ぶっちゃけ、読み飛ばし可能な話です。
ブロロロ…
そんな音を立てながら、ガタゴトとワゴン車が荒れた道を往く。運転手はツェズゲラの仲間、名前は忘れた。
グリードアイランドから脱出した港で少し大きめのワゴン車を見繕い、そこからヨークシンに向かっているのが現在の状況である。この車の中にはもちろん、俺の他にツェズゲラ達もゴレイヌもマチもいる。
とはいえ、騒がしい子供たちが居なくなったから車内は静かな方だ。車の前の方ではツェズゲラ達がボソボソと明るい様子で話をしていて、真ん中の座席でゴレイヌは浮かれた雰囲気を出している。最後尾にいる俺とマチは無言。暇なのか、マチは手ぬぐいに刺繍をしていた。綺麗なそれを見るに、マチは美的センスもいいらしい。
車の中が騒がしくならないのは他にも理由がある。それはずばり、俺が原因だ。俺は情報ハンター、しかも星持ちである。どんな雑談を拾われて情報を抜かれるのか分かったものではないのだろう。
(その心配は正しいよ)
だってツェズゲラ達の側には霊体化したサーヴァントを張り付けているからな。とはいえ、同じ車に俺も居るのである。ほんの少しの綻びもなく、意味のない会話しかしてくれない。
そして俺とマチも、この状態では会話が抜かれる事を危惧しない訳にはいかない。つまり、黙るしかないのだ。
だが頭を回す事はできる。ヨークシンまで数時間はかかるらしく、俺はこれからについて頭を回すのだった。
次に始まるのはキメラアント編、異種の危険生物による人間社会への攻撃といっていい物語となる。
実際、NGLと東ゴルトーという2つの国が壊滅して、何十万という数の人間が命を失った。
とはいえ、それも俺に実害がある話ではない。2つの事象がなければアサンを殺した今現在、無視をしていただろう。
1つ目は、アサンによって操られたルナという女性が原因だ。
キメラアントを強化し、主人が死んだ際にはその亡骸をキメラアントに喰わせて転生を図るという作戦を与えられた彼女は、原作よりもキメラアントを強化しているだろう。この時点で原作に狂いが生じているのに、更に俺もアサンも少なからずゴンやキルアに関わってしまっている。これにより、ネフェルピトーが生き残ってしまう場合が厄介だ。
が、ここでもう一つの問題が出てきてしまう。それは暗黒大陸編に繋がる条件であるネテロの死も起こさなくてはならないということだ。
暗黒大陸編は、というよりも原作本編は未だに終了していない。その上で暗黒大陸とかいう世界崩壊待ったなしの危険物について俺は何も知らないに等しい。未知こそ恐怖の根源、といったのは誰だったか。もちろん未知がもたらすものに好奇などがあることを否定はしないし、ハンターなんて人種が発生した起源はそんなところだろう。恐怖心だか好奇心だかを鎮める為に未知へ挑む者たちこそがハンターなのだから。
ちょっと話が逸れたが、要するに原作の重要事項を変更してしまうと、将来的にどんなしっぺ返しが来るのか分からないというのが問題なのだ。キメラアント編で言えばネテロの死と、ゴンの凶悪な誓約があげられる。
ネテロの死は言わずもがな、彼が死んだことによってその息子であるビヨンドが動き出し、暗黒大陸へと話が繋がっていく。
ゴンの凶悪な誓約が起こすものは2つ。ゴン自身の念の使用不可と、アルカのゾルディック家脱出だ。これらは両方とも即座に何かが起きる事はないだろうが、俺としては何かしらの伏線であると見ている。
主人公であるゴンが念を使用できなくなるとあっても、まさか以降ゴンを登場させる気がないという訳でもあるまい。普通に考えれば、念が使用できなくなるという条件を以ってゴンは更に強化されると考えるべきだろう。
アルカはナニカを宿しており、ナニカは暗黒大陸のリスクであるガス生命体であるアイがその正体だろう。彼女がキルアによって外の世界に連れ出されるというのは、とても大きな意味があると思っている。
これらと俺の仲間たちの命が保証されれば、他人が何人死のうと知った事ではないと言うのが俺の本音だ。ちょっとキメラアント編は話がデカすぎる。目の前の人間が死なないように気は使うが、正味な話でそれは誤差だろう。誤差だからといって助けない理由もないが。
ここまでまとめた上で俺の方針は、斥候である。
物語の中にはならべく立ち入らず、情報を集める。そして原作との誤差を見つけたらそれを潰していくのが目標だ。ネテロが死ぬことを止めず、またゴンが異常な誓約を背負うことも止めないというのは。中々薄情な人間ではないかと自分でも思うし、そんな自分が嫌になることも事実だが、方針を変える気もない。俺も自分や家族の命と平和が惜しいのである。
その為に、というのも変な話だが。ハンターたちがキメラアントの情報を得るまで暇であったのも事実だったからこそ、グリードアイランドを攻略する事に精を出していたとも言える。また、俺の思う通りに物語が進むとも限らない。次善の策として、人類に対する影響力があれば暗黒大陸へのちょっかいも出せるだろう。その手段がバッテラによるヨークシンの支配だ。人類全体から見ればささやかではあるが、僅かでも権力があれば何かが違うかもしれない。そう思えばハンター協会で上に昇り詰めることにも意味があるように思えるものだ。深く考えてはいなかったが、星を集めるというのは案外良い手段だったように思えて来た。
キメラアント編に視点を戻し、注意事項をさらっていこう。奴らの危険度はその序列に比例し、最も厄介なのは王と女王。だがまあ、ここは関わる気がないのでとりあえず放置しておく。
