殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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071話 NGLへ

 

 その日、俺とポンズはバッテラの立ち合いの元、その男と出会った。

「バハト、ポンズも!」

 傍にいたゴンが驚きと喜びの声をあげる。

「よう、ゴン。数ヶ月ぶり。元気にしていたか?」

「うん、もちろん!」

「キルアとユアも久しぶりね。成長してる?」

「ま、ずっと止まっていたオメーよりかな」

「こら、キルア」

 憎まれ口を叩くキルアにユアが窘めるように言う。それを見つつポンズは苦笑いと嬉しさを混ぜ合わせたような表情を浮かべていた。

(もう感受性が完全にお母さんだな)

 なんか怒られそうな気がしたので心の中にその感想を留めておく。

 俺の仲間同士で和気藹々としているのを尻目に、バッテラはにこやかに笑いながらその男、カイトへと握手を求める。

「初めまして、私は実業家のバッテラ。

 今はヨークシンの事業に手を出しているところだ」

「噂はかねがね。ハンターのカイトだ」

 バッテラの握手をそつなく受けるカイト。彼の視線は、鋭い。

「いやぁ、カキンのウォン君が強く推薦するプロハンターと出会える機会なんてそうそうないからね。是非とも顔を繋ぎたいと思ってお邪魔させて貰ったよ。迷惑だったかな?」

「まさか。こちらこそ有名なバッテラ氏と出会えて喜ばしい限りだ」

「それで奇妙な生物の調査で来たのだったかな? もちろんウォン君の顔を潰すような真似はしないとも。

 ただ、こちらも少々手が足りなくてね。仕事を手伝ってくれると助かるんだけどね」

「――あいにく、私はビーストハンターです。仕事によっては手伝えないかと」

「もちろん把握しているとも。優秀なハンターは仕事を選ばない事も、君の師匠が優れた人物だとも」

 にこやかな顔でカイトを追い詰めにかかるバッテラ。カイトから一瞬漏れた面倒そうな空気を感じ取ったところで俺から一言。

「バッテラ氏」

「……何かな、バハト君」

「そのへんにしてくれないか?」

「私のスカウトに不満でも?」

「ああ、大いに。先日まで貴方の契約ハンターをしていた私への評価が気になるからね」

「君との契約は今日まで。新たにハンターをスカウトするのがそんなに気になるならどうだい? 君が契約を延長してくれるというのは」

「…………」

「――分かった。今日はこのあたりにしておこう。君には少なからず借りがある」

 両手をあげて降参のポーズをとるバッテラ。そのまま名刺をカイトに差し出す。

「ホームコードの交換くらいはしてくれるだろう?」

「もちろん。バッテラ氏との繋がりが得られるのならありがたい限りだ」

 笑顔で名刺を交換したバッテラ氏はそのまま場を辞した。

「ではバハト君、この会合を以って君との契約は切れる。また仕事を受けてくれることを期待しているよ」

「こちらこそ。また良い縁が結ばれることを期待している」

 そんな言葉を残していなくなったバッテラ。彼が居なくなったと同時、ちょっと場の空気が弛緩する。

「随分タイミングよく契約が切れたな」

「情報のシングルでね。ユアたちが来るタイミングで自由に動けるようにしておいた」

 カイトの訝しげな言葉を容易にかわす。

「じゃあお兄ちゃんも一緒に来るの?」

「俺っていうか、ポンズの付き添いだけどな。なんか興味深い生物のサンプルが取れたんだって?」

 ユアが喜色を上げながら問いかけてきて、俺はそれに簡単に返す。

 全員の視線がポンズに向かい、彼女はにっこりと笑いながら口を開いた。

「昆虫系のデカイ生物とか? インセクトハンターとして受けようと思ったんだけど、バハトがゴンたちの痕跡を見つけたから一緒に動けないかなって思ったのよ。

 あなたたちも目的が一緒ならちょうどよかったわ」

「オレとしてはバハトの情報網がコエーよ」

 キルアが思わずといった具合で口を開く。それに対して俺は用意していた答えを返した。

「お前らが情報を隠してなかったっていうのも大きかったがな。

 ヨークシンに持ち込まれた謎の巨大生物のサンプルと、それがカキンのウォンの元に流れたという情報。ウォンが依頼していたハンターがカイトって云う情報と、カイトが主催するキャンプで急に新種珍種を発見しまくる3人の名前。

