これから頑張っていくので、どうかよろしくお願いします。
アサノーダ組幹部、アザイド。ゲンスルーの襲撃により重傷。右腕を失い、短期の復帰は絶望的。
バッテラが雇ったプロのブラックリストハンター、ミミミナ。遺体で発見される。『ザイツ』が感知したところによると
ルルイザ若頭の現在地が特定され、襲撃。直前に情報が漏れたことを察知した『ザイツ』によって緊急回避。間一髪危機を逃れる。
ボマー組のセーフティハウスの1つを発見。アサノーダ組が襲撃するも、内部にいた幹部であるサブとバラに返り討ちに遭う。双方、死傷者多数。サブとバラは取り逃がす。
「いい塩梅だ」
『全くですな』
そもそもアサノーダ組は基本的に撤退という選択肢はない。ここでイモを引いたとして、マフィアンコミュニティの中で発言力がなくなる。それこそ十老頭が九老頭になるだろうくらいには権威が失墜するのだ。
かといって、全く勝ち目がなくなるのに攻め続けてくれるとは思わない。死ぬか逃げるかなら、逃げる可能性も十分ある。臥薪嘗胆、生きていれば立て直すチャンスはあるだろうから。
しかしそうなってしまうとマフィアンコミュニティ全体が敵になりかねない。いや、既に半分敵になっているようなものだが、アサノーダ組以外とは和解や講和の可能性は十分にある。そしてマフィアンコミュニティと対話をするにはアサノーダ組の完全壊滅が絶対条件。より厳密に言うならば、アサノーダ組若頭のルルイザを捕らえるか殺すかしなくてはならない。それを手土産にしてようやくマフィアンコミュニティと対話が始められる。
逆にルルイザを逃がした場合、メンツを潰されたマフィアンコミュニティと全面戦争になる可能性さえある。その場合はゲンスルーをトカゲの尻尾にして逃げおおせる予定だ。バッテラも多くの資金源を失うだろうが、プロハンターバハトは痛くも痒くもない。
どちらにせよ、ルルイザが撤退するには戦力的精神的支柱である
まずは
「そうなるとやはり『ザイツ』の位置がいい」
『奴を要職に就ける為に他の情報系組員を優先的に狙った甲斐がありましたな』
俺とバッテラはクククと悪く笑う。アサノーダ組の中級以下の情報系組員は『ザイツ』からの情報を元に優先的に狩った。そしてこちらの情報を『ザイツ』に流すことにより奴の信頼をあげて地位を得る。指揮系統から外れる事を選んだ
故に攻めるのは容易。容易、だが。
「できれば
やはり地の利は確保したい。向こうの陣地に攻め入ったとして、どんな罠があるか分からない。今回は試しにサーヴァントを斥候に使うのは禁じているし、そもそもサーヴァントでも念能力で仕掛けられた罠は完全に見破れる訳ではないのだ。
となれば、やはり『ザイツ』がこの拠点を看破してその情報をアサノーダ組に流すのがいい方法か。
『心配です。バハト様が殺されてしまえば全てがお終いなのですから』
「だが、いつまでも鼠のようにビクビクもしていられない。この程度の危険は潜り抜けないとな」
『…………』
「もちろん警戒は最大にする。マチにも護衛を頼むし」
サーヴァントの事は万が一を考えてバッテラにも教えていない。記憶を抜く能力者がパクノダ以外にもいないとは限らないのだから。
俺はバッテラの心配を切り捨てて『ザイツ』からアサノーダ組に情報を流すように手配する。その結果、俺の拠点に
同時にバッテラから手を回してゲンスルーたちをフリーにしておく。
これから
二日後の夜。
「来た」
『承知しました、ゲンスルーを動かします』
問題は、俺が終わるか終わらないか。
廃墟のガラスのない窓から外を見る。じゃりじゃりとガレキを踏みつけて、スーツ姿の二人の男がこちらに向かっていた。
