いつも真にありがとうございます。
ずずず、と紅茶をすすりながら聞こえてくる声に耳を傾ける。
聞こえて来る声はイータかエレナか。指定ポケットカードについての問題を5択で提示してくるグリードアイランド最後のイベント、クイズ大会だ。
耳を傾けると言った通りに、俺もユアもマチも問題を解いていないが。
「あ、この答え知ってる。Aよ」
真面目にゲームをプレイしていたユアはたまに答えを知っている問題も出てくるが、バインダーを操作して問題を解くようなことはしない。何故なら勝者はほぼ決まっているからだ。
(ツェズゲラが参加しているもんな……)
これに尽きる。トレードも活用しただろうが、彼ほどに真面目にグリードアイランドを攻略した者はいないだろう。得られるモノのない負け戦に、真面目に付き合うつもりはない。俺やマチなんてゲームの本道から外れたプレイしかしてないもんな。
ついでに言えば、この場面でクイズが嫌いという理由で大会に参加しなかったビスケも相当である。ハンターはクセが強いのしかいないのは分かっているが、星持ちはこんな奴らしかいないかと思うと暗澹たる気持ちになる。ハンター専用ゲームと謳っているが、逆にプロハンターとは相性が悪いんじゃないかとさえ思う。そもそもこんな胡散臭いゲームに興味を持つプロハンターが何人居るのかという話もある。
ちなみに全力で俺は自分の事を棚に上げたので、そこは突っ込んではいけない。素知らぬ顔で紅茶を飲んでいる俺にツッコミを入れる奴もこの場にいないが。
そうしてまったりとと言うには長すぎる時間を過ごした俺たちだが、ようやく大会が終わって優勝者の名前が読み上げられる。
『優勝者は――バリー選手です!』
誰だよ。
「ツェズゲラの仲間だよ」
俺の顔色を読んだマチがツッコミを入れてきた。
「ああ、ツェズゲラの仲間ね。本気で興味がないから忘れてた」
「お兄ちゃん、それでも情報ハンター?」
「そういうユアも一瞬間抜けた顔をしてたけど」
マチがそう言えば、ユアは流れるように顔を逸らす。
そんな妹を見て、マチは溜息を吐いた。
「似た者兄妹だこと」
何も言えねぇ。
ま、まあいい。ツェズゲラの仲間だということは、ゴンが100種類コンプした事に違いはあるまい。
ベラム兄弟とかが襲ってくるかもしれないが、ツェズゲラ達もいるあの布陣を突破はできまい。特にツェズゲラは正真正銘のシングルハンターであり、汎用性が高いマネーハンターだ。更にこのゲームに誰よりも精通しているといっていい。心配するだけ野暮だろう。
「ゴンからの連絡を待つか」
「紅茶も飽きたね。どうする?」
「飲み物はもういいかな。結構飲んだし」
和気あいあいと話をしつつ、ゴンからの連絡を待つのだった。
2日経過。
ゴンはリーメイロに行き、ジンの仲間であるゲームマスター達と邂逅。ジンの情報、というか悪口を聞いた上でゲーム外にクリア報酬を持ち出すバインダーを入手する。
それとゲームクリアを祝ったパレードも開かれ、こちらには俺たちも合流して参加した。特にユアはゴン組の初期メンバーだし、パレードの主賓になる資格があるだろうと積極的に参加させた。俺やマチはゴレイヌと同じく一般参加だったが、まあまあ楽しめたと思う。ちなみにツェズゲラも普通に楽しんでいた。とはいえ一仕事終えた後の打ち上げ程度のノリで、良くも悪くもそんなに本気で参加していなかったが。
サーヴァントも警戒に出して旅団員がいれば仕留めようとも思ったが、連中は一人として顔を見せなかった。
さて、前座は終了。
グリードアイランドの港から脱出してヨークシンに程近い漁港を選択した俺たちは、最後に脱出する事になったゴンを待っている。
