『大天使の息吹』を独占しているなら話は違う。しかも独占をし損なった体だ。十中八九、相手はゴンたちを舐めてくるさ。勝算はある」
SSランクのレアカードだ、エサは無茶苦茶にデカい。これならいくらなんでもツェズゲラも釣れるだろうという目論見があった。
「で、だ。そこで『一坪の海岸線』の攻略に話を戻すぞ」
そう仕切り直すゴレイヌ。確かにイベントクリアをして一坪の海岸線を独占しなければこの作戦も絵に描いた餅だ。
「最低でも後2人の手練れが欲しいが――バハト、アンタに心当たりはないか?」
「すまんが当てにしないでくれ」
マチの情報は出さない。やるならツェズゲラたちと組んで一坪の海岸線イベントをクリアし、最後にマチの情報を公開してカードコンプリートという流れの方が理想だからだ。これはヒソカを仲間にした後でも変わらない。っていうか、ヒソカに俺とマチが繋がっていることを知られたくない。
しかしそうなると手詰まりだ。
「っていうかさ、バインダーのクロロが気になるんだけど」
ゴンがポツリと言い、その声を拾う。
「クロロ?」
「あ、バハトにはまだ言ってなかったか?」
そう疑問をあげるキルア。ええ、ええ。聞いていませんでしたよ? とっとと聞きたかったですよ?
内心でそう思いつつ、ゴンのバインダーにクロロ=ルシルフルという名前が載っていたことと、クラピカに確認して本物のクロロでないことを確認したことを聞く。
「っていうこと。俺としては旅団の誰かだと思うんだけどなー」
「でも自分自身がゲームに入って他の名前を使うって変じゃん」
キルアとゴンが言い合いを始める寸前で、俺は答えを口にする。
「ヒソカだな」
その名前に、ユアとゴンにキルアがぎょっとして俺を見る。ビスケとゴレイヌは誰だそれ? という表情。
「あの変態ピエロ!?」
「マジか!? どうしてそう思ったんだよ、バハト」
気色ばむ子供たち。俺は答えが分かっていたとはいえ、理論立てて説明する。
「いくつかの条件があるんだけどな。まずは旅団の仲間というのがあり得ない理由。
ゴンの考えもそうだが、たかがゲームのプレイヤー名で自分のところのボスを名乗る訳があるか?」
作戦の一部ならばともかく、本当にたかがゲームの名前である。しかも幻影旅団はクロロを特に尊敬している節もあるのだ。念を封じられている団長の名前を、念を使えないと参加できないゲームで名乗るには忌避感が強く出るだろう。
「旅団が名乗らないのは分かったけど、なんでヒソカ?」
「次にクロロの偽名を使うメリットだ。赤の他人が幻影旅団のリーダーを名乗るなんて怖すぎると思うだろ?」
「そういう損得勘定ができない馬鹿って可能性は?」
「そういう馬鹿はクロロの名前にも辿り着けないさ。そもそも、タイミングが合い過ぎだ。
クロロの念が封じられた数ヶ月後にグリードアイランドでクロロの偽名を名乗る? こんなもの、その前提条件を知っているとしか思えない」
以上を突き合わせると、クロロの偽名を名乗る人間は極めて限定的だ。
「俺かクラピカ、もしくはヒソカ。『クロロ=ルシルフル』の正体はそれに限られる。
消去法でヒソカだ」
俺かクラピカなら、幻影旅団へ接触する方法に使うかも知れない。もっとも、接触後に起こるのは殺し合いだろうが。少なくとも旅団の様子見の手間を買える価値があるならば名乗るかも知れない、といった具合だ。
その可能性が消えている今、ヒソカしかあり得ない。
「『クロロ=ルシルフル』がヒソカなら、その目的は?」
「旅団との接触、は間違いないだろうな。他にクロロに近づく輩がいるとも思えない。
もしかしたら除念師の受け渡しか……」
深刻そうに他人事のように言うが、ヒソカに除念師を売ろうとしているのは他ならぬ俺である。
そうと知らないゴンやキルアは気色ばむ。
「――止めないと」
「どうやってだよ。相手はヒソカだぜ?」
瞳に炎を宿すゴンだが、キルアは冷静だ。ヒソカを止める手段はないと理解している。
「あ~。事情はよく分からんが、とりあえず『一坪の海岸線』攻略に集中してくれないか?」
そして話が脱線していることに気が付いたゴレイヌがそう言うが、逆にそれを聞いて喜色を浮かべるキルア。
「それだ!」
「どれよ?」
「ヒソカを仲間に誘うんだよ!