一人は写真で確認した、間違いなく『ザイツ』が写真で見たあの老人であった。傍らの屈強な男はオーラを漲らせているし、こちらも念能力者には違いあるまい。
佇まいといい、二人とも強者のそれである。
「タフな仕事になりそうだ」
『ご武運を』
ポツリと呟いた言葉に返答を貰った後、
じわじわと近づいてくる二人の男だが、ビルの手前15メートル程の位置で
(円か)
すっぽりビルを覆うその半径は30メートル程だろう。こういう事も警戒してマチには上階で布を被って貰っているが、今回のエサである俺はそうもいかない。しっかりと
くいっと顔を上げる
俺はそれを確認しつつ、窓のヘリにサブマシンガンを置きつつ彼らに声をかけた。
「まずはようこそ、って言っておこうか? 歓迎の挨拶、くらいな!」
ダダダダダとサブマシンガンを乱射する。それと同時に
そしてその銃弾は、前に出て両手を広げて壁になった屈強な男に降り注ぐ。歯を食いしばり、何十もの銃弾をその身に受けた男だが、無傷。
「はっはー。効かねぇなぁ!」
「ち」
俺は舌打ちを一つして、弾切れになったサブマシンガンを窓の内側に引っ込める。
とりあえずサブマシンガンの牽制で効果なしと分かっただけ良し。それにあの男の系統はほぼ確定した。
(強化系だな)
あの銃弾の雨を防ぎきるなど、それしか考えられない。
ビルの入り口に辿り着き、俺のいる3階まで上がってくる奴らをじっと待つ。
やがて程なく、俺のいる大部屋の入り口に立つ男二人。屈強な男はサブマシンガンでボロボロになった上を脱いで半裸になっているが、
それを待ち受ける俺は、セミカジュアルな服装を着崩した格好で待ちうける。
「シングルの情報ハンター、バハトだな」
「そちらはアサノード組の懐刀である
「如何にも」
ようやく初老の男性である
「では、死んでもらおう」
その言葉を合図に屈強な男が走って近寄り、殴り掛かって来た。頭上から振るわれた拳を、俺は左腕を上げることで受け止める。
ガキィと肉がぶつかったとは思えない音が響き、俺の足元のコンクリートがひび割れる。容易に攻撃を受け止めた俺に、
屈強な男はそれに関わらず、拳を連打してくる。
「ォォォラ、オラオラオラオラァ!」
銃弾を跳ね返す程の強化系、その攻撃の連打。まともに受けてはいられない。タイマンならともかく、コイツの後ろには
両手を使い、中国拳法の脱手の手法で攻撃を受け流す。攻撃が着弾する瞬間に腕を回転させ、インパクトの衝撃を散らす技法だ。
そのまま数十の攻撃を受け流した後、隙を見つけて屈強な男の腹に蹴りを叩き込む。
「ぐむっ」
俺の蹴りはサブマシンガンよりは強烈だ。苦悶の声を上げながら後ろに下がる屈強な男、それを隙と見た俺は奴の顎に思いっきり掌底を打ち込んでやる。
「ぁぇが」
軽く脳を揺らされてたたらを踏む屈強な男。そのまま数歩下がり、倒れずに踏みとどまった。
「ち。つええよ、コイツ」
「想定内だろう」
地面に唾を吐く屈強な男の言葉にとりあわず、
(…………?)
表に出さないように俺は疑問符を頭に浮かべた。なんというか、違和感があった。
根拠は掌底、あのタイミングであの掌底を合わせれば、念能力者であろうと数秒は平衡感覚が飛ぶ筈である。だが、屈強な男にはそれがない。単に強力な念能力者というだけでは説明が付かない事象。俺より圧倒的に格上ならともかく、コイツは確実にそうではない。
ならば。
(
味方を強化する能力、そう考えれば辻褄はあう。組織を介さない
いや、もしかしたら奴らは二人揃って
(ならばまずは攻めるのみ!)