 ま、ここまで大きな点があれば線を結ぶのも難しくなかった」

「どんだけ膨大な情報を統率してるんだよ、お前は」

 感心したような呆れたような声を出すキルア。カイトも少し警戒している様子を出しているが、俺たちが合流することに異を唱えるようなことはしなかった。

「そういえばマチは?」

「レントを任せている」

「レントとは?」

「俺とポンズの子供。この前産まれて、ポンズはこれが復職の仕事だな」

「そうか」

 子供は場合によっては大きな弱点にもなりえる。それをあっさりと流すカイトはやはり器が大きい。

「レントはここにいるの? オレにも会わせてよ」

「私も! お兄ちゃんの子供なら当然だよね!」

「あ、オレもオレも」

「ええ、もちろんいいわよ」

 子供組がレントに会う事を希望し、ポンズがそれを笑顔で承諾する。

 そんな弛緩した空気だったが、カイトがパンと鋭く手を叩く音を出して場を引き締めた。

「自由時間は好きにしてくれ。だが、今は仕事が先だろう?」

 その声に、皆が強く頷いてやるべきことに集中する。

 これから挑むのはキメラアント編。これまでとはランクの違う危険に晒される。ありていに言えば、今度の敵は国や軍といったレベルになるのだ。

 それを知っているのはこの中では俺のみ。独り、緊張を倍増させてカイトに従うのだった。

 

 4日が経った。

 謎の巨大生物であるキメラアント女王のサンプルを貰い、ユアたちとレントを会わせた後。

 女王の腕の発見ポイントを捜索し、バルサ諸島に狙いを定める。可能性があるのはNGLか東ゴルドー共和国か。悩む中で答えを出したのはカイトと俺。

「「NGLだな」」

「根拠は?」

「なんとなく、と言っておこうか」

「こちらは多少の根拠がある。ここ一週間程、複数名のプロアマを問わないハンターのグループがNGLに向かっている。彼らには彼らなりの根拠があるんだろうな」

 確信したような声でなんとなくと言うカイトと、あくまで状況証拠に過ぎない事を言う俺。

 しかしこの中で最年長で経験も深い2人がNGLと言ったのだ。どちらにせよ行かないと話が始まらない。一行はNGLを目標に定めて行動する。NGLには直接飛行船で行けない為、隣国であるロカリオ共和国へ行くチケットを取る。到着までは1日半といったところ。