ちなみにゲームクリアを成し遂げたゴンがゲームを退去してから、3日かけてグリードアイランドに存在するプレイヤーを全員退去させる手筈になっているらしい。多分だが、そこでまた日数を空けてゲームを調整して再プレイ可能な状態にするのだろう。凝り性らしいジンならば、ブラッシュアップをするという基本を怠る事はないだろうから。いやまあ、飽き性でもあるっぽいし、グリードアイランドはもういいやってなるのかも知れないが。プレイする予定もないのでどうでもいい。
ちょっと時間がかかるゴンを待つ間に雑談する俺たち。とはいえ、ゴレイヌやツェズゲラ達は積極的に雑談をする性格でもない。知り合って間もないしな。
こういうところで打ち解けやすいのは、根が明るいのか黒いのかよく分からないキルアである。
「しっかしパレードに居たアスタとかカヅスールとかの顔は笑えたよな~。
どいつもこいつも表情が違ってて楽しかったぜ」
「ちょっとキルア、そんな事言うなんて性格悪いわよ。
プフフ」
「しっかり含み笑いするユアの性格も十分悪いわさ」
「「ビスケが言うな」」
子供連中(1名初老)の雑談に、ゴレイヌは苦笑いだしツェズゲラ達は無表情だ。
実際、俺たちに出し抜かれたと分かった時の一坪の海岸線攻略組は百面相だった。直前までマチ対ツェズゲラ組の様相まで見せていた為、クイズ大会の取引に来る連中さえいなかったらしい。
尤も、コンプした後にベラム兄弟は来襲してきたらしいが。彼らの機を見る目は流石だが、総勢8人になるゴンたちにボコボコにされたそうだ。引き際を間違えると哀れである。後、マチがいなくて良かったな。場合によっては殺されていたぞ。まあ、それが分かっていたからカードコンプ時にゴンとマチを引き離したっていうのもあるんだがな。実はあのタイミングで離脱したのは色々な意味があったのだ。もちろんクイズ大会をサボりたかったというのも大きい。
そんな無駄なことに思考を割きつつ、ちょっとドキマギしながらゴンの事を待つ。
実はというか、ゲームクリア報酬を倍取りできるかどうか、自分でも確証がないのだ。いける気もするし、ダメな気もする。そんな訳で俺はちょっと落ち着かない。
「おっ」
ひゅんと、ゴンが瞬間移動してきた。
それを確認したキルアが声を上げたが、そのやや曇った顔を見て次の言葉が出てくる。
「ダメだったか」
ゴンは言葉に反応せず、両手を上げてその手を見せる。指輪が、右の手に一つ。左の手に一つ。
「ブック!」
呪文を唱えると同時、ゴンの眼前に2冊のバインダーが出現した。
「「「おおおぉぉぉ~!!」」」
「成功したのかっ!?」
なんか違和感を覚えつつもそう聞くが、歓声を聞きながらゴンは難しい顔で首を横に振る。
「ううん。失敗した」
「?」
じゃあなんでバインダーが2つあるのか。誰もが持った疑問に、ゴンは言いにくそうに語り始める。
ゲームクリア報酬選択場面。そこでゴンは予定通りにオリジナルのバインダーとコピーのバインダーの両方を提示したらしい。
それには流石にエレナが難色を示し、ドゥーンとリストに連絡。港まで出向くハメになったらしい。
ゴンは面倒ごとに巻き込まれたドゥーンにも、そして真面目なリストにも怒られつつ。コピーのバインダーを見分。極めて精巧な偽物であると太鼓判を押しつつも、やはりゲーム外に持ち出す為に存在する幾つかの機構が抜け落ちていたらしい。結論としてペケを食らった。
が、ここで終わらないのが
「俺の事をイタズラ坊主だとか、詰めが甘い仲間がいるなとか、流石はジンの息子だな! とか。
そんな事を言いながらコピーのバインダーに手を加えて、ゲーム外に持ち出せる様にしちゃったんだ。
ドゥーンがスゴイイイ笑顔で、これなら問題ねぇな! って」
『…………………』
全員がなんとも言えない顔で黙り込んでいる。
問題ない訳がない、アイツラは間違いなくジンの仲間であると同時にアリエットの仲間であると俺は確信した。ゲームマスターのルールがそんなガバガバでいいのか。
――責任者がジンだから、いいのか?
