殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。(2年連続で新年の挨拶が遅い)
遅くなった上に短めですが、楽しんでいただければ幸いです。


068話 シングルの情報ハンター・3

 

 ◇

 

 寒色に塗られた壁に囲まれた部屋。そこに無機質で高級な机と椅子が置かれ、そこに座るべき主を今か今かと待っている。

 傍らに控えるのは若い黒スーツの男。服の上からでも鍛え抜かれた肉体がうかがえるその男は、不動の姿勢でただただ待つ。

 ギィと小さな音を立てて部屋にある唯一のドアが開く。入って来たのは茶色の髪に少しだけ白が混じった、しかし覇気溢れる偉丈夫。幼くはなく、老いてもおらず。男盛りに脂がのった年齢に、人生で培ってきた努力と経験が垣間見える男である。

 それだけでも一般的とは言いづらいが、この偉丈夫が普通でないのはそんな些細な事ではない。おそらく、素人でも分かる。鼻に届くのは硝煙の臭い、ぎらつく瞳は冷たくて、人の命を何とも思っていない事が嫌でも分かる。

「どうぞ」

 そんな男が椅子に座ると同時、控えた男が葉巻を差し出して火をつける。ほんの僅かの休息、座った男は葉巻の味と香りを堪能する。

 ほんの数分の休息で、座った男は緊張をひたすら緩める。仕事はメリハリが大切だ、緩める時は徹底的に緩まないとパフォーマンスの高いリターンは得られない。

 やがて葉巻を吸い終わると同時に、控えた男が声をかける。

「準備が出来ました、ボス」

「繋げ」

 葉巻を吸い終えたボスと呼ばれた男の合図と共に、机の上に置かれたパソコンの画面が切り替わる。映し出されたのはどこかの会議室であり、やはり十数人の男たちが黒いスーツを身に付けて待機していた。

「会議を始める」

 ピリリとした緊張感が走る。それはボスと呼ばれた男の機嫌が最悪な事も理由の一つだろう。

 この男はアサノーダ組の若頭、ルルイザ。つい先日、十老頭の地位を引き継いでマフィアンコミュニティのトップの椅子の一つを得た男。去年のヨークシンオークションの時期に十老頭が全員暗殺された為、比較的若いルルイザにも最高権力者の椅子に座る機会が巡ってきたのだ。そこで多くのライバルたちを地獄に蹴落として、この地位を得たのだ。

 しかし苦労して手に入れた十老頭の地位なのに、早速危うい立場に置かれてしまった。ヨークシンの実権を握ろうとゲーム狂いのバッテラがちょっかいをかけてきたのだ。しかもアサノーダ組の旗色は悪い。

「前回からの変化を教えろ」

『……承知しました。まずはジノトーダ市長が完全に失脚しました。ベノイドファミリーからの献金の証拠が表に出されたのが致命的で、国際警察に逮捕されました。

 ヨークシンの内部まで荒されては居ませんが、ジノトーダ市長が居なくなったことでブドル警察署長が機能不全を起こしています』

「役に立たん奴らだ。ジノトーダは切り捨てろ、ブドルには騒ぎが治まったら報復をくれてやれ」

『ハッ!』

「で、問題となったベノイドファミリーから情報が流出した件はどうなった?」

『――進展はありません。一夜にして13人の構成員が殺害された原因は現在をもって不明です。

 一人だけ部外者だった女の死体も、一ヶ月前にヨークシンで死んだ女だと裏が取れました』

『その点について。能力者から確認を取ったところ、何者かに操作されていた形跡があったそうです。女の死体を操作して惨事を引き起こしたのは確かだと』

「で、そのクソッタレの犯人は?」

『…………』

「無能が」

 ルルイザが吐き捨てるように言う。一段と場が重くなったが、悪い話はこれで終わらない。

「――続けろ」

『ジノーアが死にました。ボマー組のゲンスルーの仕業です』

『移動中を狙われました、情報が漏れていたようです』

『ベベトドが現地の警察に逮捕されました。現地の影響力低下は必至です』

『ハスヌーンが離反しました。バッテラに寝返った模様』

『脅されたとの情報も入っています。向こうで冷や飯を食っているとか』

 聞きたくない話ばかり聞かされたルルイザは、ただでさえ低い沸点が爆発しそうになるのを必死に抑えて、一つだけ聞く。

「で。いい報告は何かないのか?」

『『『…………』』』

「テメェ等…何年この世界で飯食ってんだ、アァ!!??」

 怒鳴り散らしたところで事態が好転する訳ではない。それを分かった上でなおルルイザは怒りを抑えることができなかった。

「やられましたゴメンなさいで済ましてやる優しい俺だとでも思ってんのか? やられたい放題でこっちからは手も足も出ませんですってベソ掻くだけか!!

