『操作系だな』
『ったく。この手の人間は嫌いだぜ』
ランサーから受け取った情報を精査して『敵』について考察する。
このハンター試験に現れたナンバー5の女、エリリは『敵』に操作された念能力者であることはほぼ疑いようがない。明確にハンター試験の内容を知るのは、今期のハンター試験関係者か原作知識を持つ者かに限られる。前者であれば倉庫でエリリが奇行に及ぶ理由がなく、後者であれば『敵』への報告に必要な行動になる。よってエリリが『敵』の手駒であることは疑わない。
そこでエリリが発した単語であるご主人様というものと、己の命を捨てる事に快楽を感じたようなあの表情。そして無駄に原作知識を口にしたことを考えると、恐らくは蟻の王に対する護衛軍のような忠誠心を植え付ける能力であると察することができた。主の目的を最優先にするのでなく、主に従う事に快楽を芽生えさせる能力。もしも主の目的を優先するのであれば『敵』が当たり前に知っている原作知識をわざわざ口にする必要はない。監視されている可能性と己の能力の弱点である『届けられるのは声だけ』を自分で口にしたにも関わらず、無駄口を叩いた時点でそう結論が結ばれる。
ヴェーゼや、ザザンの能力に近い。相手の思考を操作、支配して行動原理を自分の支配下に置く能力。
だが、この手の相手を自分の支配下に置く能力というのは実は作るのが相当に難しい。ほぼ確定なのが、自分のオーラを相手に流し込むこと。ヴェーゼは唇同士という制約の下に、ザザンは己の針からと限定して。他にもシャルナークはアンテナを介して操作するという前提条件がある。これは肉体強化に向かない操作系には厳しい条件だ。
もちろんたかがそれだけの条件である筈がない。小次郎に確認したところ、俺は既に当時の幻影旅団の一人よりも威圧感があると返事を貰った。それを考えれば現状、俺は現在の幻影旅団レベルであり、ヒソカと対等に戦い合えると思っていいだろう。そしてそれと同じ領域に『敵』がいると仮定する。すると『敵』のレベルはシャルナークを参考にすれば見えてくるのだ。
シャルナークの能力は、『己自らが』『専用のアンテナを刺した人間を』『愛用の携帯にて』操作するというもの。言い換えればシャルナークの才能を以てしても、人間一人を完全に操作するにはこれだけの手順が必須となる。
エリリを使い捨てにするように扱う以上、まず間違いなく『敵』の手駒は一つではない。もしくは特殊能力の可能性もあるが、そちらは考えても仕方がないのでひとまず置いておく。
念で操作したとなれば、これは相当厳しいレベルで制約と誓約を課さなくてはならない。必然、それは条件を満たす難しさに直結し、手駒の数は一つではないが、有限であると想定できる。
――収穫はここまでだ。これ以上は想像や想定を超えて、妄想になりねない。ひとまず『敵』は操作系の可能性が高いと認識しておくに留めるべきだろう。
そして操作されている以上、尋問拷問には意味がないし、そもそも駒に必要以上の情報を与えているとは思えない。
『さて。どうする、マスター?』
『これ以上うろちょろされても邪魔だ。三次試験では隙はないだろうから、四次試験で殺す』
幸い、四次試験の内容は『狩る者と狩られる者』であり。誰が誰を襲っても不自然ではない状況である。
だがバカ正直に真正面から殺す必要はない。何せ、エリリは遠話能力を持つのである。操作された彼女は死ぬまで俺と戦い続け、最大限に情報を暴こうとするだろう。
故に選ぶのは暗殺。暗殺、なのだが。
(……アサシンは使えないな)
霊体化はその特性上、その状態のままでは同じサーヴァント以外に干渉できない。普段であれば円すら潜り抜けるメリットになるが、翻っては実体化しなければ殺傷能力は皆無ともいえる。
そしてアサシンのスキルである気配遮断は、攻撃時にそのランクを大きく落とす。エリリが死者の念にでも目覚め、己が死んだ瞬間の映像も送れるようになったら目も当てらない。そうでなくても四次試験ではそれぞれに監視者がいるのだから、彼らにも実体化するサーヴァントを見られる訳にはいかない。サーヴァントは俺の念能力以上に秘すべき情報だ。
ならば答えは一つ、遠距離からの狙撃。すなわちアーチャーの出番だ。
『ランサー、お前はゼビル島で還す。護衛はそれまでだ』
『あいよ。報酬に酒が貰えるなら文句は言わねぇ』
