レイザーが念弾を創り出し、ボポボの顔面に向かって投げつけた。余所を向いて他の海賊たちに呼びかけていたボポボはいきなり投げつけられた致死の念弾を避けられず、その頭を破裂させた。
うむ、いい攻撃だ。
ボポボはそれなり以上の念の使い手ではあったし、纏もしていた。そのボポボの警戒をかい潜り、殺気を消して必殺の一撃を叩き込む。念能力者としてだけでなく、武闘家としても優れているのがこの攻撃だけでも見て取れる。
と、そんな呑気な事を考えている俺はさておき、人数合わせに呼んだメンバーは味方同士で殺し合いをしている海賊たちを見て恐れ慄いている。まあ、分からんでもない。軽く投げられたあの念弾であの威力だ、一流の念能力者でも相対するのは命懸けだろう。並以下の彼らでは何を況や、である。
俺ならば堅で勝負になるからこその余裕である。
そして仲間殺しをしたレイザーに、ゴンのオーラが怒りで力強く猛った。普通そうだが、ゴンは特に仲間殺しは許容できないらしい。
逆にユアはやや萎縮している。ヒソカの時もそうだったが、ユアは強力な念能力者を相手にした場合、怖気づく傾向にあるな。まあ、これは俺もブーメランになるから言わないけれども。
「よし、次はオレがやろう」
ボポボを殺したレイザーが、その威圧感を保ったまま競技の参加を口にする。
その背後でボポボの死体を片付ける彼の配下の海賊たち。ここまでくれば彼らはモブなので、気にしなくていいだろう。ついでに言うとこちらの背後のモブも五月蝿い。けどまあ、奴らはツェズゲラの仲間たちに任せておけばいいか。
レイザーとキルアがやり取りをする中で、俺はレイザーについての考察を纏める。
彼は放出系の念能力者で、念弾を撃つのではなく投げるタイプだ。
撃つタイプの代表格といえばフランクリンだろう。彼の能力である
そしてレイザーもフランクリンにバケモノ具合で負けていない。念能力者としてはシャッチモーノの上を行くであろうゴレイヌに、ただの一撃で拭い去れない死のイメージを植え付けたのだ。まさか雑魚と見做せる筈もない。これでも全力でないとか、逆に笑えてくる。
レイザーの能力についてもっと深く考えると、念獣とスパイクについての考察も必要だろう。
元々彼は凶悪犯罪者である。その能力の基本にスポーツがあるのは不思議ではないが、殺しにかかる彼の能力はもうワンランク上だろう。とはいえ、レイザーの念獣に他の能力があると思っている訳ではない。要するに彼の念獣は、レイザーの攻撃を多角的にする為の補助なのだ。例えばビルなどの入り組んだ場所や高所でも、廊下の角や窓の外に念獣を配置してそこに念弾を投げ込めば念獣がパスを回して直線では狙えない相手に攻撃を命中させられる。十数体の念獣を扱えるならば、どれほど緻密な攻撃ができるのか。
平地でもその優位性は揺るがない。ドッジボールでは攻撃回数は1度のみだが、ルール無用の殺し合いならばレイザーは無数の念弾を放ってくるだろう。念獣たちはそれをパス回しして、いつでも攻撃に転じれる攻性の檻として機能するのである。俺も相手をしたら、サーヴァントや
トドメにレイザーの最強攻撃であるスパイクである。念弾を創り出してトスを上げる一段階目で念弾の硬度を上げ、レイザー自身が打つスパイクで威力と速度とオーラを上乗せする。隙もあろうが、威力も高いタイプの攻撃だ。ゴンのジャジャン拳に近い。
これだけ考察を上げて悲しいのは、レイザー自身が強い為に攻略方法が特にない事だ。本体が強いタイプなので、彼を上回る力強さを見せつけられれば勝ち、でなければ負けというシンプルな結論が一番に出てしまう。ヒソカのような能力者の搦め手が効かない訳ではなかろうが、地力が高くなければ話にならないのがレイザーなのだ。
「オレの
8人、メンバーを選んでくれ」
そう言って7体の念獣を創り出すレイザー。それと同時に仲間たちが気が付く、このイベントはレイザーが最後に帳尻を合わせるシステム。彼に勝てない限り、イベントクリアはないのだと。
(汚い、流石ジンの仲間、汚い)
システムのあまりの悪辣さに、知ってはいたが呆れてしまう。よくもまあ、ここまで性格の悪いシステムを組めたものだと。そりゃあ、メンバーを1人でも変えれば再挑戦可能にしなければいつまで経ってもクリアできないだろう。
