グリードアイランドのクリア報酬は、バッテラからつつがなく分配された。
俺が報酬を受け取りに来た時点で察したのだろう。バッテラは俺とマチ、ツェズゲラ達4人とゴレイヌが面会に来た時点で人払いをして、グリードアイランドのクリア報酬である500億をどう分配するのか聞いて来た。もちろん話が長くなる事も考慮に入れて、椅子と紅茶も用意された上である。
まずはツェズゲラ達に425億。彼らがこれをどう分けるかは知ったことではないが、長年マネーハンターとして共に活動してきた以上、ここまできて仲間割れは起こさないだろうと思われる。
次にゴレイヌに12億5千万。彼の正規の取り分であり、ここも文句はない。
そしてバッテラのところまで来るのを面倒臭がったビスケの口座に12億5千万。ゴンとキルアと一緒に行動したユアの口座にも12億5千万。残る37億5千万を、俺は5人で分配することにした。俺とマチとポンズ、そしてゴンとキルアの口座に7億5千万ずつ均等に入れたのである。ゴンとキルアは金は要らないとは言っていたが、彼らはヨークシンドリームオークションでほぼほぼオケラになっていた筈である。流石に手持ちが0では困るだろうという配慮だ。要らんかも知れないが、一応俺は保護者的立ち位置でもあったので、心配は受け取って貰おう。
こうなるとゲームクリアしたのに多めの金とクリア報酬を受け取れたユアとビスケは得をしているし、逆にマチは金も少ない上にクリア報酬もない。ツェズゲラ達はともかくゴレイヌもクリア報酬がない辺り、確かに彼が見返りに次に仕事を紹介しろというのも分かる気がする。
マチはまあ……その、なんだ。借り1つだな。流石に可哀そうである。俺に操作されているから不満も抱けない辺りが特に。操作されているからこそ、俺が大切に思っていることが何よりの報酬なのだろうが。ちゃんと愛してあげなくてはなるまい。うむ。
「それで、だ。バッテラ氏、貴方はクリア報酬を受け取れない上に500億も出費するハメになった訳だが、それについてはどう思っている?」
と、唐突にツェズゲラがバッテラに問いかけた。
「利益の多くはそこのバハトが総取りした、と言っても良い。それについて不満はないかな?
私が受けた依頼は、グリードアイランドをクリアしてそのクリア報酬を貴方に渡すこと。何か言いたい事があるなら、今言うべきだ」
そんなツェズゲラの物言いにマチが殺気立ち、ゴレイヌは巻き添えにならないよう静かに立ち上がって部屋の出入り口の傍へと忍び寄る。俺はといえばツェズゲラに感嘆していたのだが。
ツェズゲラはマネーハンターである。見方によっては金の亡者にも見えるし、ある意味それは間違っていない。だからこそレアなお宝や未知への探究を至上とするプロハンター達からからは侮蔑の目で見られやすいのだろう。金目当ての契約ハンターと実質は同じなのだから。
しかしそれでも彼はシングルになった。それは社会に生きるハンターという面で見て素晴らしいからと評価されたことに他ならない。
金を主にハントするマネーハンターは、手段と目的が逆転しているようにも確かに見える。だがハンター協会のトップであるネテロがV5の依頼を受けざるを得ないように、それらによってハンター協会が存続を許されたり特権を持つことを許可されているように。人間社会からの評価というのは絶対的に必要なのだ。
ツェズゲラはその点に於いて、ハンター協会に大いに貢献しているといっていい。彼はマネーハンターであり、顧客は大金持ちばかりだ。そして大金持ちは社会的影響力も大きく、そんな現代貴族どもを満足させるという事はそれすなわちハンター協会の権威を上げることでもある。
しかも契約の額面に縛られず、雇い主を心配するというアフターケアも備えている。俺によってバッテラが不当に貶められているのではないか、その疑惑をぶつけて場合によっては俺を排除することも厭わない。覚悟を決めた瞳をしているツェズゲラ達4人は揺るぎない。
認めるしかない。彼は確かにマネーハンターに置いてシングルの称号を得るに相応しい男であると。
「――ツェズゲラ君。心遣い、感謝する。
だが、バハト君に文句を言うつもりは毛頭ない。何故なら、彼は私を脅迫者から救ってくれたのだからね」
「と、言うと?」
「ツェズゲラ君も顔は見た筈だ。私を尋ねてきたエルリルという女性を」
ちなみにエルリルとはアサンの駒の一人だった女だ。グリードアイランドの決戦でクーフーリンを除霊する際に生贄にされた女でもある。
「彼女とその一味は、私の恋人であるマリアの事を発見し、昏睡状態の彼女を殺されたくなければ言う事を聞けと脅してきた。
それによって私はバハト君の首に10億という金を懸けざるを得なくなったのだ」
「ちなみにあたしも奴らに脅されて手駒にされていたわ。そういう奴らだったのよ」
「…………」
バッテラとマチの言葉を黙って聞くツェズゲラ達。
「それによって賞金稼ぎや私が雇わされた傭兵たちに襲われたバハト君は、それでも私の背後にいるエルリル達に気が付いてくれた。短絡的に私を敵と見なかったのだ。