クーフーリンは召喚する度に酒やらなんやらを請求してくるが、サーヴァントを使役する代償としては破格である。俺はサーヴァントが要求してくる報酬を踏み倒した事は一度としてない。っていうか、俺が払えない報酬を要求するサーヴァントなんて怖くて召喚できない。
ランサーにはギリギリまで働いて貰って、そこで送還して即座にアーチャーを召喚。俺の円と洞窟もあるゼビル島の環境を利用すれば、監視者から逃れてサーヴァントを召喚することは可能と思われた。
そして遠距離からの射殺が理想となる。ここまで上手くいくかは分からないが。
そこまで考えた時、三次試験開始の為に集合する旨の船内放送が流れた。
とにかく三次試験をクリアしなければ話にならない。ここは内容がほぼ表現されない、原作知識を持つ者にとっての鬼門。俺は改めて気を引き締め直した。
制限時間は72時間。生きて下まで辿り着くこと。
それが第三次試験の内容であり、舞台はトリックタワーと呼ばれる重犯罪者収監施設。
さて、ここで原作知識を持つ俺は選択を迫られる。すなわち、ゴンたちと共に行くか否かだ。普通ならばここまでゴンたちに関わっておいて、今更別行動にする意味はない。内容がほぼ分からないとはいえ、多数決の道はあのトンパという足手纏いがいつつもクリアできたルートなのだ。
では何が問題なのか。
「扉は5つあるけど、俺たちは6人だよね」
ゴンの言葉が全てである。
そう。俺がポンズを原作組に持ち込んだ弊害、つまり定員オーバーの問題だ。
「この中でどれかが罠である可能性も考えれば、強制はできないな」
クラピカが冷静に言うが、正解を知る俺としては合格ルートである。解体屋ジョネスも、キルアか俺かでクリアできるから問題ない。
個人的には原作で単独クリアを成し遂げたポンズに抜けて貰いたいのが本音である。そして一番不安があるレオリオには是非とも参加してもらいたい。他のルートで合格できる保証もないから、俺も参加したい。
そういう風に思考を誘導したいが、普通に無理である。うーんと悩む俺を含めた5人であるが、例外であった1人が言葉を発することによってそれは解決されることになる。
「私が抜けるわ」
「ポンズ?」
ゴンが困惑の声を出すが、俺は歓喜の声をあげたい。だが、いったいどうしてそういう結論に至ったのか、純粋に興味がある。
そしてそれを聞くまでもなく、淡々とポンズは理由を語りだした。
「これだけ密集した場所に扉があれば、もしかしたら5人のバトルロイヤルが発生するかも知れないわ。私はそういう状況はあまり得意じゃないの」
そこでチラリと俺を見るポンズ。彼女は予備試験で俺の実力を見ているから、俺と戦いたくないのだろう。
そこで終わり。ポンズは踵を返す。
「もしもその扉を潜るなら、仲間同士で戦う可能性も想定しておく事ね。
それじゃあね、下で会いましょう」
言って、別の扉を探し始めるポンズ。最後には5人中2人の脱落者を選択させる可能性もあった以上、ポンズの意見もなかなか的を得ていると言えた。
去っていくポンズに困惑気味のレオリオ。
「どうする?」
「俺は行くよ。っていうかどの扉を選んだって、下の階層で受験生同士を争わせるかも知れねーじゃん」
「私も同感だな。ポンズの意見を否定できる材料はないが、肯定する材料もまたない。ならば条件は一緒だ」
キルアがまず突入の意志を示し、クラピカが賛同する。続いてゴンが口を開いた。
「他の扉を探す方が時間の無駄だしね」
「怖いならお前は抜けていいぞ、レオリオ」
「っ、誰が怖いって言ったよ! バトルロイヤルになったら全員蹴落としてやるから覚悟しとけ!!」
俺の挑発に易々と乗ってくれるレオリオ。
正直、扱いやすくて大変助かります。
「じゃあこの5人で」
「何が起きても恨みっこ無しだぜ」
いざ、多数決の道へ。
「我々は試験官に雇われた試練官である!」
ベンドットによって、この場のルールが説明される。それを聞いている間、俺が注目していたのはただ一つ。
(オーラを纏っている奴がいる……)
正確には手首から先のみ精孔が開いている。恐らく、あれが解体屋ジョネスだろう。どんな系統かは分からないが、無意識に作った発は握力増加といったところか。
ベンドットの解説を最低限耳に入れつつ、俺は試験官のリッポーに呆れていた。限定的ながら念に目覚めている奴を試練官にすんなや。
「俺の提案する勝負方法は、死ぬか負けを認めるまで戦うデスマッチ!