 人を喰える程大きなキメラントという事実にどこか重苦しい雰囲気が漂う中の移動。

 その夜、俺とポンズが飛行船の中に設置されたバーでグラスを傾けながら話をする。

「…………」

「…………」

 沈黙が続く中、やがてポンズが口を開く。

「ねぇ、本当に超大型のキメラアントだと思う?」

「おそらくな。少なくとも油断して過小評価するより、最悪を想定した方がいい」

 俺の言葉にポンズが疲れたような溜息を吐く。

「復帰の最初の仕事、プロのインセクトハンターとして最初の仕事から重いわね」

「やりがいだけはあるけどな」

「やりがいだけあってもね。

 まあ、私はバッテラというバックもあるし、資金については心配しなくていいのは嬉しいわ」

「ポンズ名義の昆虫博物館もできるしな」

「本当、バッテラ様様だわ。自分の博物館を持つのは夢だったけど、こうもあっさり叶うなんてね」

 そう言ってポンズは俺の顔を見て笑う。

「あなたに出会えてよかったと、心底思うわ」

 その笑顔に思わずドキリとする。綺麗な、満面の笑み。

「どした、急に」

「別に。今までこういうこと言わなかったなと思ってね」

 ポンズは照れ隠しのように手元にあるグラスを傾ける。いちおうまだ授乳期でもあるのでノンアルコールのカクテルだ。ちなみに俺は容赦なくアルコールを飲んでいる。

「……俺もあまりポンズに言ってなかったな。結婚出来て本当に嬉しかったとか、レントを産んでくれてありがとうとか」

「愛を語るのもいいわよね」

 お互いにちょっと照れながらグラスを傾ける。

「――どうしてかしらね。言わなくちゃいけない気がして」

「悪いことじゃないだろ。これからも折を見て言い合おう。俺が見捨てられるまで、な」

「ふふ。私も見捨てられないように気をつけないとね」

 軽口を叩き合い、笑い合う。

 そしてしばらくして、俺は重い口調で話を戻す。

「今度の仕事だが」

「うん」

「俺としても嫌な予感があるんだ。だから助っ人を呼んだ」

「助っ人を? 珍しいわね」

「実は珍しくないんだな、これが。人脈に頼るのは俺の得意技だから」

「ふーん。まあいいわ。それで、誰?」

「エミヤ」

 かつて天空闘技場で召喚したサーヴァント、アーチャーのエミヤ。今回の仕事で喚ぶサーヴァントを彼に選定した。

 理由として、まずNGLでは長期の運用と索敵が重要視される。クーフーリンを召喚出来ない以上、この時点で選ばれるべきはアーチャーかアサシン。護衛軍と戦う可能性を考慮すれば、できれば三騎士であるアーチャーを召喚しておきたい。

 そこで魔力消費量も少なく、近接戦闘も遠距離攻撃も優れた彼が最適解だと思ったのだ。理想としてはキメラアントの蟻塚を、ネフェルピトーの円の外から一方的に狙撃爆破したい。

「ああ、エミヤさん。料理がとても上手だったわね。戦いも上手なの?」

「少なくとも俺よりかは強い」

 その言葉に目を細めるポンズ。

「あなたの知り合い、あなたよりも強い人が多いわよね。李師父もそうだし。あなたも十分に強いように思うけど、どこでそんな人脈を得ているのかしら?」

「情報ハンターに人脈の事を聞くなよ。それに俺より弱い奴はリストから弾いているだけさ」

(まあサーヴァントはだいたい俺よりも強いけどな)

 そんな感想はおくびにも出さずにポンズへの返答とする。ポンズの気持ちも分からなくはない、俺が呼ぶ相手が全て俺よりも強い。そこまではいいが、どんな対価を払って呼び寄せているのかも気になるだろう。こちらが頭を下げている以上、相当に吹っ掛けられていると思うのは不思議な感想ではない。問題はそこまでしょっちゅう援軍を呼ぶほど俺が弱くない、ということだ。普通なら自分の腕一本で場を凌ごうとする。少なくとも周りよりも強い俺が嫌な予感がする程度で援軍は呼ばない。

 ポンズの感想は至極正しい。俺もサーヴァント召喚がもっとデメリットが大きいものだったらここまで気楽には呼ばない。今回のキメラアント編はともかく、修行の為に李書文を召喚したり、天空闘技場でエミヤに飯を作らせたりはしないだろう。

 ちょっとだけマズったかなと思う反面、どうとでも誤魔化せる範疇でもある。俺はポーカーフェイスで白を切り通す。

 そんな俺を見てポンズはどう思ったか。やがて肩を竦めて息を吐く。

「まあいいわ。頼りになる仲間が一人増えるって思うだけにしてあげる」

「そうしてくれ」

「秘密主義ねぇ。ユアちゃんが染まるのも分かるわ」

「え、あいつの秘密主義って俺由来?」

「少なくとも兄妹なんだなとはよく思うわ」

「…………」

 ちょっと心外なので黙り込む。そんな俺を見て、くすくすとポンズは笑う。

「そんな不機嫌にならない。そんなあなたの事も私は大好きだから」

「――ずるいぞ」

「そう。女はずるいものよ」

 ポンズは静かに笑う。

 そうして夜は更けていく。

 

 NGL到着までは後約18時間程かかる夜空の旅路だった。

 

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