本当は1話にまとめたかったのだけれども。日にち的な区切りの良さと、短くても投稿してみた方がモチベーションがあがるかなと、前後編にしました。
どうかお楽しみください。
手に持った水筒を傾けて、キルアの両手にその中身を注ぐ。
とくとくとくと。少しずつ、少しずつ。
「っ! っぅ……」
キルアは眉を顰めて少しだけ辛そうな声を漏らしながらも、その液体を受け止め続ける。
やがて水筒の中身がなくなり、その水が全てキルアに注がれたのを確認してから俺は少年に問いかける。
「どうだ?」
「完璧に治ったぜ。サンキュー、バハト」
キルアは両手を握って感触を確かめていたが、やがて確認を終えて俺に笑いかけてきた。
何をしていたかというと、キルアの治療である。彼はレイザーとのドッチボールでゴンの砲撃のような攻撃の補佐を素手でしていた為、その両手に深刻なダメージが残ってしまっていたのだ。ビスケ曰く、もう元通りにはならないかもと言われる程だった。
しかも悪いことに、ボマー達との戦いで大天使の息吹はキルアに使ってしまっている。大天使の息吹が有効なのは1回のみであり、それによってキルアを癒すことはできなかった。
そこで俺の出番である。治療効果を持つ能力である
キルアを全快させた今は、一坪の海岸線を獲ってから約30時間経った頃。ゴンがレイザー戦でオーラを出し切って寝込んだのを筆頭に、各々が一日の時間をかけて体力の回復に努めていたのだ。ちなみにキルアの次に重傷だったツェズゲラは大天使の息吹を使った。今更予備のカードを気にする必要もあるまいという判断だ。
時間も頃合いで、今からクリアに向けて最後の作戦会議を朝食をとりながらしようかという事になっている。時間を確認したキルアに促されて、ホテルに併設されているレストランの大きな個室へと向かう。ちなみにここは懸賞都市アントキバ。一坪の海岸線を獲ったソウフラビに留まり続けるメリットはないという判断だ。あそこは元々が漁村だから、ホテルの質がこちらの方が良かったという事情もある。
そして約束の場所に時間内に辿り着いた俺たちだったが、もう他のメンバーは揃っていた。
「遅かったな」
「時間内には収まっているだろ?」
ツェズゲラに言われつつ、俺はユアの隣にキルアはゴンの隣に腰掛ける。その際、ツェズゲラの眼差しが俺のオーラとキルアの両手を捉えたのは見逃さない。俺の消耗具合といい、ぐちゃぐちゃだったキルアの両手が良くなっている事といい、関連性を見出すのは簡単だろう。
気づいたことは間違いないだろうが、それには触れずツェズゲラが口を開く。
「まずは、クリアに関してだ」
この場に居る人数は11人。全て一流の念能力者である。必然、食事の量も凄い事になり、大きなテーブルいっぱいに乗せられた料理を食べ始めながら話がスタートする。
上品に匙を口に運びスープを飲むツェズゲラが司会になって会議が始まる。
「この場にいる全員の指定ポケットカードを合わせれば99種。おそらく、それを1つのバインダーに収めれば最後のイベントが始まる」
本当か、と問う者はいない。
「しかし、何が起きるかは全く分からない。できれば万難を排して準備をしたいが……」
「あ、俺はパス。体調が良くないし、ここで寝てる」
「私はお兄ちゃんについていくし」
「あたしもバハトの護衛をするよ」
俺とユア、そしてマチが最終イベントの参加に否を申し出た。
それを聞き、仕方がないと溜息をつくツェズゲラ。彼の本音はキルアを癒すよりも俺たちに参加して欲しかったのだろうが、そうはできない事情があった。俺の
ツェズゲラとしても俺の治癒能力の詳細を知っている訳ではない。なので、キルアを優先して治療した俺を責める訳にもいかないという事情があった。
「――まあいい。では場所だが、アントキバから1時間程歩いた場所によい平地がある。そこでなら想定される妨害の対処もしやすい」
「バハトの体調が戻るまで待ったら?」
「想定される妨害とは?」
がつがつと野性味あふれる食べ方をするゴンの素朴な疑問と、問題意識を共有しようとするゴレイヌの質問。司会の位置に収まったツェズゲラがそれらに丁寧に答えていく。
「今のところ他のプレイヤーの妨害はないが、時間が経てば経つほど他のプレイヤーもまとまりができてしまう。我々のクリアを許さんと徒党を組まれては厄介だ。こちらがなるべく電撃的にクリアをしたい事情がある以上、これ以上時間を置くのは得策ではない。
想定される妨害とはそういったプレイヤーの妨害ももちろんだが、イベントの内容によってはその場で戦闘が始まるかも知れん。その場合、広い場所の方が戦いやすい」
そう言って、後は出たとこ勝負だなと締めくくるツェズゲラ。
次に話題にするのはクリア報酬について。首尾よくいけば、この11人でクリア報酬を分け合うことになる。
「クリア報酬はバッテラ氏の賞金500億と、指定ポケット3種だ。
最終確認しておこう。我々4人が500億のうち85%を貰っていいのだな?」