挑戦者は名乗り上げるがいい!!」
あ、ようやく話が終わったか。なげーよ。
まあ、この時間も彼らの刑期が短くなる布石だと思えば納得である。100年以上の刑のうち、最大で72年の刑期削減がどれだけの希望になるかは知らんが。若くても20過ぎの彼らが首尾よくいったとして、娑婆の空気が吸えるのは老人になってから。それでも吸えないよりかはマシなんだろうか。ベンドットは確か刑期が199年だから――他の恩赦とも合わせるのか? どういうシステムになっているのかよく分からん。調べる価値もないしな。
ともかくだ。
「じゃ、俺が行こうか」
「軽いなっ!?」
思わずレオリオがツッコミを入れた。
「危険だ、バハト。ここは私が――」
「心配すんな、クラピカ。あいつは軍人崩れって感じだが、その程度に俺は負けない」
クラピカの心配を切って捨てる。っていうか、同じクルタ族である俺にクラピカが妙にあまい。
……自分で言っててなんだが、至極当然か。
「あんたも結構できるみたいだけど、勝てるの?」
「勝負にすらならないかもな」
キルアはクラピカと比べて全く興味がない素振りで聞いてくるが、多分こっちには全く裏がない。本当に俺に興味がないのだろう。キルアの興味の対象は、今のところゴン一人のみに向けられている。
構わないと、そう思う。まずは1人、次に2人。そして段々と数を増やす。人の世界はそうやって広がっていくものだ。
「~~! 絶対に無事に帰って来いよ、コノヤロー!!」
レオリオの素直じゃない激励を背に受けて、俺は中空にポッカリと浮かんだ決戦場に向かう。
ちなみに護衛のはずのランサーも置いてけぼりだ。こんな茶番にいちいち付き合ってられるかと、眠そうな目をレオリオの後ろでこすっている。
(じゃあ円、と)
半径5メートルくらい。ベンドットのみを含めて範囲に円を広げる。
「では。
いくぞ!!」
――練。
瞬間、ベンドットは顔中に冷や汗をかき、その場に崩れ落ちた。
敵意ある念の前に精孔を開いていない彼はあまりに無防備。
戦意を喪失したベンドットに、軽快な足取りで近づく俺。呆気にとられる全員を無視して、ベンドットの首を片手で掴む。
「あ、あ、あ……」
「負けを認めなければ殺す」
「っ! まいった、まいったぁー!!」
ピ、とこちらの電光掲示板の数字が0から1に変わる。まず1勝。
「いい判断だ。死ぬよりかマシだろ?」
「…………」
何も答えられないベンドットは、ガタガタと震えながら自陣に戻る。
――っていうか、なんであそこまで怯えてるんだろう?
「バハト、お前、何をした?」
「威嚇、だけど……」
呆然とするのは味方たちも同じ。一見して何も変わらないのに、あの自信満々な男が一瞬にして戦意喪失した訳が知りたいのだろう。代表してクラピカが聞いてきた。
俺としては念についてまだ話すつもりがないので、威嚇の部分だけ正直に話す。が、しかし。あそこまで怯える理由が本当に分からない。
向こうでも不思議に思ったのか、試練官の一人が話しかける。
「オイ、どうした?」
「あいつは死神…死神だ。軍にいた時に遭った事がある。あの不気味な圧迫感を感じた後、誰かが不自然に死ぬんだ……」
あ、念能力者に遭ったことがあるのな。納得。
「バハト。お前は以前、どこかの軍に?」
「いないいない。いったい誰と間違えているんだか」
どっかの念能力者ですね、分かります。
クラピカの問いに軽く答える。嘘は言っていない。
とにかくそれでこちらを警戒した試練官。
「なら、直接対決は危険だね。ここは僕が行こう」
爆弾魔、セドカンが登場した。
~~~~
割愛
~~~~
「よーし、これで2勝!」
「お前は何もやってないだろーが」
「お前もな」
「お前もな」
喜ぶレオリオ。それに冷静なツッコミを入れるクラピカ、キルア、俺。
2勝0敗だから当然だが。
「――冗談じゃねぇ。このままじゃ、俺は肉の感触を味わえないまま終わっちまう。
試練官同士の殺し合いでも構わないんだがな」