戦いたくないと喚く数合わせのメンバーだが、心配するな。お前らは戦わなくていい。
(オレ、ユア、ゴン、キルア、ビスケ、ヒソカ、ゴレイヌ、ツェズゲラ。ジャスト8人だ)
人数に過不足はない。彼らが居なくなっても何の問題もないのだ。
それはさておき、ゴンは戦いを始める前にボポボを殺害した件についてレイザーを責め始めた。しかし当然ながらレイザーの反応はしれっとしたもの。ボポボは確定11件の強盗殺人や強姦殺人を犯した死刑囚だったのだと説明すれば、ツェズゲラもプロハンターは絶対服従を条件に死刑囚を雇用するのはままあることだと口添えする。
ボポボの処刑は当然であり見逃す方が悪だと言い、処刑をしたレイザーはゲームマスターの一人であるとツェズゲラが看破する。
ボポボが殺されて当然の悪人だったからか、それとも急にジンに近づいた実感が出たからか。ゴンは先ほどまでの怒りを霧散させてレイザーにジンについて問いかける。そしたらゴンに気が付いたレイザーが当然の如くやる気を出す訳で。
「お前が来たら手加減するなと言われているぜ、お前の親父にな…!」
(勘弁してくれ……)
げんなりしながら倍化したオーラを放つレイザーを見て思う。ちょっとコレ、洒落にならないヤツ。
しかもそれを見てゾクリと楽しそうな表情をするゴンと、更にそれを見てニタリと嬉しそうな顔をするヒソカ。マジで勘弁してくれ。
「ユア、お前が外野に行っとけ」
「ん、分かった。正直、ちょっと自信ないわ」
「ちなみに外野を攻撃してはいけないルールはなかったから、注意しろよ?」
「…………」
俺の忠告にげんなりしながらユアが外野に向かう。
『マスターそっくりですね。流石、兄妹です』
『ディルムッド、黙っておけ』
念話でディルムッドが茶化してくるのは緊張を適度にほぐす為だと信じている。何せ殺しにはかかってこないだろうが、死んでもいいと思っているだろう相手との戦いだ。しかも相応の実力者ともなれば緊張もする。
そして
「先手はくれてやるよ」
「……なめやがって」
余裕たっぷりに言うレイザーに、冷静ながらも怒りを宿したゴレイヌが応える。
拾い上げたボールを4番に向かって投擲。容易くアウトを取れた上に、勢いがついたボールはこちらの外野に落ちる。
ユアから戻ってきたボールをゴレイヌが受け取り、再度投擲。今度は5番をアウトにした上で、またもやこちらの外野にボールが落ちた。
「オッケー、二匹目!」
「なんだ、チョロイぜ!」
ゲームの外からツェズゲラの仲間たちが声援とも野次とも付かない声をあげる。
確かに流れはこちらに来ている様子だが、まさかこの程度の訳がないとは未来を知らなくても分かる。
「よーし。準備OK」
「あ? 今、何て言った?」
全く余裕を崩さないレイザーが更に挑発染みた言葉を発する。
2つのアウトを取ったゴレイヌが聞き返すが、レイザーの笑みは消えない。
「お前達を倒す準備が整ったって言ったのさ」
普通に考えれば安い挑発だ。それはゴレイヌも分かっているから、別に乗った訳ではない。
ただ単に、敵が恐るるに足らずと見て、勝負を決めようとしたに過ぎない。
「面白ぇ、やってみろよ!!」
念獣に投げたのよりも更に力強いその一投。レイザーはそれを、左手一本で鷲掴んで止めた。
そのあまりに自然な様子に、逆に緊張感が抱けない。唯一、自分の弾の威力を知っているゴレイヌだけが冷や汗を流すのみだ。
「さぁてと。反撃、開始だ」
そしてレイザーは、コートの最奥から軽く振りかぶり、有り得ない豪速球を投げ込んでくる。
狙いはただ一人警戒していたゴレイヌの顔面。しかしそれでも彼は反応できない。パスだと思った油断が、回避する余地を消していた。
更に、ゴレイヌは念獣を出していない。
「
だがこの時この場には俺がいる。
氷棍をバットに見立て、ゴレイヌの顔面に向かっていたボールをスイングして強打。
「ッ、ッッッ!!」
ボールの威力に氷棍と俺自身の体が軋みを上げるが、いける。振り切れる。
「ッレラァ!!」
氷棍で弾き返したボールに、弾道操作の念を込めて打ち返す。それはレイザーの隣にいた2番の念獣の頭に命中し、念獣の頭は弾け飛んだ。そのままボールは反対側の壁に当たって反射、敵の内野に戻ってレイザーが受け止めた。
「しゃあ!