「もちろんだ。425億、きっちり持って行ってくれ」
代表して俺が言い、他の面々も文句を言わない事を確認して、ツェズゲラ組がほっと安心の吐息を吐く。
そして次に俺が顔を向けたのは、マチに視線を送るゴレイヌ。
「ゴレイヌ、お前との約束は500億の15%である75億を
「約束を覚えていてくれて嬉しいぜ」
ゴレイヌに言わなかった最後の仲間、マチの取り分については彼との約束の取り決めになかった。それについてどういった反応が返ってくるのか気になっていたようだが、満足の行く言葉を俺から貰えたらしい。
続いて声をかけるのはビスケ。
「ビスケット、お前の取り分も同じでいいな?」
「約束通りだしね。文句は言わないわさ」
6人の取り分として約束した以上、ビスケも12億5千万以上の金は請求しないらしい。そう金については、だ。
「けど、指定ポケットカードの枠は1つ欲しいわね。グリードアイランドに来た目的はブループラネットだった訳だし」
「俺も指定ポケットカードの分は2つ欲しいな。お金はいらないから」
「ゴンがそう言うなら俺も同じく。2人合わせて指定ポケットカード2つ分でいいぜ」
ビスケとゴン、キルアが言葉を続ける。もしもこれを受け入れてしまえば、俺とユアにマチとポンズで50億という配分になる。割ればゴレイヌと同じ12億5千万だ。ビスケがそれ以上を欲している以上、これで引くのは流石に納得できない。
現に残された報酬を計算してユアの顔が不機嫌な事になっている。まだ了解をした訳ではないが、不服と言うことを全身で表現している。
それを見つつ、俺は唇に指を当てる。
「ビスケ、ゴン、キルア。それをOKすればそれ以上の報酬を求めないな?」
念押しをする俺に、ゴンは簡単に頷いて。キルアとビスケは訝しげに頷く。
それを確認した俺は、残された片目を緋の目へと変える。
「! おい、バハト、お前、それは……?」
「緋の目、か!?」
ゴレイヌは異常な変化に驚きの声を上げるだけだが、流石にツェズゲラはシングルである。世界七大美色であるクルタ族の緋の目の事を知っていたらしい。
「そうだツェズゲラ、俺はクルタ族の生き残りだ。これは俺が俺の仲間だと認めた相手にしか教えない秘密だ」
「それは確かに驚いたが……今の話となんの関係が?」
「クルタ族にはもう一つ特性がある。それは緋の目を発現した時、そのオーラの性質が特質系に変化するという、な」
俺は自分の左手にバインダーを持ち、能力を発動する。
更に同時に
「こ、れは……」
「詳しくは言えないし、言わない。が、俺の特質系の念能力だ。
だが、もしもクリア報酬を外に持ち出せるという事に道具を利用するなら、この方法でクリア報酬が倍になる。
賭けになることは否定しないが、俺はそれで十分だ。
「あたしはいいよ」
「……それって、クリア報酬を私も1枚選べるってこと?」
「そうなるな。ユアで1枚、俺で1枚。それからポンズに『千年アゲハ』を頼まれているから、もう1枚だ」
それを聞いたゴレイヌが驚きの声を上げる。
「オイオイ、そこはマチの取り分じゃないのかよ? ポンズって誰だ?」
「ポンズは俺たちの初期メンバーさ。事情があって、グリードアイランドを離脱した」
「詳しい事情は知らんが、そいつにクリア報酬を譲られてマチは構わないのか?」
ゴレイヌは気を使ってマチを見るが、彼女は薄い笑みを顔に張り付けるのみ。
「構わないよ。バハトには借りがあるし、ついでにこれで貸し一つ。片手間の仕事としては十分さ。
あたしがバハトの手伝いをした事なんて、渡された指定ポケットカードを持って逃げ回ったことくらいだからね」
「お前を野放しにするとひたすらプレイヤーキルをしそうで怖い」
「あたしに理解が深くて嬉しいよ」
クククと邪悪に妖艶に嗤うマチに、ツェズゲラ達とゴレイヌは唖然とする。
「ま、まあ。お前らが納得するならいいとしよう」
引きつった笑みでそう言うのはツェズゲラ。
話はまとまり、食事もほとんど終わっていた。
「では、これで決まりだ。私たちはこれから移動をして、1時間後に99種のバインダーを埋める」
「問題ない。もしも撤退が可能なイベントで俺の力が必要ならば戻って来てくれ」
「覚えておこう」
そう言ってツェズゲラが立ち上がり、彼に先んじてゴンとキルアが退室し始める。子供らし過ぎる彼らの行動に同い年のユアが苦笑を浮かべているが、色んな意味でこれはどうなんだろう?
(まあいいか)
そう俺が思っている間に移動組は場を去り、残ったのは俺とユアとマチの3人だ。
「じゃあ、部屋に戻って食後のお茶でも飲むか」
「いいね、賛成」
「あたしが淹れるよ、お茶なら」
「私の方がお茶を淹れるの上手だから私が淹れるし」
「……まあ、ユアがそう言うならあたしは構わないけどね」
やはりユアも子供なのだろう。何故かマチに対抗心をむき出しにした妹に苦笑をする。
そんなユアと俺を見て、マチはやれやれと肩をすくめるのだった。