向こうの一人のうち、手の先から精孔を開いている男が口を開く。そしてばさりとフードを取った。
「次は俺が行く。文句はねぇな?」
「あ、ああ……」
その威圧感に、全員が頷く。そしてレオリオはその顔を見て顔面蒼白にした。
「あいつは――」
「知っているのか、レオリオ!?」
「――冗談はいい。次の試合は棄権だ。2勝しているし、無理はするべきじゃねェ」
ふざける俺に、真面目な顔で言葉を続けるレオリオ。
先ほどのベンドットよりかはマシとはいえ、明らかに勝ち目がないと言わんばかりのレオリオに全員の視線が集中する。
「――何者だ?」
「解体屋ジョネス、ザハン市史上最悪の犯罪者と呼ばれた男。
150以上の無差別殺人を繰り返し、人を50以上も部品へ変えた。その凶器は、指。その異常な指の力のみで犯行を為した」
ブォンと、ジョネスの説明をした俺を目掛けて唐突に拳が振るわれた。するりと避けるが、殴りかかってきたレオリオの目は据わっている。
「テメェは…それを知った上でふざけたのか。
人の命をなんだと思ってんだ、ゴラァァァ!!」
「自業自得」
確実に仲間が死ぬ。そう考えているレオリオに対しての返答としては最悪の部類に入るだろう。
ブチリとキレたレオリオがナイフを抜き、同時にゴンとクラピカがその体を押さえつける。
「やめなよ、レオリオ!」
「お前もだバハト! いったい何を言い出す!」
焦った様子の2人だが、その隙にスタスタとキルアが前に進んでいった。
キレたレオリオとふざけた俺に対応してゴンとクラピカには止める時間はない。
「キルア!」
「やめろ、キルア! いや、すぐに降参するんだ、無駄死にするんじゃねェ!!」
ゴンの叫びに、レオリオの助言。
それを背中から受けて、キルアはやる気なさそうに手を振って返事をする。
「キルア!
~~、テメェ、もしもキルアに何かあったらただじゃおかねぇ!!」
感情の発散場所をなくしたレオリオが俺に叫ぶが、俺は表情を変えない。変える必要がない。
しかしもう見守るしかない。出来れば即座に降参してくれと願うレオリオに、キルアは大量無差別殺人鬼を瞬殺することで返事をした。
余裕たっぷりに話すジョネスから心臓を盗み出し、悲痛な顔をした彼の眼前で握りつぶす。
「だから言っただろ。自業自得って」
「――お前」
絶句。ただ絶句。レオリオは人外の技を見せたキルアと、その光景を疑いもしなかった俺を交互に見る。ゴンとクラピカも程度の差はあれ、行動に違いはない。
「ただいま~」
「お帰り~。ご飯にする、それともお風呂? それとも――わ・た・し?」
「死ね」
10秒前の惨劇など無い様にする俺とキルア。他の者は唖然とするしかない。
「キルア……お前は、いったい?」
「ん? ファミリーネーム言ってなかったっけ? ゾルディックだよ、俺」
「!!」
「……? あれ、じゃあなんでお前は俺を止めなかったんだ。ええと、名前何だっけ?」
「バハトだ。情報ハンター」
「ああ、なるほど。俺の情報持ってるなんて優秀なんだな。ゾルディックの情報は名前もレアだと思うけど」
「まあ、流石にキルアの親父さんや爺さんは有名だがな。長老は伝説だし」
あっけらかんと話す俺たちにレオリオはようやく現実を認識して、別の意味で汗をかいた。
「頼もしい連中だな」
(味方のうちだけな)
心の中で返事をする。これはハンター試験、頂上でポンズが発言したようにいつ敵対するか分からない。
そして試験が終わった後も、ハンターとして活動するならば獲物を狙う敵対者にならないとは限らないのである。
(敵対する気はあんまりないけど)
それも『敵』の動向次第。操作系の可能性が高い以上、もしも操作されたら容赦なく殺す。
そんな俺の殺意に気が付かないだろう4人は、電光掲示板に表示された3の文字を見て試練突破を喜び合う。
そして。
『ナンバー15、99、410、411、412! 第三試験突破!!』
第三試験が終わった。