「ほぉ、いいバッターだ」
「ってかユア、ちゃんと受け止めろよ!」
「できるかっ! 死ぬわっ!!」
レイザーは感心したような息を漏らし、キルアとユアがじゃれ合う。
「いや、本気出せよ。強いぜ、コイツ」
ふざけている場合ではないと、ユアとキルアを窘める。
対してレイザーは薄っすらとした笑みを消さないまま、ボールを持った腕を振りかぶる。
「すまん、助かった……」
「気にすんな、ゴレイヌ。それよりも気を抜くな、来るぞ」
「正面からは得策ではない、なっ!!」
外野に向かってパスを送るレイザー。そして四方を囲った念獣たちは高速のパスを回す。
(速……)
目で追えない速さ。いや、そうではない。受ける一瞬と送る一瞬でフェイントを入れてくるおかげで、視線が幻惑されるのだ。これは、目で追えない巧さといえる。
これはもうどうしようもない。仲間のフォローまではできない。
『左っ!』
ディルムッドの忠告に従い、即座に左を向く。そしてそこには眼前にまで迫ったボールが。
(うぉっ!)
心の動揺は表に出さないように、なんとか受け止める。
堅で正面から受け止めたからダメージはないが、芯まで響く衝撃である。
「バハト、ナイス!」
「いや、これちょっとマジで洒落にならない衝撃だぜ?」
ゴンが率直に褒めてくれるがオーラを集めていない段階でこれとか、ホント冗談ではない。本気のスパイクを、俺でも対応できるかどうか。
「ま、それは後で考えますか。
千本ノック、行きまーす」
受け止めたボールを上に放り投げて、氷棍を振る。それと同時に
当然の如く狙い通りの場所に飛んでいき、そしてボールが当たる直前に6番と7番が合体。13番となって、俺のボールを受け止めた。
「チ。ピッチャーのボールを撃ち返した方が威力が出るんだよな」
「ってか、あれアリかよ!?」
『アリです。合体も分裂もアリ。ですが、規定人数以上に増えるのは無しです』
キルアが文句を言うが、これは俺もズルいと思う。
「8人揃えさせたのに、向こうの人数が7人になっているが?」
『6番と7番が消滅し、13番に核が2つあります。つまり13番に6番と7番が重なっています。アリです』
やっぱりダメか、ここでは向こうがルールだ。
「さて、と。流石に手加減している場合ではなくなったな。
徐々にギアを上げていくか」
そう呟いたレイザーは、助走をつけて振りかぶり、狙いは――
「ツェズゲラ!!」
「ッ!?」
油断はもちろんしていなかった。だが、見えない。だからこそ、俺の声に従ってツェズゲラはそのオーラを体の前面に集中できた。更に顔面を腕でガード、受け止められないと判断し、致命傷を避けた。
そして命中。ツェズゲラは後ろに吹き飛ばされ、そして弾かれたボールはゴレイヌの側頭部に命中。
「あ」
それは誰の声だったか。少なくとも、ツェズゲラやゴレイヌの声ではあるまい。
ツェズゲラは後ろ回りにゴロゴロと転がり、ゴレイヌは当たり所が悪かったのか白目を剥きながら崩れ落ちていった。
俺は咄嗟にゴレイヌを支え、ゴンは転がったツェズゲラに駆け寄り、キルアはボールを確保する。
(動け、ビスケとヒソカ)
ビスケはまあ、冷静に戦力分析をしているようだが、ヒソカは楽しそうに様子を見ているだけにしか見えない。少しは働け。ほぼほぼ俺しか動いてないぞ、まだ。
『ツェズゲラ!!』
彼の仲間が心配して声をかけてくる。様子を伺うに、どうやら防御した両腕の骨にヒビが入ったらしい。ゴレイヌと併せて2人のプレイヤーが脱落だ。