俺にとって最大の問題になるのは護衛軍。これには情報を整理した時、本気で頭を抱えてしまった。ノヴがシャウアプフのオーラを見ただけで心が折れたとか、そんな抽象的な話ではない。具体的に、なんじゃこりゃという事実がドンと目の前に置かれている。
それはネフェルピトーの円である。これがどれだけでたらめであるか、具体的に提示してみる。
まずは直径2キロにも及ぶ広さを持ち、更にはその形状も不定形。ここまではいい。俺も円は100メートル程度はあるし、なんならネフェルピトーみたいにアメーバの様とは言わずとも、多少の変形はできる。
問題なのは、それを何日も何週間も何ヶ月も維持し続けたという事実である。
NGLにおいてネテロ達3人がキメラアントの巣にちょっかいをかけられなかったのは、ネフェルピトーの円以外の理由は考えられない。東ゴルトーにおける10日かそこらの厳戒態勢なぞ、可愛いものである。ネフェルピトーは何ヶ月も、いや永続的に直径2キロもの不定形の円を維持し続けられるのだ。
これはもう、比喩が難しいレベルでとんでもない話である。円だけで十分な高等技術であり、俺の円でも世界屈指という自負がある。実際、ノブナガの円も直径4メートルだし、カイトの円も50メートル程度。ゼノでも200メートルだ。少なくとも俺が現実に知りえた範囲では円を使える者も少なかったし、その練度もお粗末なもの。原作を知らなくては、俺の円が世界最高峰だと誇りもしただろう。
そんな俺も、円を使えば堅以上にオーラを消耗する。当たり前だ、円は纏と練の複合高等技術であり、グリードアイランドで修行していたゴンやキルアが周を使ったらあっという間にオーラを枯渇させたように、応用技の消耗は当然のように大きい。俺も円を数時間も使い続ければオーラがなくなり、それを回復するのに更に数倍の休養を要するだろう。
なのに、平然と、ネフェルピトーは2キロに及ぶ円を操作して維持をし続けている。
これが示すことはつまり、ネフェルピトーの円のオーラ消費よりも奴が自然回復するオーラ量の方が多い、という事だ。
なんじゃそりゃ、としか言えない。更にそんなネフェルピトーと同格の護衛軍が2匹、その上に
俺が勝てないと思うのはもちろんのこと、サーヴァントでも勝てるかどうか。つくづく、クーフーリンが脱落したのが痛い。対人宝具の中で最も殺傷能力が高く、本人の技量も高いのは彼だっただろうから。とりあえず俺が戦う選択肢はなし、サーヴァントで勝てるかどうかの様子見が先であろう。
次に師団長レベルも十分強い。下手すると俺よりも格上である可能性すらある。
俺は一応、幻影旅団と同等の念能力者である自覚はある。立ち合って殺し合えば分が悪いとはいえ、実際に臨戦態勢のノブナガを見た限り、多少劣ってはいたとしても勝機は十分にあるというのが俺の見立てだ。もちろん1対1という条件だが。
そしてそんな幻影旅団の戦闘員であるフェイタンを相手にして、念を覚えた師団長であるザザンは肉弾戦で上回っていた。彼女の系統は操作系であっただろうにも関わらず、より強化系に近いフェイタンの硬による一撃をおそらくは堅によって弾いたのだ。
結果的にフェイタンの発で仕留められたとはいえ、師団長の身体能力の高さとオーラの強さが垣間見えるエピソードである。
素直に相性が悪い。強化系である上に流が苦手な俺にとって、純粋に強いタイプの敵は苦手だ。東ゴルトーでも王に降った師団長は4匹。どいつもこいつも強者であるといえる。
ブロウーダは放出系として高い完成度と攻撃能力を持っているし、その甲殻の堅さを俺の
ヂートゥの速さは攻撃を当てるのすら難しいし、あの性格から作り出される発はどんなものか予想も困難。
ハギャは能力の発動条件が知れているからまだやりやすいが、彼もクロロと同じようにどんな発を持っているか分からないのが怖い。一発逆転の能力を収集されていたら事だし、その発動条件の緩さが
ウェルフィンは奴の話を聞くだけでアウトであるから能力を発動させないように攻め続けるしかない。防御型の俺にとって、あまり得意でない戦法だ。
キメラアントとしての強靭な肉体があるというだけで、どいつもこいつも簡単に強者になりやがる。その上、何かの狂いで俺の知らないキメラアントがいたとしても全く不思議ではない。
もう、考えただけ、想像しただけでげんなりである。
「ハァ」
俺は小さく溜息をついた。
どうしようというか、どうもしたくないというのが本音だが。それが許される現状にない。いっそ何も知らないでキメラアントと対峙した方が気楽でいいんじゃないかとも思ったくらいだ。
実際に選べるとしたら知る方を選ぶが。知らないでキメラアントと戦うのも、想像するだけでイヤだ。
「もうすぐ着くよ」
そんな俺の様子を見たマチが何かを勘違いしたのか、そう慰めてくれる。思えば車に乗って数時間、ちょっとトイレ休憩をした以外は狭くてガタゴト揺れる車内にこもりっきりだ。気が滅入ると考えても不思議じゃない。
「見えたぜ」
運転手の男、肌が黒くて線の太いツェズゲラの仲間が声をかける。
その声に反応して全員がフロントガラスより前を見れば、夕暮れが迫った空に高層ビルの先っぽが映っていた。
ヨークシンまで間近。この窮屈で短い旅も、もう間もなく終わろうとしていた。
ピトーがエグ過ぎるんだよォ!
それと同等の護衛軍、それ以上の王って、おま…。