「い、一応、オレがジンの息子だからオマケだとは言ってたけど」
「良くねーよ。他の参加者に謝れ」
真顔でゴレイヌがそう言い放つが、まあ正しい。とはいえ、その怒りや呆れといった感情はゲームマスターに向けられたもので、俺やゴンに向けられたものではなかったが。
だが、ゴンの言葉は終わらない。困った顔をしながら俺に瞳を合わせて声をかけてくる。
「持ち出す際の条件で、コピーを作った仲間に伝言を頼まれたんだ。
ドゥーンからは、もっと精進しろよ。リストからは、ゴン君にこんなイタズラを頼まないで下さい。
だって」
「…………」
いやまあ。確かに俺がした事はバグを使った裏技に近いとこがあったけど。
報酬も倍貰えたから、怒るのは筋が違うけど。
「綺麗に馬鹿にされたねぇ。
よし、殺そう。ゲームマスターを全員」
「だから止めろマチ。さらっとジンまで殺そうとすんな」
マチは本気か冗談か分からないから困る。少なくとも目は笑っていない。ついでにユアの目も笑っていない。
ちょっと場の空気が悪くなったので、ゴホンと咳払いをして仕切り直す。
「で、だ。コピーの作成には時間制限があるから、オリジナルは俺が欲しいって言ったよな?」
「うん、こっち。確認してよ」
ゴンは左手の指輪を外し、俺に投げてよこす。ちなみに指輪を外したと同時にバインダーも消える。バインダーを具現化するのは指輪をした本人のオーラを微弱ながら使っているらしい。
「ブック」
指輪を装着し、呪文を唱える。現れたバインダーを確認すれば、そこには確かに俺が注文したカードが。
「サンキュー、ゴン」
「えへへへへ。
じゃあこっちはビスケに」
ゴンは自分のバインダーからブループラネットのカードを取り出し、ビスケに手渡す。その際、彼女のテンションが爆上がりしたが、良い歳をしたビスケの為にもその様子は見なかったことにしてあげる。
そして残った2枚のうち1枚を取り出して呪文を唱える。
「ゲイン!」
現れたのは聖騎士の首飾り。そしてそれを装着した状態で最後の一枚を取り出せば、
「よっしゃ、成功!」
「イェーイ!」
ゴンとキルアは満面の笑みを浮かべてハイタッチをする。そんな彼らを見つつ、驚きの表情を浮かべるツェズゲラ達。
「まさか指定ポケットカード以外を選ぶなんてな」
「気づいてもやらないだろ、普通」
呆れも含みながら、口々に言い合う。しかしゴンが自分のバインダーのリストを見た時のニッグという名前と、ゲーム内で初めて出会ったのがゴレイヌであった筈という事実。そしてジンの隠れたメッセージを読み解くと、ゲームをクリアすれば会ってやるという意味にも取れるのだ。
その説明に納得する一同、ここまで初志貫徹してプレイされればゲームマスターとしても本望だろうと。ただし俺とマチは除く。
(ジンェ……)
ここまでしてなお会わないという捻くれよう。しかも理由が恥ずかしいから。風来坊の名に偽りなしである、悪い意味で。
話をしながらゴンから使い終わった聖騎士の首飾りを受け取る。これもゲームのクリア報酬には違いなく、俺が使い終わったらくれと言ったらゴンは快く譲ってくれた。
そしてここでしばしの別れ。ゴンは
「バハトは?」
「俺はパス。そろそろポンズの方に行かなきゃだしな。
ジン=フリークスのところまで行ったら、何時帰ってこれるか分からん」
「あ~。ポンズもそろそろか」
あっけらかんというキルアは流石に内容をボカしてくれる。臨月の女性なんて無防備もいいとこだし、そんな情報を広げないくらいに彼は機転が利くのだ。
そして、ユア。
「……私はゴンとキルアについて行くよ」
「え」
素直に驚いた。ユアは俺についてくるとばかり思っていたが。
だがしかし、ユアはもういっぱしの念能力者であり、そしてプロハンターだ。確かにいつまでも兄に引っ付いているというのも恰好が付かない。
そんな事を思う俺に、ユアは決意の目をして語る。
「
だから、私はあえてお兄ちゃんから離れて冒険してくる。もっともっと、お兄ちゃんより強くなる!」
「――そうか」
これが、巣立ちか。ユアは俺の手元から離れて、更に大きくなろうとしている。
ならば兄としてすべきはただ一つ。
俺はゴンとキルアに向けて大きく頭を下げた。
「ユアを、よろしく頼む」
「うんっ!」
「任せとけって!」
にこやかな笑顔で言う少年たち。そして彼らは俺たちから距離を取る。ちなみにゴレイヌやツェズゲラ達ももちろんゴン達に付いて行く訳がない。
ゴン。キルア。ユア。3人は十分に距離を取ると、ゴンは大きな声で呪文を唱えた。
「
そうして、3人は光に包まれて瞬く間に消えていく。高速で、ユアが俺から離れていく。
物理的な意味も、心情的な意味も。その両方を伴って、空の彼方にずっと大事にしていた妹が消えていった。そして俺は進まねばならない、新たに産まれる俺の息子の下へ。
「まあ、キメラアントの情報を求めてアイツらはヨークシンに来るんだけどね」
「…………」
いやまあそうなんだけど。再会は思ったより早いのは分かってるけど。
マチ。感傷をあっさり壊すの、やめてくれない?
グリードアイランド編も終了!
長かった~。