退場していく2人を尻目に、作戦タイム。
「しかし、どうする? 俺じゃバハトよりも威力は出せないぜ?」
「ボクもちょっと無理かな♦」
「俺もあれ以上はちょっと難しいな」
そもそもボールにオーラを込めるのは放出系が問答無用に強く、その他の系統はオーラに頼らずにボールを物理威力で打ち出さなくてはならない。単純にオーラ分だけ威力が減る計算になるのだ。
もちろん急に放出系に為れる訳もなく、こちらはオーラを込めずにボールに物理威力を込めなくてはならない。
(まあ、レイザーもボールの防御力にオーラを割いているけどな)
そうじゃなければコンクリートを卵の殻のように砕ける念能力者たちの戦いの媒介に、ただのボールがなれる訳がない。
「……キルア、そこでボールを持って中腰で構えて」
そう。大砲のようだと称されたゴンの一撃に、ただのボールが耐えられる訳がないのだ。
レイザーはゲームマスター、
ジン? あいつは知らん。なんで最高責任者がゲームをほっぽってるんだよ。
ゴンの一撃で13番の念獣を倒し、残りは3番とレイザーのみ。
しかし、またもレイザーボール。奴からボールを取り戻さなくてはならない。
「くくく。まさかゴンがあれほどの威力を出せるとは。
これは俺もいいところを見せなくてはな」
そう言って、レイザーは指を鳴らす。それを合図に、1番と3番を残して、念獣をオーラに戻して回収していく。
溢れんばかりのオーラが、更に活性化して蠢いている。
「ったく、嫌になるな」
これでも2番の念獣を潰し、他の2体も残している為に回収したオーラは6割か7割といったところだろう。それでこの気迫なのだ。何度でも言うが、やってられない。
(世界は広いよなぁ)
溜息が出そうな俺と、レイザーの視線が合う。
「すまんがゴンと楽しみたいのでな。邪魔になりそうなお前から狙わせて貰うぞ」
「どうぞご自由に」
雑に対応した俺の声を聞きつつ、レイザーはトスを上げる。彼が最も威力を出せるバレーのスパイクの予備動作だ。
それを見て、俺も対応をする。
「勝負っ!!」
斜め上から打ち出された弾丸ボール。回避しても意味はなく、受けるには強烈過ぎる。
故に選択すべきは、迎撃。
棍を腰だめに構え、襲い掛かるボールに向かって垂直に突く。もしもこのまま弾いてしまえば、俺たちの外野まで飛んでいくだろう。
俺はアウトになるが、それならそれでもいいと思う。もちろん、そうはならないと確信していたが。
ボールと棍がぶつかった瞬間、今までの人生で最大の衝撃が腕に、それから全身に襲い掛かる。まるで棍を大地に思いっきり突き込んだかのような衝撃。痺れるなんてものじゃない、俺の体にぶつかってないのに、もはや痛い!
「が、ぁ……」
両腕がビリビリと振動する。見れば、レイザーのボールは真っ直ぐに突き出した俺の氷棍をガリガリと削っていく。
「冗、談っ!!」
気合いが入った。発とはすなわち俺自身だ。俺の
荒ぶる怒りをオーラに変えて、それを更に氷棍につぎ込んでいく。凝でなく、もはや硬に近くなったオーラを注ぎ込んだ氷棍は、それ以上削られることなく。
そのままボールは、ぽとんと俺たちの陣地に落下した。
『バハト選手、アウトー!! 外野へ!』
「あ」
やっちった。迎撃に集中し過ぎたせいで、捕球まで気が回らなかった。
まあいいか。
「お膳立ては十分かな。後は頼んだぜ、ゴン」
「うん、任せてよ!」
力強く頷くゴンを背中に、俺は足取り軽くユアが待つ外野へと向かうのだった。