更には何故脅されているかを察知して、私の恋人が現代医学でも治せない状態になっていることを突き止め、彼女を癒す特別な手段さえ見つけだしてくれた。
グリードアイランドのクリア報酬で彼女を癒すつもりだった私は、私の恋人を治してくれた上に脅迫者を排除してくれたバハト君に感謝しかしていないよ」
ツェズゲラは横目で俺を窺ってくる。それに対して俺は肩をすくめて答えた。
「言ったろ、俺は情報ハンターだって。タダで動くほど安くはないが、俺の元にまで刺客が送り込まれた案件にはそれなりに対応をするさ」
「グリードアイランドに居たのは何故だ?」
「エルリル関係が大きかった、とは言っておく。まあ、解決した後もバッテラ氏からクリア報酬を自由にしていいって言われたからな。ついでにゲームクリアをした」
「その成果をゴンに譲ったのは何故だ?」
「俺よりアイツの方が上手くクリア報酬を使えていただろ? 俺にとってはゲームクリアはあくまでオマケだ。
それはお前達も同じだろ?」
尋問するように問いかけてくるツェズゲラに対して、気負わずに言葉を返す。
ツェズゲラはゲームクリアという事実になんの感慨もない。原作でも最後の最後、ゴレイヌにカードを託してゲームを楽しんでいたゴンにクリアを譲ったくらいだ。
それほどゴンを気に入っていたのは間違いないだろうが、バッテラから違約金を貰った時点で彼にとってグリードアイランドは興味関心の外にあったのだろう。クリア報酬が更なる金になるとはいえ、ツェズゲラ達はグリードアイランドを保有していない。保有者はあくまでバッテラであり、違約金を受け取ったツェズゲラ達がまたゲームをプレイさせてくれというのはやはり筋が違う。恋人を失って人生に絶望した老人に、グリードアイランドを譲れと更に交渉をして疲れさせることも彼は選ばなかったのだろうと容易に想像はつく。基本的にツェズゲラは善人なのだ。
「分かりました」
そんな善人であるツェズゲラは、バッテラと俺の言葉に納得を見せたようだ。続いて俺を見るその瞳には、ほんの微かに慚愧の念が宿っていた。疑い認めなかったことに対するそれだと気が付いた俺は、気にするなと頷いておく。
実際、ツェズゲラは間違っていない。バッテラが俺に操作されているというのなんて大当たりだからだ。
バッテラは俺に操作されているが、しかしそれは凝で見ても分からない。何故ならば、彼を操作しているのは彼自身のオーラ。他人のオーラで操られていない以上、気が付くのは無理というもの。ユアは気が付いていなかったが、ユアの能力である
加えて仮に気が付いたとしても、こういう場合は文句が言えないことも大半だ。自分のオーラで自分を操作するという事は、自分で操られる事を了承しないことには成り立たないという道理。結局、操作前の己が同意している前提があるのだ。拷問などをしていたとしても憔悴は必ず残るし、それを隠すように操作しても必ず歪みは出る。まさかツェズゲラがそれに気が付けない程に愚鈍という訳でもあるまいに。
結局、ツェズゲラは現状で良しとした。
「では、我々はこれで失礼する」
「そうか。ちなみに次の仕事もあるのだが――」
「結構。今回の仕事で今の社会情勢に疎くなってしまった。
総合的に判断する時間が欲しい。
もちろん、許されればまた貴方の仕事を受けたいとは思うがね」
そう言い残し、ツェズゲラは彼の仲間達と共に立ち上がると、ゴレイヌの傍を通って部屋を辞した。
バタンと扉を閉まる音を聞き、たっぷり1分程経ってからゴレイヌは自分の椅子へと戻る。
「ひやひやしたぜ」
「嘘つけ」
ククク笑い合う俺とゴレイヌ。
「それで――ええと、ゴレイヌ君だったかな?」
「ああ、俺はゴレイヌという。バッテラさん、貴方がヨークシンで落としたグリードアイランドの選考会に受かった者だ」
「うむ。君たちが知っているかどうかは知らないが、あの後で私が雇ったプレイヤーが大量死してね。
他のプレイヤーも大勢死んだのかもしれないが、そこを潜り抜けた君は立派な実力を持っていると判断しているよ。
何より、ツェズゲラ氏と共にクリアに貢献している」
いけしゃあしゃあと言うバッテラだが、顔の裏に隠された真意は流石にゴレイヌも見抜けていないだろう。
ゲンスルー達の情報は既にバッテラに渡している。あの大量死についてはバッテラは既に詳細を手にしているのだ。
まあ、俺が奴らを嫌っているという事を知らないから、今の仕事を考えればゲンスルーたちを雇っていても不思議ではないだろう。俺とゲンスルー達の確執を話した上でどうするかはバッテラに任せる方がいいとも思っているが。
何せ弱体化したとはいえ、マフィアンコミュニティの縄張りを荒そうというのである。荒事に長けた人間はいくら居ても良く、私情が混ざる俺よりもバッテラに任せた方がいいとさえ思う。
「バハト君の紹介ならば喜んで採用させて貰うよ。
ただ、君の出来る事や得意分野も知らないから、何を任せるかは追々とさせて貰うがいいかな?