なら、戦力になりつつ監視もできる仲間に引き込むのが一番だ!」
「そういう事なら俺に任せておけ。ヒソカを仲間に引き込むのにとっておきの情報がある」
除念師の情報がな。
「ふむ。まあ、お前たちが推薦するならいいか。他に当てもないしな」
ゴレイヌも一定の理解を示すことで話がまとまる。
とりあえず直接会って話をしようと、
タイミングがずれたせいか、辿り着いた時にはヒソカは水浴びを終えてズボンを履き終わったところだった。
――うん、危ない。ユアに凶悪なモノを見せつけて来たのなら、ちょっとヒソカを殺していたかも知れん。サーヴァントを解禁して。
「おやおや……♠ これは予期せぬお客さんだ♥」
余裕たっぷりに言うヒソカにゴンは直球で聞く。
「ヒソカ……。除念師を旅団に引き渡しにきたのか?」
馬鹿野郎、と思うが言った言葉は戻らない。核心にいきなり切り込んだゴンに――ヒソカはきょとんとした顔で聞く。
「ん? 確かにボクは除念師を探しているけど、それがどうかしたのかい?」
「探している?」
「そうさ♣ クロロを除念すれば遊べるからね♦」
そうしてヒソカはいけしゃあしゃあと嘘と
「で♥ 君たちはボク――というかクロロに何の用だい?」
今度はヒソカが聞いて来る。それに答えるのはゴンとキルア。ゲームのイベントクリアの為に強い仲間を探しているというもの。
それを聞いてヒソカは少しだけ悩む。
「ヒマだしいいよ、と言いたいところだけど♥」
ニィと嗤い、俺を見るヒソカ。
「見違えたね、バハト♠ どうやら運命の人との逢瀬は終わったみたいだ♣」
「…………」
「じゃあもうボクが壊しても――いいよね?」
ゾワリとするオーラを発するヒソカに、仲間たちが一斉に臨戦態勢を取る。特に俺を害されると思ったのか、ユアの殺気が凄い。流石にヒソカには劣るが、それでも凄い。
俺はそれら全てを柳に風と受け流し、肩を竦める。
「ヤダって言って止める奴じゃないよなぁ」
「……君にやる気はないみたいだね♦」
「まあ、ない。だから命乞いでも聞いてくれないか?」
親指で離れた場所を指さす。
ヒソカもいきなりの遭遇戦で殺し合いになるとは思ってなかったのか、そもそも
「バハト……」
「お兄ちゃん……」
「心配するな、ちょっと交渉してくるだけさ」
複雑そうな仲間たちを置いて、声が届かない場所にいるヒソカの下へ向かう。
ここまで余裕があるのは、ヒソカにいまいちやる気がないことを見抜いているのと、それからもちろんサーヴァントを侍らせているからだ。
余裕綽綽、そしてフラットな精神状態にあるだろうヒソカの下にまで赴く。
「で、仲間に内緒でボクにどんな話だい?」
「除念師の情報、いる?」
俺の言葉は流石に予想外だったのか、ヒソカの目が大きく見開かれた。
そしてクックッと笑いだす。
「意外だねぇ♥ 君が仲間を裏切るような真似をするなんて♦」
「こっちにも事情があってな。俺が望む対価は2つ。『一坪の海岸線』入手までの協力と」
「と?」
「クロロの命」
「――なるほど♠」
念が使えなくとも、逃げるクロロを仕留めるのは困難である。どこかの町にクロロが潜んでいるというならば百貌のハサンで殺せる可能性もあるが、どこの国にいるのかも分からないというのならばお手上げだ。
という体で、ヒソカに旅団を本格的に敵対させてシャルナークを葬る作戦である。奴とクロロは特に相手をしたくない。
ちなみにここでクロロを殺すまで俺に手を出すな、等とは言わない。どうせヒソカはそんな約束を守る気がないから、下手に先入観を持つ方が危険なのだ。
「それが条件ならば喜んで♣」
「オーケー、交渉成立。除念師の情報は半金払い、『一坪の海岸線』を入手したら教える」
そう言って右手を差し出す。ヒソカも薄っぺらい笑みを浮かべながら右手を差し出して。
軽く握手を交わすのだった。