守勢が得意な俺とはいえ、攻撃が苦手な訳では別にない。一気に屈強な男に肉薄し、
「ぐぉう!?」
腹部に鋭い杭が撃ち込まれたような衝撃で後ずさった。攻撃の為に凝をしていたら致命傷だったかも知れない。俺が堅タイプの能力者で助かった。
「貰ったぁ!」
だが、災禍はそれで終わってくれない。明確な隙を晒した俺に向かって屈強な男が再び乱打を打ち込んでくる。
体勢を崩した俺は、それを真っ向から受け止めるしかない。
「オーララララララララ!!」
「くぅぅぅぅぅぅぅ!!」
念の練度はおそらく俺の方が上。だが、コイツは拳に凝をして遠慮なく殴り掛かってくる上に、体格でも有利を取られている。
なんとか両手をあげて防御をして隙を伺うが。
「ぎ!」
右肩が後ろに弾かれて、防御の隙を晒した俺の頬に拳がクリーンヒットする。
後ろにいる老人の能力の正体が全く掴めない。遠距離から正確に俺の体を狙撃するように攻撃しているのは分かる。だが、その正体が全く見えない。堅をした俺の目で見えないのだから、よほど高度な隠か、もしくは本当に不可視の攻撃か。
それでいて強化系である俺の防御を崩す程の威力を込めているのである。本当にたまったものではない。
「死ねぇ!!」
「くそ、
いったん全周防御。堅にして纏った全てのオーラを
屈強な男の拳は頭に覆った氷で弾き返し、左足の氷がギィンと甲高く響く。不可視の攻撃で足を狙われたらしい。
とっさに視線をそちらに向ければ、弾けた氷がぐにゃりと曲がった。物理的に曲がった訳ではない、視覚的に何かの干渉が入ったのだ。オーラでないのならそれは。
「空気!」
「――見事。我が
老人の言葉に敵の能力を看破する。
おそらくだが、空気にオーラを混ぜ込み操作する能力。空気自体が視覚的に見えにくい上、混ぜ込んだオーラも隠と合わせる事によってまた見えにくい。しかも敵が単体ならばともかく、前衛にレベルの高い強化系を置いた上である。それに加えて強化系である俺の体勢を崩させる程の威力を込めている。
しかもこの能力はそれで済まない。屈強な男へのバフの正体、それは老人の操作した空気をパワードスーツのように体中に纏わせていれば納得がいく。俺の掌底の脳揺らしも、頭を包んだ空気で上手く受け流したとすれば納得がいくというもの。
強靭さと繊細さを兼ね揃えた能力、これは強い。
そして攻略法。ほとんど全て、この戦闘は老人の能力によって成り立っているということ。つまり、屈強な男は無視して老人を攻めるべき。
ギロリと老人を睨めば、彼はそれを理解したのだろう。僅かに冷や汗を流しつつ、一歩後ずさった。
「俺を忘れるんじゃねぇ!」
屈強な男が殴り掛かってくるが、ネタが割れた以上は前衛の男も敵じゃない。いや、全力を出せば仕留められる。全身の氷を維持してその拳を弾いた直後にそれを解除。一本の棍だけ手に残し、それを思いっきり振るう。
まずは右腕。上腕にブチ当て、骨を折る。
「ガぃぃぃ!!」
次に左脚、腿を狙い振るう。途中で空気の杭が脇腹に打ち込まれるが、来ると分かっている攻撃で、しかも堅で防げる。顔をしかめるだけの被害で腿の骨を叩き折る。
「うぎぇぃぃぃ!!」
最後に顎。思いっきり突きを放ち、その骨を砕く。やはり空気のクッションが間に入ったが、
痛みにより失神した前衛の男がその場に崩れ落ちると同時、後衛の老人が踵を返してその場から離脱しようとする。
が、もちろんそれを許すほど
「な、糸!?」
「俺が単独でここに居るって言ったかな?」
上階に潜んでいたマチが既にこの部屋の出入り口に逃走防止用の糸を張り巡らせていた。隠で隠したそれに気が付かず、完全に身動きが取れなくなる老人。
俺は彼に素早く近づき、その首に手を添える。
「いくつか聞きたいんだが。
お前の能力とか、アサノード組に対する秘密とかな」
操作系能力。周辺の空気とオーラを混ぜ合わせる事により、強化した空気を自在に操る事を可能とする。
また、この空気で対象の肺の大部分を覆う事により、その人物を操作することも可能。
前衛のニテロも操作しているし、バハトを操作するまで後7秒程かかる。
「!!」
即座に呼吸を止めると同時、老人の頸動脈を締める。それによって老人はあっさりと意識を失った。
それはともかく。
「危ねぇな……」
思わず冷や汗が流れた。サーヴァントがいるから俺が操作されること自体が即敗北に繋がる訳ではないが、今回の縛りからすれば負けに等しい。
勝利したとはいえ、その差は僅か。念能力者との戦いの恐ろしさを改めて思い知らされた。
だが一方で、勝ちは勝ちだ。
俺は
「こっちは勝利した。ゲンスルーの様子はどうだ?」
『8割以上は制圧したようだ。『ザイン』の裏切りにより、秘密の脱出口から逃げようとしたルルイザも確保した。
こちらも勝ちは動かないよ』
「ご苦労。落ち着いたらここで伸びている男二人を回収する人員を寄越してくれ」
それで通信を終える。ルルイザと
俺は満足して、深い息を吐くのだった。