今回の仕事は黒いこともあるから、そこを許容して貰えると嬉しいがね」
「……言っておくが、暗殺なんて請け負わないぜ」
「もちろんだ。だが、今現在も私は暗殺される危険がとても大きい。
それを防ぐ仕事や、暗殺者の根城を襲撃する仕事なんてどうかな?」
「思ったよりも随分キナ臭い仕事だな。
だが、まあいい。話は細かく詰めた後で決めるということでどうだい?」
「OKだ。では、バハト君に振る仕事の依頼をしたいから、いったん退室して貰えるかな?」
グリードアイランドをクリアした協力者の1人、その立場がゴレイヌを強気に出させていた。既に立派な戦歴をバッテラに突き付けているゴレイヌは、したくない仕事はしないと明言し、それが受け入れられると満足そうにこの場を後にする。
ゴレイヌが部屋を出て行って、やはり1分。沈黙の時間が流れる。先ほどもあったこの間は、場を辞したばかりの者がすぐに帰ってこない事を確認する時間だ。他に聞かれたくない話をするならば、多少以上に神経質になるのは当然の事だ。
「お前が雇っているかは知らないが、ゲンスルー達は俺が撃破してゲームから追放した」
「ほう」
その微妙な返事の仕方で、俺はバッテラがゲンスルーを雇っていると確信する。
「奴らはユアを人質に取った。
俺がすぐに奪い返したが、正直奴らに俺は良い感情を持ってはいない。
それを理解した上で、適切な運用を頼む」
「了解した。
ポンズ君は臨月で、いつ子供が産まれてもおかしくないが、こちらも切羽詰まっていてね。
シングルの情報ハンターである君に仕事を頼みたい」
そう言ってバッテラは俺に紙束を渡してくる。
チラリと見れば、それはヨークシンの有力者やマフィアンコミュニティの上位構成員だと理解できた。
「彼らが目下のところ、私の最大の敵だ。彼らを寝返らせる情報、もしくは社会的に失脚するような情報を掴んで欲しい」
「ジトノーダ市長はマフィアンコミュニティの献金を受け取っている奴らの狗だったか。
ブドル警察署長も市長の子飼い、か」
「マフィアンコミュニティの重鎮であるアサノード組の若頭も特に邪魔だ。
彼はここを縄張りにしている十老頭の後を継いだからな。利害が絶対に一致しない」
「最悪、暗殺してもいいねぇ」
マチが気楽に言うが、俺もバッテラもそれに否はない。ここまで喧嘩を売っている現状、選択肢に上がらない方がおかしいというもの。
「私も傭兵や暗殺者、プロハンターを雇っているが、それは相手も同じこと。
十分に注意してくれたまえ」
「了解だ。しばらく時間を貰い情報を集めるが――その前にポンズに会いに行くか」
俺の言葉に、バッテラは笑顔で大きく頷いた。
「バハト!」
「バハトさん!」
「ポンズ、ネオン。元気だったか」
「元気よ。私も、レントもね」
特に厳重な警備が敷かれている高層マンションの一角。ここでは大きく4つの部屋がその厳戒態勢の恩恵を受けている。
客間と、バッテラの恋人であるマリアの部屋。それからネオンも一緒に寝泊まりしているポンズの部屋と、大量の医療機器を運び込んだ出産部屋だ。ここで出産して、そのまま産まれたての
そして最後のセキュリティにベルンナがいる。念空間を持つ彼女は自分の領域では類まれなる戦闘能力を持つ。限定された籠城戦であるならば、ここよりも優れた場所はちょっと思いつかない。強いて言えばキャスターが造る工房並に硬いといえるだろう。
安心してポンズを置いている場所は、実は俺やマチのような例外が入る時の方が守りが脆くなるという側面さえ持つだろう。今回はポンズに会うことにかこつけてサーヴァントによるセキュリティチェックを入れているが、ポンズやレントの安全を考えるならばヨークシンで実権を握るまではもうここに来ない方がいい。
「赤ちゃんって、女性って本当に凄いよね! 私、なんか感動しちゃった!」
「アンタも女でしょうが」