 やり返せる度胸がある奴は俺の組に居ねぇってか? それでもお前らは十老頭のアサノーダ組かァ!?」

 怒り心頭のルルイザ。状況が悪いのは分かっている、去年のオークション襲撃事件で何百という構成員が死亡した上に当時の十老頭も全員暗殺されたのだ。手足も頭も無くして次期トップを巡る内輪揉め。おまけに殺した敵の死体と同時にマフィアンコミュニティの信用状を添えて競りに出したオークションの商品も全て奪われた。ルルイザが十老頭の座に就いた時点でマフィアンコミュニティは既にガタガタだったのだ。

 それでもそれを立て直すという決意で十老頭の地位を奪い取ったルルイザ。そんな彼にとって、現状は不愉快なものでしかない。マフィアンコミュニティが万全であったら何の問題もなかった筈の攻防に劣勢を強いられる屈辱。自分の半生を捧げてきたマフィアンコミュニティをバッテラ如きに荒される屈辱。強く非情だった部下たちが全く役に立たない屈辱。現状はルルイザの気が狂いかねない程の屈辱にまみれていた。

 だからこそ、画面の向こうでスッとあげられた手に期待と怒りが混じる。

「なんだ、何か言いたいのか、テメェ? 俺の機嫌をこれ以上悪くする発言じゃねぇだろうな?」

『奴らに新しいハンターが付いたようです。シングルの情報ハンター、バハトが』

「……ほぅ」

 敵の内情を知れるのは良い。ほんの少しだけ冷静になったルルイザ。

『ジノーアさんやベベトドさん、ハスヌーンさんがやられたのはこのストーカー野郎に情報を抜かれたからでしょう』

「どうしてテメェはそれを知れた?」

『調べました。得意分野ですので』

「間違った情報だったら死ぬ覚悟は出来た上での発言だよな?」

『私の有能さを示す絶好の機会と思っての発言です』

「――いいだろう、続けろ」

『バハトが動き出したのは10日程前です。そこから情報を抜かれてそれがボマー組に渡り、襲撃を受けています。

 つまり司令塔のバッテラ、実行部隊のゲンスルー、斥候のバハトの三本柱が敵の要になります。このうちの2本を倒せば我々の勝利は確定的でしょう。

 最も狙いやすいのは鉄火場にも出てくるゲンスルー。奴を攻めながら、バッテラの隙を伺うかバハトの居場所を探るか、そのどちらかが成功すればアサノーダ組の勝利です』

「筋は通っている。バハトとかいうストーカー野郎が向こうに加わった事で不利になったなら、その分を潰せば五分。追加で攻めれば勝ちだ。

 で、それができれば苦労はしねぇっていう筋はどう通す?」

『バハトが情報を集めたおかげで向こうの動きも活発になっています。動けば隙も大きくなるのは道理です。実際、ゲンスルー達がジノーアさんを襲撃する時はこちらが攻撃するチャンスでもあった。ゲンスルー自身が鉄火場に出てきたのはもちろん、襲撃に人手を割いた為にバッテラの守りも薄くなっていた筈です。

 どちらもこちらの好機でもあった。次の機会を察知して逆襲をかければ十分に勝ち目はあります!』

「勝ち目がありますじゃねぇよ。勝て。当たり前だ」

『ハッ!』

「思ったよりまともな話が出来たじゃねぇか。いいだろう、その話を進めろ。ただし、3人中2人()ればいいなんて甘ったれた事を抜かすな、全員殺せ。無残に殺せ。親兄弟、親友や恋人に至るまで殺せ。それが俺たちの報復だ」