「そうなんだけど、子供をお腹に抱える事は想像したことがなかったっていうか……。
瞳をキラキラさせて語るネオンに、マチが苦笑しながら対応する。
その間に俺はポンズの手を握る。
「産まれるのは何時だ?」
「出産予定日はまだだけど、あくまで目安だから。いつ産まれてもおかしくはないわ」
「そうか……。
俺はバッテラから依頼された仕事を受ける。ヨークシンを完全に支配下に置かないと、いつまでも安全な場所から出られないからな」
「あなたはハンターだもの、納得しているわ」
にっこり笑うポンズに、俺は少しだけ悲しくなる。何というか、父親は必要ないでしょ? って言われているみたいで。
ポンズが実際にどう思っているかはさておき、じゃあ俺に何が出来るかと言うと、何もできないが。出産に立ち会う余裕もあるか怪しい。そんな暇があるならば一刻も早くポンズとレントの為に安全を確保する方がよほど家族の為になるというもの。
笑顔のままでポンズは言葉を続ける。
「そんな顔をしないで。私もハンター、覚悟はできているわ。色々とね」
「ったく。ざまぁない」
(ジンの事を笑えないな……)
そうとしか言えない。もちろん、レントが産まれたら放っておくつもりはないが、数ヶ月したらNGLに行かなくてはいけないのも事実。更にその後はBW号に乗り込む予定である。その先は未定だが、どんな厄介事を背負い込むか分かったものじゃない。
なんだかんだ、レントに構ってやる時間が少ないように思えてしまうのは気のせいではあるまい。
「っと、そうだ。グリードアイランドのクリア報酬、ポンズの分も貰っておいたぞ」
「本当!? 千年アゲハを手に入れたのっ!?」
瞬間、母親の顔からインセクトハンターの表情に切り替わり、ネオンと同じように瞳をキラキラと輝かせるポンズ。
「ああ、いつでも渡せる。具体的にはゲーム外に3枚指定ポケットカードを持ち出せるバインダーを譲り受けたから、いつでもカード化解除できる状態で千年アゲハのカードを保有している、が正しいな」
「ありがとうっ! バッテラに頼んで私名義の昆虫飼育博物館を作って貰ってて良かったわ! もう少しで完成するらしいから、その時になったら私の千年アゲハをゲインしてね!」
「お前もバッテラに無茶言ってるよな」
夫婦そろってバッテラをコキ使いすぎである。思わず笑ってしまった。
そうしてそっとポンズのお腹に手を当てれば、そこにいとし子の優しいオーラを感じる。
「――良い子が産まれるといいな」
「良い子に決まっているわ。私とあなたの子供だもの」
くすりと笑うポンズに顔を近づけ、ソフトキス。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
振り返れば、優しい笑みを浮かべたマチと。ニヤニヤと笑っているネオンの姿が。
ネオンの表情は無視して、しかし彼女にも一声かけておく。
「ポンズを頼むぞ」
「まっかせてよ! 何もしないけど」
「オイオイ」
何もできない事は分かっているが、胸を張って言うか普通。まあ、ネオンらしいといえばらしい。
戦力になるマチは黙って俺の後ろをついてくる。部屋から出れば、出入り口を警護していた黒服の男たちが静かに俺が開けたドアを閉めてくれる。
その瞬間に俺は意識を切り替える。マチが纏うオーラの質も変わる。
「さあ。
いつも読んでいただいてありがとうございます。
ハーメルンという場所では感想を言うことが限界ですので、原作に対する考察とかの話し合いや雑談染みたことがあまり言えないなと思いまして、lobbyを利用して雑談を含めて交流できたらなと思い、グループを作成しました。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=272808&uid=2330
こちらの活動報告から飛べますので、気が向いたらいらして下さい。
設定なども少しだけ載せていきたいと思います。