『ハッ!』

「他の奴らも次回までに気の利いた話を持ってこいや。期待してる」

 その言葉と同時、通信が切れた。

 やや晴れやかな顔をしたルルイザに葉巻が差し出され、満足そうに一服する。

「役立たずしか居ねぇと思ったが、どうして。なかなか骨のある奴が居たじゃねぇの」

「同感です。戦場でこそ磨かれる感性がある、という事でしょうか」

「だろーな。まさか向こうに情報のシングルが付いたとは思わなかった。そしてこちらにそれと同等の才能があるとも思わなかった。まさかシングルの情報ハンターの情報を抜くとはな」

「私見ですが、バッテラはこれを見越してグリードアイランドを集めたのではないでしょうか? 単純に戦力を集めれば目立ちますが、ゲームのプレイヤーを募るのならば目立たない。

 しかも難易度の高いハンター専用ゲーム。生き残った者や順調に攻略する者を見つければ上澄みを得られる」

「なるほど。あのジジィも一筋縄じゃいかないねぇ、好々爺のツラの裏にそんな野望をメラメラと燃やしていたとは。

 とはいえ、マフィアに喧嘩を売るのは愚かしいがな。どう後悔させるか楽しみだ」

 言いながら葉巻を吸うルルイザ。

「ところで、あの骨のある奴はなんて名前だい?」

「確かウチの組の構成員で、ザイツとかいう男だったかと」

「ザイツねぇ。覚えておくか」

 そう言ってルルイザはクククと上機嫌に笑うのだった。

 

 ◇

 

「という会議をアサノーダ組はしていたな」

『承知した。ゲンスルー君にも重ねて注意を喚起しよう、これからは攻める時程狙われやすいとね』

 バッテラと繋いだ無限に続く糸電話(インフィニティライン)で得たばかりの情報を流す。『ザイツ』を使ってアサノーダ組の信用を得ていき、大きくなった権限で調べられる情報を奪う。サーヴァントを使った時と違うが、これも立派に情報ハンターとしての仕事だろう。

『しかしバハトも危険に晒される事になってしまったな……』

「覚悟の上さ、これでもシングルのプロハンターだ」

『……うむ。まあ、向こうで情報を流すのは君自身だ。そうそう危険になることもない、か』

「そうとも限らないけどな」

『と、言うと?』

 バッテラが話を促すので『ザイツ』が得たばかりの情報を口にする。

「ルルイザには自慢の手駒がいる。奴が抱える中で最強の念能力者、通称『齬鼠(モモンガ)』」

『新しい陰獣という訳か。そいつの始末はゲンスルー君に任せてはどうかね?』

「それでもいいが、アサノーダ組での重要な仕事では必ずといっていい程コイツが関わっていたらしい。その念能力に興味がある」

 単純に齬鼠(モモンガ)が強い念能力者という可能性ももちろんあるが、(フクロウ)のようにレア度の高い能力を持っている可能性もある。そしてそれは多くの修羅場を潜り抜けた実績がある以上、可能性は高い。

 俺が強くなる絶好のチャンスだ。

齬鼠(モモンガ)は俺が対処する」

『……君がそう決めたのならば、私からは何も言わないが』

「そうしてくれ。通信を切るぞ」

 そう言って一方的に話を終了させる。何か言いたそうだったバッテラが面倒くさくなったとも言う。

 心配するのは当然とはいえ、純粋に鬱陶しい。

 それはさておき。『ザイツ』が閲覧した齬鼠(モモンガ)の写真を思い出す。

 奴の情報はその写真一枚。何かあった時、この男に最大限の融通を利かせろという指示と共に見せられた写真に写っていたのは。肉体派ではない、ピンと背筋を伸ばした老人の姿。念能力者ならば外見は当てにならないが、外見年齢は60くらいだった。ネテロやゼノのような例外もいるから絶対ではないが、力押しよりかは技巧派という印象があった。

(ますます能力に期待できたな、あの写真を見たら)

 じっくりと思い出す。俺が得る中でもしかしたら初の大当たりかも知れない念能力に、期待が止まらない。

 もちろん油断もしない。俺はもちろん、サーヴァントとマチも合わせて警戒に当たらせる。だがしかし、予定では齬鼠(モモンガ)と戦うのは俺一人だ。キメラアントにも未知の念能力がある事を考えた時の予行演習にもなる。

 とにかく今は下拵えの段階だ。向こうに忍び込ませた『ザイツ』の信用を増やす為に、バッテラやボマー組に損害を与えるべく情報を吟味するのだった。

 

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